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一緒に暮らしたい、かけがえのないもの<br>Vol.5 「小嶋商店」
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一緒に暮らしたい、かけがえのないもの
Vol.5 「小嶋商店」

伝統とデザインをフュージョンさせる京提灯の楽しさ

江戸時代に照明器具として庶民の間にも広まった提灯(ちょうちん)。京都の「小嶋商店」は、その当時の製法を受け継いで少量生産を続けながら、現代のプロダクトとしてのポテンシャルを引き出している。デンマークのノーム・アーキテクツやロサンゼルスのコミューンはじめ、小嶋商店と組んで新鮮なデザインが世に出たケースも多い。伝統の世界に安住せず、積極的に変化を楽しもうとするアプローチが、次々に触発を生み出していく。

Text by Takahiro Tsuchida
Edit by Masato Kawai(BUNDLESTUDIO)
Photographs by Satoshi Nagare

提灯づくりが新しい産業だった時代から

提灯というと、現代は祭礼のためのものというイメージが強い。しかしロウソクが普及した江戸中期は、祭礼の場とは別に、持ち歩き用の照明器具としてロウソクを入れた提灯が広く使われはじめたという。夜道を照らしてくれる提灯は、とても便利なものだっただろう。街灯や懐中電灯が一般的になるまでのあいだ、提灯は実用品として日々の暮らしの中にあった。

京都の「小嶋商店」は、江戸時代中期を過ぎた寛政年間(1789〜1801年)に創業。当時の屋号は小菱屋忠兵衛で、提灯を持ち運ぶ際に必要な「道具」(提灯を吊っておくための黒塗りの持ち手)を当初はつくっていた。やがて幅広い用途の提灯を手がけ、問屋としての業務も担いながら、現在まで活動を続ける。工房で主に作業するのは10代目にあたる小嶋 諒さんの夫妻と、9代目の小嶋 護さんら4名程度。諒さんの兄の俊さんも京丹後市網野で竹割りの工程に携わっている。また小嶋兄弟の友人だった武田真哉さんが、外国との取引やマネジメント全般を担当する。

京都駅に近い住宅街の中にある小嶋商店の工房。その製品のバリエーションからは意外なほどこぢんまりした佇まいだ。
工房では約4名の職人が朝から夕方まで提灯づくりに打ち込んでいる。

約60年前の白黒写真には、現在の小嶋商店があるのと同じ場所で、直径2m以上の大型の提灯をつくる様子が写っている。即興的にこしらえた雨よけの下、箱を積み上げた足場に登った職人たちが和紙を貼りつけているところだ。この提灯は完成後、問屋を通して海外に送られたという。提灯づくりの主な素材は、竹、木、和紙、小麦粉を原料とする糊で、江戸時代から現在までほとんど同じ。伝統的な日用品のなかでも、ここまで製造工程が変わらないものは珍しいだろう。

昭和30年代に大型の提灯をつくっている様子。右端が小嶋商店の7代目、左上が8代目。

「小嶋商店では、この工房で竹割り以外のすべての工程を行っています。国内や海外への発送もしますし、直径240cmの大きな提灯もここでつくって運び出します」と武田さん。商社の仕事で長くドイツに駐在していた彼は、2018年に小嶋商店に転職して、特に海外とのプロジェクトを進めるうえで大きな役割を果たすようになった。

「小嶋兄弟とはずっと仲がよくて、その仕事の幅を広げるにあたって一緒にやろうということになったんです。小嶋家の雰囲気が好きというか、人柄に惹きつけられました」

左から、10代目の小嶋 諒さん、9代目の小嶋 護さん、マネジメント担当の武田真哉さん。Tシャツは「AUSSIE SUNDAY」とコラボレーションしたオリジナル。

武田さんが合流してから力を入れたことのひとつは、インスタグラムなどの発信をバイリンガルにしたこと。小嶋商店はいわゆる営業活動はせず、ある仕事の評判が次の仕事につながって活動の幅を広げてきた。つくったものが人目に触れれば、国内外を問わず反響が生まれる。たとえば2020年開業のエースホテル京都の仕事もそのようにして始まった。そこでは160室の客室の明かりを手がけたほか、メインダイニングの大提灯を製作した。

「インテリアをデザインしたコミューンのメンバーがこの工房に来て打ち合わせをしました。大型の提灯は、直径210cmの提灯の中に150cmの提灯を入れ、外の提灯を半面貼り(半分だけに和紙を貼る独自の技法)にして、中の提灯を見せています」と武田さん。こうした試みも、伝統の技法を身につけているからこそ可能になる。

