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遠山正道×鈴木芳雄 連載「今日もアートの話をしよう」vol.17   『ゲルハルト・リヒター展』―担当研究員・桝田倫広さんに聞く
今日もアートの話をしよう

遠山正道×鈴木芳雄 連載「今日もアートの話をしよう」vol.17 『ゲルハルト・リヒター展』―担当研究員・桝田倫広さんに聞く

ゲルハルト・リヒターに迫る-『ゲルハルト・リヒター』展

「Soup Stock Tokyo」を立ち上げた、実業家の遠山正道氏と、美術ジャーナリスト・編集者であり、長年雑誌「BRUTUS」で副編集長を務め「フクヘン。」の愛称をもつ鈴木芳雄氏が、アートや旅、本や生活について語る「今日もアートの話をしよう」。17回目は、現在、東京国立近代美術館で開催中の『ゲルハルト・リヒター展』(10月2日まで)を担当している同館主任研究員・桝田倫広さんをゲストに迎えて、展覧会について、そしてリヒターの絵画・制作についてお話をうかがった。

Text by Yoshio Suzuki
Edit by Fumi Itose
Photo by Takuya Furusue

『ゲルハルト・リヒター展』

© Gerhard Richter 2022 (07062022)

鈴木:東京国立近代美術館で開催されている「ゲルハルト・リヒター展」に来ています。今回は、この展覧会を担当した同館主任研究員の桝田倫広さんに話を聞こうと思います。

桝田:今回はほぼすべて、ゲルハルト・リヒター財団が所有する作品で会場が構成されています。会場には時系列の動線があるわけではなく、なんとなくそれぞれの部屋ごとにテーマはあるにはありますが、来場者が気になったところに行きつ戻りつしながら観ていただくという展示構成です。要所要所にガラスの作品があり、その効果もあって、もちろん、一つ一つが作品でありながら、この空間全体が作品であるというようなつくりになっているんです。

遠山:特に順番があるわけでもなく、前説のようなものもない?

桝田:各章の解説は特になく、入口に置いてあるハンドアウトには、会場マップや作品タイトル、そしてリヒターがこれまでどういった作品をつくってきたかといった、シリーズごとの解説が収録されています。これを手がかりに展覧会を回っていただくのもいいですし、いろんなところを自由に観ていただくのもいいですね。

遠山:今回の展覧会のために、リヒターさん本人もドイツから来られたんですか?

桝田:残念ながら来ることは叶いませんでした。コロナのこともありますし、90歳というご高齢で難しい。逆に僕が4月の末くらいに行きまして、展示のプランを見せながらお話しました。それまでのリモートミーティングですでにこの計画でいいと言われていたものだったんですけれども、実際に見せてみると、この壁ならこの編成がいいとか、変えてみたいという話も出てきて、作品並びを考え直してもらい、それに基づいて展示しています。

遠山:純粋にとにかく観て、みたいなことでいいんですね。

© Gerhard Richter 2022 (07062022)

桝田:リヒター財団コレクションというのは、彼がこれまで手がけてきた作品が満べんなくあるわけではなくて、90年代以降のものが多いんです。

遠山:90年代くらいから巨匠になっていくんですか?

桝田:どこからというのは難しいところがありますが、88年にカナダとアメリカで大規模に展覧会が開催され、トロントのオンタリオ美術館、シカゴ現代美術館、ワシントンDCのハーシュホーン美術館・彫刻庭園、サンフランシスコ近代美術館に巡回しました。

近年の最重要作品《ビルケナウ》日本初公開

ゲルハルト・リヒター 《ビルケナウ(CR: 937-1)》 2014 キャンバスに油彩 260×200cm ゲルハルト・リヒター財団蔵  © Gerhard Richter 2022 (07062022)

桝田:まずはこの《ビルケナウ》を。これは2014年につくられた作品で、リヒター自身が長らく課題と考えていたものを、ようやく果たせたのだと語っています。横に展示してある写真は、アウシュヴィッツ・ビルケナウ(編集註:強制収容所)で、収容者によって撮影された4枚の写真の複製です。これを最初はキャンバスに描こうとしたんです。実際に、忠実に描いてみたのだけれど、それでは作品としてはなかなかうまくいかないと判断し、その上に抽象的な色彩を重ねました。しかも最初は「アブストラクト・ペインティング」と名付けられていましたが、その後、《ビルケナウ》と改称して、タイトルとこうした複製写真によって、絵の背景(下地)に何が描かれているかということを仄めかすという展示になりました。

© Gerhard Richter 2022 (07062022)

遠山:これは風景写真ですか?

