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『華麗なるギャツビー』<br>“映画に見る傑作インテリア”
映画に見る傑作インテリア

『華麗なるギャツビー』
“映画に見る傑作インテリア”

『華麗なるギャツビー』——アメリカ“狂騒の20年代”を象徴する2つの大豪邸とアールデコ・スタイルのインテリア

何世紀も前のインテリアや100年先の想像上の住まい、遠い国の建築物など……、新・旧作、洋・邦画問わず、映画を“インテリアや建物目線”で観ると、いつもとは違う楽しみ方や気付きが得られるはず。無類の映画好きで知られるイラストレーター・エッセイストの斎藤融氏が「インテリアが気になる映画」を紹介する連載コラム「映画に見る傑作インテリア」。1回目は、ロバート・レッドフォード主演『華麗なるギャツビー』(1974年)。アメリカの繁栄を象徴する大邸宅とアールデコ様式の瀟洒なインテリアを解説する。シーンをチェックしながら鑑賞するのもおすすめだ。

Illustrations & Text by Toru Saito

時は1920年代、「ニューポート・マンションズ」を舞台に好景気に沸くアメリカを描く

『華麗なるギャツビー』(1974年版)は、アーヴィング・バーリンが1924年に作曲したノスタルジックなスタンダード・ナンバー『ホワットル・アイ・ドゥ』が流れてスタートする。儚(はかな)げで頼りない女心のような施律が、この映画のすべてを物語っているかのようだ。画面には主人公ジェイ・ギャツビーが遺していった男性用のグルーミング・セットがアップで映し出される。ヘアブラシや手鏡などすべてに、アールデコ・スタイルのロゴタイプで持ち主の頭文字が飾られている。この静かなプロローグから、やがて波瀾にみちたストーリーへと展開していく。

映画の冒頭で映し出されるジェイ・ギャツビーのイニシャル入りグルーミング・セット。デザインは典型的なアールデコ・スタイル。おそらくは、ティファニーで誂えたものだろう。

時代背景は、ローリング・トウェンティーズ(狂騒の20年代)ともジャズ・エイジとも呼ばれた1920年代。ニューヨーク郊外のロングアイランドの豪邸に住むミステリアスな大富豪ジェイ・ギャツビー(ロバート・レッドフォード)とかつての恋人デイジー(ミア・ファーロー)、そして彼らを取り巻く人物たちの葛藤が描かれる。原作はF・スコット・フィッツジェラルドの長編小説『ザ・グレート・ギャツビー』(1925年出版)。20世紀アメリカ文学の代表作のひとつで、村上春樹の文学の方向性に決定的な影響を与えた作品としても知られている。

原作ではギャツビーの住む豪邸は、ニューヨーク州ロングアイランドに設定されているが、映画のロケーションはロードアイランド州ニューポートで行われた。19世紀後半から20世紀初期の産業の隆盛で生まれた新興の大富豪たちは、挙(こぞ)ってニューポートの海岸沿いに大邸宅を建てはじめた。そのようなサマーハウス群は「ニューポート・マンションズ」と呼ばれた。映画で使われたのはローズクリフと呼ばれる邸宅と、マーブルハウスと呼ばれる邸宅の2カ所。主に壮大な外観はローズクリフ、内部はマーブルハウスという具合に使い分けられている。

ギャツビー邸の2階から俯瞰した玄関ホール。優美な手すりと大理石の階段、高い天井がその壮麗さを物語る。ニューポートのマーブルハウス邸で撮影された。

ローズクリフはルイ王朝のベルサイユ宮殿の別荘のスタイルを取り入れて1902年に建てられた。一代で巨額の富を築いた夫妻の夏だけの住まいだった。マーブルハウスが建てられたのは1892年。これも大富豪が愛妻の誕生日にプレゼントした大理石造りの格調高い豪邸だ。軍服を着たギャツビーとデイジーがふたりきりで踊るシーンはこの邸のボールルーム。現在はどちらもニューポート歴史保存協会の所有建築物で一般公開されている。

