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遠山正道×鈴木芳雄 連載「今日もアートの話をしよう」vol.30 落合陽一「[ヌル庵:騒即是寂(そうそくぜじゃく)∽寂即是騒(じゃくそくぜそう)]」〜前編
今日もアートの話をしよう

遠山正道×鈴木芳雄 連載「今日もアートの話をしよう」vol.30 落合陽一「[ヌル庵:騒即是寂(そうそくぜじゃく)∽寂即是騒(じゃくそくぜそう)]」〜前編

「感動できる! 喜びを分かち合おう!」自ら計算し、無限に蠢き、喧騒と静寂が行き交う茶室で

「Soup Stock Tokyo」を立ち上げた、実業家の遠山正道氏と、美術ジャーナリスト・編集者であり、長年雑誌『BRUTUS』で副編集長を務め、「フクヘン。」の愛称を持つ鈴木芳雄氏がアートや旅、本や生活について語る「今日もアートの話をしよう」。第30回は落合陽一氏の最新デジタルアート作品「ヌル庵:騒即是寂(そうそくぜじゃく)∽ 寂即是騒(じゃくそくぜそう)」が年初より2024年3月17日(日曜)まで公開されている麻布台ヒルズへ。メディアアーティススト、研究者、起業家とさまざまな肩書をもつ落合氏の、あらためて詳(つまび)らかとなった茶人という一面。実は2021年に裏千家茶道機関誌「淡交」の誘いで都内きっての茶の殿堂「茶道会館」で修行を重ね、同誌に“稽古録”なる連載を寄せていた。ときに私たちは今、加速をやめないテクノロジーの進捗に揉まれ、万物の速すぎる流転に目を奪われたが刹那、一炊の夢としか言いようのない人生の儚さに呆然とする状況を迎えている。しかし、落合氏は会場の巻頭文で言い放つ。「茶の湯のひとときは万物への絶え間ない想起を豊かに取り戻してくれる」。そして、「その喜びを分かち合おう! 感動できる! 今日は来てくれてありがとう!」と。デジタルアートとフレネルレンズが魅せる蠢きのなか、令和6年ならではの茶の味に感服し、騒々しくも不思議な安らぎを覚えてしまう遠山氏と鈴木氏であった。

Edit & Text by Hitori Publishing
Photographs by Sadato Ishizuka
ヌル庵が倣ったのは、千利休が手掛けたなかで唯一現存するとされる京都・大山崎の茶室「待庵(たいあん)」。国宝に認定される二畳小間の寸法そのままに、フレネルレンズと変形ミラーとスピーカーで構成。京都・宇治の老舗「堀井七茗園」の茶と福岡の菓子舗「鈴懸」の薯蕷(じょうよ)饅頭で、中へ招かれた客人をもてなす。
写真左から、鈴木芳雄さん、落合陽一さん、遠山正道さん。
会場のキッチン手前の天井には、茶室の水屋箪笥よろしく「ヌル庵」の概念の構成要素となった名著や落合氏の私物が並ぶ。「祖父が表千家の師範だったので、実家にいっぱいある」釜も。
さまざまに客人の目を楽しませる花や道具の数々は落合氏の私物や最新作。華道の立花(りっか)に見立てた作品は「コンクリに咲く花」(2019年:コンクリート、植物、 羽、 鉄/落合陽一)

––「ヌル庵:騒即是寂∽寂即是騒」。このタイトルには、コンピュータ世界の「null=何も無い」という概念を出発点としながら、騒がしさと侘び寂びが共存し征(ゆ)きつ戻りつ関係し合う、この茶室オリジナルの計算が込められている。座入りした鑑賞者=客人は茶道に触れながら、自ずと本作に込められた「万物は計算する」という計算機自然の道に導かれてゆく。公開の舞台となったのは、遠山さんが代表を務めるThe Chain Museum運営の「Gallery &Restaurant 舞台裏」。アートギャラリーの新たな存在理由を模索するこの場所で、茶の湯の本質に通ずるデジタルアートの冴え渡りが披露されるなか、数寄者にして識者たちの闊達な会話が交わされるひとときとなった。

コンピュータ世界の「null=何も無い」からアプローチした国宝の茶室をフレームとしたアートワーク

鈴木:今回は、「落合陽一 ヌル庵:騒即是寂∽寂即是騒」展にお邪魔しています。会場は麻布台ヒルズ「Gallery&Restaurant 舞台裏」。こちらは遠山さんが代表を務める「The Chain Museum」が運営されているのですが……落合さん。アーティストとして実際に展示をされてみて、率直にいかがでしたか?

