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伝統とモダンが穏やかに融合する<br>“心地よい宿”を訪ねて、沼津へ
Inspiration from Travel

伝統とモダンが穏やかに融合する
“心地よい宿”を訪ねて、沼津へ

小田原・沼津、日本の伝統美を感じる旅・後編 ——数寄屋造りの名建築リゾートと老舗のオーセンティックバーへ

日本各地への旅を通して、豊かな暮らしにつながる“体験”や“気付き”を得る。気に入った土地の品を記憶と共に持ち帰り、暮らしに新しいエッセンスとして“取り入れる”……そんな充実した旅を提案する連載企画「Inspiration from Travel」。2回目は、東京からのアクセスも便利な神奈川県小田原市から静岡県沼津市へと巡る旅を紹介。今回はその後編として、前編の滞在地・小田原から一路沼津へ移動。沼津随一の景勝地・千本松原に佇む名建築リゾート「沼津倶楽部」に宿泊し、夜はバーの街として知られる沼津市内の老舗「Frank Bar」を訪れる。

前編はこちら→

Text by Takehisa Mashimo
Photographs by Shinsuke Matsukawa

駿河湾と千本松原が織り成す往時の別荘地へ

「沼津倶楽部」近くの防波堤より駿河湾を望む。対岸に見えるのは、西伊豆の大瀬崎。
千本松原越しに望む富士山。千本松原は、その美しさから白砂青松100選にも選ばれている。

小田原から箱根の山を越えた先に広がる静岡県沼津市は、その温暖な気候と、駿河湾や富士山を望む風光明媚な土地柄により、かつては高級別荘地として名を馳せた。1893(明治26)年に御用邸が建てられて以後、多くの名士や文人たちがこの地に別荘を設け、なかにはそのまま定住する者もいたという。

狩野川河口から千本浜海岸にかけて広がる千本松原周辺は、往時の面影を色濃く残す瀟洒な住宅街。千本どころか、実は三十数万本ともいわれる黒松越しに富士の威容が控え、振り返れば穏やかな駿河湾が美しくきらめいている。

千本浜公園の防波堤に立つと、駿河湾から松林へと吹き抜ける潮風がなんとも心地いい。おそらくこの風景は、別荘地としてにぎわいを見せた頃となんら変わっていないことだろう。

そんな千本松原の一角、沼津漁港から歩いて10分ほどの海沿いに、この風景に魅せられた若山牧水の記念館がある。文学のみちと名付けられた小道を挟んで向かいに構えているのが、今回の旅の宿「沼津倶楽部」だ。

数寄屋造りの粋を極めた近代和風建築

「松石園(しょうせきえん)」と名付けられた約3000坪の庭園は、客人を出迎えるべく常に美しく整えられている。

「沼津倶楽部」の歴史は1907(明治40)年、ミツワ石鹸二代目社長の三輪善兵衛が近代和風建築の別邸「松岩亭(しょうがんてい)」を建てたことに始まる。

建築を手掛けたのは、当代随一と称された江戸幕府小普請方大工棟梁の柏木家十代目・柏木祐三郎。約3000坪の庭園の中に、すべての部屋が茶室となるように設計した数寄屋造りの名建築を造り上げた。

この建物は、第二次世界大戦中に陸軍省に接収され、将校たちの休息所となった後、戦後は戦災復興の協議の場として利用された。時を経て2008(平成20)年には、老朽化が進んだ建物の改修が施されるとともに全8室の宿泊棟が増築され、会員制ゲストハウス「沼津倶楽部」として再興。現在は、2017(平成29)年に惜しまれつつ営業を終了した「二期倶楽部」(栃木県那須)を手掛けた二期リゾートがオペレーションを担っている。

ゲストを出迎える茅葺屋根、入母屋造りの長屋門。1913(大正2)年に建てられ、2008(平成20)年の改装の際に現在の場所に移された。
茶室の待合近くに設けられた蹲(つくばい)。その水は清らかな富士の湧水を利用しているのだとか。

現代の技術では再現できない匠の技のギャラリー

「清水」と名付けられた、茶室としては最も広い造りの間。毎年、将棋の棋聖戦が行われる。

パーキングに車を停め、茅葺屋根の長屋門をくぐって歩を進めると、右手に1907年築の和館、左手に2008年築の宿泊棟が姿を現す。三輪善兵衛の別邸「松岩亭」として建てられた和館は、茶人でもあった善兵衛が千人茶会を催したいとの構想のもとに設計された数寄屋建築。2014年には国の登録有形文化財にも登録され、現在はその一部がメインダイニングやライブラリーとして使用されている。

「材料や意匠はもちろん、天井の構成も見どころのひとつ。各お部屋の天井を見比べながらお進みいただくと大変興味深いですよ」と案内してくれたのは、ゲストサービスの井口康正さん。