インテリアに多く取り入れられた、当時の最先端のデザイン様式「アールデコ・スタイル」

撮影に使用されたこの2つの邸宅は、外観は18世紀の建築を模した古典的な佇まいだが、インテリアは当時流行した最先端のデザイン様式アールデコが主調になっており、意想外な新旧混淆(こんこう)の魅力が醸し出されている。

アールデコは1925年にパリで開催された装飾・産業美術の国際博覧会に展示されて以後、アメリカでも建築、室内装飾、家具、家電など広汎に使われたデザイン様式だ。特徴としては幾何学模様、パターン化した抽象的なモチーフ、明るい色調などに見られる。それ以前のアールヌーボー様式が、複雑な曲線を基調としていたのに対して、直線を多用したことも新鮮な感覚として捉えられた。

白亜の邸宅のプールと幾何学的なアールデコ模様が施された白いレースのカーテン。白と青のコントラストが美しい。しかし、この後に衝撃的な惨劇が待っている……。

この映画でも内装に数多くのアールデコ様式が見られる。対称性も特徴のひとつで、内装のあちこちに多用されるドレープ(カーテン)の模様とフロアのパターンが同じであったり、ギャツビーがロンドンの老舗、ターンブル&アッサーで誂えたシャツが華やかに乱舞する印象的なシーンで使われていたドレッシング・ルームのソファのデザインや、金魚が泳ぐプールのタイルの模様やクッションの柄など、いろいろな場面でアールデコ・スタイルが使われていて目を楽しませてくれる。ちなみにブルーの幾何学模様の入ったプールサイドのレースのカーテンは、復刻版も作られて、“ヴィンテージ・アールデコ・ドレープス”という名で市販されているようだ。

映画の中でも有名な「シャツの舞い」のシーン。デイジーは、ギャツビーが放り投げたピンクのシャツを抱きしめながら、「今までこんな美しいシャツを見たことがないわ!」とむせび泣く。
ギャツビーとデイジーが室内のプールサイドで愛を語り合うシーン。金魚が泳ぐプールの底にもアールデコ模様が施されている。

登場人物の華麗なファッションも見落とせない。ラルフ・ローレンが担当した男性陣の衣装は、ファッション業界に「ギャツバイゼーション」という造語が生まれるほどのクラシカル回帰現象をもたらした。映画は、住む人を失った空虚な邸内のそこかしこを丁寧に映しながら、始まりと同じように静かに幕を閉じていく。

映画情報

『華麗なるギャツビー』

1920年代のアメリカの精神的混乱を上流階級に属する若者たちの生き方を通して描いたF・スコット・フィッツジェラルド原作の映画化。舞台は1920年代のニューヨーク郊外のロングアイランド。若くてハンサムな富豪ギャツビーは、白亜の邸宅で夜ごと派手な夜会を催していた。隣に住む証券マンのニックも招待され、やがて彼はギャツビーの過去を知ることになる。中西部出身で貧しかったギャツビーはかつて愛を誓った女性デイジーが出兵中に金持ちと結婚したと知り、彼女を取り戻すべく夜会にデイジーが現れるのを待っていた。そしてついにギャツビーとデイジーに再会の時が訪れる……。監督はジャック・クレイトン、脚本はフランシス・フォード・コッポラ、音楽はネルソン・リドル、衣装はセオニ・V・アルドリッジ(衣装デザインでオスカーを受賞)が担当。

1974年製作/144分/アメリカ
原題:The Great Gatsby
配給:パラマウント映画=CIC

profile

斎藤 融

イラストレーター、エッセイスト。早稲田大学文学部美術科在学中に漫画研究会を創設。卒業後はフリーのイラストレーターとして『メンズクラブ』『平凡パンチ』など60年代を代表する男性ファッション誌で活躍。英国紳士さながらのダンディで知られ、無類の映画好きでもある。

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