気候変動を要因とする数々の問題に対処するために
「『豊かな未来』を想像し、誰もが無邪気に瞳を輝かせた時代は終わった」――田崎有城さんは、我々誰もが目には映っていても、自分ごととして見つめていなかったかもしれないシビアな気候変動問題に対峙し、未来をよい方向に変えるために真っ向から取り組んでいる。
自らを衝き動かすのは「課題を解決したい」というシンプルな欲求だと語る、田崎有城さん。今回はウェルビーイングの視点とディープテック、ビジネス、そしてデザインを結びつけた先進的取り組みと、先に見据える未来の姿の片鱗を、田崎さんの言葉を通じて紹介していきたい。
「自分のバックグラウンドは、考古学と建築と科学です。以前はWOWというビジュアルデザインスタジオで、クリエイティブディレクターを務めていました。プロダクトデザイナーのマーク・ニューソンと日本刀をつくったり、彫刻家の名和晃平さんと一緒に『洸庭 | 神勝寺 禅と庭のミュージアム』を手がけたりと、主に建築とアートを扱うプロジェクトに携わってきました」
独立したのは4年前。現在は海上建築スタートアップ「N-ARK」を率いるほか、さまざまな注目すべきスタートアップのメンバー、ベンチャー・キャピタリスト、コンサルタントなどと一緒に活躍する。自身の転身の理由について、田崎さんはこう語る。
「結局、これまで携わってきたデザインやアートといった分野の仕事では、社会を変革する力になれないと悟ったから」
田崎さんを焦燥に駆り立てたのは、もはや一刻の猶予もならない気候変動問題に直面しながら、遅々として対応の進まない国の政策や経済の在り方に対する危機感であった。
「僕はこれまで建築にも携わってきましたが、これから先は建築を計画するにも、たとえばライフサイクル・アセスメントの評価軸、CO2排出量、非財務指標の価値化など、ESG評価の中で事業やプロダクトや人材をつくっていく時代なんです。つまり、環境問題を取り巻くさまざまな要素を理解して設計しないと、もう何も新しいものは建てられない。建築家が、自分の美的感覚の表明として設計するというのは、今後はもうあり得ないのです。なのに、日本はまだ地勢的に比較的恵まれているのをいいことに、現状をちゃんと直視していない。グローバルな視点から見たら、環境意識とESGに関しては超後進国です」
世界を見渡すと、たとえばオランダのアムステルダムは、気候変動に伴う海面上昇によって、2050年までに水没してしまうという危機的状況にある。その打開策のひとつとして、浮遊都市――すなわちフローティング・アーキテクチャーの研究が進む。
「研究開発をドライブさせているのは危機感です。危機感から需要が生まれ、新たな技術が発明され、結果として新しい経済をつくる。日本の企業はこの危機感が足りないから、新たな技術を生み出せなくなってしまったのです」
ディープテックスタートアップの世界の中で出合った、未来を変える力
現状に甘んじて見て見ぬ振りをする人々がいる一方で、田崎さんのように自分の生き方を変えてまで、行動に移す人々がいる。田崎さんを後者に変えたのは、ある人物との出会いだった。
「デザインや表現は人間の想像力と創造力を駆使しますが、その2つの力をどう社会変革の力にしていくべきか? そんな問いに直面してモヤモヤしていたときに、ユーグレナ取締役代表執行役員CEOを務める永田暁彦さんと自分のプロジェクトを通じて出会いました。日本最大のディープテック特化ファンド『リアルテックファンド』という、僕も所属している組織の代表でもあります」
田崎さんは現在ここで、ベンチャー・キャピタリストやさまざまな背景を持つ仲間たちと共に研究開発、製品開発、資金調達も含めてハンズオンしている。
「リアルテックファンドとスタートアップを通じて気付かされたのは、自分はそれまでクリエイティビティとリベラルアーツの一番上のところにしか関わってこなかったのに、リアルテックファンドにはファイナンス&ビジネス、サイエンス&テクノロジーのジーンプールがあり、ここにクリエイティビティを組み合わせることで、社会を変革する力になると確信したんです」
テックスタートアップは、いわゆるCxO(Chief x Officer)体制という専門性のある人たちが横断的に連携し、事業推進と研究開発を進めていくので、ファイナンス、サイエンス、デザイン、人事設計、マーケティングなど領域横断的な人材がいるという。「彼ら彼女らとの間に立つ協業の中で、今ようやく自分ができること、やるべきことが見えてきたという感覚がありますね」
人類の未来を紡ぐための海の新たな可能性開拓――海上プロジェクト「N-ARK」