桝田:大量虐殺が行われ、死体が積み重なっているところが写っています。リヒターは60年代からたびたび、このホロコーストの表象をどうにかして描こう、作品として生み出そうと試みたんですが、結局それを世に出すことはなかったんです。ですが、この作品によってそれが果たされたのです。この作品を散逸させないように、というのも財団設立の目的の一つだったようです。

ゲルハルト・リヒター 《ビルケナウ(CR: 937-1~4)》 2014 キャンバスに油彩  各260×200cm ゲルハルト・リヒター財団蔵  © Gerhard Richter 2022 (07062022)

鈴木:この4枚の写真が文字通り《ビルケナウ》に封じ込められていると。彼はドイツ人として戦争や戦後責任を背負って仕事をしていますね。

桝田:リヒター自身はのちに社会主義国家となる東ドイツに生まれ育って、もともとはドレスデンの美術アカデミーに通っていました。そして1961年に資本主義であり、東よりずっと自由な西ドイツに行くわけですが、その約半年後に東西と行き来が禁止され、ベルリンの壁ができるんです。なので、共産主義とか社会主義的なものについてはやや懐疑的というか、あらゆるイデオロギーに対して大変な不信感を抱いています。イデオロギーというものはものの見方を定めてしまったり、行動を定めてしまったりする。そういった人間を規定してしまうようなことを疑ってかかるタイプです。ドイツ赤軍の亡くなった人たちを描いた作品もありますが、それは彼らの政治信条に共感したのではなく、イデオロギーに翻弄されて亡くなった人に対する憐憫の思いから描いたと言われています。

鈴木:もともと壁画の画家をやっていて、西側に旅行に来たら、自由な芸術を見つけてしまったんですよね。ルーチョ・フォンタナとか、ジャクソン・ポロックとか。第2回のドクメンタですね。

© Gerhard Richter 2022 (07062022)

遠山:抽象的に仕上げているのは何かを消し去ろうとしているんですか?

桝田:見たいという人の欲求をどこかで逸らすようなそういう目論見もあって、描いたものの上から抽象を重ねたのかなという気もします。やっぱりドイツ国内に限らず、欧米圏では、ホロコーストを表現することができるのか、それはできないことなのではないか、といったような議論がありました。

《ビルケナウ》展示風景 © Gerhard Richter 2022 (07062022) 撮影:山本倫子

遠山:この部屋には、この絵画を撮影した写真作品が絵画と対になるように展示され、間にグレーの鏡が設置されていますね。

桝田:そうですね。この鏡で見ると、絵画も写真も一緒に見えるわけです。どちらが油画でどちらが写真か、差異の区別もつきにくい。何が真正なイメージであるかを問うてくるような空間だと思います。また、このビルケナウの作品写真や鏡による反映は、ホロコーストという大きな厄災が反復されうるということを示唆してもいる。そうした事柄に我々も囲まれていると。

アブストラクト・ペインティングたち

ゲルハルト・リヒター 《アブストラクト・ペインティング(CR: 778-4)》 1992 アルミニウムに油彩 100×100cm 作家蔵 © Gerhard Richter 2022 (07062022)

桝田:また今回は、財団のコレクションは近年のアブストラクト・ペインティングが多いので、それをたっぷり見せようという目的があります。この92年の作品は支持体がアルミです。なので、ところどころその下地が透けて輝いて見えているのもおもしろいところです。

