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世界を旅する起業家・アートディーラーの安田有里さんが、アートと共に生きる醍醐味とは
My Life with ART

世界を旅する起業家・アートディーラーの安田有里さんが、アートと共に生きる醍醐味とは

「アートを巡る旅、それが私の生きる道」――起業家として、現代美術のアートディーラーとして、安田有里さんが目指すニューワールド

「こんな日本人女性がいたなんて」。彼女に出会うと、誰もがきっと、そう思うに違いない。日本茶を海外に展開する起業家として世界を飛び回る一方で、アートディーラーとしてトップアーティストやオークション関係者と丁々発止の勝負を続けるその人は、自由で軽やかな発想力で現代美術の世界を俯瞰する。アートと共に生きる醍醐味を教えてもらった。

Text by Mayuko Yamaguchi
Photo courtesy by Yuri Yureeka Yasuda

拠点は複数、世界が私のフィールドだから

安田有里さん。幼少時よりアートに親しみ、現在はアートや日本の文化を世界に伝えるミッションを背負いながらも、軽やかに世界を飛び回る。

インタビューのスタートは、月曜日の朝9時に設定された。オンラインミーティングとはいえ、結構早い。「相変わらず忙しいんだろうな、ユリーカは」……と思ったら、そうではなかった。

「今、日曜日の夜7時。メキシコのグアダラハラという街に滞在しているんです、2020年の末から」と話すのは、ユリーカのニックネームで呼ばれる安田有里さん。 日暮れが遅い南米の夕陽が差し込む部屋を背景に、リラックスした様子でモニターの向こうから笑顔を向けてくれた。

彼女と初めて出会ったのは9年ほど前になる。当時まだ20代だった安田さんは、そのころから精力的に実業家として活動しており、ニューヨークのフレーバーティーブランド「ハーニー&サンズ」を日本に展開する人として、そのブランドも含めて多くのメディアで紹介されていた。美味しいお茶に魅了されて交流するようになったけれど、その後徐々にわかってきたのは、彼女が単なる実業家ではなく非常にチャーミングに世界を闊歩する稀有な日本人女性だということだった。SNSで垣間見る華やかなジェットセッターぶりに圧倒されていたが、久しぶりに話を伺うとそんな暮らしの裏では新たなプロジェクトがスタートしているという。それが、彼女が熱い視線を傾け、今後の人生を賭しているというアートディーラーとしての事業だった。

アート市場で昨今注目されているのがラテンアメリカ。長年の友人でもあるメキシコの気鋭の画家、エドゥアルド・サラビアのアトリエで。

80年代の刺激的なニューヨークからすべてが始まった

ロンドンでティーソムリエの資格を取得。マーケット・ニーズを実感して起ち上げたライフスタイル・ブランド「SAYURI」のグリーンティーは年内に世界7か国で展開されるという。

安田さんの活動を紹介する前に、まずは彼女の生い立ちについて語る必要があると思う。1983年に東京で生まれ、3歳のときに父親の転勤に伴い家族で米国に移る。その後インターナショナルスクールから上智大学に進むが、幼少期から大人になるまでの長い時間をニューヨークの現代アートの影響を受けながら過ごした。

彼女の父親は、渡米した当初は日本の建築系大企業に勤めていたが、転職という一大決心をする。東京藝術大学出身で美術に造詣が深かったこともあるが、企業を辞してアートディーラーの道にシフトしたのだ。ずいぶん思い切った決断をと感じるが、彼女の説明を聞くとなるほどと納得した。

「当時のニューヨークには70年代からの現代アートの熱気が満ちていて、暮らしていても本当にエキサイティングでした。父はその後コルビュジエやモネのコレクションのエキスパートになりましたが、当時はリキテンスタインや河原温(On Kawara)と直接やりとりして作品を買うようなところもあって。今にして思えば、まぁ、見る目があったんでしょうね。同業に就いた身として尊敬しています」

母親は詩人で文字を書くのが仕事だったという安田家。ヨチヨチ歩きの頃から美術館やギャラリーに連れて行かれ、「なぜこんなに私はミュージアムにばかりいるんだろう?」と疑問に思いながらも、著名な作品をスケッチし続ける幼少期だったのだそう。

「当時好きだったのは、アンディ・ウォーホルやキース・ヘリング。クラシックな世界にはあまり興味が持てず、ポップで元気が満ちあふれるようなコンテンポラリーアートに魅了されていきました」

