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Designing for Regeneration in Yakushima<br>「環境再生をデザインする」
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Designing for Regeneration in Yakushima
「環境再生をデザインする」

住めば住むほど自然が澄む

屋久島の旅・第2話ではSumu Yakushimaに舞台を移し、オーナーであり設計者の小野 司さんからコンセプトやフィロソフィーについてお話を伺う。彼らが掲げる「Regenerative」とは何を意味し、また建築物としてのSumuはどのような機能や役割を内包しているのだろうか。屋久島で3日間を過ごしたアートディレクターでR100 tokyoのディレクターである川上シュンさんが聞き手となり、「循環」「共生」「QOL(本質的な豊かさ)」などをキーワードに、闊達な意見が交わされた。

Text by Hiroe Nakajima
Photographs by Satoshi Nagare

土地の声に導かれて

2022年に完成したSumu Yakushima(以下、Sumu)は、「環境再生建築」を目指した実験的宿泊施設。屋久島の植生豊かな森に囲まれた静かな敷地には、鳥のさえずりや、時おり風にそよぐ木々のさわさわという音が響く。ダイニング棟、ラウンジ棟、浴室棟が屋久島地杉の広いデッキでつながるリビングエリアを中心に、離れのコテージ(宿泊棟)が3棟。森が廊下のような役割となり、リビングエリアと離れを結んでいる。「自然の循環の邪魔をしないということを第一に考えた」と小野さんが語るように、風の通り道、水の通り道を徹底的に読み解き、各棟は綿密に配置されている。

川上:とにかく風通しがいいですよね。空気の循環がいいことがどこにいても感じられます。デッキからは海が見えて、屋外なのにリビングみたいな使い方ができそうだし、いろいろな文脈が見えてくる。

小野:そうやって使い方を限定せずに過ごしてもらえたら嬉しいです。最初から「こういう建築物をつくりたい」というような構想を抱いていたわけではなく、土地の様相に導かれて設計した感じなので。先住の樹木や石を極力残すために、4人で建物の四辺の寸法のロープを持って、どんな形に面積が取れるかを試算しながら図面づくりを開始しました。また、水の流れや風の流れを途切れさせない建物の配置にも最大限配慮しました。高床式や分棟配置にしたのもそのためで、山から海へ通る風の道を遮らず、湿気をためないようにしています。床下の木構造を常に乾燥状態に保つことで、湿気の多い屋久島にあっても、腐朽菌の増殖や、シロアリなどの被害も防ぐことができます。

実験的宿泊施設「Sumu」のテラスでくつろぐ川上シュンさん

川上:Sumuの中心でシンボルツリーになっているクスノキは、建築の過程で根の周りを改善したことで、以前よりずっと元気になったとか。娘もよじのぼったりぶら下がったりして遊んでいましたが、青々と葉が茂って、とても元気そうですよね。

小野:はい、命を吹き返してくれました。元の石や植物たちに配慮していたら、ものすごい時間とエネルギーを費やすことになりました。他の仕事を断ってまで注力していましたが、果たしてそこまでやる必要があるのか、ちゃんと効果が出るのだろうかと何度も心折れそうになりました。ですが、クスノキのように応えてくれる存在があり救われました。

川上:人工と自然の造形物の境があいまいなくらい、風土に馴染んでいますよね。建材として使われている素材がひとつずつ素晴らしい。木構造部分のすべてと、内装や家具に屋久島地杉が使われているのもいいし、ラウンジ棟にある暖炉の壁のタイルも海岸で拾い集めた石だったり、ひとつひとつ腑に落ちるというか……。離れのコテージに2泊させていただきましたが、すごく落ち着きますし、居心地がいいんですよね。

小野:基礎工事で発生した赤土の一部で、島内の陶芸作家・埴輪窯の山下正行さんに照明器具シェードを制作していただき、室内の数カ所で使っています。この土地の土の色に反射した柔らかい光が空間を灯し、温かい雰囲気を醸してくれています。できるだけ土地の素材を使い、自然の恵みをいただいてこの場所をつくりたかったんです。循環のなかに共生する建築を目指しました。

