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水を介してサステナブルな社会の実現を目指す「ハバリーズ」
Next for Future

水を介してサステナブルな社会の実現を目指す「ハバリーズ」

紙パック入りミネラルウォーターでインパクトを――ハバリーズが発信するポジティブなメッセージとは?

持続可能性の高い社会における「未来の“真に”豊かな暮らし」「人にも地球にもやさしい社会」とは、一体どのようなものなのだろうか? これからの生活に革新を起こすような、先見性に富んだ技術やサービスを開発する企業や人。彼らが創造する未来には、きっとそのヒントがあるはずだ。
「Next for Future」の第4回でフィーチャーするのは「HAVARY’S(ハバリーズ)」。日本国内で初めて紙パック入りのミネラルウォーターを展開する、今注目のスタートアップだ。代表取締役社長の矢野玲美さんが、水に込めた想いとは?

Text by Kaori Kawake(lefthands)
Edit by Shigekazu Ohno(lefthands)
Photographs by Takao Ota

環境に配慮したサステナブルな水が意識改革を促す

「今週、環境にいいアクションを何か一つでもしましたか?」この率直かつシンプルな問いに対して、迷いなく、自信を持って「はい」と答えられる人はどれくらいいるだろうか?

SDGs(持続可能な開発目標)への関心が世界的に高まる今、日本でもさまざまな業界で、その実現に向けた取り組みが推し進められている。だが毎日のように「サステナブル」という言葉を耳にし、何かしなければという義務感に駆られていても、個人レベルで取り組めているかと問われれば、思わずドキッとしてしまう人は少なくないはずだ。

「まずは日々の暮らしのなかで、環境にとってより良い選択肢が何かを意識してみるところから始めませんか?」
やわらかな笑顔でそう語りかけるのは、日本国内で初となる紙パック入りのミネラルウォーターを手掛ける「HAVARY’S(ハバリーズ)」代表取締役社長の矢野玲美さんだ。

この日、クリーンな白シャツに黒のスカート姿で颯爽と現れたハバリーズ代表取締役社長の矢野玲美さん。

ハバリーズは2020年6月に創業。同年の8月、競争が激しく差別化が難しいと言われる日本のミネラルウォーター市場に「サステナブル」という切り口で参入した。「参加型SDGsアイテム」と謳う環境に配慮したプロダクトは、コロナ禍により加速したサステナビリティ重視の潮流にもマッチして、瞬く間に数多くのメディアに取り上げられ注目を集めた。創業から2年、取引先には大手企業や外資系ブランド、行政機関など社会的インパクトのある企業や団体が名を連ねる。

左から330ml㎖、1000㎖。国産のミネラルウォーターでは珍しく、ミネラルとカルシウムを豊富に含んだ中硬水で、美容や健康にもいいと定評がある。

コンセプトは「1本の水から世界が変わる」。同社の水を1本購入するごとに1円が世界自然保護基金(WWF)に寄付される。さらに、飲み終えた後の紙パックは送料無料の回収BOXを通じてリサイクルができるスキームが整えられている。

「水は誰にとっても必要不可欠なもの。それこそが最大の強みだと思っています。周りの人たちを、トルネードのようにどんどん巻き込んでいけるような社会巻き込み型のプロモーションを心掛けています」

サステナブルな価値観を一方的に押し付けるのではなく、人々がSDGsに抱くハードルを下げ、能動的に選んでもらえるような、シンプルかつ前向きなメッセージを発信しているのが非常に印象的だ。

「サステナブルビジネスは、それ自体があらゆる意味で持続可能でないと意味がありません。環境配慮がなされていて、事業の透明性が確保されているのはもちろん、価格帯やデザイン性を含めて無理なく自然にライフスタイルに取り入れられるかどうかというところが何よりも重要ではないかと思います。『環境にいいのは分かるけどダサいよね』『アイテムとしてはいいんだけど高いよね』では持続可能にはなれないですから」

