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桝井淳介氏が語る、ランドスケープデザインへの想い
Focus on Designer

桝井淳介氏が語る、ランドスケープデザインへの想い

「より多くの人がモノづくりに参加できる社会、そこに豊かさが生まれるのではないか」——桝井淳介氏が語る、ランドスケープデザインへの想い

デザインによって「より豊かな暮らし」の実現に寄与する人物を紹介する「Focus on Designer」。5回目はランドスケープデザイナー、桝井淳介氏。「木や石に同じものは一つとしてありません。自然と真剣に対峙しつつ、モノづくりをすることがランドスケープデザインの面白さです」と和やかな表情で語る。“現地現物主義”を信条に、もっぱらフィールドワークに勤しむ桝井氏のデザインアプローチや、モノづくりに対する想いなどについて伺った。

Text by Mikio Kuranishi
Photographs by Mori Koda

美大で建築を学んだ後、庭園作家であり禅僧でもある枡野俊明氏に師事。独立後、ランドスケープデザイン事務所を立ち上げた桝井淳介氏が常に心がけているのは、デザインプロセスにできるだけ関係者を“巻き込む”こと。参加してもらうことで、必ずそこに愛着が生まれるからだという。また、その一方で、ランドスケープデザインとは自然を破壊しつつ緑化するという、矛盾した営みでもあると語る。桝井氏はそれを「共生」として、あえて肯定的に受け入れているそうだ。

——ランドスケープデザイナーという職業は近年、かなり認知されるようになりました。桝井さんご自身はどのように定義されますか?

そうですね、ランドスケープデザインとひと言でいってもかなり広義です。例えば都市全体を考えるアーバンデザインまで含めることもありますし、個人邸の造園もランドスケープデザインです。実際の仕事として一番多いのはビルの外構デザインですが、僕自身の立ち位置としては、造園家寄りだと思います。

では、その違いは何かと問われると、明快な説明は難しいというのが正直なところで、おそらく同業の皆さんも同じだと思います。例えば、僕たちの仕事は先ほどご説明したように、多くは外構なのですが、この「外構」という呼び方自体に、メインはあくまで建築というニュアンスがあります。

建築家に全体の主導権があり、余った部分がランドスケープだという印象がなかなか拭えない。もちろん建築の重要性は認識しているうえで、ランドスケープは「余ったところ」ではない、という思いは強くあります。しかし、近年ではランドスケープデザインの重要性が認識されるようになってきました。かなり初期の段階からプロジェクトに参加できるようになっています。

——桝井さんが最近手掛けられたもので、そういったプロジェクトはありますか?

「ウッドヴィル麻布」というマンションのリノベーションプロジェクトがそのひとつです。1住戸平均200平米超というハイグレードなマンションなのですが、そのアプローチと住戸の庭をデザインさせてもらいました。プロジェクトの初期段階から参加させてもらい、事業全体のテーマに即した考えを提案するという機会もいただいて、非常に面白く、有意義な仕事でした。そういったプロジェクトも徐々に増えてきていると思います。

「ウッドヴィル麻布」のために桝井氏が作成したランドスケープ提案書より「庭草案」。
「ウッドヴィル麻布」住戸内から見た桝井氏設計の庭。

——ところで、ランドスケープデザイナーの状況は、海外と日本では異なるものなのでしょうか?

最近増えている中国での仕事を例にさせていただくと、デザインの進め方は大差ないのですが、やはり国土の広さの違いもあって、ランドスケープデザイナーが果たす役割に大きな違いがあります。日本の場合、計画面積の中では建築面積が占める割合が高い。ところが中国の場合、外構とは呼べないほどランドスケープのほうが圧倒的に広く、ランドスケープをまず決めないと建築のことを考えられません。そうなると、プロジェクトにおけるランドスケープデザイナーの重要性や社会的地位が、日本よりもはるかに高くなってきます。

