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Terry Richardsonのバットマン&ロビンのプリント。
山本憲資の「今、手元に置きたいアート」

Terry Richardsonのバットマン&ロビンのプリント。

山本憲資が、自身でリアルに購入した、今注目のアーティストの旬なアート作品を紹介。
Terry Richardsonの皮肉めいたアメリカンコミックモチーフのプリント。

この数年、日本でもギャラリーやアートフェア、アートイベントの数も増え、アートに接する機会が増えたという人も少なくない。それに伴い、自宅にもアートを飾りたい、手元に置きたいというニーズも着実に増え、日本のコンテンポラリーアートのマーケットも年々順調に拡大している。
現代アート好きとして知られる、スマホ収納サービスのサマリーポケットを展開するスタートアップ『Sumally (サマリー)』のFounder&CEOの山本憲資(けんすけ)氏も例外ではなく、昨年夏に軽井沢に拠点を移してから作品を購入する機会が増えてきたという。購入しているものは、数万〜数十万円以内のサラリーマンでも手の届く価格帯のものも多く、今後もコンスタントに買い続けたいと話す。本連載では、山本氏が購入した”手の届く”アートとアーティストとのストーリーを自身が綴っていく。第17回の今回は、Terry Richardsonのドローイングを紹介。

Text by Kensuke Yamamoto

アイロニカルかつポップなモチーフ。

第17回の今回紹介するのは、Terry Richardsonのプリントです。Terryは1965年ニューヨーク生まれの写真家で、コンタックスT2やヤシカT4などのコンパクトカメラをメインに使って、モチーフの面白さと圧倒的センスのフレーミングでラグジュアリーからストリートまで幅広いブランドのキャンペーンフォトを手掛け、2000年代には世界のファッションシーンでその名を轟かせました。

僕がTerryを初めて知ったのは、たしか2002年か03年、大学生のときにパリを旅したときでした。ナイキのスウッシュのタトゥーを彫った素足のインパクトのあるビジュアルが、大判でセレクトショップの『Colette』の店内に飾られていて、これは誰が撮った写真ですか、と聞いて教えてもらったのがこの人でした。そのプリントはそこでしか見たことがなく、もしや幻だったのかもしれないとも思うこともあるのですが、また見てみたいなと今でも思っています。

 帰国後に入手した、1999年に日本のリトルモアから出版された『Son of BOB』という写真集の中で、バットマンと相棒のロビンのコスチュームを着た2人が被写体として取り上げられています。欧米においてはファッション写真においてメイルヌードやゲイのモチーフはすでに一般的ですが、そうしたプリントを部屋に飾るのには少しハードルがあります。ただ、このバットマンとロビンのものはキスしている様子そのものも含めてどこかアイロニカルでくすっと笑ってしまう感じがあり、ああセンスがいいなぁとその写真集を手にしたときに思ったものでした。

オリジナルプリントだと何千ドルもするのでなかなかパッと手が出るものではないのですが、今回紹介するプリントは先日ebayに出品されていたのをもう少しリーズナブルなプライスで落札した流れモノのプリントで、本物かどうかは分からないですがTerryのサインも入っています。バットマンとロビンという昔から好きなモチーフだったこともあり、これはきっと何かのチャンスなのだろうと思って購入を決めたのでした。

よりポップさを強調するために、バットマン&ロビンのソフビのフィギュアにもハグをしてもらってその前に置いています。

大学生のときに入手したプリント。

『Colette』で見たスウッシュタトゥーのプリントのインパクトは脳裏に強く刻まれて、大学生のときに手に入れたプリントも気に入っています。それは、日本ではNicoleとして知られた松田光弘氏のブランド『Matsuda』のためのTerryのプリントでした。

ウィッグを付けて女性物のシャツワンピースを羽織った男性がキッチンで男性のスーツを着た女性に寄り添っているというモチーフで、このあべこべ感が妙にしっくりきて愛着を持っていてずっと部屋に飾っています。僕はゲイモチーフの写真に惹かれることはそこまでないですが、こういう何かしらの違和感にグッと来るところがあるんだなというのはこの文を書きながら改めて感じたことでした。

ユニクロのUTの2007年デビュー時のキャンペーンフォトをTerry Richardsonが手掛けていて、当時リリースされた作品がプリントされたTシャツは今でも着ていたり、他にも持っているプリントも数枚あります。

ただTerryは撮影時のセクシャルハラスメントが問題になり、2010年代後半にシーンからボイコットされてしまい、近年は名前を聞くことが以前に比べて少なくなってしまいました。優位な立場をフックにそういう振る舞いがあったとするともちろんそれは許されるべきものではないと思います。ただ、裁判沙汰にまではおそらくなってない様子をみると度を越しすぎたものではなかったのかもしれないな、とも理解しています。

現場で王様のように崇められて高額のギャラでやりたい放題で撮影できるという機会は失われてしまったのかもしれないですが、この独特のモチーフの選び方やフレーミングのセンスが失われたわけではなく、写真と倫理のバランス、難しい問題ですがそれはそれで意味のあるものとしてこれからも写真を取り続けてくれたらいいのになという気持ちもあります。

profile

山本 憲資

1981年生まれ、神戸出身。広告代理店、雑誌編集者を経て、Sumallyを設立。スマホ収納サービス『サマリーポケット』も好評を博している。アート以外にも、音楽、食、舞台、などへの興味が強く、週末には何かしらのインプットを求めて各地を飛び回る日々。「ビジネスにおいて最も重要なものは解像度であり、高解像度なインプットこそ、高解像度なアウトプットを生む」ということを信じて人生を過ごす。

サマリーポケット
▶︎https://pocket.sumally.com/

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