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寺田倉庫の企業文化や理念から紐解く、躍進を続ける“強さ”の秘密
100年の理(ことわり)

寺田倉庫の企業文化や理念から紐解く、躍進を続ける“強さ”の秘密

歴史を繋ぐストーリーに沿って、新たな事業を展開する。
そこに息づく企業アイデンティティとは【後編】

企業に見る伝統継承とイノベーションを紹介する「100年の理(ことわり)」。今回は前編に引き続き、天王洲に拠点を置く「寺田倉庫」を紹介する。前編では、同社が大きく変わるきっかけとなった「minikura」の立役者である月森正憲さんと柴田可那子さんから、事業立ち上げのきっかけや寺田倉庫の根底にあるフィロソフィーについて伺った。後編では、躍進を続けるその強さの秘密と、背景に潜む企業文化や想いに迫る。

▶前編はこちら

Text by Kaori Kawake(lefthands)
Edit by Shigekazu Ohno(lefthands)
Photographs by Takao Ohta

すべての事業は歴史を繋ぐストーリーに基づいている

変化をいとわず、時代に合わせて革新的な事業を生み出してきた寺田倉庫。倉庫事業だけにとどまらず、新たなビジネスチャンスを見つけ、柔軟に対応し成長を続けている。その根底には、いったいどのような文化や想いが息づいているのだろうか?

「確かにさまざまな事業を起こしてはいるのですが、それはすべて歴史を繋ぐというストーリーに基づいたものなんですね。ストーリーを汲み取りながら、そのなかで自分たちのできることは何だろうと常に考えています。ストーリーに反しないことであれば、どんどんチャレンジできるような風土があるのです」と話すのは月森さん。

「minikura」事業の立役者であり、現在は寺田倉庫の専務執行役員も務める月森さん。

一見、倉庫会社の仕事とは繋がりのないようにも思える画材ラボ「PIGMENT TOKYO」や建築模型に特化したプロジェクト「建築倉庫」も、寺田倉庫の歴史の延長線上にあるという。

「建築倉庫に保管・展示している建築模型の多くは木や紙で作られていますので、湿気によって劣化しやすいんです。そもそも、そういうモノを保管するノウハウがなければ実現できません。これまで、美術品やワインなどの特別な保管を行ってきたからこそ、このようなサービスに発展させることができました」

また、柴田さんは次のようにも話す。

「寺田倉庫は、1975年から美術保管をスタートしています。その際、ただ保管するだけではなく、修理・修復という付加サービスも行っていました。美術品の修復には、良質な画材が不可欠。しかも、制作当時と同じ画材、修理・修復専門の人材も必要でした。しかし、そういった良質な画材を作るには高度な技術も必要ですが、後継者不足などの課題もあり、メーカーや工房自体が存続の危機にありました。このままだと、歴史のある素晴らしい技術が世の中に広められないまま途絶えてしまうかもしれない。その課題を解決するため、良質な画材をより多くの人に知ってもらうためのショップを始めようということになりました。それが2015年7月にオープンした伝統画材ラボ PIGMENT TOKYOです」

「minikura」事業の立ち上げメンバーであり、現在は寺田倉庫の執行役員も務める柴田可那子さん。
「PIGMENT TOKYO」には、伝統画材がまるでアートのように並べられている。

PIGMENT TOKYOが事業として運営を続けることは、メーカーや作り手さんと志を共有することへと繋がり、新たなストーリーを描き始めている。

モノのストーリーを紐解き、そこにある問題を解決する

ストーリーに沿って展開している事業だが、イノベーションを起こすには、新たなアイデアが必要となるはずだ。寺田倉庫がこれまでにない事業を次々に生み出すことができているのはなぜなのだろうか? その理由について問うと、月森さんは次のように答えてくれた。

「寺田倉庫はモノを預かるというところからスタートしていますが、我々はお預かりするモノを単に無機質な個体として見ているわけではありません。そのモノがなぜ大事にされているのか、背景にあるストーリーにまで想いを馳せています。モノと一緒に想いも預かるという強みを活かし、モノに纏わるストーリーを紐解くことで、我々にできることが自然と見えてくるんですね」

「建築倉庫ミュージアム」では、ユニークな企画展が開催されている。写真は、高山明/Port B「模型都市東京」の様子。*この展示は8月23日に終了しています。
「建築倉庫ミュージアム」では、ユニークな企画展が開催されている。写真は、高山明/Port B「模型都市東京」の様子。*この展示は8月23日に終了しています。

そこには、古き良きものを大切にしながらも、新しい要素をミックスさせようという「ニューオールドの精神」が根付いていると柴田さんは言葉を足した。

「新たな技術だけでなく、人も非常に大事な要素の一つです。アーティストや若手社員を積極的に採用し、プロジェクトを推進することによって生まれる新たなアイデアにも、大きな価値があります。今のPIGMENT TOKYOは、アーティストスタッフなくしては決して実現していないでしょう」

コンパクトな組織で企業アイデンティティを浸透させる

朝令暮改を恥じるな——というメッセージが寺田倉庫には息づいている。

そこには「社会やライフスタイルは時代によって変わりゆくもの。絶対こうでなければならないという先入観は捨て、柔軟にやりたいことをやるべきだ」という意味が込められているという。

「日々、変わっていくことを許してくれる会社なので、その環境を活かし、貪欲にチャレンジしていかなければなりません。社員にチャレンジしやすい環境を整えてあげることが、イノベーションにも繋がっていくのではないでしょうか」と話す月森さんは、イノベーションを起こしやすい環境について次のように分析する。

「現在社員は100人程ですが、この規模であることにより、社長が考えていることを社員に共有しやすいのはもちろん、社長も今誰が何をやっていて、どんな悩みを抱えているのか、どんな夢を持っているのかをしっかり把握することができています。意思疎通が図りやすいコンパクトな企業であることも、企業のアイデンティティを浸透させるために適しているのだと思います」

自分たちで新たな文化を創出する

寺田倉庫は今、天王洲の街をベースにさまざまなイベントを開催し、文化創造に取り組んでいる。

「以前はスペースを提供するだけで、そこに入っているモノや人には介入していませんでした。しかし、現在では自らもスペースを利用したコンテンツを手掛けるようになりました。文化創造事業もそのひとつです」と月森さん。

寺田倉庫のスペースで開催されるイベントやフェス、マルシェなどは、天王洲に人を呼び込み、新たな文化を育み始めている。

「天王洲キャナルフェス2019秋」の様子。

「文化というのは自分たちだけで作れるものではなく、共創によって育み、浸透させていくものだと思います」と話す柴田さん。

自分たちだけではなく、顧客や社員などのステークホルダーや地域の人など、周りの人と共創することで、新たなステージへと駒を進めようとしている。

これからも躍進し続ける寺田倉庫から目が離せない。

企業情報

寺田倉庫株式会社
▶︎https://www.terrada.co.jp/

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