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ボンドの活躍より気になる? <br>洗練のインテリア――映画『007 慰めの報酬』
映画に見る傑作インテリア

ボンドの活躍より気になる?
洗練のインテリア――映画『007 慰めの報酬』

『007 慰めの報酬』——執務室からリゾートまで……世界一有名なスパイ映画に見る“多彩なインテリア”と“惹かれるシーン”

新・旧作、洋・邦画問わず、映画を“インテリアや建物目線”で観ると、いつもとは違う楽しみ方や気付きが得られるはず。無類の映画好きで知られるイラストレーター・エッセイストの斎藤融氏が「インテリアが気になる映画」を紹介する連載コラム「映画に見る傑作インテリア」。3回目は“007シリーズ”の22作目、『007 慰めの報酬』(2008年)。ダニエル・クレイグがジェームズ・ボンドを演じた2作目である。シリーズ最多の6カ国で撮影されたという多彩なロケーションと、さまざまなシーンで登場する洗練のモダンインテリアは見どころだ。

Illustrations & Text by Toru Saito

カーチェイスを経てたどり着いた、スタイリッシュなホテル。実際のロケ地は国立文化研究所だった

ダニエル・クレイグ版ジェームズ・ボンドの2作目。前作『007カジノ・ロワイヤル』の続編という形をとっているので、いきなり激しいカーチェイスの場面から始まる。ボンドの操るアストンマーティンDBSを執拗に追撃する敵対組織のアルファロメオ159。せっかくボンドが捕まえてきた悪の首魁(しゅかい)、ホワイトを味方の諜報部員の裏切りで逃してしまう。敵を追ってボリビアに来たボンドは、高級ホテル「アンデス・グランドホテル」に泊まる。

実際に撮影されたのはホテルではなく、世界遺産地域にある国立文化研究所。スイートのセットにはスタイリッシュなB&Bイタリアのソファやベッドが使われた。同社の家具は世界中で販売されているが、画面に登場するのはマックスアルト・コレクションの一部。60年代モダンデザインが際立つ。

ボンドが泊まるボリビアのアンデス・グランドホテルのスイート。イタリアのモダン家具メーカー、B&B ITALIAの洗練されたソファが使われている。
同スイートのベッドルーム。ベッドはソファと同じくB&B ITALIA製。

仕事の空間と、寛ぎの空間。モダンかつ対照的な「M」の執務室と自宅

英国諜報機関MI6の局長「M」は、手がかりになる人物を次々と殺してしまうボンドを免職にしてしまう。それにしても、Mを演じるジュディ・デンチの存在感は圧倒的だ。

Mの執務室はガラスやクロームを多用し、機能に徹したインテリアで構成されている。モダンファニチュアの見どころ満載! 対照的に自宅はクラシックモダンのインテリアで統一されたユニークな間取り。部屋の中央には大理石のバスタブが鎮座し、その左の壁にはなんと同じく大理石のマントルピースがあるではないか。激務に追われるMにとって、暖炉の火を見ながらバスタブに浸かるのが極上の癒やしタイムなのかもしれない。

英国諜報部MI6の局長「M」のオフィス。ガラスとクロームの壁面に調和したコンテンポラリーなインテリアが目を惹く。ガラスのデスクはドイツ、インタースツール社のコンファレンス・テーブル(Silver 856S)、手前は同社のコンフェレンス・アームチェア(Silver 101S)。後方にはルイスポールセンのテーブルランプが置かれている。
Mの自宅。部屋の中央に大理石のバスタブというのが独創的。左の壁には同じく大理石のマントルピースが設えられ、全体的にクラシックモダンでセンスもよく高級感がある。

ボンドの赴く先の定番、リゾート、ファッション、美女。そしてインテリアの名作も

さて、活動を封じられて窮したボンドは、引退生活を楽しんでいる旧友マティスを頼ってイタリアに飛ぶ。マティスのヴィラはトスカーナ州南部のタラモネにある。石造りの建物やマーブルのテーブル、テラコッタを敷き詰めたテラスの床が心を和らげる。この中世の塔は観光客の宿泊施設として借りることもできるそうだ。ちなみに、このシーンで見せるダニエル・クレイグのマリンリゾート・ファッションが素晴らしいのでぜひ注目していただきたい。白いシャツにコットンパンツ、決め手は上に着た黒のショールカラー・カーディガン! ボンドの制服的ブラックスーツにも増して魅力的だ。