落合:すっごく、いいですよ。今回の作品でいえば、キッチンの存在が面白かった。茶席の水屋として見立てられますから。キッチン併設のギャラリーなんて、海外でもなかなかないので。

遠山:やった。嬉しいなぁ。

鈴木:たしかに、茶事だけにキッチンは効いている。しかも、隣接されているガーデンスペースが庭に見立てられているんですよ。

遠山:今回の作品のモチーフは、利休の待庵で、それがここ「舞台裏」のサイズにもぴったりだったんだよね。

落合:そもそも、茶事に必要な面積って案外大きくないんですよ。庭、腰掛待合、本待合、また蹲居(つくばい)に行って、茶室に入ったらお軸、お花を見て、またそれを繰り返してと、実は狭いところをグルグルしているだけで。

鈴木:たしかに。そして、それでいて世界観は無限なんですよね。

落合:そう。だからタイトルにも「∽=無限」が入ってます。

鈴木:「ヌル」に込めた思いは?

落合:ヌル=null、つまりコンピュータの世界における「何も無い」の表記です。「空庵」とか「零庵」という茶室はけっこう例があるんですが、「ヌル」はないなと。

鈴木:そもそも、今回はどうして茶室だったのかな。

落合:いろいろありますけど、まずアートの方面から考えると「現代アート2秒しか見ない問題」。これが、やっぱり強く引っかかっていたかな。

遠山:たしかに。現代アートは、よほど目を留めようという意識がなければ通りすぎてしまうことも多い。ここだと、茶の湯的所作を通過しなきゃならないから。

落合:そうですね。座って茶を喫さなければならない。座っていればアートを見ないといけないから。そうは言っても、複数の構造にしないと飽きるだろうから、茶事体験と小さなアート作品を組み合わせた鑑賞方法に。この「舞台裏」はそういった着想が相性良し、でございました。

遠山:嬉しいなぁ……とは言いながら、現代アートの人が茶の湯を持ち込んでくるのって、正直なところけっこう大胆だとは思っていました。

落合:あ。それは私も思いますよ。

鈴木:建築家にしても現代アートの作家にしても、茶室を作っている人はいるにはいますけど、落合さんのヌル庵はかなり違った印象ですね。単にデジタルアートを持ち込んでいるから、とかそういった理由だけではない気がする……。

落合:私が裏千家茶道なんかをやっていたからですね。そして、光や音を用いて時間と空間を一体化させて、かけがえのない一瞬を表現しようとデジタルアート的にあれこれ思案していたら、茶や禅の言葉にある「即今(そっこん)」とか「茶禅一味(ちゃぜんいちみ)」そのままじゃんと。

遠山:一周まわって「茶の道」な感じ。

落合:ほんと、それなんですよ。私の場合は、形や機能や「こんな茶室があったらいい」といった、茶室をデザインコンポーネントとして捉えたアプローチから入ってないんで。「万物は計算している」という計算機自然の道、それを構成する哲学や想起を茶の湯のお作法とかルールに則って構築している。この茶室の在りようが、従来の見立ての茶室と全然違った印象という鈴木さんのご意見は、まさに、そのとおりです。

一碗の茶と動き続けるアートに込められたものは人もデジタルも自然もすべて「計算している」という概念

鈴木:あっと息を呑む瞬間がある。でも、鑑賞者として、ただ息を呑んで留まることは許されない色、光、音の止まらない蠢きがある。そしてまた、考えさせられる。まさに「騒即是寂、寂即是騒」、騒がしいけど侘びも寂びもある。タイトルそのままの茶室。

