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建材と手触りを体感する宿泊施設「TACTILE HOUSE OSAKA」
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建材と手触りを体感する宿泊施設「TACTILE HOUSE OSAKA」

触覚の豊かな空間が工芸の未来をつくる

昔ながらのウィルトン織機を使ってウールのカーペットをつくる堀田カーペット。その代表の堀田将矢さんが中川政七商店とともに宿泊施設「TACTILE HOUSE OSAKA」をオープンさせた。ここは、日本に受け継がれる工芸の数々を住宅用の建材として広めるための新しい拠点でもある。この活動のキーワードである“タクタイル(触覚)”を、堀田さんは空間づくりにおいて大切な要素だと考えている。

Text by Takahiro Tsuchida
Photographs by Satoshi Yasucochi

ものづくりを未来に残していくための工芸建材

堀田カーペット株式会社代表の堀田将矢さんは、祖父が創業したこの会社を8年前に継いだ。大阪府和泉市にある工場では1962年以来、イギリス発祥のウィルトン織機を使ってウールの糸を織り続けている。かつては多くの住宅で当たり前のように見られたカーペットだが、近年は市場が縮小していた。堀田さんはウィルトン織機ならではの品質と快適さを改めて見直し、その魅力を広く発信する。やがて次第に多くのデザイナーや建築家たちが堀田カーペットに注目するようになった。

そんななかで堀田さんは、次の課題を感じていた。「カーペットについて知ってもらおうと工場見学やワークショップなどを行ってきましたが、それだけでは体験はできても『体感』ができない。魅力を伝えきるには体感が欠かせないと思ったんです」。そこで模索しはじめたのが、本物のカーペットにゆっくりと触れてもらうための宿泊施設。2025年3月に開業した「TACTILE HOUSE OSAKA」は、そんな発想を原点として生まれた。場所は堀田カーペットの工場からクルマで5分程度、接客や運営もすべて自分たちで行っている。

リビングダイニングの空間。ローテーブルは「エッセンシャルストア」の田上拓哉さんのデザインで、土を混ぜた左官材で仕上げたもの。ペンダントランプは岐阜提灯で知られるオゼキの製品。

ただし「TACTILE HOUSE OSAKA」は、カーペットのためだけの場所ではない。漆、和紙、織物、タイルといった「工芸建材」をふんだんに取り入れているからだ。こうした方向性は、プロジェクトが始まってから定まっていったという。建物の設計を依頼した気鋭の建築家、工藤桃子さんとのやりとりも大きなきっかけとなる。工藤さんはもともと素材への造詣が深くさまざまな情報を共有してくれた。また堀田カーペットの活動を通して、堀田さんもものづくりにかかわる多くの人々と知り合ってきた。しかし工芸的だからこそ、時代の変化の中で直面している課題も大きい。

「最初はせっかく建物をつくるのだから好きな素材を使いたい、という単純な欲求でした。でも僕らがつくるカーペットにしても、このままだったら産業として終わってしまう運命にある。工芸全般について同じことが言えます。ものづくりを未来に向けてどう残していけるのか。そこに向き合った宿泊施設にしたいと考えるようになりました」

堀田カーペットとTactile Materialの代表を兼任する堀田将矢さん。壁面のファブリックアートは草間喆雄の作品で、田上拓哉さんがセレクトした。

堀田さんは、この考えを以前から交流のあった中川政七商店に伝えた。中川政七商店は、日本各地の工芸や地場産業をサポートし、その持ち味を引き出して新しいニーズを掘り起こしている。そのアプローチを住宅産業に広げると、大きなマーケットが生まれるに違いない。両者は共同でTactile Material(タクタイル マテリアル)株式会社を設立し、「TACTILE HOUSE OSAKA」の運営だけでなく、工芸建材の開発、販売、発信などを行うことになった。“タクタイル(触覚)”は、工芸建材のキーワードだ。家をつくるために建材を選ぶとき、その色や形状といった視覚的要素が第一の判断材料になる。しかし実際に暮らしてみると、素材の手触りもまた重要であることがわかる。

「実は住まいの空気感は、触覚によって左右されるのではないでしょうか。ウールで織ったカーペットの自然な柔らかさや、漆の柱のしっとりした感触は、工芸建材ならではの魅力です。こうした手触りがその場所にしかない空気をつくっていく。視覚的な派手さはありませんが、それを伝えていきたい」

そのためには短時間の体験でなく、ゆったりと過ごすなかで体感するのが欠かせないということだ。この感覚は言葉で伝えるのが難しいという認識が、堀田さんにはある。

「工芸建材の触覚をどう言語化すべきかずいぶん考えたのですが、現時点ではしないことにしました(笑)。言葉で伝わらないから体感する必要があるし、体感しながらフッとわかることに意味がある。『TACTILE HOUSE OSAKA』のチェックインが、まずみなさんをテーブルのまわりに案内して、カーペットに直接座ってもらうところから始まるのもそのためです」

