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デザイナー・森田恭通氏が「写真作品を撮る理由」とは?
Focus on Designer

デザイナー・森田恭通氏が「写真作品を撮る理由」とは?

「タイムレスな空間を追求し、商業施設も住宅もオートクチュールでつくる」——デザイナー・森田恭通氏が写真作品を撮る理由

デザインによって「より豊かな暮らし」の実現に寄与する人物を紹介する「Focus on Designer」。7回目はGLAMOROUS co.,ltd.の森田恭通氏。インテリアに限らず、グラフィックやプロダクトといった幅広い創作活動を行っており、これまで国内はもちろん、海外でも多数のプロジェクトを手がけてきた。また、各種商業空間デザインのほか、現在はアーティストとしても活動しており、2015年パリで初の個展を開催して以来、定期的に作品展を開催している。去る4月の中頃、写真作品の展示会が都内で開催された。今回は、その開催中の展示会会場にてお話をうかがった。

Text by Mikio Kuranishi
Photographs by Mori Koda

今回出展された写真作品は、シリーズ「ポーセリン・ヌード Porcelain Nude」。女性の身体の美しさを森田氏のフレームによって切り取られたものだが、モノクロームで表現された造形は、見方によっては本物の生きた身体か、それともシリーズ名のとおり陶磁器(ポーセリン)のような静物なのか、どちらとも言いようのない艶(なまめ)かしい曲線の光と影が美しい。

会場となったのは、都心のレジデンス「オパス有栖川」にR100TOKYOが企画し、リノベーションされた住戸のリビング。その広さはなんと約100㎡と、小さなギャラリー並みの広さを誇る。ちなみにこの住戸をデザインしたのは、森田氏とも親交のあるフランス人デザイナー、グエナエル・ニコラ氏だ。モノトーンを基調とするシックな空間に、氏の写真がひときわ映える展示だった。

作品をじっくり鑑賞したのち、まずデザイナーとしての最近の活動からうかがった。

——コロナ禍の中、昨年なんと18物件もプロジェクトが竣工しています。

コロナ禍以前に受けた仕事もありますから、それはたまたまです。コロナ以降、商業がなかなか動かない状況が続いていて、特に海外への渡航が困難になり、計画が延期になったり頓挫したものもありました。そのため、昨年からは別荘などを含め住宅の仕事が増えています。

やはり、家を出て仕事場へ行き、仕事が終わると仲間と食べて飲んで帰宅するといった、コロナ以前の生活のリズムが崩れ、在宅時間が増えたためか、家に対する充実度を大切にされる傾向が顕著です。例えば今までとは違う環境に住んでみようとか、そういった自分で住環境を考える時間軸が変わってきたように思います。

——メディアで紹介されるのが商業空間ばかりなので、住宅も結構手がけられているとは意外でした。

クライアントの住居は以前から結構手がけていましたが、プライベートな空間ですので、雑誌など媒体で一般に公開されることはまずありません。そうした住宅は、求められるレベルやクオリティが極めて高いため、かなり細かいところまで徹底的にデザインしてきた経験があり、実は住宅は割と得意なほうだと思います。また、皆さん社交的な方ばかりなので、完璧にプライベートな空間というよりも、リビングも含めゲストを迎えられるような、基本的にはホテルのようなパブリックとプライベートが区切られたデザインになることが多いですね。

——商業空間と住空間で、デザインする際の方法、アプローチは変わってくるものですか?

そうですね、商業空間では皆さんが、例えば飲食するとか、宿泊するために行ってみたいと思うような空間をイメージしますが、住宅の場合はクライアントの立場になって自分自身がターゲットの一人として、住んでみたいと思える空間を考えます。

それから、店舗ですと滞在時間は数時間、ホテルでも数日間ですが、住宅になるとほぼ365日、毎日その空間にいるわけです。さらに朝から深夜まで、いろいろな時間軸があって、その時間その時間におけるシーンを考える必要があります。

その中で重要になってくるのが太陽の動きです。手がけてきた住宅は戸建が多いのですが、そうすると敷地に対するエントランスの位置、方向を含め、陽の光がどこから入ってどう動くか、季節によってすべて変わってきますので、一番大切にしているところですね。

タイムレスなデザインをオートクチュールでつくる

——森田さんご自身、あるいは主宰されているデザイン・オフィス「グラマラス」として目指すもの、そのデザインのオリジナリティについてお話しください。

デザイン会社というのは星の数ほどあります。優秀なデザイナーが日本中、世界中にたくさんいらっしゃる。その中で僕たちのデザインの特徴は、一つの方向性に拘(こだわ)らないということです。

名前を言わないと同じデザイナーが手がけたとは思えないくらいバリエーションがあって、それが小さなバーであったり、住宅であったり、あるいは伊勢丹新宿本館本店のような大型の商業施設まで、デザインの手法はバラバラです。

基本的に一つのカテゴリに拘ることなく、クライアントごとにベストのデザインで最大のパフォーマンスが発揮できるよう、いわゆるオートクチュールのように一つひとつデザインの手法を考える、それが僕たち「グラマラス」の仕事だと思います。共通するのは、求められているものを探りつつ、タイムレスなデザインを追求していることでしょうか。

——今回の個展についてですが、もともと写真はお好きだったのですか?

僕はあまり趣味がないのですが、写真だけは昔から好きで撮っていました。ただ、プライベートの時間にとっておきたくて、仕事にはしたくなかった。一方で建築やインテリアのデザインをする中で、大きなホワイトウォールができると、アートワークとしてモノクロの彫刻のような写真が欲しいなといつも思っていました。それが意外と見つからなくて、あっても高額だったり、点数が足りなかったりということが何度か重なったとき、じゃあ自分で撮ってみようかと思ったのがきっかけです。

——最初の個展をパリでされたのは?