遠山:そういうわけで、オープニング以来、多くの来場者の方々の出入りも蠢きも絶えない展覧会となっています。

落合:この茶室は、自ら計算し続けている茶室です。全面をフレネルレンズのいろんな部位を切り出したパーツで覆っているから、内からも外からも、見る人の視線が動くたびに景色が蠢き続ける。お軸を置くところ自体が変形して蠢いていたり。ヌル=nullはコンピューター用語で「何も無い」。でも、数学の零(ゼロ)とは違って、全く何も生まれないという概念ではない。そこを受けて、何もないと言われつつ、何かあるはずの床の間が「何も無い」以上の蠢きを見せるということにした。仏教用語でいうところの「空即是色」。

遠山:そして、フレネルガラス越しには、NFTを素材にした映像作品が実際にヌルヌル動く。

蠢き続けるセイビ堂のLED vision を使用した作品《Re-Digitalization of Waves》シリーズ。下の写真のモルフォ蝶は、落合氏がたびたびモチーフとしてきた、角度によって違った色に見える構造色をもつ羽と擬態で知られる北南米原産の蝶。まさに計算する自然=計算機自然そのもの。《Morpho Scenery with Morpho Butterfly》2017年、ミクストメディア

鈴木:そういった掛詞というか、ダジャレも含めて、実は非常に「お茶のある」景色なんですよ。

落合:実は、そうなんです。たまたま裏千家で稽古をいただくことになった経緯もあったのですが、私は「デジタルネイチャー=計算機自然」の道と、茶の道のコンテクストは非常に相性が良いものだとも感じているんです。

遠山:デジタルネイチャーということを、いまひとつよく理解できてないんだけど、入り口のところに書いてくれた「森羅万象」がウンヌンとか、そういうことかな?

「人生は一瞬の夢のようで、同じ時間も同じ空間もまたとない」から始まる本展のステートメント。

落合:まさにそう。森羅万象に中心を持たず、質量と非質量の分け隔てない新しい自然の伸長と文化の創成こそ……。

鈴木:計算機自然の道。人間だけでなく、人間が作ったコンピュータだけでなく、自然もみんな計算してるんだってことで合っていますか?

落合:合っています。ちなみに、物体はなんでも自ら計算しています。いまここにあるライカのカメラは当たり前だし、コップひとつだってそう。

鈴木:計算されて、できたものですもんね。茶室の壁に使われてるレンズなんて関数そのもの。

落合:「万物あらゆるものは計算をしてる」であると捉え直すと、人間も動植物も、あらゆる時空間も統一的に考えられるよね、ってことなんです。これって、天動説に対して、地球だけが特別ではないと考えてみたコペルニクスの地動説と考え方がすごい似ていて。

遠山:とにかくなんだって計算してるんだ。オケラだってアメンボだって。

落合:そう、そう。

鈴木:人工知能も人間も、工業製品ひとつだって動物だって計算してる。

落合:すべてのものは入力があって、出力がある。そういう万物への絶え間ない想起を取り戻すことができる、それが今回の「ヌル庵」です。

遠山:なんだか、すごいものをウチのギャラリーで拵えられちゃってたんだな。

鈴木:茶の湯も、落合さんも、とめどなく壮大な話になっていくから(笑)。このあとは、せっかくのギャラリー&レストランですから、ワインでも飲みながら、茶室のさらなる解説と、みんなが気になる生成AIの話も落合さんにうかがいましょうか。

遠山:ウチの店は、食事もいいんですよ。

「舞台裏」の人気メニューより、ウフ手作りマヨ。
「舞台裏」の人気メニューより、いわて短角牛サーロインステーキ カフェドパリ風。

落合:知ってますよ。設営のときからいろいろといただいてましたから。アットホームだけど捻りの利いたメニュー。こういうアートギャラリーは、海外でも、ありそうでない。

鈴木:では続きは、後座ならぬ後編で。

(後編に続く)

茶室の傍らに展示されているのは受話器越しの問いかけに多言語で永遠に答え続けるAIを内包した黒電話と落合氏の近作《Phantom Resonance オブジェクト指向菩薩》2023年、ミクストメディア。