アンディ・ウォーホルの残した「土地を所有し、そしてそれを壊さないことは、誰もが望みうる最も美しいアートだと思う」という言葉が自ずと思い出される。実は小野さんは30代の頃、リビタの社員として、リノベーション物件を多く手掛けていた。約10年にわたり、各地のホテルやシェアハウスなど、古い建物の再生に向かううちに、建物が環境へ及ぼす影響について意識するようになったという。

小野:突然、屋久島で新しいことを始めたように見えるかもしれませんが、僕にとっては延長でしかないんです。インテリアの世界から土の世界へというのは急展開に見えて、物語のつくり方はまったく一緒です。たとえばリノベーションではその場所がどうあるべきかを、既存の建物と対話し物語を作ってからデザインする。屋久島では、自然の循環という物語を見つけたので、それに沿ってデザインしたのです。自然の循環の物語に従えば、たとえば家具を選ぶときも部屋の中の空気が澱まないようなデザインにするのは自然な流れで、リノベーションの経験が今に生きています。

「エコ」「サステナブル」「リジェネラティブ」

小野:僕らSumuのメンバーは、「Regenerative(リジェネラティブ)」という言葉を大切にしていて、「再生可能」という意味に捉えています。環境を語るとき、「エコ」や「サステナブル」という言葉もよく使われます。私見ですが、エコは、地球に100のダメージを与えていた場合、リサイクルをしたりエコバッグを使ってダメージを80程度に和らげただけでも「エコ」だし、ダメージは残ったままなのに、「地球にやさしい」と言えてしまう。一方、サステナブルは、100のダメージをプラマイゼロに戻す努力をしようというもの。そしてリジェネラティブはダメージをゼロに回復させたうえで、さらにプラスに上げていこう、もっと元気にしましょうよというもの。ものすごくポジティブで、自然や地球をより豊かにする発想です。

川上:なるほど、分かりやすいですね。

小野:僕の印象では、エコは主に企業が使っている。自社の商品を売るため、「エコな商品です」「エコな取り組みをしています」と。サステナブルは人類目線だと思います。「このままだと僕たち地球に住めなくなっちゃう。サステナブルでいきましょう」って。地球のためという言葉の裏に隠れているのは、自分たち人間が絶滅しないためなんです。対して、リジェネラティブは地球目線だと思います。つまり「Think Global(世界)ではなく、「Think Earth(地球)」の感覚です。

川上:マクロな視点で見れば、人種や国籍にかかわらず、人間はみな地球人ですからね。

小野:そうです。他の生き物は、当たり前のように自然の循環のなかで気持ちよい状態をつくっている。人間だけが恣意的に地球から搾取し、苦しめるのはよくないんじゃないかという立脚点から、リジェネラティブは出発しています。僕らは別段エコやサステナブルを否定しているわけではありません。どんな努力も続けるべきだと思いますが、「これからは地球目線に立ちましょう」というのが、Sumuで伝えたい一番大事なことです。

生態系において、「相利共生」「片利共生」さらには「寄生」という相互関係がある。双方に利益が生じる「相利共生」、片方のみに利益が生じる「片利共生」、片方に利益が生じ、片方に害が生じるのが「寄生」だ。人間はすで地球に対して、「片利共生」から「寄生」の関係に足を踏み入れているのかもしれない。「地球からいただいた分、何かしらのお返しをしなくてはならない」という差し迫ったものを、小野さんたちは感じている。

小野:地球を大きく分けると、海、陸、空の3つに分けられます。そのうち人間は陸に住んでいます。陸をさらに分けると、氷河、砂漠、雨が降るレイニーランドになる。特殊なケースを除いて、人間はレイニーランドに住んでいます。雨が降って水が流れる場所は、ニアリーイコール「流域」です。大都市などでは見えにくいけど、大阪でも淀川や、東京だったら多摩川、荒川、墨田川、やはり流域に住んでいる。だから僕らは、流域単位でものを考えるということをおすすめしていて、Sumuは敷地内だけを見るのではなく、上流から下流、海までつながる一続きの流域単位で俯瞰し、その循環の中で建物を建てたり生活することを意識しています。

「住む」ことで見えてくること

最初は8人のオーナーのプライベートな場所として始まったSumuだが、若い世代や子どもたちにもこの目線を伝えたいということで、今年から利用者の輪を広げることを考えているという。関心を寄せる学校法人や企業とのコラボレーションなど、小野さんは慎重かつ柔軟に、今後のSumuの方向性を探っている印象だ。

