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心地よい暮らしを広める、<br>堀田カーペットの本物のものづくり
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心地よい暮らしを広める、
堀田カーペットの本物のものづくり

カーペットから、生活の常識を変えていく

産業革命の時代からカーペットづくりに使われていたというウィルトン織機。大阪府和泉市にある「堀田カーペット」は、60年前の創業時からこの織機でウール製のカーペットをつくり続けてきた。日本の住空間では木のフローリングが選ばれることが多いが、実はウールのカーペットには多くのメリットがあり、独特の美しさと体感できる心地よさがそなわっている。職人と機械が一体になってつくり出す堀田カーペットの製品、そこに込められた思いを、同社代表の堀田将矢さんに尋ねた。

Text by Takahiro Tsuchida
Edit by Masato Kawai(BUNDLESTUDIO)
Photographs by Satoshi Nagare

40年間で1/100に減少した、カーペットのある住空間

第二次世界大戦後、日本の人々の暮らしが豊かになる中で、伝統的な住空間は西洋からもたらされたものへと次々に置き換わっていった。障子はカーテンに、箪笥はクローゼットに、そして畳はカーペットに。カーペットのある生活はやがて広く行き渡り、西洋化した日本の住宅の原風景になっていく。特に都市圏を中心に増えた集合住宅では、階下に音を響かせないため床一面にカーペットを敷き込むのが標準的な仕様だった。現在もヴィンテージマンションなどに、しばしばその名残を見かける。

「堀田カーペット」が1962年に創業したのは、そのような高度成長期の需要を見込んでのことだったようだ。創業者は、ウィルトン織機と呼ばれるカーペット専用の織機を仕入れ、事業を軌道に乗せていった。ウィルトン織機は、それまで手織りだったカーペットづくりを機械化して、イギリスの産業革命においても大きな役割を果たしたもの。戦後の日本では、多くの企業がこの機械で織ったカーペットを手がけていた。1970年代から80年代にかけて、その市場はピークを迎えていく。

紡績会社から届き、工場にストックされたカーペット用の羊毛の糸。
ワインダーと呼ばれる、羊毛の糸を織機にかけるための下準備。

「1980年代は新築住宅の約20%が床にカーペットを敷いていました。当時は多くの家に応接間があり、そこにカーペットを使うことが多かったのです。しかしやがて生活の習慣が変わって応接間が減り、施工技術のレベルが向上したことで集合住宅にも木のフローリングが増えました。一方で汚れやダニなどカーペットの弱点ばかりが目立ってしまうようになったのです」。堀田カーペット代表の堀田将矢さんは、そう話す。2008年には新築住宅でカーペットが使われる割合は0.2%まで下がったという。ピーク時に日本国内で400台が稼働したというウィルトン織機は、現在は20台程度になってしまった。

「カーペットにデメリットがあるのは確かなんです。でもそれとは別にいいところもたくさんある。そしてカーペットを長く美しく使うには、素材はウールがいちばんいい。カーペットだけがすばらしいと言うつもりはないけれど、0.2%しか使われないほど悪いものではないと僕は思います。だから、カーペットがあるとこんな暮らしができるんですよ、というのを紹介していきたい」

堀田カーペットでは約10台のウィルトン織機が稼働している。

堀田さんが、創業家の3代目として堀田カーペットの代表に就いたのは2017年のこと。以前、異業種のメーカーで働いていた彼は、カーペットやインテリアについて特別な知識はなかったという。しかし、代々手がけてきた製品の価値は十分に感じていた。そして市場との間にあるギャップを埋めるためにさまざまな試みを始めていった。

「まずは自社ブランドの『ウールフローリング』に特に力を入れることにしました。これは建材としてのウールカーペットです。カーペットの敷き込みをいかに広めるかが僕の第一のミッションで、やりたいことの柱なんです」と堀田さん。ホテルの部屋のように、室内の施工時に床全面に敷き詰めるカーペットである「ウールフローリング」は、見本帳をつくって選びやすいように取り揃えている。

