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“都市のセカンドハウス”を想定した近未来建築を別次元で保存・再生――「中銀カプセルタワービル」
未来に残したい、TOKYOの建築

“都市のセカンドハウス”を想定した近未来建築を別次元で保存・再生――「中銀カプセルタワービル」

1972年に竣工した黒川紀章設計の新陳代謝を構想した建築は、半世紀を経た今もその先進性において色褪せることはない――「中銀カプセルタワービル」

建築物の更新や刷新を生き物のように繰り返す、東京の街。一方で、街の風景を支え続けているのは、世代を超えて継承される建築物の変わらない空間である。人々の心を惹きつけてやまない東京の名建築を紹介する本連載の5回目に取り上げるのは、1972年に竣工した「中銀カプセルタワービル」。カプセルを取り替えることでまさに新陳代謝を繰り返すことが構想された建築であったが、一度もカプセルは更新されることなく取り壊されようとしている。しかし、約半世紀の間に建築が利用者とともに発展してきた姿は色褪せることがない。そして、建築が失われるとしてもカプセルをより広いかたちで存続させようという試みが進行している。

Text by Jun Kato
Photographs by Koji Honda

新時代の到来を高らかに宣言したカプセルタワー

銀座8丁目の新橋や汐留に近く、首都高速道路のそばに立つ「中銀(なかぎん)カプセルタワービル」。丸窓のある白いブロックがポコポコと集まって取り付いた外観は、「蜂の巣のよう」「洗濯機が積み重なったよう」と形容されてきた。日本の著名な建築家の一人・黒川紀章の代表作として、また建築史上重要な建物として世界的に知られ、その姿を見ようと世界中から訪れる人が絶えない。しかし1972年に竣工した建物は50年の時を経て2022年、取り壊されようとしている。

カプセル内部から首都高速道路を眼下に見る。

黒川紀章は、最初の「カプセルホテル」の設計者としても知られる。カプセルタワービルにもつながるカプセルのコンセプトは、1969年の「カプセル宣言」発表にまで遡る。その宣言の中で黒川は、来るべき家族像と居住空間のかたちを次のように予測していた。
「カプセルは個人を中心とする新しい家庭像の確立を目指す。夫婦を中心とする住宅単位は崩壊し、夫婦・親子といった家庭関係は、個人単位空間のドッキングの状態として表現されるようになるだろう」

黒川はカプセルのことを「情報社会の中で、個人が自立できるための空間」また「ホモ・モーベンス(動民)のための住まい」とも説明している。カプセルは揺れ動く家族像に適応する居住空間として、提唱されたのであった。

1970年に大阪で開催された日本万国博覧会で、黒川はコンセプトモデルである「空中テーマ館住宅カプセル」をパビリオンとして展示。そのカプセル建築を見て心を揺さぶられたであろう人物が、実業家の渡辺酉蔵(とりぞう)であった。中央区銀座の地名からとった「中銀(なかぎん)」を社名に入れた「中銀マンシオン株式会社」で貸ビル事業を手掛けていた渡辺は、黒川に集合住宅の設計を依頼。「中銀カプセルタワービル」が誕生した。

竣工当時、周囲には高い建物があまりなく周囲を見渡すことができた。©ZUMA Press/アフロ
旧国鉄の貨物駅跡地を再開発した汐留エリア側から首都高速道路越しに見上げた、現在の外観。

竣工当初、付近には木造建築の料亭街が広がっていた。周辺には高い建造物はほとんどなく、地上13階と11階の2つの建物からなる中銀カプセルタワービルの住戸からは「第一ホテル」(1938年)や「第一ホテル新館」(1960年)、「世界貿易センタービルディング」(1970年)、そして「東京タワー」(1958年)が見渡せたという。

50年前に提案された“都市のセカンドハウス”

エントランスを入ったロビー部。右がエントランス扉、正面奥が片方の棟のエレベーター。左手にフロントカウンターがある。(『中銀カプセルタワービル 最後の記録』 草思社 提供)

中銀カプセルタワービルは、ビジネスマンが「都市のセカンドハウス」として利用することが想定されていた。エントランスを入るとフロントが正面にある中銀カプセルタワービルは、マンションとして管理されながら、ホテルのようでもあった。また、電話応対や複写サービス、小型計算機等の貸し出しなどのサービスも用意され、オフィスや事業所としてカプセルを利用することも想定されていた。