遠山:色彩が暗いのは、色を乗せているからということなのかな。なんだかあまりいい言い方じゃないけど、まるで下手な画家がどんどんそうなっていっちゃうような、取り返しのつかない感じがしてしまったんですよね。

桝田:どこで止めるか、というのがポイントになってくると思います。その後制作された2000年代の作品は、表面が均質です。ヘラできれいに凸凹があまりないように描いています。2014年の《ビルケナウ》以降はもっと自由に描いてもいいんじゃないだろうか、もう少し描く喜びを感じながら描いてもいいんじゃないかと心境が変わったそうです。そこで2016年から17年にかけてのアブストラクト・ペインティングは、2000年の作品に比べると原色がふんだんに使われ、また、厚塗りになっているというか、厚く盛り上がっているところと削れているところの差が激しくなっています。小さなキッチンナイフを使うようになり、それで絵具を細かく塗ったり削り取ったりしているんです。その、手の動きが再び画面の中に戻ってきました。それが《ビルケナウ》以降のアブストラクト・ペインティングの特徴です。

ゲルハルト・リヒター 《アブストラクト・ペインティング(CR: 952-4)》 2017 キャンバスに油彩 200×250cm 作家蔵 © Gerhard Richter 2022 (07062022)

桝田:またリヒターはもうこれ以上油彩画を描かないと、2017年に宣言したのですが、上の画像がその宣言した作品です。

鈴木:打ち止めということですね。でも描く意欲をなくしたわけではないですよね。

桝田:そうですね。あくまでも油彩画は、ということで、いまも絵は描き続けています。

ゲルハルト・リヒター 《4900の色彩(CR: 901)》 2007 ラッカー、アルディボンド、196枚のパネル 680×680cm パネル各48.5×48.5cm ゲルハルト・リヒター財団蔵  © Gerhard Richter 2022 (07062022)
© Gerhard Richter 2022 (07062022)
© Gerhard Richter 2022 (07062022)

遠山:そしてこちらはカラーチャートのシリーズですね。

桝田:そうです。これは2007年に制作されたものです。ちょうどケルンの大聖堂のステンドグラスをつくる時期に製作されました。カラーチャートのシリーズ自体は60年代の半ばに着手していて、これはもともとは画材屋にあったカラーチャートがすごくきれいで、そのままこれは作品になるぞと思い、それを忠実に描くことから作品が生まれました。この作品は5コマ×5コマ=25コマの正方形が1ユニット。それが196枚あり、それらを組み合わせるのですが、今回は6個の正方形を形づくっています。

鈴木:大5、小1の正方形ができたのだけれど、ユニットを余さず正方形をつくるパターンが11個でしたっけ? 一番単純なのが大きく一つ。

桝田:はい。一番大きいのは約680×680cmの正方形のものです。

鈴木:縦70コマ×横70コマで4900枚ですね。

ゲルハルト・リヒター 《グレイ(CR: 401)》 1976 年 キャンバスに油彩 200×200cm ゲルハルト・リヒター財団蔵 © Gerhard Richter 2022 (07062022)

桝田:またリヒターには、グレイで描いた作品のシリーズがあるのですが、これもカラーチャートと同じくらい、1960年代後半に登場してきました。理念的にはカラーチャートとつくり方は一緒と言えます。というのは、カラーチャートは鮮やかな色が並んでいるんですけど、すべての色を混ぜてしまうとグレイ一色になる。なので、一方は色を並べていて、一方は色を混ぜて一つにしている。現れ方が違うということなんです。

遠山:普通に考えると、ただグレイにするのってつまらないなって思って、やりたくなくなる感じがそのまま出ている感じがします(笑)。

桝田:色はグレイしか使わないのですが、それゆえに表面の差異は目立つようになります。こっちは泡立ったよう肌理だとか、こっちはツルツルとしているとか。

ガラスを幾重にも並べることの意味

ゲルハルト・リヒター 《8枚のガラス(CR: 928)》 2012 8枚のアンテリオ・ガラス、スチール 230×160×350cm ワコウ・ワークス・オブ・アート蔵 Photo: Takahiro Igarashi © Gerhard Richter 2022 (07062022)