そうした矢野さんの思想を体現したハバリーズの水は、思わず手に取ってしまうスタイリッシュなデザイン、持ち歩きしやすい小ぶりなサイズが特徴だ。

持ち歩きしやすいコンパクトサイズの330㎖。採水地は佐賀県。※キャップ上面のシールは、プライベートクラブ「OCA TOKYO」オリジナル。

同社の紙パック入りミネラルウォーターは、消費者の価値観やライフスタイルに寄り添うブランディングの結果、年齢や性別、国籍の垣根を越えて多くの人の心をつかんでいる。

日本初のサステナブルな水で社会にインパクトを

それにしても、矢野さんはなぜ紙パック入りのミネラルウォーターを手掛けるに至ったのだろうか。

ハバリーズのルーツを解き明かすキーとなるのが、母親の実家である大分県宇佐市の羽馬礼(はばれ)に水源を所有する、家業としてのミネラルウォーター製造会社の存在だ。自社ブランドを持つことなく、OEM専門でペットボトル入りのミネラルウォーターのボトリングを手掛けてきた。日本は豊かな水資源に恵まれているがゆえに商品価値が低く、薄利多売を余儀なくされる厳しい業界で、近年では後継者問題も取り沙汰されることが多いという。

ハバリーズのルーツとなった大分県宇佐市の羽馬礼には、雄大な自然と調和して生きる山里の景色が広がる。
ハバリーズのルーツとなった大分県宇佐市の羽馬礼には、雄大な自然と調和して生きる山里の景色が広がる。

矢野さんの家業も例外ではなく「いずれは事業承継をして、なんとかしなければいけない」と考えながらも、大学卒業後は技術系商社の中東プロジェクトメンバーとして海外を行き来していた。そのときに目にしたのが、ほかでもない紙パック入りのミネラルウォーターだったのだ。

環境問題への取り組みが進んでいる欧米では、誰もが当たり前のように紙パック入りのミネラルウォーターを飲んでいたという。しかし、当時はまだ日本で手掛ける企業は存在しなかった。

「うちは水源を持っていて、今はペットボトル入りのミネラルウォーターを製造している。日本初の紙パック入りミネラルウォーターを発売すれば、社会にいいインパクトを与えられるのではないだろうか」そう考えたとき、「今自分にできることはこれだ!」とピンときたという。

初めて自分が発信したいメッセージと事業承継がクロスした瞬間だった。日本初にこだわった矢野さんは、それから間もなくしてハバリーズを立ち上げることとなる。弱冠26歳での起業であった。

ロールモデルとなった事業承継の新たな形

新規事業を立ち上げるにあたり、第二創業という形をとった矢野さん。つまり、家業をそのまま継承するのではなく「起業」という形を取ったのだ。

その理由について矢野さんは次のように説明してくれた。

「一時、家業の手伝いをしていたこともあったんです。だから、業界の実情は現場で目の当たりにしていました。この業界ならではの特異な商的流通も熟知したうえで客観的に考えたときに、新しい会社をゼロから立ち上げ、しがらみのないなかでビジネスを展開したほうが、メリットが大きいのではないかと考えたのです」

さらに矢野さんは、次のように言葉を足した。

「メディア露出の観点からも、新事業ではなく第二創業での起業のほうがインパクトが大きいのではないかと考えました。また、同じように水源を持つ人たちのチアアップにもつながるのではないかとも思ったのです」

ハバリーズのロゴには、家業のコーポレートマークである羽の生えた馬__ペガサスがアレンジされている。
ハバリーズのロゴには、家業のコーポレートマークである羽の生えた馬__ペガサスがアレンジされている。

起業にあたっては、周りには「大手企業から相手にされるはずがない」と否定的な意見を述べる人が多かったという。

しかし結果的に「ハバリーズ」は短期間で実績を上げ、事業承継や新たな組織づくりにおけるロールモデルとしても注目を集めることとなった。

ポジティブマインドで道を切り開く

はたから見れば順風満帆に思える「ハバリーズ」の創業期だが、現場レベルではさまざまな苦労もあったという。

例えば、水に対応した包材の選定。日本国内で紙の包材というと、牛乳パックに使われているパルプだけのタイプが主流。日本酒などに使われている内側にアルミが貼り付けられているタイプもあったが、水に適応した事例はなかった。

