都会で見つけた、オアシスのような棲家
この家に越してきて、半年になる。
昨年、夫のロンドン赴任からの帰国が決まり、急いで家を探さなければならなくなった。今回は本格的に日本に拠点を戻すことになりそうなので「とりあえず2〜3年」というわけにもいかず、妥協が嫌いな夫と一緒に、家具付きマンションの仮住まいでしのぎながらいくつもの物件を見てまわった。
東京は広い。
毎週末いろいろな部屋を見るのが最初は楽しかったけれど、1ヶ月もするとさすがに飽きる。ほとほと疲れ切っていた頃に出会ったのが、この家だった。
「いいねえ。この広いテラスが、なんともいい。いろんな植物を置いたら、ちょっとしたリゾートじゃないか?」
リビングから窓の外を見ると、ゆったりとした空間にやわらかな光が差している。
「そうね。静かだし、確かに気持ちいいわ」
「じゃあ、決まりだな」
こうして私たちの棲家が決まった。
朝、瞑想のひととき
若い頃は、ダンスや水泳、ヨガと、とにかく体を動かすのが好きで、通っていたヨガスタジオでは簡単なレッスンをするまでになっていた。けれど結婚してからは、転勤が多い夫と一緒に2〜3年ごとに国内外を動くので、いつの間にかそんなことからも遠ざかってしまっていた。
「今度の帰国は、本当の帰国。つまり、おそらくこの先はずっと東京勤務だ」
ロンドンから戻るときに、夫はそう言った。
「そう、それはよかった。やっと落ち着けるわね」
ここに住み始めてからは、朝のストレッチが日課だ。起きてまずはお白湯を一杯。新聞を読んだり、ぼうっと考えごとをしたりして、それからゆっくりと体を動かし始める。
お気に入りのハーブを入れた水を用意して、窓に向かって深呼吸。体が少しずつ目を覚まし、じわじわと温かくなってくる。
「ふう、気持ちいい。やっぱり朝のヨガは最高」
そんな独り言を言いながら、自分だけの時間を楽しむ。
結婚して20年近く経つけれど、こんなに穏やかな日々は久しぶりだ。世界のいろいろな国に住んできた結果、やはり「ホーム」は格別。
窓の外の光を感じ、目覚めたばかりの植物に語りかける。これほど心静まるのは、この家に流れる、寄り添うような空気のおかげなのだろう。
夫婦ふたりの休日
「おはよう。なんだ、今朝は早いね」
「そう? もう9時はとっくに過ぎてるわよ」
「昨日遅かったからね。でも今朝は気分がいいな。ちょっと体を動かしてくるよ」
夫の週末は、たいていワークアウトから始まる。マンション内にあるジムは彼のお気に入りで、トレーニングウェアのままタオル1本だけ持って軽やかに出かけていく。
「行ってらっしゃい。じゃあ、戻ってくるまでにパワーブレックファーストでも用意しておこうかな」
「おお、それはありがたい。じゃあ、心おきなく運動してくるよ」
夫を見送ったら、ブランチの用意にとりかかる。今日は、鶏肉と野菜たっぷりのボリュームサラダを作ろう。最近ちょっとばかりハマっているキヌアを入れて、スムージーを添えたら、完璧!
「ただいま。おお!すごいなあ。これ、1人分?」
「そうよ、たっぷり召し上がれ」
「ありがとう、いただきます」
正直、私は決して料理上手などではないのだけれど、それでも、何を作れば彼が喜ぶかは熟知しているつもりだ。
「うまい! いくらでも食べられそうだ」
「よかった。まだたくさんあるから、おかわりもどうぞ」
自分を大切に。そして相手を尊重する
「ごちそうさま。おいしかった」
「午後はどうするの?」
「そうだなあ、今日はちょっとのんびりしようかな」
「そう? じゃあ私は、コレ!」
先日久しぶりに会った大学の友人が、小さなお花屋さんをしているというのでちょっと覗いてみたら、とてもセンスのいい植物がたくさんあった。
「彼女のお店でね、スワッグのレッスンをしていたの。そこでちょっと教えてもらったから復習しようかな、と思って。グリーンやお花を仕入れてきたから、ダイニングでコーヒーでも飲みながらのんびりやるわ」
「じゃあ僕は、自分のお城で読書でもしてくるよ」
外資系の金融機関で働く夫は、海外との折衝も多く業務時間も不規則だ。国内にいても海外にいても常に世界のマーケットを相手に仕事をしているのだから、気が休まるときがないのではと、側で見ているこちらがハラハラするほど。
その反動からか、彼は自然に生きる動物たちに絶大なる敬意を抱き「いつかアフリカで野生の動物たちをこの目で見たい、いや、あわよくば触れてみたい」と、遠い目で語る。
「『老後』なんてものが来るのかどうかわからないけれど、僕の老後の夢はそれだな」
書斎には、そんな夫の「夢のかけら」がたくさん詰まっている。
午後のまどろみのあとは、アペリティフで乾杯
「読書は終わった? そろそろアペロタイムだけど」
「え? もうそんな時間?」
「さては、お昼寝でもしてた?」