そして今、田崎さんが情熱を注いで取り組むのが、自身が代表を務める海上建築スタートアップ「N-ARK」だ。気候変動や難民問題といった社会課題に対するひとつの解として、海の新たな可能性開拓に、最先端の科学技術をもって取り組もうとする試みである。
N-ARKは、海に適応する建築と、対塩性技術を融合させた海上建築:Arktecture(Ark + Technology + Culture)を研究開発し、海水を直接の栄養源として栽培できる海水農業技術と、海水農業を成立させるための循環型環境をつくり出すという壮大なプロジェクト。地球の表面積のおよそ7割を占める海洋に海上ファーム「グリーンオーシャン」を展開することで、新たな生産圏、ひいては生活圏として利用していく先に、人類の未来を見ている。
「N-ARKに関しては現在、直近の3カ年計画のもとに進めています。タイムラインがあり、TO DOが積み上がっているので、壮大と言えば壮大ですが、目の前のゴールにちゃんとひとつずつ向き合っていけるんです。もちろん、全体の戦略も構想しているので、その中で着実に駒を進めていく手応えがあります」
世界の海が舞台となるN-ARKだが、構想の大元にはどのような想いがあったのか。
「もともと自分の中では、既存の国境にとらわれない人類の新たな居場所をつくりたいという長年の夢のようなものがありました。そこに、海面上昇や気候難民といった課題解決の必要性が重なっていって、いつのまにかすべての事柄のソリューションとしての海上建築というところに辿り着いたんです」
社会課題に取り組むからこそ、想いを共にして協業する仲間も増えてくる。海水で育てられる野菜の栽培実験に取り組む、アグリテックパートナー「カルティベラ」は最初期からのパートナーだ。代表の豊永翔平さんとの出会いから、建築を海上に浮かせる必然性がさらに深まった。そして検証を重ねるうち、海水農業に加えて海中利用の可能性も見えてきた。海中では人工光合成用にLED照明も使いながら、農作物栽培に加えて植物プランクトンを増殖させ、海中環境の富栄養化にも貢献する技術構想の実現に向けて動き出している。
海上と海中をフルに使える浮体建築ユニットができれば、収益性のある事業コンテンツとビジネスモデルを構築することで、海上建築の実現にとどまらないFaaS(Floating as a Solution)事業となる。また、FaaS実現にあたり積み上げられたESGに関しての知見を、コンサルティングサービスを通じて外部に提供。課題解決技術を持つステークホルダーを増やしていくことによって、新たな技術やリソースをN-ARKに取り入れていく事業を推進している。
地球外生命体の神秘に迫るENCELADUS
田崎さんは、頭上の宇宙に関するプロジェクトをも手がけている。WOW所属時代の「ENCELADUS(エンセラダス) 」がその一例だ。
「『ENCELADUS』は、東京工業大学地球生命研究所の宇宙生物学者、藤島皓介君とのコラボレーションから始まりました。WOWのアートワークにおける大きなテーマは『生命』だったので、地球外生命体の神秘に迫るプロジェクトとの出合いは運命的でしたね」
田崎さんがつくり上げたのは、土星の衛星エンセラダスへ探査機を打ち上げる計画の実現に向けたプレゼンテーション・ムービーである。この星からは、地球の海水に近い成分を持つプリューム(間欠泉)が噴き出しており、「生命の誕生する条件」を満たしている。探査機の目的はその海水サンプルを回収して分析し、生命の源をつくるタンパク質「ペプチド」の存在を明らかにすることだ。
「藤島君たちの研究がNASAで採択されるように、彼らの研究内容と実現構想を可視化するというミッションのもとに、オリジナルワークで映像作品をつくり上げました。今思うと、あのプロジェクトがきっかけとなってリアルテックファンドと出合うことができたので、努力した甲斐がありましたね」
イーロン・マスクが教えてくれた、アントレプレナーの担うべき役割とは
リアルテックファンドと出会った田崎さんは、以降、考古学で学んだ知識や、海や宇宙のプロジェクトを通じて得たマクロな視点も武器に、気候難民問題の解決に全身全霊を傾けていく。
「リアルテックファンドの人たちはみんな、課題解決のためにはあらゆる策を講じて、どんな手でも使う。その実現力に衝撃を受けました。ファイナンス・スキームをつくって、プロダクトをつくって、ちゃんと売り上げを上げて上場して、そこで得たお金でブランドをつくって、大勢の人たちを、国境を跨いで動かして――といったスケール感とダイナミズムに痺れましたね」