小野:まったく理解のない組織や個人へのアプローチは正直難しいかもしれませんが、生物多様性や良好な循環は、実はチームビルディングにも通底している面があります。経営の優先順位は自然のルールから学べるところがあると思います。

建築家の小野司さん

川上:それは絶対にありますね。3日間過ごすなかで、「共生、循環、よどみ、流れ」など、すごく大事なキーワードをもらったなあと思っています。これはチームビルディングやブランディングにもものすごく必要なんじゃないかって。しかもここでは辞書的な理解だけじゃなくて体感的な理解がありました。今回は2泊3日のショートステイでしたが、そのなかでも「住む」という感覚を味わうことができました。自分たちで食事をつくったり、空いた時間にオンラインでミーティングや仕事をしたり。普段の生活とあまり変わらない時間を過ごせてよかったです。

小野:毎日顔を合わせていると、だんだん親戚のように感じてきますよね(笑)。自然と関わりながら、日常生活をどう豊かに過ごそうか考える場所になるといいなと思っています。ある小学校6年生の女の子は今まで経験したなかで一番楽しかったと言っていました。自然の中で3日ぐらい過ごして帰ると、明らかに体の動きが変わっていたり。子どもたちの変化や感受性の成長を間近で見られることが、ここでの一番の価値だと喜んでいる方は多かったですね。

川上:今回一緒に来た娘は軽井沢に住んでいて、普段から森の中でアクティブに活動しているけど、ここは軽井沢にはない海があり、植生も少し異なる森に触れて、さらに本能が引き出されている印象がありましたね。リミッターや限界みたいなものが勝手に外されたんだと思います。大人にしてみても質感や手触りを思い出す。石ってこうだったねって。体感を取り戻すのは人間がリジェネラティブしている感じがしてすごくいい。回復じゃなくて、もうひとつ先へいく感覚。

3日間の初めに、モスガイドクラブ代表の今村祐樹さんのアテンドのもと、屋久島の山、里、海の姿を実際に目にし体験したことで、今村さんや小野さんが目指す「循環型の暮らし」や「持続可能な営み」の一端をうかがえたような気がする。そこには、「都会からのチェックインとしてのツアーの重要性(岩の海岸を歩くことで強制的にバランス感覚が目覚めることなど)や、自然との向き合い方などのノウハウ」を約20年という年月をかけて培ってきた今村さんたちの意図があった。「Sumuもその積み重ねの上に成り立っています。最初に言葉によってコンセプトを語ることで、実際に参加した方の体験が確認作業になってしまうことを避けたかった」と小野さんも言う。

身体性の回復は人間性の回復を促す最良の方法かもしれない。ならば人間性を回復させるには、まず体にアプローチしてはどうかと、屋久島の自然から示唆を受けた気がする。では、そのように回復した身体性や人間性を都会でも持続させるにはどうすればいいのか。小野さんは次のような提案をしてくれた。

Sumuのラウンジ棟。中心にあるローテーブルは、島内で入手した赤タブ材に鉄脚を付けて、小野さんたちSumuやモスのメンバーが制作したもの。

小野:それは、ひとつひとつにきちんと向き合うということではないでしょうか。まずはあなたの暮らしを支えてくれている一つひとつのモノに感謝すること。本物の素材を使っている家具、そこにある椅子やテーブルも元は生きていた木だったとしたら、その命を受け取り大切に使う。ペットボトルでお茶を飲む必要があるときもあるでしょうが、落ち着いて触り心地の良いお茶碗でお茶を飲むとか、そのお茶が自分の手元にやってくるまでの物語を想像してみるとか。そういうふうに暮らしていれば、五感だけじゃなくて、より多くの感覚を使って生きられるんじゃないかって思います。本質的な豊かさや幸福感は、そのようにしてしか得られないのではないでしょうか。

川上:丁寧に淹れたコーヒーとあわただしく飲む缶コーヒーは非なるものですから。

小野:たとえばここに赤タブのテーブルがあっても、「あ、これいいな」っていうふうに目を向けないと心に響かないし、ただの台なんですよね。いくら美味しい料理が目の前にあっても、携帯見ながら食べたら絶対に携帯の味しかしない(笑)。それは豊かじゃないよね。お風呂を「済ませる」って言うけど、それも寂しい表現ですよ。

