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Quiddity of Life 座談会 第3回<br>R100 TOKYOが考える、これからの本質的な暮らし<br><small>参加者<br>川上シュンさん(artless Inc.代表)<br>芦沢啓治さん(芦沢啓治建築設計事務所代表)<br>相澤佳代子(建築ディレクション部 シニアディレクター)<br>齋藤瑠美子(R100 TOKYO事業部 グループリーダー)</small>
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Quiddity of Life 座談会 第3回
R100 TOKYOが考える、これからの本質的な暮らし
参加者
川上シュンさん(artless Inc.代表)
芦沢啓治さん(芦沢啓治建築設計事務所代表)
相澤佳代子(建築ディレクション部 シニアディレクター)
齋藤瑠美子(R100 TOKYO事業部 グループリーダー)

「R100 TOKYO」が歩んできた8年とこれから先(前編)
――“本質的な豊かさ”の創出を目指して取り組んできたことを再確認し、R100 TOKYOの価値をさらに高めていくために

2013年の設立から8年が経過するなかで、イクシクス麻布十番、リアージュ砧テラス、ウッドヴィル麻布、オパス有栖川といったリノベーション物件を手掛けてきたR100 TOKYO。7年ほど前からいくつかの物件の設計に加わってきた建築家の芦沢啓治さん、この度リブランディングのクリエイティブディレクターに就任した川上シュンさんと共に、R100 TOKYOがこれまで積み上げてきたものを振り返りながら、社会の変化、人々のライフスタイルの変化を読み解いてみました。

Text by Hiroe Nakajima
Photographs(Portrait)by Sadato Ishizuka
芦沢啓治さんが主宰する「石巻工房 東京ショールーム」にて。左より、齋藤、芦沢さん、川上さん、相澤。

見せるための家ではなく、住むための家として

川上:まずは芦沢さんがR100 TOKYOに関わるなかで感じてきたことを聞きたいですね。これまでR100 TOKYOの物件を手掛ける際には何を意識してつくられていたかなども、改めて伺いたいです。

相澤:芦沢さんにはR100 TOKYO設立後、早い段階から関わっていただいているので、もう7年ほど前からでしょうか。これまでイクシクス麻布十番、リアージュ砧テラス、ウッドヴィル麻布のリノベーションに携わっていただいています。イクシクスでは建物全体のデザインをご担当いただき、R100 TOKYOが提案する資産価値のある物件とはどのようなものか、というフィロソフィーの創出にも関わっていただきました。

R100 TOKYOデザインディレクターの芦沢啓治さん。

芦沢:僕が住空間をつくるときは、そこに住まう人がどのような生活をするのかという想像力を働かせることからスタートします。朝起きて何をしたいか、あるいは帰宅したらどんな気分でいたいか、知らず知らずにどうしても自分の生活感覚みたいなものを投じてしまいます。そういう意味では、僕なりに考える「豊かさ」というか、暮らしの中の良い時間や空間といったものが、反映されていると思います。

相澤:一般的には、億ション=ラグジュアリーというカテゴリーとして理解されているなか、当時の私たちとしては、ただ豪華ではない別の形を求めていて、芦沢さんにお願いすることにしたんです。それまでのある種の型にはまった高級で華やかなイメージの暮らしを私たちは目指していたわけではなく、新たな答えを求めながら芦沢さんにたどり着いたという経緯があります。

齋藤:イクシクスを最初に見たとき、非常に画期的だと思いました。R100 TOKYOはまだスタートしたばかりでしたが、当初のR100 TOKYOの物件には、ザ・ラグジュアリーという感じに近いものもあったので、出来上がったイクシクスを見たとき、「あ、こういう感じ!」と驚きました。たしか2億円弱でしたが、当時としてはかなり高額なラインだったので、すごいチャレンだなと感じました。でもとても好評だったと聞いて。きっといろいろな面で開拓をされたのだろうと、あのとき感じていました。

芦沢:そうですね……。おそらくそういうふうに見られている可能性があるということは念頭に置いていたので、その価格に見合う価値ある空間にするために、とにかく細部にはこだわりました。特別なことをしたわけではありませんが、素直に美しいと感じられる材料、正しいディテールの見極め、適切な照明を配するなどして、本質的な快適さや上質さを追求しました。

