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アートとの関わり方を提案する「ギャラリスト」の住まい
My Life with ART

アートとの関わり方を提案する「ギャラリスト」の住まい

アートとの多様な関わり方を提案するギャラリスト—— 作家と共に考え、感動を共有すること

「アートが人生をより豊かにする」をテーマに、アートを取り入れたライフスタイルを紹介する連載「My Life with ART」。4回目は、神楽坂の貸ギャラリー「AYUMI GALLERY」、企画ギャラリー「CAVE-AYUMI GALLERY」のオーナーである鈴木歩さん。幼い頃からアートに触れてきた鈴木さんが提唱する「アートとの関わり方」についてお話を伺った。

Text by Hiroe Nakajima
Photographs by Yoichiro Kikuchi

祖父、父、自分へと継承されたアートとの縁

1953年に建設、1984年にギャラリーとして開業した「AYUMI GALLERY」。2011年に登録有形文化財(建築物)に指定された。 © Nest-A Co., Ltd/Photo:畑 拓
「AYUMI GALLERY」は元々アトリエとしてつくられたが、住空間の雰囲気があるので、自室に作品を展示した際のイメージがしやすい。 © 熊谷直人/Photo:岡野圭

東京メトロ東西線神楽坂駅から徒歩1分。英国ハーフティンバー風の木造建築の1階にある貸しギャラリー「AYUMI GALLERY」は、1984年の開廊以来、神楽坂を訪れた人が気軽に立ち寄り楽しめる場所として親しまれている。この建物は、1953年に建築家の高橋博氏のアトリエとして建てられ、その後、娘婿の鈴木喜一氏に引き継がれた。建築家であり、紀行作家でもあった鈴木喜一氏が建築事務所として使っていたが、娘である歩さんの誕生を機に1階をAYUMI GALLERYとしてオープンした。

現代アートを展示する「CAVE」のほうは無機質な空間。写真は2019年12月に開催されたフィンランド人アーティスト、アリ・サールトによる個展「Tranquillity」。 © Ari Saarto/Photo:Yulia Skogoreva
2015年のオープン以来、年に4~6回のペースで展示を行っているCAVE。アーティストは国際色豊か。絵画、オブジェ、写真、インスタレーションなど様さまざまなアート作品を扱っている。 © Ari Saarto/Photo:Yulia Skogoreva

そして現在、AYUMI GALLERYのオーナーは、ギャラリー誕生のきっかけとなった鈴木歩さんに受け継がれている。2015年にオープンしたCAVEを含めた2つのギャラリーの運営をはじめ、神楽坂の路地裏の景観を守る歴史的建造物の保存活用事業、そこでアート・カルチャーを学び楽しむ「よこみちプロジェクト」を主宰し、地域の人や仲間たちとさまざまなワークショップやイベントを行うなど、鈴木さんの活動は多岐にわたる。

最近、神楽坂にあるビルのロフトに引っ越したばかりの鈴木さん。新居に伺うと、そこかしこにアーティストの仲間たちから贈られた作品が顔をのぞかせる。

新居のリビングに設けられたアーチを描く窓からは、たっぷりの日差しが入る。ソファに置いたクッションのカバーは、友人の小木央理さんのオンデマンドでプリントできるオリジナルファブリックを使ったもの。風の流れを表現したパターンなので窓側に置いているそう。

「ここは作家の仲間と一緒に考え、つくった空間なんです。例えばバスルームのカーテンは、テキスタイルを手掛けるオランダ留学時代の友人と相談して、何度も試作を重ねて制作しました。窓側のソファに置いているクッションカバーも友人のグラフィックデザイナーが作ったモチーフです。CAVEでも展示をしている中村太一さんや、赤羽史亮さんのペインティングも部屋のポイントになっていて、仲間の作品を生活に取り組むことはいいエネルギーになります」

中村太一さんのオーストラリアのプリミティブなエネルギーに触発された作品『Lake Hume Albury NSW』。
赤羽史亮さんのオイルペインティング。「コンポスト=生ゴミ」をモチーフにしたファニーな作品。あえて無造作に床に置いて楽しんでいるそう。