課題解決する実行力を持ったビジョネア――そんな存在だろうか。そして今日、世界で最も影響力を持つ人物と言われるイーロン・マスク氏を例に挙げ、アントレプレナーの担う役割をこう話す。
「イーロン・マスク氏が『Multiplanetary Species(多惑星種)』という言葉を用いて話した、地球以外の惑星にも移住することで人類を絶滅の危機から救うというビジョンに衝撃を受けました。火星に移住するといった話は、SFの中にはずっとあった内容です。しかしそれを、強力な実装力を持つマスク氏が発言したことは革新的でした。
僕は、スタートアップは今、最新鋭の表現力であると思うんです。思い描くだけではなくて、高次元的に実現できる発想力と実装力を持つ人たち。もはや、デザインやアートといった表現だけでなく、理論だけのアカデミアでもなく、構想を具現化し、事業化し、世界を少しでも変えていく実行力が求められています。実行することで、現実とぶつかり合いながら進んでいくことが最も大切だと思います」
田崎さんのその情熱をたきつけているのは、マスク氏同様、人類愛に根ざした義務感だ。
「地球の未来はもう、気候変動問題の解決なしには考えられない状況になっています。2030年までに平均気温が1.5℃上がるかもしれない、という報告もありますが、本当にそうなってしまうと、もう世界は気候変動以前の安定した自然環境には戻れません。気候変動は社会の混乱を生み、自然災害により人が大勢亡くなる局面がすぐそこにまで迫ってきています。そのような環境でなるべく早く、ひとりでも多くの人に手を差し伸べられるようにしたいと考えています」
国内避難監視センター(IDMC、ジュネーブ)によると、気候難民は2020年に3070万人生まれ、紛争などの難民980万人の3倍に上っている。
「数年前、シリア難民が大量発生して、ドイツのメルケル首相(当時)が積極的にそれを受け入れてきましたよね。その数がだいたい100万人くらい。今はウクライナからの戦争避難難民が1000万人規模で発生していますよね。そうすると、受け入れ国も大いに混乱するわけです。
国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)の方と会話をしているときに改めて感じたのですが、難民というのは見方を変えればオルタナティブな人材なので、僕としては新天地としての海で、つまりN-ARKで受け入れられるようにするという目標もあるんです」
N-ARKが国を追われた難民の受け入れ先となり、新たな居住地になる――。田崎さんはその構想を語る。
「そもそも難民という呼び方がよくない。同じ人間なのに。ということは、才能のある人もいっぱいいるわけですよね。シリア難民をドイツが受け入れたのには、人道的な理由ももちろんありますが、ドイツも日本と同じ少子高齢化社会なので、実は人材確保の手段という考えもあったんです。いわば戦略的な難民の受け入れですね。
今後、世界の人口は爆発的に増えていく。日本でも多様性とか口先では言っていますが、それは外国人が同じ職場で働くようになるだけで、あっという間に実現される話じゃないですか。ところが日本は、世界を見渡しても最も難民を受け入れない国のひとつなんです。令和3年時点でも年間わずか74人って、信じられますか?」
「目指すべきは、受け入れた難民を保護するだけでなく、きちんと教育を施して、自国のこれからを担う人材として育てることです」。すると新しい風が吹き込まれ、スタートアップが生まれて、新たな経済圏がつくられる――そんな好循環があることも聞き、感銘を受けたという。その先ではきっと、難民としてではなく、本来あるべき協業や交流の形で、国境を越えた人材の流動性が高まってくるだろう。
「僕は現在難民と呼ばれる人たちは、住処が転々としている(Drift)人たちなので、ドリフターズと呼ぼうと思っているんです。彼らの活躍の場をN-ARKで提供できるようになると、日本でも多様性はぐんと進みますよね。多様性が世界規模で広がれば、国境を越えた相互理解が進むので、民族間紛争もなくなり、もっといい世界になるはずです」
人類学を学んできた田崎さんならではの、スケールが大きく、かつ俯瞰した見解だ。
ひとつの限られた土地を異なる民族同士で奪い合い、戦いを繰り返してきた人類の歴史。その流れを、果てしない海の上に増殖していく海上建築としてのN-ARKの登場によって変えることができるかもしれないという希望が萌芽しつつある。