矢野さんは世界中の空港や小売店で紙パックの水を買い集め、地道にリサーチを重ねたという。

最終的に採用したのは、世界トップの包材メーカーであるテトラパック社が新たに開発したものだった。

「飲み口から中をのぞいてもらうと、反射で光っているのが分かると思うのですが、この包材の内側には髪の毛に満たないような薄さの特殊なアルミ箔のフィルムが貼られていて、紫外線のような外的要因を遮断してくれるため、長期保存が可能なんですね。また水が紙と直接触れることがないので、紙特有の臭い移りもありません」

最適な包材を見つけるには見つけたが、大手企業との大ロットでの取引がほとんどであるメーカーだけに、最初は実績のないスタートアップ企業ということもあり、資材調達までに時間を要した。

しかし環境配慮への想いや販路のビジョンを粘り強く伝えたことで、取引開始にこぎ着けた。

また製品の営業に至っては、大企業の重鎮を10人以上も相手にして、たった一人でプレゼンテーションに臨むこともしばしばあったという。普通なら心が折れそうなシチュエーションかもしれないが、そこは「商社勤めの頃、中東で鍛えた交渉力と笑顔」を武器に、決して臆することなく堂々とやってのけてきたというから驚きだ。

「相手の性別や肩書、年齢、国籍に対して、偏見を持たないように心掛けています。相手が社長だからと身構えてもしょうがないですよね。やること、話すことは、結局は同じですから」と屈託のない笑顔で言ってのける。

その度胸とコミュニケーション能力の高さこそが「ハバリーズ」を短期間のうちに成功へと導いた所以だろう。

人との出会いがもたらす豊かさ

まさにボーダーレスなポジティブ思想でまっすぐに走り続けている矢野さん。頭の中には、どんな豊かな未来を思い描いているのだろうか?

「社会にプラスのインパクトを与えられたときの心地よさや快感というのは、物質的な豊かさでは得られないプライスレスなものがあります。私自身も小躍りしてしまうくらい嬉しくなります。そうした心の充実から得られる豊かさは、無限大ですよね」

ハバリーズをスタートする前と後で、矢野さんの価値観にも大きな変化があったという。

「ハバリーズは私に真の豊かさを与えてくれています。我が子とも言える存在ですが、むしろ教えてもらうことがすごく多いですね」とチャーミングな笑顔で話す矢野さん。

「今の時代、あらゆる選択肢のなかには必ず『環境にいいもの』がお膳立てされているはずです。大きく構えて、無理に大きなアクションを取ろうとしなくても、ちょっとアンテナを張りさえすれば、誰もが普段の生活のなかで環境に配慮した行動が取れるのではないでしょうか」

水源を守り、未来へと手渡す

今、矢野さんにはハバリーズの認知拡大とともに力を注ぐもう一つの課題がある。日本国内における水資源の保全だ。

「日本は幸運にも水資源に恵まれていますが、世界では生態系のバランスを崩すような無理のある採水が続けられ、水源の枯渇が叫ばれている地域が多く存在します。その影響もあって最近では、海外資本が日本の水源林を購入するという問題も多く耳にするようになっています。一方で、国内では人口の減少により過疎化が進み、市町村の合併が増えるなかで、貴重な水源がコンクリートで蓋をされてしまうというケースも増えつつあります」

ハバリーズは今、使われなくなった水源をビジネスに生かすことで保全し、次世代に手渡すというプロジェクトにも参画しているという。

「私たちには、生態系と共存しながら正しい形で水源を守り、未来へと手渡していく義務があると思うんです」

ハバリーズは、ペガサスのように羽を広げて天翔(あまかけ)る矢野さんの生き方そのもの。彼女が放つプラスのオーラは、これからも水の波紋のように周りへと大きく広がり、人と人とを結びつけ、豊かな未来を形づくっていくことだろう。

株式会社ハバリーズ

商品情報
https://havarys.com/
企業情報
https://havarys.jp/

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