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『2001年宇宙の旅』に見る<br>ミッドセンチュリー・モダン
映画に見る傑作インテリア

『2001年宇宙の旅』に見る
ミッドセンチュリー・モダン

『2001年宇宙の旅』——SF映画の金字塔に見るミッドセンチュリー・モダンのインテリアと“未来の空間デザイン”

新・旧作、洋・邦画問わず、映画を“インテリアや建物目線”で観ると、いつもとは違う楽しみ方や気付きが得られるはず。無類の映画好きで知られるイラストレーター・エッセイストの斎藤融氏が「インテリアが気になる映画」を紹介する連載コラム「映画に見る傑作インテリア」。2回目はSF映画の金字塔『2001年宇宙の旅』(1968年)。巨匠スタンリー・キューブリックが描く“未来”は、1960年代に製作された作品とは思えないほど具体的かつ洗練されたものだ。作中に登場する宇宙船のシンプルかつ機能的な内装や、ミッドセンチュリー・モダンクラシック・デザインのインテリアにも注目したい。

Illustrations & Text by Toru Saito

荘厳な音楽とともに宇宙空間を表現。あまりに印象深い冒頭シーンから物語が始まる

宇宙空間を思わせるような漆黒の画面が約3分間続く。その間ずっと流れているのはリヒャルト・シュトラウスの交響詩『ツァラトゥストラはかく語りき』の冒頭部「日の出」。暗い画面にようやく天体が姿を見せ、その向こう側から太陽が曙光をのぞかせる。これから始まるストーリーへの期待に胸が高鳴る。

猿人の群れの生態が克明に描き出され、人類の誕生となる。空中に高く放り投げられた骨は、遥かな時を超えてスペース・シャトルに姿を変えて現代につながる。

フロイド博士を乗せたシャトルが国際宇宙ステーションを目指して航行する。バックにはヨハン・シュトラウスのウィンナ・ワルツ『美しき青きドナウ』が優雅に流れる。うっとりするような宇宙空間の美しさだ。

宇宙ステーションのラウンジ。白一色の内装に映える真紅の椅子やソファが強烈なインパクトを与える。ムルグの60年代の傑作「ジン」シリーズをキューブリックが採用。

ステーションのラウンジに博士が入ってくる。赤い椅子がたくさん置かれていて、白一色の内装とのコントラストを効果的に印象づけている。人体をかたどったこの赤い椅子や二人掛けのソファは、フランスのデザイナー、オリヴィエ・ムルグの1965年の作品。パイプ・フレームにウレタンフォームで造形して、ストレッチ・ジャージーをかぶせ、ファスナーでとめる方式をとっている。

さまざまな場面で使われるミッドセンチュリー・モダンクラシック・デザインのインテリア

ラウンジのレセプション・デスクとして使われていた机。トップにウォルナット(くるみ)材を使用したものが「アクション・オフィスデスク」という名称で発売されていた。

ラウンジの場面ではピンクの制服を着た女性スタッフがレセプション・デスクを前に腰掛けているが、この机も赤い椅子と同じようにミッドセンチュリー・モダンクラシック・デザインのもの。ハーマン・ミラーの1964年の作品。映画では白い化学素材のデスクトップになっているが、ジョージ・ネルソンがデザインしたものはウォルナット(くるみ)材を使用している。脚部はクロームのスチール。

ちなみに、この映画に登場する男女のコスチュームは、すべて英国のデザイナー、ハーディ・エイミス卿が手がけている。伝統美を重んじながら未来にも目を向けていたデザイナーの感性と、キューブリック監督の時代を超越した美学が実を結んだ。キャビン・アテンダントのフィット・スーツと卵形のスペース・ヘルメットの可愛らしさなど、まさに秀逸。

約50年前の製作とは思えない、ディスカバリー号に見る“暮らしの機能”の表現

木星探査船「ディスカバリー号」の中でジョギングをする乗組員。無彩色のメカニカルな内装・設備がクールで、未来的な機能を感じさせる。
「ディスカバリー号」の船内のリラクゼーション・ルーム。テレビ電話やウルトラヴァイオレット光線装置などが備えられている。緊張をほぐす快適な空間だ。