川上:ここのお風呂、ちょっと特別でしたね。ざぶんとお湯に浸かって、海を見ながら「これはQOL高いなー」って。それと、「本当に大事なことは目に見えないんだよ」という『星の王子さま』の言葉じゃないけど、ここでは改めてそれを教わった感じもします。今回、人と自然のいい関係値を知ることができたのがとてもよかったです。「この樹齢千年の木、すごいでしょ」じゃなくて、常に自分たちと関わりの話を聞いていたような気がするんです。自然のルールを学びなら、そのルールに自分がどうジョインするかというところまで考えるきっかけになった。人間は自然に対して決して悪だけの存在ではないっていうことも。人間も含んだうえでの自然だって。

海を望むバスルーム。窓を開ければバスタブに浸かりながら波の音にも包まれる贅沢な体験がSumuの日常だ。時折、海面からクジラたちも姿を見せるという。

小野:現代は都市か自然かという二極化で語られることが多いですが、本来どこからが都市でどこからが自然かの結論は出ないと思うんです。屋久島でも人間と接点のある前岳というエリアと、神の領域として昔の人は年に2度のお参り以外は立ち入ることすらしなかった奥岳というエリアがあります。その役割はまったく違う。いろいろなグラデーションがあるのが本来です。

川上:僕もコロナ以降、半分軽井沢にいるようになったけど、軽井沢の自然はある程度コントロールされた自然なので危険の少ない自然ですよね。自然だって強度がかなり違うから、ひと区切りに言えない。もっと細分化しないといけないんだろうなと思いました。

小野:「見えない世界が大切」と思う人が徐々に増えてきている実感はあります。20世紀以降、資本主義=豊かだと思っていた時代は、目に見えるものしか追っていなかった。たとえば生えている木が邪魔だから切ろうとか、見栄えのするシンボルツリーを植えましょうとか、木も地面から上しか見てなかったけど、切っても切り株から芽が出てくるってことは、命は地面の下にあるということです。大切なことは地面の下で行われていて、建物を建てるにしても、地面こそが地球との接続点ですから、そことどうやって手を握るのかが人類の課題だと僕は思います。

Sumuの各棟の間には、木々の合間に小さなハーブの畑なども。しっかりと立つ大樹にはブランコも下げられていた。

川上:今まではそれを拒絶してきたのかもしれない。

小野:そうですね。これまでは人間だけの都合で自然をコンクリートで固めて、周囲の環境を澱ませたり腐らせたりしてきました。そうすると雑草が生えたり、虫がたくさん発生して、それを殺虫剤やら除草剤を使って殺していた。でも原因を作っているのは自分なのです。その順番をもう一回見直したほうがいい。土や微生物に視点を合わせると、そこに住む我々はもっと健康になるし、もっといい建築が生まれるきっかけがこれから出てくるんじゃないでしょうか。

空間デザインが人間関係を変える

川上:ところで、小野さんにとってのいわゆるQOL(本質的な暮らし)とは何ですか?

小野:それは昨日の夜、みんなで乾杯したときのあの瞬間だったりします。流域からいただいた材料をみんなで分け合って、様々な場所から集まったご縁に感謝しながらの乾杯。そのために必要なハードがSumuなのだと思います。一緒につくれるキッチンがあって、和める照明があって、語り合える空間がある。リビタでは多くのシェアハウスをつくりました。コミュニケーションの良しあしはちょっとした空間の形や寸法で変わってきます。少しの差で、人間関係がうまく育まれないケースもありますし、逆にすごくいい雰囲気にもなる。たとえば高さが数センチ違うだけで会話に無理が生じることもあれば、逆に照明が少し暗いだけで仲良くなるということもある。空間のデザインは人間関係の形成に深く関わっています。

川上:テラスや暖炉で薪に火をつけながら語らうのもすごく素晴らしい時間でしたね。風呂でゆったりした時間と、みんなが料理している姿を見ているのもよかった。あと、縁側に置かれたコンパクトなピザ窯。すぐに購入を決めました(笑)。小野さんは現代的なものを否定するのではなくて、共存というかそういうバランス感覚も素敵だなと。自然派になるとか、プリミティブな生き方を追求しているわけではないから。ここのキッチンだってハイテクと言えますね。ドイツ製の食洗機がすごく静かで驚きました。