確かに、木材を編み込んだ「網代天井」や天板を竿で支える「竿縁天井」、さらには角材に独特の削り痕をつけた「なぐり仕上げ」など、部屋ごとに違った匠の技が施され、当時の数寄屋建築の粋が表現されている。すべての部屋を茶室として使えるように設計しただけに、どの部屋にもおもてなしの心と遊び心が同居しているようにも感じられる。

「旧来は草と土でできていた数寄屋建築に、鉱物質のガラスを多用し、それが自然に、効果的に溶け込んでいるのも見どころのひとつです。当時は相当前衛的だったのではないでしょうか」(井口さん)

天井や鴨居の高さは低く抑えられているものの、ガラス戸により軽やかで開放的な数寄屋造りとなっている。
三輪善兵衛の母親が使っていたとされる「二月堂」。4種類の異なる意匠の天井で構成されている。
「清水」の畳廊下の天井は、角材に独特の削り痕をつけた「なぐり仕上げ」の竿がけ天井。
数寄屋建築によく見られる船底天井。明かり取りの役割も果たしている。
京都から移築された三畳台目の茶室。和館の最も奥まった場所に位置している。

なかでも特筆すべきは、「昭和の間」と呼ばれる和洋折衷のサロン。珍しい檜のヘギ板で編み込まれた網代天井は中央が大きく持ち上げられ、圧迫感のない広々とした空間を演出する。中央部分は「籠目編(かごめあみ)」、周囲の勾配部分は「矢羽根編(やばねあみ)」と異なる技術を使用しているのだが、これほど大きな網代天井は類を見ず、現在これほど巧みに仕上げられる職人もいないという。

また三方を取り囲む障子のガラスは、すべて吹きガラス。こちらも現在ここまで大きな窓用の吹きガラスを作れる職人はいないとされ、1枚で数十万円相当の価値があるのだとか。ちなみに「昭和の間」では戦後、日本国憲法の草案が話し合われたという。そんな歴史の1ページも、この部屋の趣に深みを与えているのかもしれない。

和洋折衷のサロン「昭和の間」。中央を持ち上げた網代天井や吹きガラスの窓、垂れ壁などにより、開放的な空間演出がなされている。
写真下部の「籠目編」、上部の「矢羽根編」と2種類の技法が用いられた網代天井。
すべて手造りの吹きガラスによる窓。4つの角に補強を兼ねた装飾が施され、モダンな雰囲気を加味する。
現在は写真集や美術書が置かれているものの、本来は出窓に合わせて設けられた畳敷きのベンチ。

数寄屋建築の伝統を受け継ぐデザインハウス

一方、2008年に増築された宿泊棟は、旧「二期倶楽部」本館の設計でも知られる建築家、渡辺明の手によるもの。奇しくも、渡辺による宿泊施設のデビュー作が「二期倶楽部」本館(1986年)、遺作がこの「沼津倶楽部」宿泊棟となった。ここで渡辺は、和館の数寄屋造りの伝統を継承しつつ、その意匠を現代的に昇華させ、全体の調和を作り出すことを目指した。

レセプションやロビー、スパが入る建物には富士川の砂利と砂を交互に流し込んで突き固めた「版築(はんちく)」という伝統工法を採用。足元の床には亜麻仁油で磨き上げた蘇州瓦を、屋根や天井には吉野杉の無垢材を使用した。また建具を開放することで、自然との一体感を持たせ、全体的にやわらかで安らぐような印象を加味している。

レセプションやスパが入るロビー棟内観。モダンでありながら日本の美意識が貫かれている。
宿泊棟の外壁には「版築」という伝統工法が採用されている。かつては日本の家屋や城壁にも使用されていたという。
長テーブルやソファ、籐椅子、キャビネットなどは、デザイナーの川上元美氏による特注品。

富士の湧水をたたえた水盤の奥に立つ客室の建物は、全8室。土間にヒントを得た開放的な空間、小上がりの畳の間がある和室、2階に寝室を配したメゾネット、専用の露天風呂がつく洋室スイートなど、いずれも和のエッセンスを随所に取り入れたバリエーション豊かな客室が用意されている。

ツインベッドルーム。壁は漆喰、天井やサッシには吉野杉の無垢材が使用されている。
日本建築の土間をイメージして設けられたミニキッチンとテーブル&チェアスペース。
洋室スイートのリビングルーム。テラス越しに見える黒松の緑が目にまぶしいほど。
客室内の内風呂はすべて総檜造り。美しいのはもちろん、自然と一体になった清々しい空気が漂う。

松林を渡る風に包まれ、穏やかに過ごすひととき

アロマセラピーサロン「nikissimo」のトリートメントルーム。テラスには富士山の伏流水を利用した露天風呂も完備。

さて、チェックインを終え客室でひと息ついたら、宿自慢のスパへと向かいたい。セラピストによるトリートメントは事前予約が必要だが、露天風呂やサウナ、ストーンスパなどは貸切での利用(時間制)が可能だ。特にストーンスパには遠赤外線ラドン浴で有名なオーストリアの「バドガシュタイン鉱石」を全面的に使用。これを目当てに訪れるリピーターも多いという。