桝田:ガラスのシリーズ自体は67年からつくられ、その後リヒターは数多くのバリエーションを生み出しています。ガラスを使うという発想の一つには、マルセル・デュシャンの《彼女の独身者たちによって裸にされた花嫁、さえも》(通称:大ガラス)の存在があると思います。またデュシャンということで言えば、カラーチャートのシリーズも、絵具はレディメイドであるというデュシャンの考えから来ているのではないかなと思います。彼にとってデュシャンは存在として大きいですね。

© Gerhard Richter 2022 (07062022)
© Gerhard Richter 2022 (07062022)

桝田:この作品のようにガラスを幾重にも並べていくのはもう少しあとになります。そして2000年以降、この手の作品がよくつくられるようになります。

鈴木:あえて透過性のよくないガラスを使うことで、反射、透過を計算しているのでしょうか。

桝田:そうだと思います。67年に最初につくられたのは、4枚のガラスが横並びになっているもので、まさに窓枠を思わせるような作品です。絵画のメタファーとしてガラスを用いているのでしょう。絵画はそれを見る我々を映すことはないですが、我々はつねに絵画に何かを投影して見ているわけです。

模索の末のフォト・ペインティング

ゲルハルト・リヒター 《モーターボート(第1ヴァージョン)(CR: 79a)》1965 油彩にキャンバス 169.5×169.5cm ゲルハルト・リヒター財団蔵 © Gerhard Richter 2022 (07062022)

鈴木:リヒターはいろんなシリーズを描いていますが、初期の彼の作品制作を語る上で最も重要なのが、フォト・ペインティングのシリーズです。実はリヒターの手元にこのシリーズの作品はほとんど残っていないとのこと。今回、点数は少ないものの、いくつかが展示されているのですが、上記の作品は、コダックインスタマチックという簡易カメラの広告をもとに描いた作品です。

桝田:この展覧会の中では一番古い作品で、65年に描かれたものです。リヒターが西ドイツに移って最初につくり始めたフォト・ペインティングのシリーズです。既存の写真、たとえばこれなら、コダックの広告写真をもとにして、それをできるだけ忠実に描く。描いたあとにブラッシュストロークを施して、ちょっとぼかす。

遠山:リヒターはモチーフをキャンバスに投影して描いていたこともありますよね。これも投影して描いたのでしょうか。

桝田:この作品がプロジェクタで画像を投影して描かれたかはわからないのですが、ある時期からは確かに投影して描いています。リヒターが西ドイツ側に移動して自由に表現できるようになったときに、模索がはじまったのでしょう。絵画を描く上での約束みたいなものから、なるべく遠く離れようとしたんだと思います。白黒写真を忠実に描くことで、どういう構図で描くか、何色にしようか、どこに焦点を持っていこうみたいなことを考えなくて良くなった。絵画からできるだけ離れていくことによって、それでも絵をつくっているんです。

遠山:その話はよくわかる。リヒターの作品って、全部それな気がします。

鈴木:西側には来てみたものの、いわゆる忠実に絵を描く写実的な作品を勉強していたリヒターは、いかにも前衛的な、ドリッピングしていたり、キャンバスを切っていたりと自由に制作するアートシーンに出合い衝撃を受けたでしょう。しかしリヒターは、僕って壁画描いてたし、本当はめちゃくちゃうまいんだけどなぁという思いがあったのだろうけど、でも自由な西側に来たんだし、もう少し抽象に近づけなきゃって思って、ちょっとぼかしちゃおうとかしたのかも。

桝田:当時のデュッセルドルフ・アカデミーでは、教員だったヨゼフ・ボイスがパフォーマンスしていたりと、刺激的なことがたくさんありましたからね。リヒターはボイスに師事をしていたわけではありませんが。

アブストラクトから《ストリップ》へ

ゲルハルト・リヒター 《ストリップ(CR: 930-3)》 2013~2016年  デジタルプリント、アルディボンド、アクリル(ディアセック) 200×1000cm ゲルハルト・リヒター財団蔵 © Gerhard Richter 2022 (07062022)

遠山:この作品はちょっと聞いてみたい。こちらは油絵ですか?