「N-ARKは増殖可能、変幻自在、移動自由な未来の『ノアの方舟』です。もしもそこに危険が迫るようなことがあれば、別の場所に引っ越せるんです。現状、人を乗せることができるようになるのはまだ先ですが、経済合理性を担保して事業化した先に、そんな可能性も開けているのです。ビジネスの場としては、エネルギープラントやデータセンターにも利用できると考え、連携先にプレゼンテーションしていきます。事業推進スピードをどう上げていくかが、目下の課題ですね」
人類の生息域と経済活動の領域を、遠く広く海の上へと押し広げてくれるN-ARKの構想。現状、PoC(概念実証)の段階にあり、静岡県浜松市で、行政の協力も得ながら建築技術や設置場所などの検証に当たっているという。早ければ2023年には、プロトタイプの建設が予定されているというから楽しみだ。数々の法的規制を越えるためには行政との連携が必要とされるが、田崎さんはそれさえも地方創生にも絡める好機として前向きに捉えている。
「N-ARKのある水辺の景色が、地域産業の発展にも貢献できるとしたら、またやりがいが増えますからね」
社会課題解決に取り組む田崎さんだが、言葉の端々から感じられるのは決して悲愴なペシミズムではなく、アントレプレナーとして、何か新しいものをゼロイチでつくり出してやろうという前向きなマインドにほかならない。
大転換期と言われる時代にどう生きるか
では、今の時代を生きる我々一人ひとりは、何を意識し、何を課題としていけばいいのだろうか。
「今は価値転換の時代です。これまでこうだったものがこう変わりますと言われたときの戸惑いがあったとしても、それを背景理解のもとに、前向きに受け入れられるオープンマインドが必要でしょう。
たとえばあるスポーツブランドでは、時代に合わせてリサイクルマテリアルを使ったスニーカーをつくって、従来よりむしろ高い値付けで販売していますが、ちゃんと完売させています。
牛肉もそう。タンパク質危機が深刻化してくるに伴って、これからはなるべく人工培養肉か代替肉を選ぶ、あるいは肉を食べないライフスタイルを選択していく時代になっていきます。環境負荷的の低いプラントベース・ダイエットに移行していくことで、CO2の排出量の低減にも繋がりますから。
料理の潮流もすでに変わってきていますよね。ニューヨークの『イレブン・マディソン・パーク』という三つ星レストランは、コロナ禍が明けて再オープンしたと思ったら、ヴィーガン・メニューに変わっていました。大きな賭けではあったと思いますが、結果、ずっと予約が埋まっているという人気ぶりです。
日本では、京都の『LURRA°(ルーラ)』というお店では、やはりメイン料理は季節の野菜を出すんです。この先、ついに肉が食べられなくなったとしても、シェフの工夫次第で食を豊かにしていく方法は幾らでもあるわけですね。逆にそうした挑戦があるほうが面白いし、環境負荷を下げるための取り組み自体がクールだよね、という見方が、欧米ではもう浸透しています。肉が食べられなくても、しかも代替品が少しばかり高くても、環境負荷低減に貢献することを選ぼうという前向きな価値観ですね」
これからの時代、我々に必要なのは「ポジティブな適応力」と「ソーシャルグッドなものを楽しんで選択する」ことだとすれば、ハードルはさほど高くはない。誰もが今日から実行できることで、環境負荷低減に多少なりとも貢献できるのだ。
「気候変動を目前にしての大転換期と言っていますが、地球の歴史を振り返れば、これまでもたびたび起きてきたこと。我々は適応することで、できれば変化を楽しみながら、生き延びていくだけなんです」
大転換という言葉が出たが、それは環境的な話だけを指しているのではなく、長らく人間の経済活動を支配してきた資本主義経済においても当てはまるのだと、田崎さんは話を続ける。
「今の時代、ゼロエミッションやESGという環境的ルールを理解しないと、もはやビジネスは成り立ちません。これまでの資本主義経済でのルール無用、売り上げ至上主義的な考え方から、『環境』という世界共通のルールが構築されつつあることは、資本主義経済の大転換と言えるでしょう」
では、我々の暮らし方は今後どう転換していくのか。我々自身、どう変わるべきなのだろうか。
「コロナもあって、リモートワークも浸透して、すでにいい方向に変わってきているんじゃないでしょうか。二拠点生活というライフスタイルを選ぶ人も増えてきました。自然環境と接する機会が増えている中で、いかに快適に生きていくかを実践する人が増えてきています。すると自ずと、興味関心が環境問題の方向に向いてきますよね。これまで他人ごとだった気候変動が、リアリティのある自分ごとになっていくんです。