Information

展覧会タイトル:落合陽一「ヌル庵:騒即是寂∽寂即是騒」
開催期間:2024/1/13 (土・Sat) 〜 2024/3/17 (日・Sun)
入場について:
スペース内の作品は無料でもご鑑賞いただけます。
※茶室入場を含む茶会体験は、好評につき全席完売いたしましたが、キャンセルが出て再度チケット販売状態になる場合があります。
営業時間
・ギャラリー|火-日:11:00-20:00
・レストラン|水-日:11:00-15:00(Lunch)/17:00-23:00(Dinner)
 ※3月17日までレストランのランチ営業は臨時休業します
定休日
・ギャラリー|月曜日 ※月が祝日の場合は翌日休業
・レストラン|月曜日/火曜日 ※月火が祝日の場合は翌日休業
会場:Gallery & Restaurant 舞台裏
住所:〒105-0001 東京都港区虎ノ門5-8-1 麻布台ヒルズ ガーデンプラザA B1F
Google Map

▶︎https://artsticker.app/events/22112

Information

Gallery & Restaurant 舞台裏
2023年11月に麻布台ヒルズ ガーデンプラザAにオープンしたGallery & Restaurant 舞台裏はアート作品を鑑賞したあとに誰かと語り合いたくなる空間として、お酒や食事を楽しめるスペースを内包しています。ここでは作品と出会うことで芽生えた感情、もしくは混乱や困惑なども一緒にいる誰かと共有することができます。26坪という限られた空間ですが、展示スペースの裏側に回り込むとそこにはシェフのいるキッチンがあり、冷えた白ワインと気楽な前菜、本格的なメインディッシュも召し上がっていただけます。美術館に所蔵されるようなベテランのアーティストから、グローバルなマーケットで熱い視線を集める話題のアーティストまで、ときには演劇やダンスのようなパフォーマンスも企画します。

▶︎https://artsticker.app/events/16907

profile

落合陽一

メディアアーティスト。1987年生まれ、2010年ごろより作家活動を始める。境界領域における物化や変換、質量への憧憬をモチーフに作品を展開。筑波大学准教授、2025年日本国際博覧会(大阪・関西万博)テーマ事業プロデューサー。近年の展示として「おさなごころを、きみに」東京都現代美術館, 2020、「Ars Electronica」オーストリア, 2021、「晴れときどきライカ」ライカギャラリー東京•京都, 2023、「ヌルの共鳴:計算機自然における空性の相互接続」山梨・光の美術館, 2023など多数。

▶︎https://yoichiochiai.com/

profile

遠山正道

1962年東京生まれ。慶應義塾大学商学部卒業後、85年三菱商事株式会社入社。2000年三菱商事株式会社初の社内ベンチャーとして株式会社スマイルズを設立。08年2月MBOにて同社の100%株式を取得。現在、Soup Stock Tokyoのほか、ネクタイブランドgiraffe、セレクトリサイクルショップPASS THE BATON等を展開。NYや東京・青山などで絵の個展を開催するなど、アーティストとしても活動するほか、スマイルズも作家として芸術祭に参加、瀬戸内国際芸術祭2016では「檸檬ホテル」を出品した。18年クリエイティブ集団「PARTY」とともにアートの新事業The Chain Museumを設立。19年には新たなコミュニティ「新種のimmigrations」を立ち上げ、ヒルサイドテラスに「代官山のスタジオ」を設けた。

▶︎http://www.smiles.co.jp/
▶︎https://t-c-m.art/

profile

鈴木芳雄

1958年生まれ。慶應義塾大学法学部政治学科卒業。1982年、マガジンハウス入社。ポパイ、アンアン、リラックス編集部などを経て、ブルータス副編集長を約10年間務めた。担当した特集に「奈良美智、村上隆は世界言語だ!」「杉本博司を知っていますか?」「若冲を見たか?」「国宝って何?」「緊急特集 井上雄彦」など。現在は雑誌、書籍、ウェブへの美術関連記事の執筆や編集、展覧会の企画や広報を手がけている。美術を軸にした企業戦略のコンサルティングなども。共編著に『村上隆のスーパーフラット・コレクション』『光琳ART 光琳と現代美術』『チームラボって、何者?』など。明治学院大学、愛知県立芸術大学非常勤講師。

▶︎https://twitter.com/fukuhen

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