齋藤:当時のラグジュアリーはやはり足し算の上に成り立っている節がありましたよね。でも芦沢さんの手掛けられた部屋は、素材の使い方も含めて余計なものが極力そぎ落とされた空間でした。でも一瞬、これで大丈夫かな? 受け取り手に理解してもらえるかな? と思ったのも正直なところです。キラキラではなく、マットな質感を高級と感じていただけるかな……とか(笑)。ラグジュアリーは足し算だという通念に反して、思い切った引き算をするその価値観が驚きで、私自身の中でも何かがパーンと破壊された瞬間でした。

イクシクス麻布十番のエントランス
イクシクス麻布十番のエントランス
イクシクス麻布十番、共有部分。演出を抑え、素材感のある空間となっている。
イクシクス麻布十番、共有部分

相澤:麻布十番自体は、今もまだ個人商店が多いような生活感のある街なので、大型複合施設がドーンとあるということではなく、街の中を回遊しながら楽しめる、都心では数少ないエリアです。ですので肩ひじ張らずに、まずはそこに住まう人々がどう暮らしを楽しめるのかということからスタートしました。ある種の現実をきちんと反映したプロジェクトとして私は捉えていましたし、億ションだからとか、大都会に住んでいるからということではなく、暮らしのなかで何を気持ちよく感じるのか、何を楽しく感じるのか、何を欲するのかというところに、素直に向き合った空間だったと思います。実際に見た方々は、自分の暮らしと照らし合わせながらイメージしていただけたのではないかと。

芦沢:当初僕はいわゆる都市型住宅みたいなものをつくっていたんです。モダンなコンクリート打ちっ放しの家もつくっていましたし。素材や色というのは、圧倒的にバランスのなかで決まっていくものであって、ひとつだけ取り出して良し悪しをつけられるものではありませんが、どんな富裕層でも大切なのはリアルな暮らしだと感じているので、生活に寄り添った巣、安心や快適さを与える器であるべきとは、当時も今も常に思っています。ミニマムであってもストイックになりすぎない匙加減が必要です。

齋藤:実際、私たちにも「やはり昔ながらのラグジュアリーじゃないとウケないのではないか」という不安はどこかにはあったと思います。でもその方向に進むのではないと感じていて、その解答をどこに求めるのかといろいろ模索していたんです。シンプルで素朴な北欧スタイルの住戸も含めて様々なことを考えながら試みていました。

相澤:そうしたことを経てイクシクスという一棟リノベーションを手掛けることになったとき、芦沢さんのお力をお借りできることになった。もともとは南麻布にある中庸な賃貸住宅でした。正直、立地も外観も少し難しい物件だったのですが、エリアの個性が際立っていたので、暮らし方に紐づけて見ることができる物件でもありました。

齋藤:麻布十番の商店街を抜けたあたりにあって、南麻布といっても高級住宅街からは少し外れた場所だったので、そのあたりも個性的なものでしたよね。

相澤:私の印象では、都会的なエッセンスやアーティスティックな視点を建築に取り込んでくださった好例だったと思っています。なおかつ日常生活と切り離されていなくて。

芦沢:僕のもうひとつのバックグラウンドが家具の仕事なので、必然的にいろいろな人の住まいを訪れる機会が多いということがあります。ゲストルームに泊まる趣味もあるので、海外でもいろんなお宅に泊まっています。そうすると家主の国籍や職業も含めた多様な背景を実によく感じ取ることができます。例えばイギリスに住んでいるスペイン人カップルの家だと、どことなくスペイン的な空間になっていたり、その人のセンスが全面に表れていたり。ヨーロッパの建築というのは器としてはかなりタフなんです。アパートメントの壁などは、歴代住んだ人がペンキを塗り重ねていたりします。そういう感覚に僕自身も影響を受けているんだと思います。ふと日本の住空間を見たときに、どうしてこんなに貧しいのかなという疑問を抱くことはありました。