ニューヨークで過ごした幼少期。クラスの子どもたちと。右から2番目が安田さん。

学生時代から様々な仕事にチャレンジし、大学卒業後に海外ブランドの輸入会社を起業、自分の道を探し続けた安田さん。仕事で海外に行く機会が多く、そのたびにアートフェアを巡っているとアートを通じて友人ができて、さらに世界が広がっていき、いつしかアートフェアが生活の一部となっていた。

そんなときに関わった仕事が、メディアに寄稿するインタビュー。バイリンガルの彼女に任されたのは、海外のアーティストやコレクターを紹介する連載で、アートを仕事にするプロフェッショナルたちとの交流を深めていったという。

「そんなある日、友人の紹介で世界的なチャイニーズコンテンポラリーアートのトップコレクターが住むスイスのお城のプライベートコレクションを見せていただく機会があって、そこで日本人アーティストの作品を見つけました。その次の週、ちょうど同じアーティストの作品を偶然香港のクリスティーズでも見かけて、帰国後に日本のギャラリーで購入することにしました」

20代で初めて買ったアート。その楽しさときたら、これまで眺めていたアートとはまた違う!……と開眼した安田さんは、その後も少しずつアートを集め出し、彼女から話を聞いた友人たちもそれにならって絵を買い始めたという。彼女のアドバイジングが必要とされたのは、ごく自然な流れだったのかもしれない。

「誰もやっていないこと」が仕事になる

ニューヨーク・ブルックリンにある、現代アート作家ボスコ・ソーディのアトリエにて。

2021年、「ハーニー&サンズ」を扱ってきた会社を譲渡した。輸入ビジネスには一応の達成感があったと語る。フランスの「ポンデザール」や、イタリアの「レザンティカ」など、個人的なつながりのあるブランドとのビジネスは継続するが、今後は日本発の「SAYURI」ブランドの輸出に力を注ぎたいという。そして同時に、「TOKYO ART OFFICE(TAO)」の事業に本腰を入れると決心。一連の動きに彼女なりの一貫性はあるのだろうか? 興味があり聞いてみると面白い答えが返ってきた。

「自分のポジションをどこに置くか考えるときは、『ほかに誰もやっていないこと』に主眼を置くようにしています。【ラグジュアリーカード】のブランドアドバイザーを務めているんですが、 ここでは日本未発売の魅力的なブランドを見つけて、紹介しています。SAYURIブランドでは、日本のオーガニックでサスティナブルなライフスタイルを世界に展開することを心がけています。2020年10月にロンドンにオープンした、日本と北欧の文化がテーマの複合施設【パンテクニコン】では、ブランド・セレクションとコンテンツのキュレーションを任されています。今ロンドンで最もトレンディと言われるホットなスポットなんです」

曰く、最近日本でもアート熱が沸騰してきているけれど、そこには「日常にアートを取り入れて自分のものとして楽しむ」という土壌はまだ成立していないように感じるという。一部の富裕層が“トロフィー・コレクション”として投資対象のようにアートを買うのもいいけれど、かつて自分がアートに魅了されたように、個人の楽しみとして暮らしにアートを取り入れる醍醐味を伝えたいし、それを世界規模で果たす仕事は自分に向いている。ようやくアートの道が彼女の本業へと昇華したのが、今なのだという。

タフでないと生きていけないアートディーラーの日常

注目の日本人画家・井田幸昌のアトリエにて。「YUREEKA」の肖像の作品も制作されている。

世界を飛び回るアートディーラーの生活。さぞかし華やかで楽しそう、と思ったらまったくそうではないらしい。「とてもタフで、続けるにはとにかく体力が必要です。そして戦略的でないと務まらない」と教えてくれた。

「現在、私のクライアントは9人いて、女性が多いのが特徴です。1枚だけ買っておしまい、という人は一人もいなくて、全員がリピーター。期待していただいているので、喜んでもらえる作品を探すのは私の使命です。アートを買うという行為は自由で楽しいことですが、それが自分用であれば、の話。なぜなら、世界中のアート作品のうちその後価値が高騰するものなんて本当に一握りという厳しい業界だからです。どんなに気に入っていただけても、やはり価値もそれに伴うものであってほしいから、責任は重大です」

イギリスの若手人気アーティスト、トモ・キャンベ ル。ハリースタイルズやケイト・モスが彼の大ファンとして知られている。安田さんは、アジアにおけるトモとの専属契約を結んでいる。