糸を巻きつけた数千個の木管を織機にセットして、幅3640mmのカーペットができあがる。

カーペットの素材は、ナイロンなどの化学繊維と、羊から採れるウールが主流になっている。ショッピングセンターのように何万人もの人が上を歩く場所なら、耐久性の高いナイロン製が適している。しかし住空間で使うには、美しさや感触などの点でウールがはるかに優れているのだという。高級ホテルやハイブランドのブティックなどで見られるカーペットも大半はウール製だ。そこには天然素材ならではの豊かな風合いと確かな心地よさがそなわっている。

「カーペットによく使われるウールは、品質と価格が世界一安定しているニュージーランドのロムニーマーシュ種の羊毛。それに対して僕らはイギリスの羊毛を積極的に使用しています。イギリスだと1頭分の羊毛が来るので良くも悪くも個性があり、流通量や価格も変動します。しかし山岳に住む羊が多いため、毛に反発力があって、膨らみが違う。他にスペインやブルガリアなど30~40種類の羊毛を使っていて、それぞれかなり性質が違うんです」

ウィルトン織機は、常に機械の調子を見ながら操作する。職人が熟練するには10年以上を要するという。

素材となる羊毛の個性は糸の個性となり、製品の個性をつくり出す。堀田カーペットは既存の糸の他にオリジナルで開発した40種類の糸を使っていて、中にはその製法で特許を取っているものもある。「つまり糸からデザインしているんです」と堀田さんは話す。

「糸の製造は紡績会社にお願いしていますが、オリジナルの糸は1トンくらいが最小ロットです。40種類なら40トンの糸の在庫をもつということで、相当のリスクがあります。下請けとしてカーペットをつくるなら、そんなことをする必要はないんです。でも僕らは新しいものを生み出すために3年くらいかけて開発しているので、パワーのかけ方が違います」

ウィルトン織機と同様に、近年では珍しくなった旧式のジャカード織の機械も並ぶ。

紡績会社から堀田カーペットの工場に運ばれた糸は、最初にワインダーという工程で小型の木管に巻き取っていく。ウィルトン織機で織るカーペットの幅は3640mmで、この幅のためには最低でも1200個、最大で6000個の木管が必要。それをひとつずつウィルトン織機にセットして、機械を動かすと、数千本の羊毛の糸が1枚のカーペットとして織り上がっていく。

ウィルトン織機は、幅約10m、長さ約20mもある。大きな音を立てながら機械が動く様子は迫力にあふれ、確かに産業革命のものづくりが眼前に甦ったかのようだ。この機械1台は、たったひとつのモーターを動力源として、その力を歯車で全体に行き渡らせている。「だから常に歯車の調子を見て、調整を繰り返さなくてはいけません。経験を積んだ職人でないとカーペットが織れないのはそのためです」と堀田さんは説明する。

ウィルトン織機よりも細かい織柄をつくるのに向いているジャカード織機。

ウィルトン織機以外のカーペットの製造機械に、タフテッドマシンがある。ベースの布地にパイル糸を植え込んでいくもので、製品の構造は織物よりも刺繍に近い。縦糸と横糸によって構造をつくるウィルトン織機のほうが耐久性が優れているため、堀田カーペットではタフテッドマシンを使わない。ただしタフテッドマシンには、コンピュータ制御によって効率よく低コストで製造できるメリットがあり、世界的に見てもカーペット産業の主流になっている。

「ボタンひとつで機械を動かせる最近のタフテッドマシンは、コンピュータの不具合が起きたら機械メーカーでないと修理できないことが多い。しかしウィルトン織機はすべてが物理的に動いているから、自分たちでパーツを修理したり、交換しながら使うのが当たり前。そのために、今までに廃業したカーペット業者の織機パーツを受け継いできました。うちはどの機械も原形をとどめてはいません」

それでもいつかは、ストックしてあるパーツが尽きてしまうかもしれない。しかし堀田さんは、その点について悲観はしていない。

「いわゆるパーツとして売っているものは少ないけれど、鉄工所さんなどにも協力してもらいながら、パーツからつくることはできます。これまで通りの鋳物では難しくてもプラスチックならできることもある。こうして知恵を絞り、協力いただけるメーカーを見つけていくことは、まだまだ可能だと思っています。日本のものづくりはそんなにひ弱じゃありません」