アムステルダムにある美術大学「ヘリット・リートフェルト・ アカデミー」で3年間学んだ鈴木さんは、そこでビデオやパフォーマンスなどのメディアアートを制作した。その時の仲間たちは現在、それぞれのフィールドで表現を続けているという。

「アーティストやデザイナーとして活躍している人もいますが、例えばクラフトビールやスイーツなど、食を媒体としてクリエイティビティを発揮している人もいて、とても刺激になります。ヨーロッパでは暮らしとアートの境界がないんですね」

元々3点ユニットが入ったバスルームをリノベーションしてオープンバスルームにした。
機能性とインテリア性を兼ね備えたオリジナルのバスルームカーテン。スタジオ・オンデルデリンデに制作を頼んだ。
素材はトラックの幌に使用される綿帆布を使用。ドレープの深さや数にもこだわった。

作家を応援することは創作活動に参加すること

元々は事務所として使っていた空間を居住用にリノベーションしているが、キッチンなどはあまり手を入れていない。

1920年代にイギリスへ留学し、ロンドン大学の「バードレット・スクール・オブ・アーキテクチュア」で建築設計を学んだ祖父、古民家建築や移築などを主に手掛け、多くの随筆や紀行文を著した父の影響もあり、幼い頃から芸術との接点が多かった鈴木さんは、なるべくしてギャラリストになった人だ。

父親や鈴木さんが世界各地で拾ってきた石。世界中をめぐった父親の影響もあり鈴木さんにとって旅は人生に欠かせないもの。1992年に父親と旅した中国旅行は今も鮮烈な思い出。

「小さい頃からAYUMI GALLERYのオープニングパーティにも参加させてもらっていましたし、アーティストの方々には可愛がっていただきました。今もそうですがAYUMI GALLERYはキャリアやジャンルにこだわらず、どなたにもご利用いただけるオープンなギャラリーなんです。CAVEのほうは新進気鋭の現代作家の展示に限られていますが、その振り幅は私の中でも重要なものと捉えています。アートへのアプローチはさまざまですから、正義や正解はありません。お客さまには何より“直観”を大切にしていただきたいです。そういう意味ではやはり実物を見ていただきたいですね。実際に見て、触れて、何か気になる、なんとなく気持ちがいいと感じてもらう。そういうことは写真やモニターを通してでは、伝わらないことが多いと思います」

ガエ・アウレンティというイタリアの建築家がデザインした椅子。織物はインドネシアのろうけつ染めバティック。世界を旅するアメリカ人アーティストLou Zeldisの作品。

鈴木さん自身も、日頃から美大の卒業制作に足を運んだり、気になる画廊へ足しげく通う。CAVEはできるだけ自分と同世代の作家の発表の場にしたいという思いもあり、彼らと緊密にコミュニケーションをとりながら、「今」という時代に作家たちが抱く希望や絶望を共に見つめていきたいという。

「ギャラリストである私も、作品を購入してくださる方やいつも展覧会に足を運んで見てくださる方も、それぞれのかたちで創作活動をシェアしているのではないかと思うのです。作品に触れることでアーティストの感動や興奮を共有する。若いアーティストを応援していくことは、既に制作に参加していることだと私は思っています」

「二次元と三次元の揺らぎ」をテーマに絵画作品を制作している佐々木耕太さんの作品。ベッドサイドに置いている。

鈴木さんは数年前から「アーティスト・イン・レジデンス」にも力を入れている。地方や海外から招聘されたアーティストが、その土地に滞在し制作やリサーチ活動を行うこと、またそれらの活動を支援することである。「日本でも盛んになっていますし、作家たちも安心して創作に打ち込め、新たなインスピレーションを得るいい制度だと思います」という鈴木さんの言葉からも、アーティストを可能な限りサポートしたいという強い気持ちがうかがえる。

