夫の思いつきで始まる、メキシカン・スタイルの週末ランチ
「今度の日曜はさ、家でタコスを作ろうよ」
家族の週末は、そんな夫のひと言から始まった。
「え、なんでタコス?」
「いやさあ、去年、メキシコに取材に行っただろ? あのときのカメラマンから電話もらって、メキシコ話で盛り上がってさ。そしたら食べたくなっちゃった」
またいつもの思いつきイベントが始まった、と妻は思う。編集者である彼の頭の中は、昨日ノルディックデザインでいっぱいだったかと思うと、今日はいきなり南米のネイティブフードにワープしたり、とにかく目まぐるしく飛び回る。それがこの人の面白いところでもあるのだけれど、周りの人間はついていくのに必死だ。ともあれ、この人は言い出したら聞かないから、こうなったら付き合うしかないのだ。
「通販でトルティーヤ作る道具買っちゃったんだよ。やっぱり、生地から作らないとね」
子どもと一緒に楽しむ、キッチンでのひととき
日曜日。「生地は俺が作るから」と、張り切っていたのに、いざとなると尻込みしたのか、トルティーヤ作りは妻と子どもたちの担当に。
「お団子みたいに丸くしたら、この銀色の板の間に挟んでぎゅっと押すの。そしたらトルティーヤっていう生地ができるから。じゃあ、あとはお願いね」
「わーい! 粘土みたいだね!」
小学3年生になる娘と3歳の息子が、喧嘩しながらもどうにか生地を成形する。そのあいだに妻は、野菜を切ったりチキンを焼いたりと、意外と忙しい。
「お、おいしそうだね! 生地も上手にできてる。なんだ、僕の出番はないかな。じゃあ、テーブルにお皿でも並べようか。あとはビールを冷やしておかなくちゃな」
と、夫は調子のいいことを言いながらまんまと仕事を免れ、いそいそと音楽をかける。
この家に引っ越してきて1年になるが、家族全員、ここの住み心地がとても気に入っている。季節を問わず気持ち良い光が差し込み、キッチンとダイニング、リビングが一体となった空間は広々としていて、視界にお互いを確認しながらも、それぞれが好きな場所で好きなことをして時間を過ごすことができる。
「音楽もメキシカンにする? それとも何かほかの?」
「メキシカンって、ちょっと想像できないな。気持ちいいボサノヴァくらいにしておいて」
「了解!」
妻はいつも、部屋に花を欠かさない。忙しい夫がピリピリして険悪なムードが漂ったときも、子どもがうるさくてイラっとしたときも、花を見ると気持ちが落ち着くからだ。
「テーブルにもちょっと花を飾っておく?」
「あら、いいわね」
「わあ、お皿にお花なんて、何か特別な感じがする! ママ、今日はパーティだね!」
彩り豊かなダイニングテーブルを囲んで、タコスパーティが始まる
「さあ、できたわよ! はい、みんなテーブルにどうぞ」
「おお、こりゃすごい。いつもながら見事な腕前だね! 本場のメキシコよりも豪華だ。うん、今日はパーティだね」
色とりどりのごちそうが並んだテーブルに、耳に優しい音楽がフィットする。家族水入らずで楽しむホリデイ・パーティの始まりだ。
「お姉ちゃん、見て見て! オレンジが遊園地みたいになってる!」
「え、遊園地って、何それ意味わかんない。でもかわいいね、ママすごい!」
「二人が手伝ってくれたから、思ったより早く準備ができたわね。じゃあ、乾杯しましょうか」
トルティーヤにサルサ、チキンにセビーチェ、そしてフルーツ。さほど手の込んだ料理ではないけれど、みんなで作って食べる食事は最高のごちそうだ。
「ねえ、二人とも、タコスの食べ方知ってる?」
「知らなーい!」
「こうやってトルティーヤに好きな具をのせるでしょ。そしたら、手でこんなふうに包むようにして折って食べるの」
「手で食べていいの?」
「そうだよ、いつもは手で食べたら怒られるけど、今日は特別なんだって!」
「じゃあ、エビ入れちゃう! あと、お肉と、好きなの全部!」
「こらこら、入れすぎるとこぼれるから気をつけるんだぞ!」
子どもの元気な声と、家族の笑顔。家で過ごす休日の幸せな時間が、日々の忙しさを忘れさせてくれる。
「今日はありがとう。タコスなんて無理難題押し付けちゃって悪かったかな。だけどおいしかったよ」
「ほんとよ(笑)。また面倒くさいこと言い出したなぁ、って思ったけど、結構楽しかったね。子どもたちも喜んでたし、いい日曜日になったわね」
ランチの後は、お気に入りの場所でそれぞれの時間を過ごす
にぎやかなランチの後は、それぞれが思い思いに時間を過ごす。どうやら子どもたちは、リビングに小さな基地を作ったようだ。
「おやつ、ここに置いておくわね。カーペットにこぼさないように気を付けて」
「はーい。僕ね、ここでお絵描きする」
「えー、私もそこがいいの。独り占めしないで!」
「じゃあ、お姉ちゃんはこっちにどうぞ」