川上:日本人だとなかなか自分で壁を塗ってしまうようなセンスのある人は少ないかもね。

芦沢:マンションのリノベーションなどでは、既存のものを活かすというのが工夫のしどころですよね。僕としては、まず嫌なところをつくらないということがすごく重要な気がしています。気持ちの悪いスペース、違和感のある素材、不自然な照明などを取り除くだけで、かなり心地が良くなる。それをするだけで実は十分と感じることもありますね。R100 TOKYOの場合は、ユーザーが最初から見えているわけではないので、その加減がわりと難しいんです。最初から住み手の顔が見えていれば、バシッと当てはめる自信はあるんですけど……。無理して引き算したり、足し算するのではなくて、どこかにファジーな側面を残しながら、この場所に長くいたいと思えるような空間を目指していきたいですね。

川上:ちょうどいい塩梅ということですね。

芦沢:そうです。その「ちょうどいい塩梅」というのが、日本ではこれまでラグジュアリーとして語られることがなかったように思います。戦後の貧しい時期を経て、徐々に住まい手も成熟してきたというか、大人になってきたというか、受容する人も増えてきたんでしょうね。

川上:見栄を張るという価値観が、いったん落ち着いてきた感じはしますね。以前は人に見せるためにこうしよう、ああしようという側面もあった。

芦沢:いずれにしても気持ちのいい環境を提供するためには、きちんとした素材で、きちんとした照明や家具をプランニングすることですね。そうした我々の経験、知識、人脈の集積が、ポストラグジュアリーともいうべきR100 TOKYOの本質的価値を強化していくように思います。

「格好いい」から「気持ちいい」へ変化している

相澤:今のお話ですが、住まいは自分のための場所ということに、以前は素直に向き合っていなかったのでしょうか。きっと人の評価を念頭に良し悪しを考えてしまうことが今よりも顕著だったんですね。

芦沢:ではその変化はなぜなのか。少し違う文脈の話ですが、飲食店をはじめとする店舗も、最近はあまり尖っていないというか、どこかホーミー(居心地のよい我が家)な空間が多い気がします。例えば倉俣史朗さんが80年代にデザインしたようなバーは、無機質で白くて明るくて、DCブランドの服なんかを着ていくと、バチッと映えるショーの舞台みたいな設計になっていたけど、今はどちらかと言うと、落ち着いてゆっくり飲もうよみたいな空間です。おそらくそれくらいみんな疲れてしまっているというのもあるだろうけど、今はそれが正しいような気がするんです。

R100 TOKYOクリエイティブディレクターの川上シュンさん。

川上:特にこのところは、格好良さよりも居心地の良さにシフトしてきたというのは、僕も見ていて感じますね。芦沢さん設計の渋谷のブルーボトルコーヒーは、シックなラウンジというかリビングルームの延長のようですよね。長くいたい場所というのかな。以前はコレクションの家具が置かれているような空間がラグジュアリーに感じられもして、眺めるだけの座らない椅子や観賞用のオブジェがあったりしました。もちろん良いものが美しく飾られている空間は僕も好きだし、今でも好きな人が大半だろうけど、そういうものが少し前のラグジュアリーだったとすると、今は座りたい椅子、座り心地のいい椅子により価値を置く方向に変化しているのかもしれないと感じますね。

齋藤:私たちもそうした変化は感じています。

川上:芦沢さんは家具もデザインするから、ディテールや質感に対する感度がシャープなんだと思って見ているんです。僕はよく解像度の話をするんですけど、建築家とグラフィックデザイナーの違いで、建築家はメートル単位で見ることが多いけど、僕らグラフィックデザイナーはコンマやミリ以下まで見ることが多い。いろんな人と仕事をしていて感じるんですけど、建築的な視点で空間をつくるのと、プロダクトやインテリアデザインの視点で空間をつくるのとでは、どうしても解像度が違うんですよね。もちろん建築家目線の空間もダイナミックで大胆で美しいし、プロダクトやインテリア寄りの目線も繊細で素晴らしいという二つの局面があるので、当然ながら優劣の問題ではありません。どちらかというと芦沢さんは後者というか、解像度が高いタイプではないかな?

