緑を生かしたゆとりのある設計が、変わらぬ評価軸に
ヴィンテージマンションがあるエリアと聞いて、多くの人が思いつくのは赤坂、青山、麻布ではないでしょうか。この「3A」とも呼ばれる地域には、居住性もデザイン性も高いマンションが多数存在します。さらに、江戸時代から続く屋敷街である広尾、白金、番町なども代表的なエリアとして挙げられるでしょう。R100 tokyo 会員へのアンケートでも、以下のような回答を得られました。
これらのエリアには、大規模かつ由緒ある公園、歴史ある大学、美術館や研究機関、大使館などが存在しています。かつて大名や皇族、旧華族ゆかりの土地に建てられていることが多く、街としての歴史と品格を感じます。
街全体に緑が多いだけでなく、人気の高いヴィンテージマンションは敷地内にも多様な植栽を配し、庭や中庭を設けています。ゆとりをもって設計されたマンションを実際に見ると、1970年代から2000年代あたりまでは、都心にも恵まれた立地が残っていたことがわかります。その代表的な存在がこの連載でも紹介した「オパス有栖川」や「ザ・ハウス南麻布」、「広尾ガーデンヒルズ」でしょう。
都心にありながら豊かな緑とともに暮らすことは、心の安らぎやウェルビーイングの向上など、多くの利点があります。やはり人は本能的に自然とのつながりを求めているのでしょう。この概念は「バイオフィリア」と呼ばれ、1980年代にアメリカの生物学者エドワード・O・ウィルソン博士が提唱して以降、世界中に広まりました。
ただ、現代の都心でこうした自然とのつながりを感じられる住まいを実現しようにも、もはや十分な面積がありません。新築物件ではなく、あえてヴィンテージマンションを選ぶ人が多いのは、緑豊かな環境を求めているのではないかと感じています。もちろん、その根底には希少な立地と資産性、建物のデザイン性、そして長年にわたって培われた良質な住人のコミュニティという、数多くの「価値」があることはいうまでもありません。
これからの注目は、良好な環境を保つ都心周辺のマンション
都心のヴィンテージマンションの価値が上がり続けている今、多くの人が候補に入れているのは、世田谷、杉並、目白など「都心の周辺」ともいえるエリアにある物件です。リモートワークの普及などで必ずしも都心に通勤しなくてよくなり、環境面や広さを求めて郊外の邸宅地として開発されたエリアに注目が集まるのではないかと考えます。また、海外では富裕層向けの住宅地が都心から少し離れた場所に形成されるケースも多く、東京も今後そのように変化していくかもしれません。
「目白ガーデンヒルズ」(豊島区)
由緒正しい文教地区の大規模マンション
なかでも特に注目しているのは、華族などの邸宅地としての歴史を有する、由緒正しい文教地区に建てられた「目白ガーデンヒルズ」(2006年築)。学習院大学の緑を望む上品かつクラシカルなデザインは、ヴィンテージマンションと呼ぶにふさわしい風格をたたえています。免震構造や大使館に匹敵するほどのセキュリティシステムなど、安全性能が高いことも選ばれている理由ではないでしょうか。
「深沢ハウス」(世田谷区)
周囲の自然に配慮した、緑豊かな設計
さらにエリアを広げると、23区内でも恵まれた環境のマンションが多くあります。例えば、駒沢オリンピック公園に隣接する「深沢ハウス」(2004年築)。ここは、約4万㎡の広大な敷地の約3分の1が豊かな緑です。木々や四季折々の植物が育っているだけではなく、池(ビオトープ)や小川、高低差を生かした滝もあり、武蔵野の自然を思わせます。加えてランドプランが緻密で、プライバシーへの配慮や防犯、効率的な動線、駐車場へのアクセスの良さも含め、あらゆる方向から計画されていることがわかります。
「街」のような大規模マンションやタワーマンションも人気に
豊かな緑や機能性、充実した共用施設を備え、単なる集合住宅ではなく、一つの「街」のように機能する大規模マンションも、今後さらに価値を高めていくでしょう。建物のデザインはスタイリッシュですが、人々の暮らしを包み込むような穏やかな住環境が形成されています。
「パークシティ浜田山」(杉並区)
美しい街並みをつくる、洗練された9棟のマンション
その代表例が、「パークシティ浜田山」(2009年築)です。ここは、約8万3000㎡という広い土地に、9棟がゆったりと配置され、開放感があります。美しい並木、たっぷりとした植栽、そして区立公園に囲まれているという環境も抜群。また、昭和初期のモダンな建築「旧浜田山グラウンド倶楽部ハウス」が保存され、コミュニティ施設として活用されており、かつてここが三井グループのグラウンドだったという土地の歴史を伝えています。
そのほか、広尾ガーデンヒルズの系譜を継ぐことを意識して開発された「久我山ガーデンヒルズ」(2005年築・杉並区)は、約3万3000㎡の敷地に約2万9000本の樹木が植えられ、安らぎをもたらしています。また、「ラ・コルダ弦巻」(1995年築・世田谷区)も間近にある馬事公苑の木々と建物が調和し、美しい景観をつくり出している好例です。