時間に余裕があれば、すぐ近くの千本松公園や千本浜海岸、あるいは海鮮問屋や土産物屋が軒を連ねる沼津漁港へと散策に繰り出してもいい。

旅の楽しみであるお食事は、夕食、朝食ともに、和館へと移動し、和室4室を1つの空間に改装したメインダイニングへ。供されるのは、懐石料理をモダンにアレンジした四季折々の和食のコース。近くの漁港から直送される魚介類を中心に、天城の軍鶏、契約農家による箱根西麓野菜などが卓を賑わせる。贅を尽くした数寄屋造りの建物の中で滋味深い料理を味わうひとときは、きっと旅のよき思い出となるに違いない。

田の字型に配された4つの和室を1つの空間にしたメインダイニング。周囲のガラス戸は建築当時のままの吹きガラス。
メニュー一例。熟成ポークのロースト、ニンジンとショウガのソース、菜の花を添えて。
メニュー一例。甘鯛のウロコ焼き、冬瓜のすり流し。

「沼津倶楽部」に滞在していると、モダンでスタイリッシュな空間にもかかわらず、少し懐かしいような居心地の良さを感じることになる。松林を渡ってくる潮風のせいだろうか、館内に漂う程よい木の香りのせいだろうか、あるいは伝統建築の意匠によるものだろうか。いずれにせよこの場所に、かつての名士や文人たちが愛した日本の美しさがあるのは間違いなさそうだ。

Spot information

沼津倶楽部

静岡県沼津市千本郷林1907
▶︎https://numazu-club.com/

バーの街で最も古い老舗のオーセンティックバーへ

駿河湾へと流れる狩野川沿いに広がる沼津市街。

わずか全8室の「沼津倶楽部」には、残念ながらバーは併設されていない。そこで夕食後にもう一杯飲みたい、という方にお勧めしたいのが「NUMAZU BAR TRIPS」という地元タクシー会社による取り組み。これは、講習を受けた「沼津BAR TAXI 認定乗務員」が市内に点在する魅力あるバーに案内するというものだ。

その日「NUMAZU BAR TRIPS」を利用して訪れたのは、繁華街から少し外れた場所に佇むレンガ造りの「Frank Bar」。エントランスがある1階から螺旋階段を上った2階には、古きよき落ち着いたバー空間が広がっている。

「Frank Bar」店内。カウンターは10席、テーブル席は18席。
バーテンダー歴55年以上というマスターの相原勝さん。

創業は1967年。アフリカ原産のアサメラ材を職人がノミで彫り出して仕上げた独特のカウンターが、バーの歴史を雄弁に物語っているようだ。

「実は、沼津は『バーの街』と言われていまして、人口の割にバーの数が多いんです。正確に調べたわけではありませんが、オーセンティックバーとしては当店が一番古いのではないでしょうか」と話してくれたのはこの道55年以上のマスター、相原勝さん。

聞けば、沼津生まれの沼津育ち。相原さんが語る沼津の昔話を聞きながらカクテルの杯を重ねることは、もしかしたら沼津の最高の夜の過ごし方かもしれない。ふと足を運んだこんな素敵なバーで、小田原と沼津を巡った今回の旅を回想してみてはいかがだろうか。

定番にして人気のクラシックカクテル「マティーニ」。いかにもマティーニらしいドライで骨太な味わい。
地元特産の寿太郎みかんジュースを使用したロングカクテル「イコロ」。
バーをこよなく愛した切り絵作家、故・成田一徹氏の手による「Frank Bar」。

近場ゆえ見過ごしていたモノ・コトを、ショートトリップで改めて体感

今回の旅で訪れた小田原(前編)も沼津(後編)も、東京から車で2時間弱。だからこそ、これまで見過ごしてきてしまったものが多く、この旅では「こんなところに、こんな素敵なモノやコトがあったのか」という気付きの連続だった。しかもそのどれもが日本の伝統美を感じさせてくれるものばかりだった。

日本の伝統美とモダンは共存できる。いや、むしろ日本の伝統美は現代のライフスタイルに取り入れることで、より良いものに昇華しているのではないだろうか。そんなことを気付かせてくれたこと自体が、この旅一番のお土産と言えるかもしれない。

少し見方を変えるだけで、旅は素敵な気付きや驚きを与えてくれる。それは毎日の暮らしでも同じこと。ライフスタイルを豊かにするヒントを探しに、次の旅の計画を練ってみてはいかがだろうか。

Spot information

Frank Bar
静岡県沼津市大手町2-11-17
055-951-6098

NUMAZU BAR TRIPS
▶︎http://www.numazu-bar.net/

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