では、いい作品を買い付けるにはどうすれば良いかというと、勘とタイミングとセンスと体力と、外からは見えないところでも、努力が払われているようだ。

「アートの世界は、複雑かつシンプルです。スムーズに作品を入手できるかどうかは、ギャラリーとの人間関係の良し悪しで決まることもあるし、オークション前にどれほどリサーチできて、スペシャリストとの関係を良くしておくかも重要。アートフェアのVIPプレビューですべてが決まってしまうことが当たり前で、他の人も求めている作品をいかにして手に入れるか、いつもドラマティックです」

にこやかに話してくれるが、想像以上に厳しい世界なのだということが伝わってくる。台北、LA、香港、バーゼル、ニューヨーク、ロンドン、パリ、上海、マイアミ……、と毎月のように世界のどこかで開催されるアートフェア。現地の美術館とギャラリーは一気に見て回る。連日深夜までアーティストやバイヤーとの懇親パーティは続く。その間にインタビューや執筆もこなし、早朝に起き出して他国との電話やリモート会議も行っているのだという。フェアが終わるともう精魂尽き果てて、一人でプーケットに行ってデトックス休暇を取るような日々なのだとか。そのようなライフスタイルが彼女の日常だったとは、彼女のSNSを眺めていてもまったくわからなかった。

時代も国もすべてを超えて、人はアートによってつながる

オンの日もオフの日も、アートとの付き合いは日常。触れ合いが増えるほどに意識は高まり、新たな視点が培われるのだという。作品を前に作家ミカ・タジマ氏と語り合う(フォーブスの連載から)

彼女はコロナ禍に入っても忙しく活動していた。海外渡航の制限が厳しいため、ここ半年はメキシコに滞在中。「同じ場所に半年もいるなんて20年ぶり」という。昨今、アート界では中国に続いて大注目を浴びているラテンアメリカだが、メキシコ出身でLAベースのトップアーティスト、エデュアルド・サラビアとは南京の美術館オープニングで出会って以来の親友。安田さんにとって、世界はどこまでも地続きのようだ。

メキシコでの日々はパートナーとゆっくり過ごせる貴重な時間でもあるが、しかしコロナ収束後にはまた、過酷で華やかな日々が彼女を待ち受けているであろう。やりがいはどこにあるのか、聞いてみた。

「アートは今、最高にエキサイティングで楽しい業界です。しかし、私がなんのためにこの仕事を選んだかと聞かれると、たぶんアートへの情熱だけが理由ではありません。言語やバックグラウンドを超えて世界中の友人と感動を共有できるアートこそが感動的ですべての始まり、喜びを与えてくれます。アートによって世界をつなぐことは、私に与えられたミッションではないかと思うと、体が勝手に動いてしまう。天職を得たことに幸せを感じています」

2021年の今でも、海外からしてみれば日本は先進国でありながら、まだまだアクセスしづらい国という印象があるのだという。「コロナが収束したら訪れたい国」のランキングでトップに入っているそうだけれど、それでも、食やアート、アニメ、ファッションなど、日本のコンテンツをビジネスとして世界に展開していくには、彼女のような存在はとても貴重だ。「日本案件となると、まず最初にアクセスされる人」であることが、彼女にとってのアイディンティティーであり、強みなんだろうと思う。

今秋には久しぶりに日本に戻る予定だという。アートに興味を持つ人であれば、安田有里さんの活動に注目していると、そこには楽しいヒントがたくさん隠れている。本当に、目が離せない人だ。

profile

安田有里ユリーカ/Yuri Yureeka Yasuda

1983年、東京に生まれ、ニューヨークで育つ。現代アートのマネージメントやリアライゼーションを行う「TOKYO ART OFFICE」でCEOを務める。ハイエンドユーザー向けの海外ブランドの輸出入、企業ブランドのアンバサダーなど、活躍範囲は広い。

Information

profile

山口繭子

神戸市出身。『婦人画報』『ELLE gourmet』(共にハースト婦人画報社)編集部を経て独立。現在、食とライフスタイルをテーマに、動画やイベントのディレクション、ブランド・新規レストランのコーディネートなどで活動している。著書に、自身の朝食をまとめたレシピエッセイ『世界一かんたんに人を幸せにする食べ物、それはトースト』(サンマーク出版)。
▶︎https://note.com/mayukoyamaguchi

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