木型に竹製の円環状の骨をセットした状態。このあとに紙貼りの工程へと進む。

デンマークのノーム・アーキテクツとのプロジェクトも、小嶋商店の人々にとって忘れられないものになった。やりとりが始まったのは2020年で、新型コロナのパンデミックによりあらゆるイベントが中止になった時期。イベントのために特注でつくる提灯も多い小嶋商店は、「すがるような気持ち」で新しい提灯づくりに挑んだという。

職人としても作業を行う武田さん。作業に加わることは、ものづくりの魅力を伝えるのに役立つという。
壁に立てかけた木型。大きさや形状は豊富で100~200種類があり、特別なデザインの場合は新たに製作する。
木型をセットする台座。こうしたパーツも昔ながらに自然素材を用いている。
太陽、星、月という光のシンボルをモチーフにした小嶋商店のロゴマーク。

「大きなイベントがなくなって本当に暇だった時期、ちょうどノームから連絡があったんです。その後、ノームのデザイナーのフレデリックとオンラインで打ち合わせしました。すごく熱意をもっているうえに、小嶋商店が大事にしている歴史や伝統を理解してくれた。やりとりもとても細かくて、とんとん拍子で進んでいきました」と武田さんは話す。

ノーム・アーキテクツの照明がもたらしたもの

このときにノーム・アーキテクツが小嶋商店に依頼した照明器具は、カリモク家具も加わって3者が共同で開発し、円錐型のペンダントライトとして完成した。典型的な提灯のフォルムとは異なるが、竹と和紙による構造は提灯そのもので、平らに畳むこともできる。下面はマグネットを使って丸い和紙をセットし、光を優しく拡散するようにできている。

ノーム・アーキテクツがデザインしたペンダントライトが設置された「AZABU RESIDENCE」のリビングルーム。Photo: Tomooki Kengaku

「三角の提灯なんて僕らは考えたことがなかったけど、最初にアイデアを見てこれはおもしろいと思いました。技術的にも問題はなく、カリモクさんも僕らの考えをすぐに理解して対応してくれた。とても楽しい案件になりました」と小嶋 諒さん。この照明は、ノーム・アーキテクツがカリモク家具や建築家の芦沢啓治と進めるカリモクケーススタディの物件「アーキペラゴハウス」や「AZABU RESIDENCE」などに使われ、多くの国際的なメディアで紹介された。発表から約2年が経つが、今も問い合わせが来るという。

竹の輪に力を加えて真円に近づけるための「骨ため」という工程。輪がゆがんでいると提灯の形もゆがんでしまう。
提灯の独特の曲線美は、竹の輪の直径の変化によってもたらされる。「骨ため」を経た輪は、提灯1点ごとにセットにしておく。

ノーム・アーキテクツによる照明が、今までの小嶋商店の活動に影響を与えたもうひとつのポイント。それは、継続して販売されるアイテムだということだ。

「海外とのコラボレーションがだんだん増えていますが、開発に時間がかかっても単発が多く、1回つくってそれでおしまいになってしまうこともある。ノームとの仕事は、そこが大きな違いでした」と武田さん。室内向けの照明には、小嶋商店としてこれからいっそう力を入れていきたいという。小嶋 諒さんは、こう話す。

「提灯は、元々は生活の必需品だったものの、やがて必要がなくなりました。一時は京都にたくさんあった提灯の工房が今は数軒しかありません。アートに向かうやり方もいいのですが、僕らは室内照明にいきたい。新しい提灯の使い方を、なんとか自分たちで探したいんです」

木型を台座にはめていく「型組み」という工程。
木型の外側には溝が彫ってあり、そこに竹の輪をセットしていく「骨かけ」。
「骨かけ」を終えた提灯には、この状態ならではの構造美がある。

提灯づくりは日本各地で行われてきたが、京提灯の特徴は頑丈で長く使えることだ。だからこそ一時的なデコレーションよりも、室内照明に向いている。その高い強度は、提灯の骨組みの構造に理由がある。一般的な提灯は、断面が丸い1本の竹ヒゴを、螺旋状に巻きつけるように提灯の骨にして、その上に和紙を貼る。それに対して京提灯は、丈夫な皮を残した四角い竹の細棒をまず円形に加工。その輪を木型に並べるようにして提灯の形をつくり、さらに糸でまつってから和紙を貼っていく。ひとつずつわずかに直径の違う竹の輪をつくる作業をはじめ、手間と時間はかかるが、それだけのメリットがあるのだ。

提灯の縦方向に糸を張っていく「糸つり」という工程。骨を固定して強度を高める効果がある。
「糸つり」では、指先と専用の道具を使い、骨1本ごとに糸を巻きつけていく。
京提灯の竹の骨は皮が残してあるので一面が青く見える。通常の竹ヒゴと異なり、皮があるほうが強度が高い。