小野:ドイツは水道代がとても高いから、節水を追求しているメーカーなんです。毎日気持ちがいいとか、毎日おいしいとか、友達が来てくれて楽しいとかっていうほうをベースにしないと、たぶん続かないし、持続可能でなくては意味がないので。

川上:キッチンに2つシンクがあるのも動線に無理がなくていいですよね。

小野:そうそう、よく茹で上がったパスタのお湯を切るときと、野菜を洗っている人がかち合うことがあったりするでしょう。動線が詰まる。あと、コンロは実はIHではなくラジエントヒーターです。遠赤外線で温めていて、炭火焼きと同じ味がするんだとか。ここでは電気と薪だけで生きることを実践していて、化石燃料は使いたくないんです。ただ電気までいらないというのではなく、「電気は必要」と割り切ったうえで、それをどうやって生み出し、取り入れるか。

川上:電力はオフグリッドなんでしょう? 屋久島ではほぼほぼ水力発電で賄っているらしいけど、ここでは太陽光パネルで自給自足しているとか。

小野:完全な自給自足は難しいこともありますね。蓄電しても2人くらいでステイしているときはいいけど、もう少し大人数になったり、雨が続いたりすると足りなくなります。そのときは屋久島公共の電気に切り替えることもできます。

高床の下に設置された蓄電池

川上:自然エネルギーとか蓄電池はこれから確実に必要になるから、この次のステップとしてそういうことはきちんと考えなくてはいけないですね。それによって「QOL」の在り方も変わってくるだろうし。

小野:僕らがここで実践し呼びかけたいのは、自然を消費するばかりではなく、自然に何かお返しをしましょうよ、ということです。前より地球が元気になったというところまでいけると、人間が地球にいる意味も見えてくる気がします。いつか地球から「やあ、人間をつくってよかったよ」って褒めてもらえることを思い描きながら(笑)。

Sumu Yakushimaというマザーツリー

小野:「Regenerative Architecture=環境再生建築」にアプローチするうえで欠かせないのが、土の中の環境をデザインすることです。植物の世界では、マザーツリーと子どもたちは土中の菌糸のネットワークを通じて会話をしています。もし人間がその土壌を掘り返しコンクリートに置き換えたとしたら、親子は引き離されてしまいます。そうではなく、僕らは断絶しない建築を目指しています。そのために土地を造成せず、既存の地形に合わせた独立基礎を構造としました。地中に打ち込んだ杭は焼いた杉材を用いました。炭化した杭の表面には菌が付着しやすくなるんです。その菌が土の中でどんどん広がり、親の木と子どもの木をつなげる役割をも果たします。そして、菌に誘引されて樹木が根を伸ばして土壌や岩に絡まると人間の力では到底解けないほどの強力な構造になります。Sumuの基礎ではこの働きを生かして、植物の根によって地盤を強化させる試みをしました。

小野さんがSumuで実施した「地中の環境デザイン」。独立基礎の下には焼いた木杭を打と込み、土中に菌糸のネットワークを形成させる。割栗に漉きこまれた落ち葉が周囲の植物の根を誘因し絡み合い、地耐力を発揮する。

川上:自然のネットワークのつながりに、人間も参加させてもらうということですね。

小野:ミクロの話になりますが、植物は単独では生きていません。葉に光が当たることで光合成をして生きているのですが、それによってできた栄養分(炭水化合物)を、実は根っこから地下に放出しているんです。自分が育つ分と下に放出する分があって、土の中へも栄養分が振りまかれている。するとそれを餌にしている菌たちがわあっと集まってくる。根っこに誘引されて繋がった菌糸は、植物がたどり着けない下の水脈から水を運んできたり、ミネラルを分解して樹木に分け与えたりします。この共生関係がないと植物はすくすくとは育たない。その菌糸を使って、木と木はコミュニケーションをとっているということも近年の研究で分かっています。たとえばマザーツリーは大きくてたくさん光合成をしているけど、つくった栄養で私腹を肥やすんじゃなくて、周りの木たちにあげているんです。とくに自分の種が芽吹いたことも菌糸のネットワークを通じてわかっていて、たとえ数百メートル先にいてもその子に優先的に栄養分を送っている。

