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ブドウ農家の個性を丸ごと醸す、河口湖エリア初のワイナリーへ
Inspiration from Travel

ブドウ農家の個性を丸ごと醸す、河口湖エリア初のワイナリーへ

河口湖エリア初のワイナリーづくりに挑戦する「7c|seven cedars winery」を訪ねて

週末ふと、都会を離れて大自然に癒やされ、その土地の美味を訪ねる旅に出たくなる人は多いだろう。東京からのドライブにちょうどいい距離の富士山の麓・富士河口湖町は、そんな気分を存分に満たしてくれるデスティネーションだ。雄大な富士山の麓には清らかな水を湛えた湖、そのまわりには鹿や野鳥が住む森が広がり、豊かな湯量の温泉も湧き出る。一方昔から名門のゴルフ場や別荘地が点在し、自然の中に洗練の暮らしがバランスよく混じり合う。そんな河口湖エリアに、また一つ注目のスポットが誕生した。その場所とは女性醸造家・鷹野ひろ子さんが中心となって始動した「7c|seven cedars winery」だ。今まで、誰も挑戦してこなかった、河口湖初となるワイナリーが最初のワインをリリースしたと聞き、一路河口湖へ旅に出た。

Text by Misa Yamaji
Photographs by Satoshi Nagare
「7c|seven cedars winery」の前には、自社のブドウ畑が広がる。

河口湖に誕生した、未来につながるマイクロワイナリー

東京から中央高速道路に乗り、クルマを飛ばすこと2時間。高速を降りると、間近に霊峰・富士山の姿が見えてきた。さらに河口湖方面にクルマを走らせ湖畔の北側に向かう。河口湖大橋を渡って、国道をしばらく行くと2022年6月にオープンした河口湖の新しい商業施設「旅の駅 kawaguchiko base」が現れた。その隣、ちょっと奥まったところに“7c”とサインを掲げた建物がひっそりと立っている。

ここが、今日の目的地「7c|seven cedars winery」だ。“七本杉”というワイナリーの名前のとおり、杉を基調にしてデザインされた建物はまっすぐな木目が美しく、温かみのある雰囲気を生み出している。その親しみがありながらも、モダンな佇まいは海外のワイナリーのようだ。

この日は、記念すべきファーストヴィンテージ「デラウェア&ジーガレーベ スパークリング2022」のリリースを祝う、ガーデンパーティが開かれていた。早速その輪に入り、リリースされたボトルが置かれているテーブルに向かう。

 そこには、金の王冠を誇らしげに被り、黒のモダンなエチケットをまとった緑のボトルがスクッと立っていた。グラスに注がれたスパークリングワインは、若々しい細かな泡を静かに立ち上らせながら、薄い麦わら色の液体をゆらめかせている。生まれたてのワインを一口飲めば、柔らかな酸の中に青リンゴのようなチャーミングな香りが鼻腔をくすぐった。

 主張しすぎない控えめさを持ちながら、調和が取れた味わい。おいしい……。思わず声が漏れ出てしまう。

 しかし、だ。ふと、なぜ河口湖でワインなのか、と疑問が頭に浮かんだ。山梨県は、国内で最初のワイン醸造を手がけた歴史を持つ国産ワインを代表する産地だ。けれど、ほとんどのワイナリーは、ブドウ畑がある勝沼を中心とした甲府盆地に集中している。ブドウを栽培するのに適するのは、降雨量が少なく、日照時間も長くかつ昼夜の寒暖差が大きいと一般的に言われているが、標高が高く冷涼な河口湖はその条件には合わないように思う。

なぜ、ここにワイナリーをつくろうと思ったのだろうか。そんなことを思い巡らせていると、「ようこそいらっしゃいました」と一人の男性が声をかけてくれた。この人物こそ、醸造家の鷹野ひろ子さん、グラフィックデザイナーの川上シュンさんとともにワイナリーを生み出した、オーナーの伴 一訓(ばん かずのり)さんだった。

ファーストヴィンテージの「デラウェア&ジーガレーベ スパークリング2022」オープン価格

早速、スパークリングの素晴らしい味わいについての感想と、なぜ、河口湖でワイナリーを?という疑問を率直に伝えたところ、伴さんは笑いながら、答えてくれた。

「実は、隣の“旅の駅”をつくるなかで降ってきたアイデアだったんです。もともと私はワインが大好きでね。旅の駅で山梨県産のワインを集めた売り場を目玉にしようと思い、その相談をお世話になっている酒販店の方にしたら、“それなら自分たちでワイナリーをつくったら?”と思いもかけない答えが返ってきまして。その言葉を聞いて、やってみようと思ったわけです」。このエリアの耕作放棄地でブドウを栽培し、ワインを製造し、販売まですれば、地域活性化にもなるし、観光客にも楽しんでもらえる。未来につながる新しい産業になる、そう確信したのだという。