野生の竹を均一に割いていく「竹割り」に始まり、その竹で円環をつくる「骨巻き」、円環を真円に近づける「骨ため」、木型に輪を並べていく「骨かけ」、骨を1本ずつ糸でまつる「糸つり」などの工程を経て、小嶋諒さんが主に行うのは「紙貼り」。提灯のサイズに合わせた和紙を、糊で骨組みに貼っていく。その後、必要に応じて「絵付け」をしたり、持ち手をつける「道具打ち」をすることもある。ほぼ10工程に及ぶ一連の作業で最も難しいのは何か、諒さんに尋ねた。

「それぞれの工程で、みんな自分が担当する作業がいちばん難しいと言うんです(笑)。また全部の工程がつながっていて、竹割りが悪かったら次の工程でゆがみが出るし、それぞれに難しさがあります。ただ親父がやっている絵付けは、替えが利かないから大変でしょうね」

「紙貼り」は基本的に諒さんの仕事。その精度が出来栄えを大きく左右する。
小麦粉を原料とする糊を使用。
和紙の貼り方は、提灯の大きさや形状によって異なる。
骨組みに貼った和紙の余計な部分をカットしていく。

絵付けの難しさは、提灯を吊るしたときの絵や文字の見え方にも関係している。というのも、提灯は下から見上げる場所に吊るすことが多いので、その状態で上下のバランスがちょうどよく見えるように形状が工夫されている。視点から近い下部を小さく、視点から遠い上部を大きめにすることで、最終的に整って見えるのだ。描かれる文様や文字も同様のバランスをふまえなければならない。「どうすればきれいに描けるかは親父の経験でしかない。吊る位置によって絵や文字の見え方が変わるので、現場を見に行くこともあります」と諒さんは話す。

飾り気のない素朴さをそなえる、絵付けをする前の状態の提灯。

一家の中でものづくりが行われる小嶋商店では、その中で生じる課題が当たり前のように共有され、解決が図られていく。ひとりひとりの息が合った様子が、言葉の端々からも伝わってくる。武田さんのような人材が、自然に惹きつけられてその輪に加わったことも納得できる。

こうして伝統の延長線上で新しいものづくりに取り組むことで、小嶋商店の未来は自然に拓かれていくのだろう。

予想もつかなかった現在、でも楽しんでいきたい

それにしても、小嶋商店のどんなところが、今あらためて多くのデザイナーや建築家の心を捉えているのだろうか。武田さんは話す。

「進行中のニューヨークの相手の仕事では、小嶋商店を取材した記者がネットで発信していたのを見て、ぜひ一緒にやりたいと思ってくれたそうです。しかしすべての工程が手仕事だとは彼らも知らなくて、最初は納期もコストも全然合いませんでした。それでも納期やコストを調整し、何も隠さずオープンに、誠実に対応することで、受注できることになりました」

木型を取り外して上下部分を整え、完成が近づいていく。
折り畳んだ状態で発送できるのは、提灯のメリットでもある。

今年、海外の取引先との仕事は、すべての仕事の半分以上を占めることになりそうだという。しかし、成功したら規模を大きくするのが当然とされるなか、ものづくりのクオリティだけでなく、その進め方や規模感も重視するところに、小嶋商店らしさがある。

「僕は今34歳で、職人としては若いほう。40歳になる前に京提灯を世界に浸透させたいという気持ちがあります。これは無理かなという発注があっても、みんなチャレンジャーなので、がんばろうということになる」と小嶋 諒さん。彼が小嶋商店で働きはじめた8年前には予想もつかなかったことが次々に起きているが、あまり深く考えすぎず、楽しんで仕事をしていきたいという。

提灯づくりの光景は、作業中に着ているTシャツを別にすれば、江戸時代も現在も大きな変化はない。

人工的な素材にも機械の力にも頼らずに、竹、木、紙などを使って手仕事でものづくりを行う小嶋商店。その姿勢はあくまで自然体だが、職人らしい気概と真っ当さが随所に息づく。ふと江戸時代の小嶋商店の様子も、こんなふうだったのではと思わずにいられない。昔の職人たちも、伝統にただ固執するよりは、未来を夢見ながら創造を楽しんでいただろう。東洋と西洋の違いを超えて、暮らしの本質を高めるものは、こんな場所から生まれていくに違いない。

profile

小嶋商店

寛政年間、小菱屋忠兵衛として創業。以来、一貫して提灯づくりに携わり続ける。京都四條南座の大提灯や、国内外の高級ブランドとのコラボレーションをはじめ、多様な提灯を製作。また海外の展覧会への出展も行う。2021年、小嶋 諒さんによるセカンドブランド「JINAN」スタート。
▶︎ https://kojima-shouten.jp

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