芦沢:そうですね、かなり面倒くさいタイプです(笑)。

川上:いやぁ、多分両方とも面倒くさいんですよ(笑)。いずれにせよ芦沢さんの内装空間は非常に触り心地があるというのかな。そのへんは意識しているのか、なんとなくそうなるのか……。

芦沢:素材を知れば知るほど触り心地は気になりますね。ウールなのかアクリルレーヨンなのか、天然リノリウムなのか、塩化ビニールなのか……。同じ鉄の塗装でも、少し砂を混ぜて塗装した方が有機的な感じがするし、ツルツルピカピカだと無機質になるみたいな微妙なコントロールで空間は変化してくるので、それに気がつくとどうしても意識しないではいられないんです。そして本質的にいい空間というのは、そういうものが絶妙なバランスで組み上がっている空間ではないでしょうか。場合によっては人が住み始めることでさらに良くなる。住んでいる人が家具や照明の位置を調整することで、より洗練された空間が完成されれば素敵ですよね。

川上:それが暮らすという体験のなかで得られる本来的な価値ではないかな。

芦沢:レストランなんかもオーナーのセンスがいいだけで、すごく魅力的になりますよね。そういうことはもう少し住居においても適用されるべきだと思うんですよ。

川上:確かに住空間はもっと、触り心地や居心地という「心地」を大事にしていかないと。ラグジュアリーや上質な空間はどういうものかを再定義すると、居心地や触り心地も含めたクオリティの高さが不可欠であるというのは、芦沢さんとディスカッションしていると必ず行き着くところですね。もちろん見た目も大事だけど、触ったときや使ったときの心地を最優先にすべきかなと。

芦沢:例えば今、僕たちが囲んでいるこの打ち合わせテーブルだけど、晴れの日の午後の、照明を使っていないときの見え方が、一番クリエイティブな状態だと僕は思っているんです。嫌な感じがまったくしない。本質的に良いものは演出する必要がないということを僕は信じていますし、リビタの方々も同意見じゃないかと思っているんですけど。

R100 TOKYO事業部の齋藤瑠美子。

齋藤:そういうのはやはり、体感してみないとわからないですよね。先入観を取り払って本質と向き合える人は実はそう多くはないと思うんです。日本人には特にバイアスがかかっている人が多いというか、一般論としてこういうのが素敵な家、これが正解という思い込みが比較的ある方だと思います。前に芦沢さんとは何度も話したことですが、カーペットはだめで、フローリングがいいと思っている人って圧倒的に多い。たしかに無垢のフローリングは気持ちがいいし、肌触りもいいけど、カーペットがだめな理由を熟考していないケースが多々あります。実際に体感してみるとカーペットも気持ち良くて、ハウスダストの問題もないし、暑くない素材もたくさんある。そうした良いものに触れる体験を経ずに、ある種の固定観念がいくつかの選択肢を削除してしまうのはとても残念だと思います。高級・高額の物件に限定した話ではなく、日本人はテンプレ―ト的な家を求めがちですね。それは日本の不動産市場がつくった負の側面なのかもしれませんが……。

芦沢:それは建築家の側にも言えます。良い空間を体験していない限り、良い空間をつくろうとは思わないという当たり前のことが起こります。別段、良い空間というのは海外にしかないわけではなく、神社仏閣をはじめ、日本の中にもいっぱいあるわけです。このあいだ富山に国宝を見に行ったんですが、それがすごくいい空間だと感じました。そういうものを見ることもとっても大事だと再認識しましたね。住空間だったら、上手に暮らしている人の家に行くと感動と驚きがありますよね。思わず「コーヒーください」って言いたくなるような(笑)。

齋藤:確かに不思議と気持ちがいい、心地がいいと感じる住まいってありますよね。

芦沢:逆に言うともったいない家というのもあります。思わず片付けたくなってしまうというか。ちょっと10分だけ時間ください、みたいな(笑)。

「フォー・オール」ではなく「フォー・ワン」という姿勢

川上:芦沢さんが物件を手掛けるときに大事にしていて、スタッフに常々言っていることは何かあるんですか?