子どもは気持ちいい場所をよく知っている。陽が差し込む窓際の、ひんやり冷たい床に座って、二人で仲良くお絵描きと読書だ。
「おやつもこっちに持ってきちゃおうかな」
「お姉ちゃん、床で食べたらママに怒られるよ!」
「大丈夫、ママは片付けしてて、こっちは見えないから」
いたずら顔でコソコソと相談しながら、おやつタイムを楽しむ二人。
「……あれ? パパはどこ?」
「こっちだよ。パパはちょっとテラスで休憩」
夏の午後のテラスは、夫が最も好きな場所のひとつだ。
お気に入りのテキーラをちびりちびりと楽しみながらの、妄想タイム。メキシコの色彩や造形は、パラパラと見ているだけでもワクワクする。外でも中でもなく、ただ空気と風を感じることができるテラスは、いろいろな空想をするのにうってつけの場所だ。
「さて、片付け終了。私もちょっとゆっくりしようかな」
日曜の家族のイベントを終えて、ソファでくつろぐひととき。子どもたちの声を聞きながら、気持ち良い疲労感とともにまどろむ。
「ふう。今日もいい一日だった」
住みたい家が、なりたい自分を作る
家は、住む人がつくるもの。気に入った家具を置いて好みの色のカーテンをかけ、器を選び、花を飾る。そうやって少しずつ心地よい空間を作り上げていくのが、「暮らす」ことの醍醐味でもある。
同時に、「家が住む人を育てる」こともある。どんな家に住むかによって人の生活スタイルは変わり、そしてその暮らしぶりが、そこに住まう人の「人となり」を形成する。
家とは、そんな不思議な力を持っている。
つまりは、住みたい家に住むことで、なりたい自分になれる。そういうことなのだ。
「そろそろ暗くなってきたぞ。二人とも片付けて」
「夕飯、どうする?」
「まだお腹いっぱいだよ、タコスいっぱい食べたもん」
「じゃあ、残った野菜でスープでも作りましょうね」
家族のメキシカン・ホリデイが、穏やかに暮れようとしている。
Today's Recipe 1「トマトサルサ&トルティーヤ」
●トマトサルサ
[材料](作りやすい分量)
トマト 中2個
パクチー 1束
にんにく(みじん切り) 1片分
ライム汁 1/4個分
塩 適量
ペッパーソース(タバスコ) 少々
オリーブオイル 大さじ1
[作り方]
1. トマトはヘタを取り、1センチ程度の角切りにする。パクチーは葉と茎を分け、茎はみじん切り、葉はざく切りにする。
2. ボウルにトマト、パクチーの茎、にんにく、ライム汁、塩、ペッパーソース、オリーブオイルの順に加えて和える。
3. 食べる直前にパクチーの葉を加えて混ぜる。
●トルティーヤ
[材料](作りやすい分量)
フラワートルティーヤ
薄力粉 200g
塩 小さじ1
ベーキングパウダー 小さじ 1/2
水 約100g
コーントルティーヤ
コーン粉 100g
強力粉 100g
塩 小さじ1
ベーキングパウダー 小さじ1/2
水 約100g
[作り方]
1. フラワートルティーヤ、コーントルティーヤともに、ボウルにそれぞれ粉とほかの材料を入れる。様子をみながら水を加えてこね、ひとまとめにする。水は生地の状態をみて加減する。
2. 生地を40g程度ずつに分け、1つずつ丸めてトルティーヤプレス機で薄くプレスする。プレス機がない場合はオーブンペーパーに挟んで手のひらで伸ばし、さらに綿棒などで丸く伸ばす。
3. フライパンに1〜2枚ずつ入れ、薄く焦げ目がつく程度にさっと焼く。
Today's Recipe 2「ワカモレ」
[材料](作りやすい分量)
アボカド(完熟のもの) 1個
ライム汁 1/2個分
にんにく(すりおろす) 少々
塩、こしょう 各適量
[作り方]
1. アボカドは種を外し、スプーンですくって果肉をボウルに出す。
2. 1をフォークでつぶし、ほかの材料を加えて混ぜ合わせる。
Today's Recipe 3「チリチキン」
[材料](作りやすい分量)
鶏もも肉 1枚
にんにく 1片
チリパウダー 小さじ1
塩、こしょう、オリーブオイル 各適量
[作り方]
1. 鶏もも肉は厚い部分に横に包丁を入れて開き、厚さを均一にしたら、強めに塩、こしょうをふる。にんにくは芽を取ってつぶす。
2. フライパンにオリーブオイルとにんにくを入れて弱火でじっくり香りを移す。鶏肉の皮目を下にして入れ、厚手鍋の蓋などを肉の上に載せて、強めの中火で皮目がカリッとするまで焼く。焼けたらひっくり返し、裏側は表面が白くなる程度にさっと火を入れて取り出す。
3. オーブンシートを敷いた天板に2を皮目を上にして置き、チリパウダーをふる。
4. 160℃に予熱したオーブンで10分程度焼く。
撮影協力
utuwa
LINEN & DECOR
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