神楽坂に生まれ育ち、現在も神楽坂を拠点に活動をする鈴木さんには、この土地に根差したホスピタリティがある。神楽坂には現在も多くの文化人が住んでおり、本屋、名画座、ギャラリーなどが生活に密着したかたちで存在している。

「文学、音楽、演劇、映画、美術、建築、工芸などの分野で活躍されている方にふとした所で出会うことができます。現代美術のギャラリーも神楽坂 ・江戸川橋・市ヶ谷方面と徒歩圏内に増え、ギャラリー巡りをされる方もいますよ。気軽すぎず気張りすぎず、花街の名残もあり習い事も盛ん。何かを学ぶ街というのが私は好きです」

「よこみちプロジェクト」のワークショップで金継ぎ教室を行ったときの様子。 © Nest-A Co., Ltd/Photo:畑 拓
輪島塗の作家・瀬戸國勝さんの漆器。能登半島を旅した際に泊まった旅館で手にし、その足で瀬戸さんのギャラリーを訪れて購入した。力強い形と色、漆の柔らかさの相性が気に入っている。
パリのヴァンヴ蚤の市で購入したアルミの手鍋。海外ではマルシェや蚤の市で工芸品や民芸品を見つけるのが楽しい。
毎年神楽坂で開催される「青花の会骨董祭」で見つけた白色 土器。朝鮮の原三国時代のものとされている。

住まいの設えを共に考えるのがギャラリスト

日々飾る花や花器と同じく、季節や気分によって部屋に飾る作品を替える習慣が身についているという鈴木さん。

これまでギャラリーや画廊とあまり接点がなかったという人もいるだろうが、鈴木さんは「もっと気軽に足を運んで気軽に相談してほしい」と言う。「コミッションワーク」という言葉がある。これは依頼制作のこと。例えば部屋の広さや間取り、飾ろうとしている壁の寸法や色などを相談すれば、ギャラリストはそれに見合った作品を作家に新規で発注することもできる。

アムステルダムを拠点に活動している写真家・アーティスト、シャルロット・デュマの「馬」の写真。

「たいていのギャラリーや作家なら、喜んで引き受けてくれると思うんです。それはタブローに限らず、オブジェや家具であっても同様です。例えば吹き抜けの空間に光を使った長いアート作品が欲しいというようなケースもあるでしょうし、がらんとした空間にポイントとなるオブジェが欲しいというケースもあるでしょう。たとえもしそのギャラリーで扱っていなくても、ギャラリーは人と人のコミュニケーションを取り持つ中継地ですから、望みに合うような作家を教えてくれたり、ほかのギャラリーを紹介してくれたり、きっといい情報が得られると思います」

ドレープの美しさが際立つ倉俣史朗さんの照明作品。「オバQ」の愛称で親しまれている1972年の作品。

住まいを彩るインテリアやアート作品を求めて、百貨店や家具店に行くのもいいが、ギャラリーに相談を持ち掛けることもぜひ選択肢に入れていただければ、というのが鈴木さんの提案するところである。そしてアート作品をコレクションすることから発展させて、もう少し手前から作家やギャラリストと積極的に関わりを持つこと。

「そのように入手したアート作品は、きっと暮らしの中でも特別な存在感を放つはずです」と鈴木さんは確信している。アートを生活に取り入れながら、いろいろな楽しみ方を見つけていきたい。

profile

鈴木歩

ディレクター、ギャラリスト。1983年東京都生まれ。東京造形大学美術学部卒業後、渡英。その後オランダに拠点を移し、ヘリット・リートフェルト・アカデミー卒業。2012年に帰国後はギャラリー勤務などを経て、2016年に家業である「AYUMI GALLERY」の運営を引き継ぐと同時に現代美術ギャラリーの「CAVE-AYUMI GALLERY」をオープン、国内外の新鋭アーティストを紹介する。また、神楽坂の路地裏の景観を守る歴史的建造物の保存活用事業も行う。

▶︎http://www.nest-a.tokyo

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