堀田カーペットの職人にとって、ウィルトン織機は機械織という感覚がないという。それだけ人の手が欠かせないということだ。
織機のメンテナンスや補修も大部分は社内で行っている。

ものづくりを通して、職人の地位を上げたい

機械の保持よりも深刻なのは、それを扱う職人を育てることだと堀田さんは話す。

「職人さんはすばらしい、リスペクトしますと言いながら、自分はリモートで仕事したいという人がたくさんいる。職人へのリスペクトが消費されている気がするんです。無責任に職人を持ち上げるなら、自分でやってみてほしい。職人が育つには時間がかかるし、そもそも採用するまでが大変です」

企業の活動を通じて、地道なものづくりの地位を上げたいと、堀田さんは考えている。そのためには、職人によるものづくりの力をはっきりと伝えたいし、職人になりたい人を増やしたい。働く環境をよくして、待遇も向上していきたいという。

織り上がったカーペットをチェックして、細かい不具合を直す補修という工程。
飛び出た糸などを、人の目と手で確かめていく。

現在、堀田カーペットの新製品の多くは堀田さん自身がデザインしている。一般にカーペットのデザインというと、その絵柄を指すものとされがちだ。しかし実際は、絵柄はカーペットのデザインのごく一部に過ぎず、その核心ではないのだという。

「カーペットのデザインがおもしろいのは、縦横の糸を織ってできる規則正しい状態に、どうやって不均質さを取り入れるか。ウールという素材、糸の特徴、織機の構造まで理解しないとテクスチャーのデザインはできません。だから外部のデザイナーを起用して、うまくいくとは限らない。他社で有名なデザイナーが手がけたカーペットも、ほとんどがグラフィックのデザインになっています。たとえテキスタイルデザイナーを名乗っていても、織物の構造まで理解して、つくりたいものがどうすればつくれるかわかっているデザイナーばかりではないと思います」

それでも堀田さんは、堀田カーペットにとって外部のデザイナーが必要なフェイズに入りつつあると感じてもいる。

「僕の力だけでは限界があるからです。ものづくりの根本を知ってもらい、機能もふまえた上で、これしかないという『解』に辿り着きたい。デザインを拡張したいけれど、解の幅は狭い。すごく難しいことをやろうとしています」

出荷前の最終チェックまで気を抜くことはない。
住宅のほかにホテルなどへの納品も多いので、倉庫には大量のカーペットが積み上がっている。

堀田さんはウェブサイトでの情報発信にも力を入れている。敷き込みのカーペットを選ぶのは、多くの人にとって一生に1度あるかないかのイベント。だから選び方、買い方、使い方についての情報をできるだけ提供したいと、彼は考えている。

「ディクショナリーというページをつくって、施工からメンテナンスまで月1、2本のペースで更新しています。ウールのカーペットはもともと汚れがつきにくく、きちんと対処すればあまり目立たなくなります。ただし完璧にきれいになるわけではない。そういうところも正直に伝えています」

またカーペットがある暮らしの快適さをテーマにしたカーペット・ライフというページも印象的だ。建築の竣工写真のように無駄なく整った写真ではなく、そこに住む人とカーペットとの生活感のある関係性が微笑ましい。

「子どもと一緒に床でおもちゃで遊んだり、裸足で暮らしたりするのは、木のフローリングではやりにくい。僕らはカーペットを売ってはいるけど、それ以上に暮らしを売っている感覚があるんです」と堀田さん。カーペット敷きの床なら体を心地よく受け止めてくれるし、寝転んで本を読むのも、そのまま居眠りするのも自由。天然のウールの自然な温もりは四季を通じて心地よい。カーペットは、プライベートな空間にふさわしいリラックスしたライフスタイルを実現してくれるのだ。