桝田:アブストラクト・ペインティングをパソコンに取り込んで、画面を2分割していった作品です。分割してなおかつ鏡に反転させるようにコピーアンドペーストを繰り返します。これを2の11乗回、繰り返した結果です。二分割とか四分割だとイスラムのアラベスク文様くらいになるんですけど、ここまで細かくしていくと横縞になってしまう。横縞になったものをいくつか出力して切って、その色のパターンを入れ替えて、この色のパターンならいけそうだというのを決めたら、デジタル上でそれをつなぎ合わせて、出力します。だからこれも偶然かつ機械的なプロセスによってできあがるけれども、どのストリップを選び取るかというところでは主観的な判断がなされているわけです。つまり客観と主観が混ざり合ってつくられています。絵画のつくり方とは言えませんが、絵画的な奥行きのようなものが生まれています。

リヒター作品はクリエイティブ!?

© Gerhard Richter 2022 (07062022)

鈴木:大きな戦争を経験し、その後の東西対立の時代も乗り越え、冷戦終結のころに芸術家としての円熟期を迎え、今日に至っている幸運なアーティスト、リヒター。マルセル・デュシャンやヨゼフ・ボイスのその先の仕事を彼独自の手法でやってきたし、アメリカにアンディ・ウォーホルありといえば、ドイツにゲルハルト・リヒターありという見事な立ち位置を築いたと思う……。実際にリヒターはウォーホルを意識していたという話もあるし。でもそうやっていろいろ時代背景や、彼の手法などなど、ある意味小難しく話してたのですが、そうしたら、ある人にはうざったそうに、「だって作品カッコいいじゃないすか」って一掃されちゃった。またある人は「だって名前がカッコいいんですよ。ゲルハルトで、リヒター」って。そう言われちゃうとまあそうだなって。

遠山:どうしても小難しく観なきゃいけないのかな、とかいろいろ思っちゃいますよね。理解しなくちゃとか。でも私は今回、どの作品を見ても、リヒターって楽しんでる感があると思いました。いろいろコンセプトとか理屈ってリヒターにとっては、ある意味デザインみたいなもので、そういうことを構築していくことも、彼はおもしろいと思いながらやっているのかなって。思考のデザインっていうか。でも、そこにもあまり無理矢理くっつけてない感じはしますね。見る人に委ねているというか。こうじゃないといけないって言って怒り出す感じは全然ない。自由な鑑賞を与えてくれるなと。

桝田:彼のインタビューとかを読んでいて少し驚くのは、「クオリティ」という言葉を多用することです。質が大事だと何度も言うんですよ。質っていう確固としたクライテリア(判定基準)が20世紀のアヴァンギャルドの歴史の中では、ちょっと危険なものとして扱われがちじゃないですか。でも、作品を見分け、作品として完結する時点を決めるためには、美的感覚が深く関わるものだし、彼はそこを大事にしているのだと思います。

© Gerhard Richter 2022 (07062022)

遠山:でもいまって、美ということを本当に言わなくなっちゃったけれども、この人は普通に美をやってる気がします。美術において美って英語でなんていうの?

鈴木:aestheticsですかね。芸術の美、審美、美学。

© Gerhard Richter 2022 (07062022)

遠山:リヒターって、クリエイティブっていう感じがする。要するにデザインだとかファッションだとか、いろんな商業とかも含めて広告とか、そういったクリエイティブ。クリエイティブってだいたいクライアントがいて、クライアントに対して何かつくるんだけど、そこにやっぱり自分の自己表現みたいなせめぎ合いみたいなものがあると思うんですよね。言葉は悪いかもしれないけど、クリエイティブを素直に、理屈とともにアート業界で押し通しちゃった人であり、まさに自己表現みたいなのを綺麗にというか、強固な形でつくっていっている。

© Gerhard Richter 2022 (07062022)