芦沢:言葉で言うことはあまりないような気がします。ただ自分たちがつくってきた空間を連れて歩くというか、ここはこういうところがうまくいったし、ここはこういうところがうまくいかなかったみたいなことを共有することはすごく重要に思っています。経験を共有していくということでしか伝えられないことがあると思いますし、空間=言語ではないので、経験を共有するなかで初めて言葉が生きてくる気がするんです。もし空間=言語になってしまったら、それはもうレシピというか、仕様書みたいなものですよね。僕らの仕事はそういった質のものではないので。

川上:僕はデザインも言語化すべきと考えるほうなので、キーワード化したり、言語に置き換えるタイプなんですが、芦沢さんはあまり言語化しないほうなんですね。

芦沢:もちろん言語化することによって理解が深まる場合はしますよ。ただ経験がないところで言語化しても、言葉だけが上滑りして共有できないケースがあるということなんです。「あの店のカレーライスがうまいんだよね」と言っても、カレーライス自体を食べたことがなければ、何も伝わらないですよね。

川上:「経験と学習をとにかく繰り返すことで投資がうまくなる」と、あるシリコンバレーの人が言っていたんですが、やはり経験して学び、もう一回経験する。それを繰り返すことで蓄積され、より良い結果を導き出すことができるという話ですね。

芦沢:そうですね。経験が蓄積されてくると目が養われ、ものによっては瞬時に判断することが可能となります。これは有名な話ですが、贋作か本物かを見分ける秘訣は、本物を見つづけることだそうです。贋作と本物を両方見てきた人は、本物そっくりの贋作には騙されるのだと。僕も後輩たちにそういう形で伝えていくしかないんですね。結局、いいものができるまでには当然時間はかかりますよ。

齋藤:何か違うものに対して自然と違和感を持つには、本物を見ることが必要ということですね。

イクシクス麻布十番、室内
イクシクス麻布十番、室内。室内も、シンプルながら木などの素材の組み合わせが心地よい空間にまとめている。
イクシクス麻布十番、室内
イクシクス麻布十番、室内

芦沢:そのためには、いったんは誰かのレンズを通してものを見て学ぶというのもやはり必要なんですよね。だから僕なりのレンズを渡して、こういうふうに見るんだぞと言うんだけど、そのうちに言われたほうにも自分なりのレンズができてくる。もっと言うと僕のレンズだって最初は誰かから借りてきて、それを自分で削ったレンズなんです。つまりはレンズそのものが歴史なんですよね。

齋藤:自分なりにレンズを削るというのがポイントですね。日本の住宅が画一的なものになっているのは、そのまま誰かのレンズを通してしか見ていないからなのかもしれません。さっき芦沢さんがおっしゃっていた、ヨーロッパなどの住宅のペンキを塗り重ねてきたお部屋の心地よさを経験していなくて、とにかくフローリングはピカピカ、照明はバチバチみたいなものしか見てきていなければ、発想自体が沸かないはずです。

川上:それと、日本人はみんなに好かれようとしすぎなのかもしれないですね。あるいはみんなに嫌われないようにというか、怒られないようにしている感じがありますよね。これは住宅だけの話ではなくすべてにおいて当てはまるかもしれないけど、「フォー・オール(For All)」を意識しすぎると、いろんなことがぼやけてくる。僕は「フォー・オール」は推奨しないです。ちょっと嫌われてもいい、好かれなくてもいいという勇気を持つことは極めて大事だと思います。基本的にものづくりやビジネスの根底は共感で、共感したら購入に至るわけですよね。でも全員に共感されるというのはたぶん不可能です。

相澤:あらゆる人がひとつの意見に共感するというのは、むしろ不健全な状態と言えるかもしれませんね。

川上:だからR100 TOKYOも同様に、みんなに好かれるものを目指すのではなくて、どちらかというとちょっと偏っていてもいいから、「これすごくいいよね」っていう強い共感を持った人が購入してくれて、その共感が繋がっていくブランドになればいいのかなと思っています。それは固定化された価値観ということではなくて、ある種の幅は持たせながら、他社とはひと味もふた味も違う住空間を提案するブランドということです。実際に戸数をたくさん販売しているわけではないので余計にいい。100部屋販売しなきゃいけない場合は100人の共感が必要だけど、10部屋だったら10人の共感でいいので、そういう部分においても、なんとなくみんなに好かれるような空間である必要はないわけですよね。