「いやあ、つい本に夢中になって……」
「寝落ちしたのね。少しはすっきりした? 今日はちょっとおいしいワインを開けたから、一杯いかがですか?」
「もちろん、ご相伴にあずかりますよ、マダム」
「あいつ、どうしてるかな」
「元気にしているわよ、きっと」
帰国が決まったとき、17歳になる息子は考えに考えた結果、ロンドンに残ることを決めた。一緒に帰国して高校に編入することもできたのだが、先の受験などを考えるとロンドンにいた方が選択肢が広がると判断したのだった。
「まあ、そうだよな、もう半分大人だし」
夫は少しばかり寂しそうな顔を見せる。もちろん、私にだって寂しい気持ちはある。けれど子どもは巣立っていくものなのだ。
「いい選択だったと思うわよ。離れた方が、お互いやさしい気持ちになれることもあるし」
「そうだな。お正月には帰ってくるかな」
「じゃあ、おせちには腕を振るわなくちゃね!」
家族の形は、時間とともに少しずつ変わってくる。今の自分にはどんな家が必要なのか、それを見極めるのはなかなかに難しいことだけれど、それでもぴったりフィットする家に出会えたら、まさに至福。
人生の経験を積み、歳を重ねたからこそ「本当の良さ」がわかることもある。この家は、まさに私たち夫婦にとってそんな家だった。
人がうごめき情報が渦巻く都会の真ん中にいながら、「自分に戻る瞬間」を与えてくれる場所。今はまず、ここを拠点に自分自身の、そして家族それぞれの「自分らしさ」を楽しんでいこう。
Today’s Recipe 1 ボタニカルパワーサラダ
●キヌアとジェノベーゼ入り鶏ハム
[材料](1本分)
鶏胸肉 1枚
キヌア(茹でてからざるにあげ、ペーパータオルで水気を取る) 大さじ2程度
ジェノベーゼペースト(市販品) 大さじ1
塩、こしょう、砂糖 各適量
[作り方]
1.鶏胸肉は皮を取って開く。ラップにはさんで麺棒などで叩き、均一に平らにする。
2.1の両面に、塩、こしょう、砂糖各少々をすり込む。
3.鶏肉は、開いた方を上にして縦に置き、ジェノベーゼペーストを塗る。周囲3センチほどは余白を取っておく。
4.3の上にキヌアを平らにのせる。鶏肉の細くなっている方を手前にしてラップごと巻く。上からアルミホイルをしっかりと巻き、さらに長めに切ったラップの上にロールを横にのせて巻き、両端をかた結びにする。
5.鍋にたっぷりの湯を沸かして4を入れ、弱火で30分加熱する。火を止めて、そのまま30分おいてから引き上げ、粗熱がとれたら冷蔵庫で冷やす。食べる前に1センチ程度の幅に切る。
※切る前の状態で3〜4日冷蔵保存が可能
●白身のヨーグルトタルタル
[材料](作りやすい分量)
ゆで卵の白身 2個分
ヨーグルト 大さじ1
オリーブオイル 大さじ2
粒マスタード 大さじ1/2
塩、こしょう 各適量
[作り方]
1. ゆで卵の白身を包丁でみじん切りにする。
2. ボウルにヨーグルト、粒マスタード、塩、こしょうを合わせ、オリーブオイルを少しずつ加えながら混ぜ合わせる。
3. 1の白身を加えて混ぜる。
[サラダの仕上げ]
好みの野菜(写真はケール、セルバチコ、トレビス、アルファルファ)をちぎって鶏ハムを添える。白身のヨーグルトタルタルをかけてオリーブオイルをまわしかけて食べる。
Today’s Recipe 2 梨とケールのアーモンドミルクスムージー
[材料](1人分)
梨 1/2個(皮と芯を除いてざく切り)
ケール 4〜5枚(芯を除いてざく切り)
アーモンドミルク(無糖)200cc
アガベシロップ(または蜂蜜などでも可) 大さじ1〜2(好みで)
[作り方]
すべての材料をミキサーまたはブレンダーに入れて撹拌する。
Today’s Recipe 3 おつまみ3種
●焼きモンキーバナナ
[材料](2人分)
モンキーバナナ 2本
カカオニブ 少々
アガベシロップ 少々
米油 少々
[作り方]
1.フライパンにごく少量の米油を塗り、皮ごと縦半分に切ったモンキーバナナを、切り口を下にして入れて軽く焼く。
2.器に1を盛り、アガベシロップをかけてカカオニブをふる。
●いちじくとサラミのピンチョス
[材料](2人分)
いちじく 1個
パストラミ 4枚
オリーブオイル 少々
[作り方]
1.いちじくは皮ごと縦1/4に切る。パストラミを半分に折っていちじくに重ね、ピックで刺す。オリーブオイル少々をかける。
●グリーンオリーブのアーモンド詰め
[材料](2人分)
グリーンオリーブ(種無し) 6個
ローストアーモンド 6個
ドライタイム、オリーブオイル 各少々
[作り方]
オリーブの穴にアーモンドを詰める。タイムをふり、オリーブオイルをかけてマリネする。
撮影協力
LINEN & DECOR
▶https://www.linenanddecor.net/