大切なのは、ランドスケープデザインというモノづくりに、お施主さんも参加してもらうこと

——お施主さんは、住宅の場合は個人、商業施設であればディベロッパー、公共プロジェクトなら自治体と、さまざまだと思います。

おっしゃるように、お施主さんは個人の方もあれば、事業体や自治体、僕の場合はお寺や神社の庭も手掛けていますので、宗教法人もあります。個々に大きな線引きがあるとすれば、プロジェクトにかかる費用をポケットマネーから出されるのか、事業費として計上されるか、の違いだと思います。やはり、その違いによって課題の解き方が大きく変わってきます。

ただ、お施主さんがどのような個人、組織であっても、一貫して僕が大事にしていることがあります。それは、お施主さんに参加していただくことです。ランドスケープデザインはある意味でモノづくり。そのモノづくりにしっかりと参加していただくことがとても大切だと思っています。

もちろん、個人の場合はお施主さんの趣味・嗜好を反映するので、参加なしには作れません。逆に、相手が事業体の場合は少々難しく、やはり組織になると関係者が増え、どうしても最大公約数的な作り方になってしまいがちです。それでもフロントに立つ方には、ぜひ現場に来て参加していただきたいと思い、そういう動機付けや勧奨をさせていただきます。なぜそう思うかというと……単純に楽しいからです(笑)。

「ウッドヴィル麻布」共用部アプローチのための桝井氏のスケッチと竣工写真。
「ウッドヴィル麻布」共用部アプローチのための桝井氏のスケッチと竣工写真。

ランドスケープデザインというモノづくりは、本当に楽しい。材料を選んだり、例えば石を探しに山や川に出かけるときもワクワクします。先ほど紹介したウッドヴィル麻布のプロジェクトでは、施主側のプロジェクトマネージャーさんを巻き込んで、アプローチに使う大きな石を探す旅に同行してもらいました。施工の現場も同じで、そこでどういった汗が流されているか目の当たりにしてもらったり、現場でアレンジを入れる瞬間を体験してもらうと、もっと楽しくなります。

「ウッドヴィル麻布」アプローチの巨石は四国まで足を運び見つけたもの。現地には施主側担当者も同行した。

——桝井さんもお施主さんも、プロジェクトを楽しんでいるのですね。

そのとおりです。ここが一番大切なところなのですが、庭は生き物を使っていますから、竣工したら終わりというわけではありません。むしろそこがスタート地点です。そこから住まい手の方の思いが表れてきます。そのとき、その庭とちゃんと向き合っていただけるか…… ポイントは愛着を持てるかどうかです。もちろん個人の場合は持っていただけるよう作っていきますが、事業体の場合でも、参加していただくことによって愛着が生まれます。愛着が生まれれば、それは住まい手にも伝わります。愛着を持って接する庭とそうでない庭には、大きな違いが出てくるのです。

木や石を「地球から借りました」という感謝の気持ちを持って、自然と対峙する

——桝井さんのホームページのデザイン・フィロソフィーに「木や石と会話しながら空間を作ります」という表現がありました。

「木や石と会話しなさい」という教えは、親方クラスの造園家がよくおっしゃることです。これは環境問題を意識した言葉というよりも、意匠的な意味合いが強いと思います。

僕たちも設計図を描きますが、それはあくまで記号です。過去の経験から、こんな姿があったらいいなという推測や想像の記号なのです。その記号と完全に合致する木や石があるかというと、絶対にありません。それでも、自分の足と目で探しに行った先で、これは思っていたものとは違うけど同じ役割をすると思えば、それを選びます。あるいは、ある役割を担うものを探していたけれど、見つけたものが違う役割をすることでより良い結果が得られると思えば、デザインを変えます。そういうモノづくりがランドスケープデザインの醍醐味であり、面白さでもあるのです。

そのためには材料と真剣に向き合う必要があります。例えば木や石には必ず「表」と呼ばれる、いちばんきれいに見える角度があります。それがどこなのか見つけ出すには、木や石と向き合う、常に自然と対峙するという姿勢が重要な意味を持ってきます。

また、この教えには素材の健康状態をちゃんと見るという意味もあります。木であれば虫が食ってないか、枯れが出ていないか、石であれば割れやすい方向、いわゆる「石の目」をチェックするといったことです。

——常に自然と対峙していらっしゃるなかで、地球環境については、どのようにお考えですか?