桝田:芸術というと、一般的には主観的なものの産物のように捉えられがちですけど、リヒターは芸術が主観的な産物になってしまうことを、どうやったら抑制できるかを試み続けてきた人なのかなっていう気がします。だから写真を忠実に描くということから始めたり(フォト・ペインティング)、スキージを使ってなるべく自分の身体と画面の距離を設けようとしたり(アブストラクト・ペインティング)、カラーチャートでも意味が発生しないようにランダムに色を並べたり。そこに個人の内面表現の発露を見出すことは難しいです。時代的にも60年代というと、ロラン・バルトやミシェル・フーコーが「作者の死」というのを言いはじめた頃でもあります。主体性を疑ってかかるという風潮でもありました。そうした主体性や主観性からできるだけ遠ざかり、それでもなお表現はどのように成立するのかを考えながら制作したのではないでしょうか。遠山さんの言う「クリエイティブ」ということで言うと、主観性を抑制した表現という点で通じ合うのかなって思いました。

鈴木:この展覧会は、今後、豊田市美術館にも巡回します。東京国立近代美術館とは違った展示方法になるとか。

遠山:同じ展覧会でも、美術館によって一気に見え方も変わったりしますよね。特にリヒターはそれが顕著な作家かもしれません。カラーチャート然り。

鈴木:ぜひあわせて楽しみたいですね。

※9月24日(土)、25日(日)に、遠山さんがプロデュースする実験的コミュニティ〈新種のimmigrations〉メンバーによる「新種にバザールが開催されます。詳細は遠山さんのプロフィール欄をご覧ください。連載にも登場してくださった、アーティストの立石従寛さん、山脇紘資さんも出展されます。

展覧会Information

『ゲルハルト・リヒター展』
https://richter.exhibit.jp/
会場:東京国立近代美術館
会期:〜10月2日(日)
休館日:月曜日(ただし9月19、26日は開館)、9月27日(火)
開館時間:10:00〜17:00(金曜・土曜は20:00まで、9月25、26、28、29日は20:00まで)
※巡回:豊田市美術館にて2022年10月15日(土)~2023年1月29日(日)

profile

遠山正道

1962年東京生まれ。慶應義塾大学商学部卒業後、85年三菱商事株式会社入社。2000年三菱商事株式会社初の社内ベンチャーとして株式会社スマイルズを設立。08年2月MBOにて同社の100%株式を取得。現在、Soup Stock Tokyoのほか、ネクタイブランドgiraffe、セレクトリサイクルショップPASS THE BATON等を展開。NYや東京・青山などで絵の個展を開催するなど、アーティストとしても活動するほか、スマイルズも作家として芸術祭に参加、瀬戸内国際芸術祭2016では「檸檬ホテル」を出品した。18年クリエイティブ集団「PARTY」とともにアートの新事業The Chain Museumを設立。19年には新たなコミュニティ「新種のimmigrations」を立ち上げ、ヒルサイドテラスに「代官山のスタジオ」を設けた。

「新種のバザール展」については、こちらをご覧ください
https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000004.000062411.html/

▶︎http://www.smiles.co.jp/
▶︎http://toyama.smiles.co.jp

profile

鈴木芳雄

1958年生まれ。慶應義塾大学法学部政治学科卒業。82年、マガジンハウス入社。ポパイ、アンアン、リラックス編集部などを経て、ブルータス副編集長を約10年間務めた。担当した特集に「奈良美智、村上隆は世界言語だ!」「杉本博司を知っていますか?」「若冲を見たか?」「国宝って何?」「緊急特集 井上雄彦」など。現在は雑誌、書籍、ウェブへの美術関連記事の執筆や編集、展覧会の企画や広報を手がけている。美術を軸にした企業戦略のコンサルティングなども。共編著に『村上隆のスーパーフラット・コレクション』『光琳ART 光琳と現代美術』『チームラボって、何者?』など。明治学院大学、愛知県立芸術大学非常勤講師。

▶︎https://twitter.com/fukuhen

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