しかし、ワイナリーをつくるということはそんなに簡単なことではないはずだ。しかも、伴さん自身は最近まで産業ロボットをつくる会社に勤めていて、父親の不動産関連の地域開発の事業に携わるのは“旅の駅”が初めてだったというから驚く。もちろんワイナリーなどつくったこともなかった。

けれど、そう心に決めたら不思議な縁が次々とつながっていく。キーマンとなる醸造家を探しているなかで、もともと知り合いだった醸造家の鷹野ひろ子さんに知人を通してダメ元で新ワイナリー立ち上げの相談をしてみたところ、なんと、ちょうど前職のワイナリーに退職を申し出て次のステップへ進もうとしていたときだった。そんな運命的なタイミングで相談を持ちかけた鷹野さんに、ぜひ一緒にワイナリーをやろうと情熱をもってプレゼンし、鷹野さんというこれ以上ない素晴らしい醸造家がともに歩んでくれることが決まった。

加えてこれも人との縁のつながりから、グラフィックデザイナーの川上シュンさんがブランディングとデザイン監修に参入。構想してわずか半年もたたずに、元エンジニア、醸造家、デザイナーという異色の「7c|seven cedars winery」チームが結成され、2022年開業に向けて始動したのだ。

左から、オーナーの伴 一訓さん、醸造家の鷹野ひろ子さん、グラフィックデザイナーの川上シュンさん。

いまだかつて誰も挑戦したことのない、河口湖初のワイナリーは、「7c|seven cedars winery」と名付けられた。由来は、ワイナリーからクルマで数分の「河口浅間神社」の天然記念物・七本杉から。「河口浅間神社」は貞観7年(865年)に富士山の噴火を鎮めるために建てられた古い神社だ。境内には樹齢1200年を超える40m近い杉の大木の群生があり、今でも空に向かってまっすぐに立ち、大地に根を張っている。

河口浅間神社。天然記念物の七本杉は本堂の脇に並ぶ。

「『河口浅間神社』は長い間、地域の人々を守り、親しまれてきたお社。その歴史とともに根をしっかりと張る七本杉と、地域に親しまれ育っていく小さなワイナリーのイメージが自然に重なりました。7c(=シー)という発音は七つの海という意味にも捉えられるし、世界に向けたユニバーサルな名前、デザインとして非常にしっくりきます」とブランディングを担当した川上さんは話す。そして裏話ではあるけれど、伴さんが浅間神社の建立に関わった神官の末裔だと伺って、このワイナリーと土地との縁を非常に強く感じたのだそうだ。

 ボトルのエチケットには7cというロゴとともに、杉の樹木を思わせる7本の線、その下に河口湖側から望む柔らかい富士山のシルエットがデザインされている。テロワールをコンテンポラリーなデザインで包み込んだ斬新なエチケットが、新しい挑戦への高らかなる宣誓にも感じられるのは、気のせいだろうか。

ブドウ栽培者一人一人の個性を、丸ごとワインに映したい

薄い麦わら色に輝く「デラウェア&ジーガレーベ スパークリング2022」から若々しい細かな泡が立ち上る。

そんな新しい挑戦となるワイナリーで、どんなワインをつくるのか。その青写真を描くのは、醸造家の鷹野さんが担当した。

まっさらな白紙の状態から、骨子を考えていくのは、刺激的で楽しくもあるが、重圧もかかる作業だったのでは? 鷹野さんにそう聞くと、方向性は、自分が日々仕事をしていた情景から自然と決まったと話してくれた。山梨のワイナリーをワイナリーたらしめているのは、美しいブドウ畑だ。この美しい風景をつくり出すテロワールと栽培者こそが、山梨のワインを支えている。そう、常日頃感じていた鷹野さんは、新しい土地でのテロワールの表現に挑戦するとともに、県内のブドウ栽培者に光を当てたワインづくりをしたいと素直に感じたという。

まず、最初に取りかかったのは、河口湖エリアでのワイン用ブドウ栽培。河口湖エリアはもともと果樹には向かない気候と土壌とされていたが、近年の温暖化により気候も変わったことで可能性は大いにあると判断。

「かつて水田だった遊休農地を多くの協力者の手を借りて開墾。天地返しを行い、水捌けをよくした3つの圃場(ほじょう)をつくり、シャルドネ、ソーヴィニヨンブラン、プティマンサン、ケルナー、メルロー、プティヴェルド、ピノ・ノワール……いろいろと植えました。今は正直どのようにブドウ品種が淘汰されていくのかわからないので、手探り状態です。それに氷点下が続く冬の寒さはまだまだ未知数。一苗ごと冬を越せるように、藁苞(わらづと)で包んで冬越しの準備をしていますが、ちゃんと育つか心配で、本当に子どものようですね」と鷹野さんは笑う。

ワイナリーに集められたブドウ。収穫前には成分分析を行い、適切な収穫時期を見極める。栽培者との密なコミュニケーションも重要だ。

そして次に進めたのが、日頃からお付き合いのある山梨県のブドウ栽培者たちへの訪問だ。それは、彼らの個性をそのまま表現したワインをつくりたいと考えたからだ。山梨のワイン用ブドウ栽培者のなかには、安価なワイン用ブドウより採算の高い食用ブドウに切り替える人も多いという。そんな現状のなか、もっと生産者に光を当て、その人の個性がわかるようなワインがつくれたら、ワイン用ブドウにもやりがいを感じてもらえるのではないか、そんな思いを強く持つようになった。

