私道の坂道を上った高台に、ひっそりと立つヴィンテージマンション
アメリカをはじめ海外で暮らしていた期間が長い五宝さんご家族。夫はスタイリッシュなデザインが話題の電動車椅子など近距離モビリティを開発する「WHILL」のCFOで、アメリカから日本に本社が移転したことをきっかけに、東京都心に住まいを購入することを決めた。
以前から住宅に興味があり、趣味のようにいろいろな物件を見ることを楽しんでいたが、転勤が多くずっと賃貸住まいで、家を購入するのは初めての経験。海外の広い住まいに慣れていたこともあり、都心エリアで100㎡以上の面積があり、駅から近い立地を希望して新居を探していた。一時は新築のタワーマンションや新築戸建ても検討したが、都心から離れてしまうことや駅から遠くなってしまうことから、駅近の中古マンションを中心に物件をリサーチして、目黒駅から徒歩4分、115㎡のこの住まいと出合った。
「駅から家まで歩いてきたときの雰囲気、建物や家の中に入ったときの佇まいが気に入ったんです。このエリアは都心でありながら、駅前の大通りから1本入るととても静かな住宅街になります。この物件はさらに私道を入った先の奥まった高台にひっそりと立ち、敷地は樹木に囲まれ、とても恵まれた環境だと感じました」
そう話す夫の言葉通り、周辺は古くから高級住宅街として知られているエリアで、風格のある邸宅や高級マンションが立ち並び、大使館なども点在する。築36年のこのマンションも街並みを構成する要素のひとつ。私道の坂道はエントランスへと誘うアプローチのような趣で、タイル張りのすっきりとした外観は欧米の建物のようなモダンな雰囲気だ。中に入ると高級ホテルを思わせる重厚感のあるエントランスホールや内廊下が迎えてくれる。内廊下から見える日本庭園風の中庭もあり、竣工当時は日本に住む外国人をターゲットにつくられたことを想像させる。
既存の開放感ある間取りを活かしたリノベーションを
この物件は7年前に内装をフルリノベーションされており、そのまま住めるほど良好な状態で販売されていた。樹木を望むバルコニーに面して、約28帖のワンルーム状のLDKを配した間取りで、ペニンシュラ型のオープンキッチンを中心とした空間。キッチンの側面の壁や天板の小口に木目が美しい材が使われ、壁面にはフラットにデザインされた造作収納もつくり付けられていた。
夫妻は、このオープンキッチンと十分な広さのリビングダイニングを見たとき、使えるところはそのまま使い、必要な部分だけリノベーションをすることで、理想的な暮らしができると考えたという。
「キッチンには、食器はもちろんオーブンレンジや炊飯器などの家電、ゴミ箱まで収納する場所が設けられていて、とても使いやすく気に入っています。キッチンで家事をしながら、リビングの様子が見渡せるのもいいですね」(妻)
「LDKの一角にワークスペースをつくれば、家族がひとつにつながった空間の中でお互いの気配を感じながら、思い思いの時間を過ごすことができるイメージが湧きました。広さと開放感をできるだけ活かすため、ワークスペースはガラスの引戸で仕切れるようにしようと思ったのです」(夫)
リモートワークが中心の夫は、日中のほとんどの時間をワークスペースで過ごす。新規に設置したガラスの引戸は、キッチンで料理をする妻やリビングでくつろぐ長女の様子など、家族の存在をほどよい距離感で伝えてくれる。リラックスしたいときには引戸を開けて開放的に使い、集中したいときには閉めるなど、気分に合わせて居心地を調整することも可能。さらに、リモート会議の際には、フェルト製の縦型防音ブラインドを閉めて、プライベート感のある空間にできるようにした。海外とのやりとりも多く、深夜にリモート会議をする際にも役立っているという。
「ワークスペースの隣の個室は主寝室、その奥の個室は長女の部屋として使っています。一番奥の長女の部屋は音の影響はなく、深夜にリモート会議をしていても睡眠を妨げることがなく安心です。隣の主寝室は音の影響を少なくするため、ワークスペース側の壁面に収納をつくりました。この収納のおかげでかなり防音できていると思います」(夫)
使用する素材を厳選し、最後には長女の意見を採用
リノベーションは、ワークスペースと主寝室の収納以外にも、壁・天井、床の仕上げを一新している。壁・天井は漆喰調のクロス張り、床はカーペット敷きで統一。色はベージュ寄りの白をセレクトし、明るさと温かみのある空間に仕上げている。
また、ワークスペースをつくるために新設した壁のリビング側には、外壁にも使われるセメントの風合いを活かしたパネルを張り、アクセントウォールとした。さらにスリット状の棚受けに、ダークブラウンのアクリル板をランダムに配し、フレキシブルに使えるディスプレー棚を設置した。これらの素材やパーツは、ショップの内装に使われることも多いものだという。
「棚のデザインは自分で図面を描いて、インターネットで素材を探して、イメージ通りのものができました。壁や床の素材は40種類ほど候補をピックアップ。家やインテリアが好きだから、やり始めると熱中して、時間がある限りこだわってしまいました」(夫)
壁・天井のクロス、床のカーペット、アクリルの棚板など、妻とも意見交換しながら候補を絞った段階で、最終的な決断は長女の意見を採用したという。
「最後の決断をする段階では、いろいろ見すぎてわからなくなっているところがあり、ニュートラルな視点で判断できる長女の意見はとても貴重でした。カーペットのサンプルを床に置いて座ってみて『こっちのほうが柔らかいから』と言われてすごく納得。結果的に長女に決めてもらって正解だったと感じています。それに、後で文句も言われないですから(笑)」と楽しそうに話すご夫妻。ご家族の仲の良さとお互いの意見を尊重する関係性を物語るエピソードだ。
自分の時間を大切にしながら、家族で空間を共有
住まいの中心となるLDKに置かれている家具は、空間とコーディネートして新調したものかと思いきや、アメリカ在住時代から長年にわたり愛用しているものだという。
「カーペットの色みに合わせてソファのファブリックを明るめのグレーに張り替えたぐらい。ソファも買い替えることを検討しましたが、座面の低さが気に入っていて、同じようなものがなかなかないんです。リビングのブルーグレーの棚はアメリカのIKEAで購入したもので、今は廃番になっていて手に入らない。今回、初めて家を購入したから、家具もこだわりたいと思っているのですが、今使っているものも厳選して購入しているからすごく気に入っていて、一度使うと長年愛用してしまうんです」と夫。
ツヤ感のあるブルーグレーの塗装がされた棚に飾られているのは、ミッドセンチュリーやスカンジナビアンを思わせるヴィンテージのガラスのフラワーベースなど、夫がアンティークショップや海外出張の際に見つけてコレクションしているものだ。窓から入ってくる落ち着いた光を受けて、白を基調としたシンプルな空間に、静かに彩りを添えている。
カーペットの床は、座ったり寝転んだりするにも心地よく、足触りが良いため冬も裸足でいることが多いという。家族揃ってリラックスした時間を過ごしていることが伝わってくる。
「この住まいで暮らし始めてから、景観や居心地の良いLDKで家族がそれぞれに自分らしく過ごしながら、空間を共有できる贅沢を感じています。プライベートな空間もしっかり確保されていることで、家族で過ごす時間がより充実したものになっているのかもしれませんね」
リモートワークの合間にひと息入れるときも、すぐ近くに家族の気配があることで安心感があると話す夫。それぞれに自分の時間を大切にしながら共に過ごす豊かさを、ご家族はこの住まいで育んでいる。