オリジナルの状態が比較的多く残るカプセル内部。

カプセルタワービルにある140個のカプセルは、すべて幅2500mm×奥行4000mm×高さ2500m。ベッドや収納家具が造り付けられるほか、FRP一体成型によるトイレ・洗面・風呂のバスルームが組み込まれた。そこに、出入り口のスチールフラッシュドアと、丸型で直径が約1.3mのスチール枠の窓が取り付く。壁と天井はクロス張り、床はフェルト張りかカーペット敷きの仕様であった。キッチンは備え付けられておらず、食事は外の街でとることが想定されていた。

左手に折り込み型デスクユニット、右手のベッド側にテレビや照明機器、オーディオ機器が配された収納部。
カプセル内部から出入り口側を見る。左手はバスルーム出入り口。長円形のドア、丸い窓と給気口からは近未来的な雰囲気が漂う。
トイレと洗面、浴槽が備わったバスルーム。多くのカプセルは、FRP一体成型でつくられた。

カプセル内部が6畳ほど、バスルームを除くと約4畳半という大きさは、一人で過ごすには必要にして十分な広さである。壁面の造り付けの収納には、折り込み型デスクユニットやエアコンユニット、ベッドのオーバーヘッドコンソールにはカラーテレビやデジタル時計が備え付けられていた。オプションでは、デスク照明と計算機、オープンリールのオーディオデッキとステレオスピーカーも組み込むことができたという。最先端のテクノロジーに囲まれながら、銀座の街の上空に浮かぶ生活は、刺激的で高揚感のあるものであったに違いない。

黒川は「カプセルは建築の土地からの解放であり、動く建築の時代の到来を告げるものである」とも宣言していた。個々のカプセルは、軽量鉄骨を用いて工場であらかじめ量産。現地までトラックで搬送され、空に向かって垂直に伸びる2本の巨大な支柱に対して、各階に一つ一つ向きを変えながら取り付けられた。カプセルは互いの壁を接することなく、すべて独立した状態である。

2つの棟をつなぐ通路。外壁や屋根の傷みのほか、設備の不具合も問題となっていた。(『中銀カプセルタワービル 最後の記録』 草思社 提供)

建築当初、黒川は建築を生命体のように新陳代謝させる理論運動「メタボリズム」に基づき、カプセル自体を25年ごとに交換することを構想していたという。しかし現実的にはカプセルを一つずつ取り外すことは難しく、カプセルは一つも交換されることがなかった。また全体での大規模な修繕工事も行われることなく、設備を含めた建物の老朽化が進行したため、たびたび存続の危機に瀕してきた。

建築が個性豊かな人々を引き寄せる

2007年には区分所有者によって建て替えが決議されたものの、跡地にマンションを建築する予定だった業者の倒産により決議は無効に。「中銀カプセルタワービル保存・再生プロジェクト」を主宰する前田達之さんは、決議の後の時期に「売りカプセルあります」というビラを街頭で目にしたことから、中銀カプセルタワービルに深く関わるようになった。

前田達之さんは「中銀カプセルタワービル保存・再生プロジェクト」を主宰。

「半ば衝動買いで、一つのカプセル住戸を購入しました。自分が小学生の頃、家族旅行で首都高速でそばを通ったときにカプセルタワービルを目にし、記憶に強く残っていました。社会人になって近所の会社に勤めるようになり、身近に感じてはいましたが、一つを所有してから本格的にのめり込むようになりました」と前田さんは振り返る。

最も多いときには15のカプセルを所有し、保存への働きかけを区分所有者の側からしていた前田さん。最近では建築の文化的な価値に注目した海外のデベロッパーがすべてを買い取り、カプセルを外して交換する計画も持ち上がったが、コロナ禍にあって話は白紙に。2021年3月に土地の売却が決定し、2022年2月時点では住民の退去がほぼ終了している。

前田さんはカプセルの保存・再生の活動を続けるなかで、建築自体の魅力とともに、カプセルの住民や利用者のキャラクターに惹かれていったという。「よくこんなに面白い人が集まってきているな、と(笑)。建築やインテリア系の人をはじめ、アーティストや映像クリエイター、DJなど、クリエイティブ系の方々が多くいました。彼らは老朽化からくる設備の不具合も自分で手を加えて工夫で乗り切っていましたし、大掛かりに改装したカプセルも多くありました」と前田さんは言う。

折り込み型デスクユニットを活用する居住者。(以下写真3点とも『中銀カプセルタワービル 最後の記録』 草思社 提供)
オープンリールテープを動かす居住者。
週末住宅として利用していた関根さん夫妻は「中銀カプセルタワー応援団」というブログを2008年から2015年まで運営。多彩なコミュニティを生む契機となった。