ストーリーは展開し、真相を追ううちに「グリーン」という男にたどり着く。表向きは緑化エコロジーを謳った交益事業団体の代表者をよそおっているが、裏ではボリビアの元軍事政権トップの将軍のクーデターを支援する見返りとして砂漠の天然資源の採掘利権を手に入れようとしている。

ボンドの旧友マティスが引退生活を楽しんでいるヴィラ。全体に無機質なインテリアが多いこの作品の中で、対照的に温かさを感じさせるシーンだ。地中海を見下ろす丘の上の古い塔の美しさが印象に残る。

グリーンが催す慈善パーティに潜入するボンド。会場はボリビアのラパスという設定になっているが、実際にはパナマのカスコビエホ地区の、昔栄えた社交場オールドユニオンクラブを使って撮影された。かなり劣化した状態を修復したようだ。パーティ会場のシーンではわずかながらBoコンセプトの白いレザーのソファやチェアが使われているのが見られる。同社は1952年にデンマークで創業され、以来高級ライフスタイルブランドとしての地位を確立している。

さて、いよいよ大詰め。ボリビアの砂漠の中にある高級ホテルに、グリーンと将軍を追って潜入するボンド。将軍に両親を殺された娘カミーユの復讐を果たさせ、大爆破を起こして壊滅させる。ホテルとして使われたのは、チリ北部の砂漠地帯にあるパラナル天文台の宿泊施設。過激な戦闘シーンもさることながらミッドセンチュリーの錚々たる名デザイナーたちの作品がいくつも見られるのは興味深い。

映画のラスト近く、砂漠のホテルのラウンジのシーンで使われているアームチェアとテーブル。1966年にアメリカのウォーレン・プラットナーがデザインした名品。湾曲した形状とたくさんのワイヤー使用が特徴。ワイヤーが重なると美しいモアレ現象が生じる。
デンマークのアルネ・ヤコブセンがデザインしたスワンチェアとヴェルナー・パントンがデザインした近未来的なフォルムのテーブルランプ。砂漠のホテルの客室で使われている。

ボンド像について、少々考えを改める。「時代は変わる」ということで……

エンディングでは、前作で最愛の恋人を失ったボンドと肉親を殺されたカミーユの心の痛手が共鳴する。そして、Mに「諜報部に戻りなさい」と言われたボンドが「やめた覚えはない」と返す言葉がなんとも心憎い。

これは私見だが、原作者のイアン・フレミングの創造したボンド像にいちばん近いのは、歴代のなかでもダニエル・クレイグであるようだ。ショーン・コネリーのボンドのときも、そんなことを言った覚えがあるが、クレイグに変節してお恥ずかしい限り。ボンドもクレイグに代わってずっとシャープさを増し、クールになった。「時代は変わる」ということでお許しを願うとしよう。

映画情報

『007 慰めの報酬』

007シリーズ第22作。前作『カジノ・ロワイヤル』の続編にあたり、恋人のヴェスパーを失ったジェームズ・ボンド(ダニエル・クレイグ)が任務と個人的な復讐との狭間で葛藤する姿をスリリングな展開で描く。ヴェスパーの死の真相を探るためハイチに飛んだボンドは、そこで出会ったミステリアスな美女カミーユを通じ、ヴェスパーを死に追いやった謎の組織の幹部の実業家ドミニク・グリーン(マチュー・アマルリック)に接近する。そしてボンドは、南米のボリビア政府の転覆と同地の天然資源の採掘利権を狙う組織の巨大な陰謀を知ることになる……。

2008年10月公開(日本公開:2009年1月)/106分/アメリカ・イギリス合作
原題:Quantum of Solace
配給:ソニー・ピクチャーズエンタテインメント
監督:マーク・フォースター
出演:ダニエル・クレイグ(ジェームズ・ボンド) オルガ・キュリレンコ(カミーユ) マチュー・アマルリック(ドミニク・グリーン) ジュディ・デンチ(M)ほか

profile

斎藤 融

イラストレーター、エッセイスト。早稲田大学文学部美術科在学中に漫画研究会を創設。卒業後はフリーのイラストレーターとして『メンズクラブ』『平凡パンチ』など60年代を代表する男性ファッション誌で活躍。英国紳士さながらのダンディで知られ、無類の映画好きでもある。

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