日々の生活において気候変動問題を考えるためにも、ガーデニングの趣味はいいですね。少しでも食料を自給できるようになるというのも望ましい。自分で食料をつくって、料理をするという当たり前のことを、当たり前のようにする暮らしこそが、我々が立ち戻るべきところなのではないでしょうか」
課題解決力のある人材を育て、危機をチャンスとして活かす
実践生活の中で自分を教育していく必要性を諭す一方で、田崎さんはまた、日本の教育における変革の必要性についても語る。
「日本の教育は、驚くべきことに戦後ずっと変わっていません。そんな日本を取り残す形で、海外ではPBL(Project Based Learning)というスタイルがスタンダードになりつつあります。
日本では鳥取市の青翔開智(せいしょうかいち)中学校・高等学校が採用していて、スーパーサイエンスハイスクールに進む学生を輩出しています。PBLによって、子どもたちの課題発見能力と想像力と課題解決力が高まるというのが、すでに結果として表れています」
PBLは、カリキュラムはあるけれど、学科がない。まずは自分たちで課題を見つけるためにチームアップするところから始まって、その後はプログラミングを使ってもいいし、地道なリサーチ活動から始めてもいい。とにかく自分たちなりに課題を解決して、その成果を発表するという学習法だ。
「PBLのやり方というのは、実はスタートアップと一緒で、CxO(Chief x Officer)体制に似たチーム形成になり得るんですよ。だから自分で考え、計画を立て、人を巻き込んで事業化するための素地が、自然と養われるわけです。日本の未来を背負って立つ人材に、なくてはならない素養です」
今、日本の企業では新規事業部が発足しても、肝心の社員が何をやればいいのかが分からないと戸惑うことが多いという。自分たちの企業の持つ技術をピボットさせて、新規事業化するまで持っていけないのだ。
「なぜかといえば、たとえ自社技術を課題に合わせてピボットさせても、それを実装して事業化していくためには、役割としてはCEOのほかにCTO、CFO、CMO、CSOなど最低でも5人のパートナーが必要です。 ビジネスアイデアだけでビジネスをつくれる時代は、もうとっくに終わっているんです。実装する技術と人がいなければ、日本の企業に未来はありません。だから一刻も早く、日本の教育を変えなければいけない」
気候変動問題の話に始まり、田崎さんの話はさまざまな分野を行き来しながら、人類を未来へと存続させるために取り組むべき喫緊の課題と、それに対処するためのソリューションについて触れてきた。そして希望的観測のもとに言えば――それはひとえに我々の努力次第なのだが――日本の企業や教育現場には変革が必要とされているが、危機をチャンスとして捉えるスタートアップ的思考力と実装力を誰もが持てるようになれば、未来は決して暗いものではなくなるはずだ。
「この気候変動こそが、私たち自身を変えるチャンスを与えてくれているんです。僕はむしろ、ワクワクしていますけどね」
profile
N-ARK(ナーク)代表。ディープテックスタートアップと並走しながらファイナンス視点も含めた総合的なハンズオン支援を行うクリエイティブファームKANDO代表。リアルテックファンドメンバーとしても多数のテックベンチャーを支援する。実績としてサイボーグベンチャー「MELTIN」では、国内外でのモメンタムづくりに貢献し、シリーズBにおいて20.2億円調達。パーソナルモビリティ「WHILL」MaaS事業CES展示、HRテック「ZENKIGEN」事業コンセプトリードなど。2021年に先端研究者のロングインタビューメディア「esse-sense|エッセンス」共同創業。同年、気候変動に対応する海上建築スタートアップ「N-ARK|ナーク 」創業。
▶︎https://www.n-ark.jp/
Information
田崎さん推薦:環境問題を理解するための3冊
1.『DRAWDOWN ドローダウン−地球温暖化を逆転させる100の方法』(ポール・ホーケン著/山と渓谷社)
2.『リジェネレーション 再生 気候危機を今の世代で終わらせる』(ポール・ホーケン著/山と渓谷社)
3.『ベンチャー・キャピタリスト――世界を動かす最強の「キングメーカー」たち』(後藤直義、フィル・ウィッカム共著/NewsPicksパブリッシング)
<撮影協力>
SHAKOBA
▶︎https://shakoba.com/
ウォーターズ竹芝 -WATERS takeshiba
▶︎https://waters-takeshiba.jp/