「栽培者の方々のブドウを思い浮かべると、“あのブドウはこう仕込んだらいいな”とか“あのブドウとあのブドウを合わせたらいいな”と自然と思いつくんです。大きなロットでのワインづくりではそうした一人一人の個性を出すのは難しい。けれど小規模ワイナリーであれば可能だし、その個性を生み出すことが強みになります。栽培者の名前を表に出して、一緒に成長していけるようなワイナリーにしたいと思いました」(鷹野さん)

小さいスペースを効率よく使い、ブドウをストレスなく移動できるグラビティーフローシステムと同様の効果を出せるリフト方式を採用。

幾度となく現地まで足を運んだ結果、協力を快諾してくれたブドウ栽培者は13軒にもなった。“14軒目の農家”である自社のブドウも含めて、同じ品種でも栽培者ごとに異なる味わいや個性を表現するために、醸造所の設備にも工夫を凝らした。

鷹野さんが実際に醸造所を案内しながら、その説明をしてくれることになった。まず、目に入ったのは、栽培者ごとにブドウを発酵させるための小さな容量のタンク。これはその数量などを見越して数多く揃え、きめ細かく設置しているのだそう。さらに、そのタンクや圧搾機にストレスなくブドウを移動できる、オリジナルのリフトが特徴なのだと説明してくれた。

このタンクではブドウ栽培者・斉藤さんの甲州が発酵中。

発酵は、栽培者ごとに分けてステンレスタンクや木樽で行う。この後、樽熟するものは樽に、そのまま熟成するものは澱ごとタンクに。また、ワインによってはアッサンブラージュして製品となっていく。「今は8種類のブドウを取り扱っています。これ、といった醸造のスタイルというのは決めていません。しいていえば果実味を残すこと。樽に入れるものは、樽香を強くつけすぎないように気をつけていますね。果実の香りと樽の香りがちょうど半々になるように狙ってつくっています」とのこと。どの製品にも一貫して言えるのは、ブドウの個性を消さないように非常に神経を使って醸しているということだ。

樽熟されて眠るワイン。リリースは今秋以降を予定。
ラベルには、使われたブドウの種類と栽培者の名前、その比率が記載されている。

醸造所を案内してくれた後、ブドウ栽培者の名前が刻まれたワインのボトルを愛おしそうに持つ鷹野さんに、今後どんなワインをつくりたいかを聞いてみた。

すると、「毎年のブドウ品質を見ながら、栽培者がキラリと光るようなワインをつくるだけです」と一言。その優しい表情のなかには、揺るぎない凜とした強さが垣間見えた。そしてそれは、最初に飲んだ、ブドウの個性を思わせる香り、クリーンな味わいのスパークリングワインの印象に重なった。

ワイナリーの隣にある「旅の駅 kawaguchiko base」。

さて、ワイナリーの見学を終え、3人に別れを告げて隣の「旅の駅 kawaguchiko base」へ向かってみた。

ここでは、地場の生産者の野菜やチーズ、シャルキュトリーなどに加え、7cのワインを買うことができるのだ。

2023年1月現在、7c の醸造所ではワインが買えないため、買いたい人はこの旅の駅で購入するのが確実だ。ちなみに、2023年の春にはワイナリーの隣にショップができ、順次完成するワインも販売開始予定。夏には宿泊施設もできるそうだ。醸造所の見学は事前予約が必要だが、今後は音楽とワインを楽しむ会や、シェフを呼んでのランチ会など、交流できる場を定期的に開催するなどの計画もあるという。

7cのワインは一番奥のワインコーナーに並んでいる。

お土産のワインを買った後、無性に富士山を眺めたくなって大石公園に向かった。富士山はその頂上を雲で隠しながらも、ゆったりと迎えてくれた。

静かな湖面を眺めながら、連綿と続くブドウ畑、湖、そして富士山を想像してみる。何年後か、何十年後かわからないけれど、そんな未来が訪れたら素敵な光景になるだろう。

河口湖初のワイナリーはまだ始動したばかり。今度はブドウが実る秋に訪れてみようか。

誰も通ったことのない道に挑戦する人々の情熱が変えていく景色を、旅人として定期的に感じてみたいと思った。

大石公園から富士山を望む。なだらかな稜線は河口湖から見る富士山の特徴だ。

Spot information

7c|seven cedars winery
▶︎https://www.7cwinery.com/
*醸造所の見学は事前予約制。イベントなどはHPを参照。

河口湖 旅の駅
▶︎https://www.kawaguchikobase.com/

河口浅間神社
▶︎https://asamajinja.or.jp/

大石公園
▶︎http://www.fkchannel.jp/naturelivingcenter/oishipark/

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