工芸の本質と向き合い、妥協しない住空間の心地よさ

「TACTILE HOUSE OSAKA」は、大きなカーブを描く屋根と、赤褐色の左官材で仕上げた壁が印象的な、2階建ての建物の上層部に位置する。床はすべて堀田カーペットのグレーのカーペットが敷かれ、キッチンの周囲やバスルームの脱衣場までも同様だ。その穏やかな色合いと、屋根と共通する曲面をもつ天井が、室内全体に一体感をもたらしている。

「僕は誰かにデザインを頼んだら、あれこれと指図はしません。工藤さんにお願いしたのは、一棟貸しの宿にすること、カーペットを体感できること、そして『家』らしい場所であること。普段どおりに暮らせる設えのなかで極上の日常を過ごせるようにしたいと思いました」と堀田さん。リビングダイニング、テラス、ベッドのある2つの個室などで構成した間取りは確かにオーソドックスだ。それでも「極上」なのは、コーナーごとに工芸建材を巧みに取り入れたからだろう。

屋根のカーブは遠くに見える山並みや竹林からインスピレーションを得たもの。植栽は大阪のグリーンスペースが担当し、以前からこの敷地にあった岩や石も活用した。2階が宿泊のためのスペースで、1階はTactile Materialのショールームなどを兼ねている。
左官で仕上げてからさらにテクスチャーを加えた2階部分の外壁。
左の意匠柱は呂色仕上げの漆ならではの質感。テラスに置いたスツールはTactile Materialオリジナル商品で、アンティークショップ「エッセンシャルストア」の田上さんのデザイン。

リビングスペースのほぼ中心で存在感を漂わせるのは、黒々とした漆で仕上げた意匠柱。漆を乾燥させてから鏡面のような艶になるまで手作業で磨き上げる、呂色仕上げという技法を用いた。越前漆器塗師屋である漆琳堂の8代目、内田 徹さんによるものだ。「どうぞ触ってみてください。ツルツルに見えますが、ペタペタした感じがします」と堀田さんは話す。同じく内田さんが手がけたのが、リビングや廊下にあるシェルフの棚板で、こちらは和紙や乾漆粉の上から漆を施してマットな質感とした。また個室のデスクの天板は、錫粉の上に透漆を塗り重ね、錆びた金属のようなテクスチャーをもたらした。もちろんそれぞれに触覚も異なっている。

個室のデスクの天板は、錫粉の上から透漆を施し、金属やレザーを思わせる質感とした。丸い石を用いた照明器具は、福岡のライトイヤーズのオリジナル。
和紙を貼ってから漆で仕上げたシェルフの棚板。テキスタイルや羊に関連した書籍をはじめ多様なオブジェをディスプレイしている。

テラスの壁面や床に用いたのは、多治見のエクシィズによるTAJIMI CUSTOM TILESと製作したオリジナルのタイル。一般的な量産品とは異なり、陶磁器の製法に近い湿式の還元焼成でつくられている。1枚1枚のタイルが繊細な色合いを備え、表情の豊かさに味わいがあるのはそのためだ。同様のタイルはバスルームでも使われている。

テラスではTAJIMI CUSTOM TILESによる2色のタイルを使用。壁は水色、床はベージュでそれぞれ色合いに揺らぎがあり、境目のタイルの2色のグラデーションとした。
バスルームでも使用されている、TAJIMI CUSTOM TILESと製作したオリジナルのタイル。

キッチンの横や個室の窓には、越前和紙の引き戸をつけた。1875年創業の歴史ある工房、滝製紙所によるものだ。ここを継ぐ瀧 英晃さんは、和紙職人としてユニークなコラボレーションにも積極的に取り組んでいる。「TACTILE HOUSE OSAKA」のための和紙は素材にカーペットの原材料である羊毛を混ぜ、絶妙の濃淡を生み出した。自然光を通した姿もまた美しい。

滝製紙所の越前和紙は、羊毛を混ぜて漉いた特別なもの。カーテンの代わりに窓辺に設置している。

洗面所やトイレのシンクまわりは、宮城県産の伊達冠石でできている。彫刻家のイサム・ノグチが用いたことでも知られる石で、褐色の肌と内部の濃色のコンビネーションが独特だ。数ある自然素材のなかで、石や岩はひときわ長大な時間軸を感じさせるもの。手のひらで触れることで、いっそうはっきりと量感が伝わってくる。