ランドスケープデザインの仕事をしている人間にとっては、最も取り組まないといけない課題です。取り組み方というか、接し方については、僕なりに考えていることがあります。

日本は非常に緑豊かな自然に恵まれた国土を持っています。その自然を壊しながら、都市であれば緑化という名のもとに、また郊外であれば里山として緑を植えるという、矛盾した営みをしています。僕自身は、これはとても良い矛盾であり、これこそが共生だと思うのです。

「建築や造園に使われる石はどこからきているか?」……この話は学生に教えるときにも必ずします。採石場の写真を見るとよくわかりますが、まさに地球を削っているかのような様は、言ってみれば強烈な環境破壊の絵です。それでも、これも共生なのです。

つまり、人間の営みとして、社会として必要なことだと認識したうえでの活動ならば、そこから出てくる素材を粗末に扱うことなく、きちんと「地球から借りました」という気持ちを持って感謝しながら使う。そういう姿勢が大切なのだと思っています。そこで、まだまだ小さな取り組みではありますが、例えば石は基本的に朽ちることなく半永久的に使えますから、なるべく古材や廃材を再利用するようにしています。

誰もがモノづくりに参加できる社会、そこに豊かさがあるのではないか

——桝井さんの日常というか、ワークスタイル、ライフスタイルについてお聞かせください。

横浜市郊外にある小さな家から、市内のオフィスに毎日出社しています。ただ仕事柄というか、現地現物主義なので、材料を探すために可能な限り現地に出かけます。もちろん現場指導にも通いますから、他のデザイナーさんに比べるとフィールドに出ている時間が割合としては高いですね。

自宅には小さな庭があって、先ほどお話しした古材、廃材、余り材を使ってさまざまな実験をしています。舗装が主ですが、試してみて、これは意外と面白いし使えると思ったら、実際にプロジェクトに採用することも。先述のウッドヴィル麻布のアプローチの舗装は、そうやって生まれたデザインです。

——生活の中で桝井さんが大切にされていること、あるいは桝井さんにとっての豊かさとは何でしょうか?

ひと言ではまとまらない、というよりも答えがないというのが答えじゃないかと思います。豊かさに定義はないし、10人いれば10通り、いや、ひょっとすると100通りの答えがあるかもしれません。ですから、違和感を取り除くのは比較的容易ですが、誰でも満足できるようなものを提供するのはとても難しい。僕たちランドスケープデザイナーもそうですが、住空間を作る仕事に携わる人間は、誰もがそう感じていると思います。

住宅だけでなく、プロダクトもそうかもしれません。例えば、ある製品を手にするとき、理由はどうあれ違和感を覚えるものもあります。しかし、その開発に自分が関わっていたら、そうはならないと思うのです。関わることでそこに愛着、愛情が生まれるはずだからです。

前に、お施主さんになるべく参加してもらいたいという話をしましたが、まさにそのためです。もちろん「言うは易く行うは難し」ですが、何事においても、そういった時間を消費者・ユーザーが共有できるようになれば、違和感やストレスはもっとなくなるのではないかと。いろいろなものにいろいろな人が参加できる世の中になれば、そこに豊かさがあるのかな、と思います。

profile

桝井淳介

1971年神奈川県生まれ。95年多摩美術大学建築科卒業。97年、同大学院美術研究科デザイン修了。同年日本造園設計株式会社入社、庭園作家(禅僧)枡野俊明氏に師事。2014年に退社後、株式会社桝井淳介デザインスタジオ設立。国内外を問わず社寺や個人邸、マンション、ホテルなど、日本文化を基軸に伝統庭園から現代空間まで幅広くデザインを行う。17年、ランドスケープアーキテクト連盟理事就任。

▶︎http://mjds.jp/

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