それから1年半後、木星調査計画が始まる。捜査船ディスカバリー号のクルーが運動不足解消のために人口重力スペースでジョギングをするシーンがある。白一色のメカニカルな内装に黒の椅子がアクセントになっている。紫外線浴をするリラクゼーション・ルームや、宇宙食を摂るカフェテリアのインテリアも、すべて徹底して白一色に規定されている。ちなみに使われているカトラリーはデンマークのジョージ・ジェンセン。デザイナーはアルネ・ヤコブセン。シンプルで洗練された未来的デザインはこの映画にマッチしている。

カフェテリアで摂るペースト状の宇宙食。オートマシンで各自好きなメニューが選べる。どんな味かちょっと試してみたくなる。
食事に使われるカトラリーの4点セットはジョージ・ジェンセン製で現行商品。デザインはデンマークの建築家・デザイナーの巨匠、アルネ・ヤコブセン。

ボーマンの眼前に現れた、ルイ王朝時代のロココ様式の部屋の異様さ

探査船内にセットされたコンピューター、ハル(HAL)が自意識を持ち、クルーに反抗するようになる。機械と人間の壮絶な闘いが始まり、映画は一気にサスペンスの様相を見せはじめる。ハルの赤い視覚入力レンズが無気味だ。人間以上に人間的に感じられ、恐ろしい。

辛うじてただ一人生き残った船長、ボーマンを乗せたスペース・ポッドは、光の通路を抜けて突然異空間に現れる。ルイ王朝風の室内にいる老人。それを不思議そうに見る自分も、すでに年老いている。この古風な室内装飾といい、古典音楽の引用といい、キューブリックは人間的な時間尺度を超えた永劫回帰の思想が念頭にあったのかもしれない。

突然現れる異空間。ルイ王朝時代のロココ様式のインテリアと、下から光を透過する未来的なフロアの不調和が不思議だ。

公開当初からさまざまな解釈が乱れ飛んだという一事だけでも、この映画の価値がある。無理やり正解を導き出す必要はない。若い世代の人たちなら、映像美や感覚だけでも素直に愉しみ、喜んでいるにちがいない。

宇宙科学小説の大家、アーサー・C・クラークと映像作家スタンリー・キューブリックのコラボレーションが生んだこの不朽の名作はこれからも評価され続けるだろう。

エンド・ロールに再び『美しき青きドナウ』が流れ、いつまでも余韻が頭から離れない。

映画情報

『2001年宇宙の旅』

数百万年前の昔、謎の黒石板“モノリス”に接触した猿人はヒトへと進化し、その数百万年後に宇宙に進出していた。そして2001年、“モノリス”の謎を究明するため宇宙船ディスカバリー号は木星探査へと旅立つが、宇宙船を制御する人工知能HAL(ハル)9000型が反乱を起こす。死闘の末、生き残った船長のボーマンは木星の衛星軌道上で“モノリス”に遭遇し、ルイ王朝風の部屋へと招かれる。眠りについたボーマンの意識は悠久の時と空間を遡行し、ついには胎児へと姿を変え、人類を超越した存在・スターチャイルドへと進化していく……。スタンリー・キューブリック監督が、原作者のSF作家アーサー・C・クラークとの共同脚本によって製作したSF映画の金字塔。アカデミー賞特殊視覚効果賞を受賞。

1968年公開(日本初公開:1968年4月)/141分/アメリカ
原題:2001: A Space Odyssey
配給:ワーナー・ブラザース映画

profile

斎藤 融

イラストレーター、エッセイスト。早稲田大学文学部美術科在学中に漫画研究会を創設。卒業後はフリーのイラストレーターとして『メンズクラブ』『平凡パンチ』など60年代を代表する男性ファッション誌で活躍。英国紳士さながらのダンディで知られ、無類の映画好きでもある。

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