自然のままの迫力あるテクスチャーが楽しめる伊達冠石の洗面スペース。壁面のタイルはTAJIMI CUSTOM TILESによるもの。

ベッドのある個室の壁面は、京都府木津川市の小嶋織物による織物壁紙を使用した。この素材には調湿効果があり、室内の空気を清潔に保つという。昨今の主流である樹脂系素材の壁紙と格段の違いがあるのはもちろん、絵柄をプリントした欧米のブランドの壁紙に比べても奥ゆかしさがあり、「TACTILE HOUSE OSAKA」の雰囲気にふさわしい。

小嶋織物によるテキスタイル製の壁紙は、光を吸い込むような立体感がベッドルームに合っている。

バスタブは、東大阪市で創業した日ポリ化工のオリジナルブランド「SKUNA」。デザイナーの柳原照弘さんのディレクションのもと、一日の終わりに最高の時間をもたらすことをテーマにしている。素材はFRPなので工業製品のように見えるが、工場を訪れた堀田さんは、職人のヤスリがけでフォルムを完成させる工程を見て「これは工芸だ」と思ったという。

奈良県で製造しているSKUNAのバスタブ。湯に浸かったときに身体にフィットする曲線を取り入れてある。
奈良県で製造しているSKUNAのバスタブ。湯に浸かった時に身体にフィットする曲線が取り入れてある。

一連の工芸建材は、工藤さんが建物を設計するなかで最適の場所に配されていった。また室内のスタイリングや一部の家具のデザインは、大阪のアンティークショップ「エッセンシャルストア」のオーナー、田上拓哉さんが手がけている。その意図を堀田さんはこう説明する。

「工芸建材というと和のイメージが強くなりがちですが、それでは現代の空間に対して広がっていかない。だから和も洋も超えてすごいものを扱う田上さんにぜひお願いしたいと思いつきました。『エッセンシャルストア』はとても個性的で不思議なアンティークショップで、以前から大好きなんです」

「エッセンシャルストア」の田上さんがデザインしたスツールは、敷地にあった石をカットし、アクリルの脚部に載せたもの。Tactile Materialのオリジナル家具として販売している。

また、それぞれの建材を使われるべき場所で使おうという姿勢は、堀田さんと工藤さんの間で当初から一致していたという。たとえばカーペットを壁面に張るようなアイデアは、見た目はおもしろいが暮らすという視点では意味がない。

「僕は本質的なものをつくりたいし、いいものは本質的だと思います。工芸建材を広めるためだからといって、突飛な使い方を薦めたりはしません。また価格や納期の点で手が届きにくいものを使ってほしいとも思わない。それでは美術工芸になってしまうからです。ある程度は僕らで在庫を持って、現在の商慣習に合ったことをしていきます」

堀田カーペットでは、主にイギリスなどから輸入した羊毛を使い、産業革命の時代に使われはじめたウィルトン織機でカーペットをつくっている。四季を通じて快適さは変わらない。

工芸的につくられる建材に着目し、それを普及させようという堀田さんの活動は、ずいぶんと勇気があるように思える。しかし家とは、もともとは職人が手仕事で完成させる一点ものだった。そんなふうに出来上がる住まいの心地よさは普遍的に違いない。

誰もが日常的に感じながらあまり意識することのない触覚に着目し、工芸建材の魅力を結晶させた「TACTILE HOUSE OSAKA」。ここで過ごす1日は、数々の素材や技術に秘められた魅力を心ゆくまで味わわせてくれる。その魅力は日本に受け継がれるものづくりの伝統に裏づけられながら、同時に将来の暮らしのビジョンを指し示している。家づくりを前向きに考える人は誰でも、「TACTILE HOUSE OSAKA」に深い満足と新鮮な気づきを得られるはずだ。

TACTILE HOUSE OSAKA

TACTILE HOUSEでは滞在を通じて、工芸建材がもたらす心地よさや美しさを肌で感じられる宿泊体験を提供。インテリアデザイナーや建築家、工芸やデザインに興味を持つ方向けには、アテンド付きで施設見学サービスも用意。創造的なプロジェクトの舞台として空間を自由に活用できるレンタルハウスとしても利用可能。予約は下記公式サイトから。

HP    ▶https://www.tactile.jp/house
所在地   大阪府和泉市阪本町162番地 [map]
予約プラン<宿泊プラン>1日1組1棟貸し/定員6名基本料金 税込72,600円~
     <施設見学プラン>施主および建築関係者向けの日帰り施設見学
     <レンタルハウスプラン>写真・動画撮影など様々な用途で利用可能
                 1棟基本料金 税込80,000円~(最大8時間)

堀田カーペット株式会社

1962年、大阪府和泉市で創業。以来、イギリス発祥のウィルトン織機を使ったウールカーペットを一貫してつくり続けてきた。代表取締役社長を務める堀田将矢さんは3代目で、メーカー勤務を経て2008年に堀田カーペットに入社し、2017年から現職。自社ブランドの立ち上げなどを行うとともに、カーペットの普及のための活動に力を入れている。
▶︎https://hdc.co.jp/

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