川上:森は脳ミソをもったひとつの知的生命体みたいなものですね。

小野:そう思います。それと、伐採された切株は光合成できないはずなのに、断面からまた芽吹いてくるっていうのは、本当は不思議ですよね。これは菌糸で繋がっている森の仲間たちが、「この木には前にお世話になったから、栄養をあげて復活させよう」といって救っていると言われています。

川上:どこか義理堅い感じがして共感がもてます(笑)。

小野:建築という構造物さえも、森の一部として認識してもらえないかという構想のもと「住めば住むほど自然が澄んでいく」というSumuのキーワードが浮上しました。「住む」と「澄む」、実はもうひとつフィンランド語でSumuは「霧」を意味します。霧は水の循環の終わりと始まりを象徴するものでもあるので、その3つの言葉が重なっています。

小野さんたちの存在がマザーツリーと重なる。ここでレクチャーを受け共鳴した人々が各地に分かれ、胞子や菌糸のようにネットワークができ、情報をやりとりしていく。

川上:Sumuがマザーツリーと言えるし、R100 tokyoの物件も、そのDNAを宿した胞子に成り得るんじゃないかな。もちろん分譲マンションなわけだから土を整えることはできないし、圧倒的な自然があるわけではないけれど、見立てですね。利休が言う「市中山居」です。茶室が端的な例ですが、街にいながら自然とともに暮らす、内にいながら外を感じる。それと昨日、屋久杉の森で見た、倒木に光が入り新しい生命が生まれるという光景は、R100のリノベーションにも重なるんじゃないですか。

小野:最高級のものだからいいもの、ということではなく、考え抜かれたデザインや素材が発酵してできたのがR100 tokyoの物件だということは、分かる方には分かるでしょう。

川上:リノベーション物件を高額で購入する時点で、すでに単なる資本主義のものさしを超えている方々だから、こちらも自信を持って発信しなきゃいけないなってね。小野さん、一周まわって、そろそろR100の部屋を手掛けてはどうですか?(笑)

小野:すごく長い伏線ですね(笑)。かなりのチャレンジだなあ……。

川上:R100 tokyoもSumuと同じく、文化や環境などに対するアクションも含めた住まいづくりや暮らしづくりを提案しています。このメディアでは、目には見えない体験や時間こそが大事ですよね、というコンテンツがたくさん集まればいいと思う。いい友人、いい食事、いい時間を過ごすためにいい家を持とうというマインドで購入してほしいですね。

小野さんたちが大切にしている「Regenerative」とR100 tokyoが標榜する「Regeneration」はともに、より良い未来を創造することを諦めないという意思に貫かれている。そして対話から浮かび上がってきたのは、100%説明できるものばかりを追い求めるのではなく、長いスパンで見たときの本質的価値に焦点を当てること。Sumuが提示してくれたヒントを手掛かりに、これからの自然と人間の共生を今一度考えてみたい。

profile

小野 司

株式会社tono代表取締役。1977年東京都生まれ。早川邦彦氏他のアトリエにて建築家修業の後、2007年株式会社リビタに入社。約9年間勤務の後、2016年株式会社tono設立。2020年4月、緊急事態宣言をきっかけに屋久島に移住することになりSumuプロジェクトをスタートさせる。土中の環境についての知見を学び、菌と建築家の関係を繙くうちに自らを「菌築家」と名乗る。Sumu Yakushimaで「iF Award 2023」でゴールド賞受賞。

▶︎https://sumu-life.net/ja/
▶︎https://www.to-no.me

profile

川上シュン

1977年東京都生まれ。独学でデザインとアートを学び、2001年artlessを設立。グローバルとローカルの融合的視点を軸にヴィジョンやアイデンティティ構築からデザイン、そして、建築やランドスケープまで包括的なブランディングとアートディレクションを行っている。NY ADC、ONE SHOW、D&AD、RED DOT、IF Design Award、DFA: Design for Asia Awards など、多数の国際アワードを受賞。また、グラフィックアーティストとしても作品を発表するなど、その活動は多岐に渡る。

▶︎http://www.artless.co.jp/

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