本来はカプセルごと交換することで更新していくはずであった、カプセルタワービル。交換がかなわない状況下で、苦肉の策として改装されたことによって、茶室のような畳敷きのカプセル、アンティークな雰囲気のカプセル、DIYによる左官仕上げで包んだカプセルなど、さまざまなインテリアが生まれた。カプセルはすべて同じ面積で元の仕様はほとんど同じであるため、改装後のバリエーションの豊かさが際立っている。

想定外のコミュニティも育んだ建築

また前田さんは「カプセルタワービルに惹かれて集まってきている人同士の独特なコミュニティは、最大の魅力となった」と語る。全員ではないが、入居者や利用者はメールやSNSで有志がつながり、カプセルを使いこなす知恵を共有するほか、飲み会や餅つきなどのイベントを時折開いてきたという。

竣工当時は、プライバシーを重視するサラリーマンがスマートに過ごす「都市の隠れ家」のイメージが設定されていたであろうカプセルタワービルでは、時が経つうちに入居者の変容によって「都心の長屋」とも呼べる、親しみやすいコミュニティが形成されていった。「カプセルタワービルを中心として、さまざまな人とのつながりができました。ここまでのコミュニティは、ほかの建築物では聞いたことがありません」と前田さんは言う。

前田さんたちはこれまで、カプセルタワービルの見学会を定期的に開催してきた。「見学会の参加者も最初は建築系の方々が多かったのですが、最近では8割方はほかの分野の方々でした。そして、圧倒的に女性が多いことに驚きましたね。女性の社会進出が以前より進んだ背景はあると思いますが、面白いと感じることに迷いなく飛び込む気質が強いのかもしれませんし、狭い空間に落ち着きを感じるのかもしれません」と前田さんは分析する。賃貸やマンスリーでの利用も、女性の申し込みが多かったという。

マンスリー宿泊の利用のために改修されたカプセル。壁面の造り付け収納は撤去され、シェルフが新たに置かれている。
マンスリーでの宿泊のために改修された、ほかのカプセル。

竣工から半世紀の時を経て、インターネットの普及も伴い、人々の働き方や住まい方は大きく変化した。現在のようにテレワークが普及してくると、カプセルのような適度にコンパクトな空間は重宝されるだろう。初期の想定から外れることが起こっても、カプセルタワービルはそれらの事象を柔軟にのみ込んできたようにも見える。

解体後も続く保存・再生の道

カプセルタワービルの解体が近づくなかで、前田さんは別の保存・再生の道を探ってきた。黒川紀章建築都市設計事務所と協働し、カプセルを取り外して改修するプロジェクトを発足。引き取りを希望する美術館に寄贈する案があり、以前からカプセル譲渡を依頼されていたフランスのポンピドゥー・センターを含め、すでに国内外の約30の美術館が手を挙げているという。

また、ホテルやキャンプ場などで宿泊施設として利用する案もある。カプセルを都市で垂直でなく、郊外の平地で水平に並べるというのは、カプセルの初期の思想に沿っているのだろうか。前田さんは「静岡県伊東市に『中銀宇佐美カプセルビレッジ』として宿泊施設をつくる構想もあったようです。当初から郊外での展開も考えられていたことに驚きますし、現代でもカプセルを基にして利活用のさまざまな発想が出てくる元の設計はすごいと感じます」と前田さん。

実際にカプセルを外すとなると、どのように固定ボルトを外し、カプセルを吊って移動するかという課題がある。また利活用にあたっては、耐火被覆として吹き付けられていたアスベストをどこで撤去するか、修繕にかかるコストを誰が負担するのかといった課題もある。しかし「カプセルの次の姿を見たいし、次世代につなげていきたい」と前向きに語る前田さんからは、不安の要素と乗り越えるべき障壁は小さいものに思われてくる。

カプセルの円形の窓を開けた状態。
カプセルの窓には、扇子のように開閉できるカーテンも備え付けられている。

2022年は、1972年の竣工から奇しくも50周年。カプセルタワービルのグッズ化やアパレルブランドとのコラボレーションを含め、建築のジャンルを超えた展開も予定されている。また黒川紀章建築都市設計事務所が、保管する設計図面などを提供することで“デジタル保存”を目指すプロジェクトも始動している。

「どのようなかたちであってもカプセルを多くの方々に体験していただき、カプセルの楽しみを実感してもらうことで、カプセルファンをさらに増やしたい」と前田さんは展望を語る。

取材協力

中銀カプセルタワービル保存・再生プロジェクト
▶︎https://www.nakagincapsuletower.com

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