齋藤:大手ディベロッパーはたくさんつくって、たくさん売るという目的があるので、そこはビジネスの仕方も自ずと異なってきますね。

川上:だから芦沢さんだったり、建築・デザインを担当した人の思想を内包した空間が、そのまま住み手に届いていく、ある意味「ワン・フォー・ワン」的な良さや贅沢さがあると感じますし、そのための交通整理や汲み取り方をしようという真摯な姿勢がブランド側にあるのがとてもいいなと思っています。ワン・フォー・ワンの集積は多様性に繋がるから、つまりは画一的な価値観にはならないはずなんです。いろんな人の価値観がいろんな物件を通して、住む人の多様な暮らしに展開されていけば、R100 TOKYOはさらに面白くなると思います。

建築ディレクション部の相澤佳代子。

相澤:今お話を伺いながら、R100 TOKYO立ち上げの頃からの経験を重ね合わせてみると、改めていろいろと腑に落ちるところがありました。住まいは本来個々のものであって、金太郎飴みたいにどこを切っても同じではないよね、ということからスタートして、物件ごとの個性をくみ取りながら一戸一戸つくってきましたが、最初はやはり市場が見え切っていなかったところもあったんです。立ち上げからの8年のなかで、多くの建築家、デザイナー、クリエイターの方々と組みながら、いろいろな方向性や角度を持った住まいを送り出してきたわけですが、その過程でそれぞれの方々のレンズをお借りし、また様々なご要望を持ったお客さまのレンズもお借りして、多くのものを蓄積してきた感じがします。それ自体はもちろん財産と言えますが、現在は、整理されていない宝石箱のような状態になっている。ですので、リブランディングというこの機にもう一度精査をしようと。これまでの経験を振り返って、我々がいいと思うものをきちっと打ち出してお伝えしようというのが、このタイミングなんです。

川上:つまり今回やるべきことは価値観の整理ですよね。これまでいろいろな取り組みを続けてきて、かなり横幅は広がっているはずなので、次のステップに行くために一度仕分けや整理をして、R100 TOKYOとして今後、本質的価値観をどう定義するか。10あるものを5つくらいまでに絞るとか、少し広がりすぎたものをもう一回り小さくまとめるとか、そうすることで実はまた広がりが見えてくるものですが、事業がスタートして9年目というのは、やはりその作業を行うべき節目なんだろうと僕も思います。

相澤:それにはまた芦沢さんのぶ厚いレンズをお借りしなくては(笑)。

川上:先ほどの散らかった部屋を片付ける話ではないですが、芦沢さんの視点でちょっと片付けを手伝ってもらっていいですかというのを、きっと受け止めてくれる方なので、芦沢さんは(笑)。テーブルの上いっぱいに広がったものを、どう整えてスーツケースに収めるか。それを今、芦沢さんはタスクとして手渡されていると思うんです。

芦沢:はい、肝に銘じていますよ。(笑)

(以下、第4回 後編に続く)

profile

川上シュン

1977年東京都生まれ。artless Inc.代表。2000年artlessを設立、「+81 magazine」などのグラフィックデザインを中心に活動をスタート。現在はグラフィックから建築空間まで、すべてのデザイン領域における包括的なブランディングとコンサルティング事業をグローバルに展開。カンヌ国際広告祭金賞、iFデザイン賞、NY ADC賞ほか、国内外で受賞多数。また、アーティストとして作品を発表するなど、その活動は多岐にわたる。

▶︎http://www.artless.co.jp/

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芦沢啓治

横浜国立大学建築学科卒。1996年に設計事務所にてキャリアをスタート。2002年に特注スチール家具工房「super robot」に正式参画し、オリジナル家具や照明器具を手掛ける。2005年より「芦沢啓治建築設計事務所」主催。「正直なデザイン/Honest Design」をモットーに、クラフトを重視しながら建築、インテリア、家具などトータルにデザイン。国内外の多様なプロジェクトや家具メーカーの仕事を手掛けるほか、東日本大震災から生まれた「石巻工房」の代表も務める。

▶︎http://www.keijidesign.com/
▶︎http://ishinomaki-lab.org/

profile

相澤佳代子

株式会社リビタ建築ディレクション部 シニアディレクター。事業の立ち上げを経て、事業全体のトーン&マナーや将来の方向性も見据えての活動を中心とする。

▶︎https://r100tokyo.com/

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齋藤瑠美子

株式会社リビタR100 TOKYO事業部 グループリーダー。各セクションを繋ぎ、R100TOKYOとしてのブランディングを含めた商品企画と推進を担当。

▶︎https://r100tokyo.com/

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