さらに、ランドプランに優れた初期のタワーマンションも、ヴィンテージマンションとして価値が高まってくると考えています。植栽を豊かに配しているのが特徴で、邸宅街の低層マンションと同じような静寂やみずみずしい緑を享受することができます。
例えば「大川端リバーシティ21」(1988-2000年築・中央区)は高層マンション群のイメージがありますが、敷地内を歩いていると植栽が多く、水辺の自然を感じられます。「東京ツインパークス」(2002年築・港区)も、浜離宮恩賜庭園や湾岸を望む眺望が圧巻。3つの趣の異なる庭園があり、共有施設も充実しています。
外国人のセカンドハウスとしての需要もますます高まる
自然を感じる暮らしができ、管理が行き届いている東京のマンションは、海外からも注目されています。R100 tokyo でも、2022〜2024年度は中国、台湾など東アジア圏を中心に、マレーシア、シンガポール、欧米ほか外国籍の方から多数の問い合わせがありました。
やはり、定期的に日本に来ている方、配偶者が日本人の方、東京が好きな方が多く、「このエリアのマンションに興味がある」と街を指名する傾向があります。皆さま豊富な知識をお持ちで、ヴィンテージマンションの目利きの方も多いです。
東京都心は治安も住環境も良く、セカンドハウスとしての需要も高いので、今後もニーズが高まり続けることを感じています。
R100 tokyo 斎藤 渉が考える、ヴィンテージマンションの新たな価値基準
最後に、これまでの分析をふまえ、今後さらに評価が高まると私が考えている、新たなヴィンテージマンションの条件をご紹介します。それは、“街と共存しながら、街そのものの品格を高めるデザイン”です。最高級の素材を使用した美しい外観デザインが街の価値を引き上げていく−−。そうした物件が、新たなヴィンテージマンションとして評価を高めていくでしょう。
「ブランズ六本木 ザ・レジデンス」
街の雰囲気を格上げする贅沢な意匠
その代表例が「ブランズ六本木 ザ・レジデンス」(2019年築)。南面角地という立地はとても希少で、2辺が公道に面していることを生かしてデザインされています。御影石の重厚感と、ガラスウォールのシャープなコントラストも印象的。都心のマンションでありながら、車寄せほか共用部が充実していることも、資産価値を高める要素になっていくでしょう。また、ここは明治期に鹿鳴館や三菱一号館の設計で知られる、英国人建築家ジョサイア・コンドルが自邸を構えた場所でもあります。
「プラウド代官山猿楽町」
カルチャーの発信地に似合う、スタイリッシュなデザイン
そして、「プラウド代官山猿楽町」(2018年築)もランドマークとして、十分な存在感を放っています。ガラスと石を組み合わせていますが、曲線を取り入れており、圧迫感がありません。また、バルコニーを外に見せていないため、外観にノイズがなく穏やかで美しいのも特徴です。
この連載で、ヴィンテージマンションについて改めて考察をしてきました。単なる希少性だけではなく、緑に囲まれた豊かな住環境や街との調和が、今後のヴィンテージマンションの魅力として注目されていくでしょう。
ヴィンテージマンションの価値は、歳月によって磨かれていきます。人と建物の密接な関係が生み出す美しさと心地よさは、まさに唯一無二。世代や時代を超えて愛される物件は、ここでご紹介した限りではありません。ぜひ、あなたにとってベストなヴィンテージマンションを見つけてください。
profile

R100 tokyo ブランド企画推進担当部長。大手デベロッパーを経て、2005年の創業からリビタに参画。都内の希少性が高い物件のリノベーションプロジェクトを担当。 特に都心のヴィンテージ物件を多く手がけ、2013年に「瀬田ファースト」プロジェクトにてグッドデザイン賞を受賞。歳月を重ねるほど輝きを増す、住居の価値を創造し続けている。
参考資料
『NATURE FIX 自然が最高の脳をつくる―最新科学でわかった創造性と幸福感の高め方』 フローレンス・ウィリアムズ著、栗木さつき・森嶋マリ翻訳(NHK出版)
目白ガーデンヒルズ
▶︎https://mejiro-gardenhills.mansion-press.com/
深沢ハウス
▶︎https://www.haseko.co.jp/hc/technology/works/200408_01.html
パークシティ浜田山
▶︎https://www.31mansion.com/parkcity_hamadayama/
旧浜田山グラウンド倶楽部ハウス
▶︎https://www.mitsuipr.com/sights/encyclopedia/KEI-029/
久我山ガーデンヒルズ
▶︎https://kugayama-grdhls.mansion-press.com/page2/
ブランズ六本木 ザ・レジデンス
▶︎https://www.shimz.co.jp/works/jp_resi_201903_branz.html
ザAZABU Vol.20
▶︎https://www.city.minato.tokyo.jp/documents/5652/azabu-20.pdf
プラウド代官山猿楽町
▶︎https://www.smcon.co.jp/works/2019/06131028/