2017年から堀田カーペットの代表を務める堀田将矢さん。後ろの筒には今までに試作したカーペットが残してある。

堀田さんは2015年に、夫妻と3人の子どもが暮らす自邸「カーペットの家」を建てた。この家の第一の特徴は、ほとんどの床に自社製品のカーペットを敷き詰めたこと。玄関で靴を脱いだ先には、ずっとカーペットが広がっている。リビングスペースや寝室はもちろん、階段、ダイニング、キッチン、バスルームの脱衣場まですべてカーペット。8年前に家が完成したとき、子どもたちの年齢は0歳、2歳、4歳だった。カーペットを汚すのは日常茶飯事だったが、驚くほどきれいに保たれている。

「カレーやミートソースをこぼすこともあったから汚れてはいるんですが、きちんと掃除すれば目立ちません。またキッチンの床も当初はタイルの予定でしたが、最終的にリビングと同じカーペットにしました。唐揚げなど揚げ物もよくつくるし、食材を落とすこともあるけれど、意外と問題ないですね」

ウールは他の繊維に比べると、汚れがつきにくく落ちやすい性質がある。食べ物などの目立つ汚れは、できるだけ早く水で湿らせて、布で叩くのが望ましい。堀田カーペットでは、すすぎが不要で素材を傷めにくいクリーナーも開発して販売を始めている。また日常的な掃除のコツは、回転式ヘッドを内蔵した掃除機を定期的にしっかりかけること。カーペットの表面の「遊び毛」を吸い込むことで、そこについた汚れも一緒になくなる。木の表面にカンナをかけるような効果があるのだ。

堀田さんの自宅では、玄関からカーペットのある暮らしが始まる。
手前がリビングルーム、奥はバスルームに通じる洗面所。素材の吸湿性が高いので、ウールのカーペットには結露を防ぐ効果もある。
キッチンの周囲もすべてカーペットにしたが、思った以上に支障はないという。

カーペットの上で過ごす前提で、室内のすべてがしつらえられている「カーペットの家」。ソファは低めのものを選び、座ったときの視点から屋外が眺められる窓もつくった。細かい点では、明かりなどのスイッチも座りながら押せるように通常の住宅よりも30cmほど低い位置につけている。子どもが宿題をする時間が増えたのでダイニングテーブルと椅子をそろえたが、食事や団欒(だんらん)の時間はローテーブルで過ごすことが多いという。

カーペットの触感は、素足でも、靴下越しでも、ほどよく柔らかくて心地よい。これはカーペットの品質に加えて、施工時にフェルトグリッパー工法を採用し、ウレタン圧縮材のハイクッションを下地として用いているのも一因だ。現在はカーペットを施工する住宅が減ったこともあり、ノウハウが十分に共有されていないらしい。こうした情報を、堀田カーペットではYouTubeなどを利用してシェアしている。

以前はインテリアにまったく興味がなかったという堀田さんだが、この住まいにはこだわりがあふれている。
カーペットに座ったときの視点から外が見えるように、低い位置に設えた窓。

「僕らのようなカーペットをつくる会社は、ビジネス書なら『撤退』って判断するでしょうね(笑)。しかし、こんなにいい職人がいて、そのカーペットがある暮らしがこんなにいいものだと知っている以上、この仕事をする意味がある。それに対して『いいね』と言ってもらえるのは何にも代えがたい。カーペットのある暮らしは、未来に残す価値があると思うんです」

堀田さんの言葉からは、彼が自分の会社のものづくりを心の底から愛していることが伝わってくる。羊毛の仕入れから、1本の糸に始まる独自のデザイン、ウィルトン織機でカーペットをつくる一連の作業、そして製品の価値や魅力を的確に発信する広報活動。すべてのプロセスが、真剣に努力すればするほどいいものがつくれるという、シンプルな信念に貫かれているようだ。その信念に適ったものこそが、私たちの暮らしの本質を高めてくれる。

profile

堀田カーペット

1962年、大阪府和泉市で創業。以来、イギリス発祥のウィルトン織機を使ったウールカーペットを一貫してつくり続けてきた。代表取締役社長を務める堀田将矢さんは3代目で、メーカー勤務を経て2008年に堀田カーペットに入社し、2017年から現職。自社ブランドの立ち上げなどを行うとともに、カーペットの普及のための活動に力を入れている。
▶︎ https://hdc.co.jp

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