日本で発表すると、どうしても「デザイナーの森田が撮った写真」というような先入観をもたれそうで、それはそれで主旨が違うかなと思いました。それならいっそ、僕の名前が知られていなくて、世界で一番写真に厳しい都市、パリで1から挑戦してみようかと。それが2015年のことでした。

初めての個展は、実はオープニングレセプションの翌日、一般公開初日の夜にあのパリ同時多発テロがあって即中止となり、1日だけの展覧会になってしまいましたが、逆にそれが皆さんの印象に残ったのか、好評価でした。

2015年11月、パリで開催された森田恭通初の写真展「Porcelain Nude」会場(espace commines)風景。 Photo : I.Susa
作品から複製されたノベルティカード。ちなみに左は2016年、右は2017年の作品。
2015〜17年にかけて制作された作品を収めた写真集『Porcelain Nude』SUPER LABO、東京、2017年。

写真はライティングがすべて。目標はいかに美しい影をつくるか

——他のアートフォト作家の方々と違う点とは何でしょうか?

よく聞かれるのですが、一番違うのは僕の作品は基本的に空間に飾られることを前提にしているということです。それは、床か壁か天井かわかりませんが、とにかく空間に置かれたときどうなのか、それを常に意識しています。

それから、普段のインテリアデザインの仕事は図面から空間へ、つまり二次元から三次元へ変換する作業ですが、写真は三次元を二次元の世界へ落とし込む。でもできた作品は三次元の世界のように見せたい。そのとき大切なのが、インテリアデザインでもそうなのですが、ライティングだと思います。基本的に写真はライティングがすべて、つまり光と影であって、最終目標はいかに美しい影をつくるかだと思います。

展示会会場の作品より。2015年、パリでの初の個展に出展した作品(プラチナプリント)。

——今回会場となったこのマンション住戸は、森田さんと親交のあるグエナエル・ニコラさんのデザインです。作品を展示してみていかがでしたか?

この空間は以前に写真では見ていました。今回の個展が決まって初めてこの空間を実際に見たのですが、さすがニコラさんだなと思いました。

実は今回の個展は、僕が懇意にしているアートコンサルティング会社がこのレジデンスを企画されたリビタさんとお付き合いがあったというご縁がきっかけです。というのも、レジデンスのコンセプトが「アートのある暮らし」で、プロモーション企画を相談された際、これは森田の作品がぴったりだということから実現したものです。いずれにしても、ニコラさんがデザインしたモノトーンを基調としたこの住戸、リビングの静謐(せいひつ)なホワイトウォールは、確かに僕の作品と極めて親和性の高い素晴らしい空間だと思いました。

会場は港区にあるレジデンスの一室。そのLDK(96.12㎡)がギャラリーとなった。 住戸の詳細は以下、デザインを手がけたグエナエル・ニコラ氏のインタビューで: ▶︎https://r100tokyo.com/curiosity/r100tokyo/interview_ncl/

“センスのある家”が豊かな暮らしへと繋がる

——ところで、ご自宅をデザインされるときとクライアントの住宅をデザインされるときの違いは何でしょう?

まず、ライフスタイルが違いますよね。僕はしないけれどゴルフ好きだったり、車が趣味であったり、仲がよくてもクライアントと自分のライフスタイルは違います。僕たちはその違うところを徹底的にヒアリングして吸収し、その人になりきったときに、何が不都合か、何が嬉しいかを、細かくカテゴリーごとにチェックしていきます。「デザインはいいけど住んでいるうちにストレスがたまる」ような家には、絶対にしたくないですね。

それから、例えば将来のことを考えてバックヤードはこれくらいとっておきましょうとか、その人の生活のリズムをわかったうえでデザインすることも重要です。そういう意味では住宅もまさにオートクチュールです。さらに、クライアントが頭の中に描いている森田デザインのイメージをそのまま形にしてしまうと、それはそれで面白くないはず。クライアントのイメージをぎりぎりどこまで超えていくか、それが僕たちの仕事なのだと思います。

——森田さんにとっての「豊かな暮らし」とはどういうものでしょうか。

豊かな暮らしといえば、かつては“ゴージャス”とか“ラグジュアリー”という言葉で形容されていましたが、今や死語になりつつある。僕の自宅は現在東京ですが、プライバシーを守るためにかなり背の高いグリーンを周囲に巡らせています。そうすることである種の景色を切り取ってもいるのですが、決してゴージャスではありません。

これからは、ただただお金をかけて家をつくるとか、アートも人気があるからといって買い求めるのではなく、ちゃんと見識と自分の判断基準をもって主観的に選べるかが問われるようになるし、日本でもそう考える人が増えてきたのかなと思っています。それは、いわばセンスのあるスタイル、センスのある生活で、僕にとってはそれが「豊かな暮らし」なのだと思います。

profile

森田 恭通

1967年大阪府生まれ。大学在学中の89年に手がけた神戸・三宮のバー「COOL」がデビュー作となる。大学卒業後大阪のデザイン会社を経て96年、森田恭通デザインオフィス設立。2000年「GLAMOROUS co.,ltd.」を設立後、01年の香港プロジェクトを皮切りに、ニューヨーク、ロンドン、カタール、パリなど海外へも活躍の場を広げ、インテリアに限らずグラフィック、プロダクトなど幅広い分野で活動。近作にMIYASHITA PARKのレストラン「DADAI THAI VIETNAMESE DIMSUM」、三井ガーデンホテル六本木プレミアのバー「BALCON TOKYO」、ホテルW Osaka内の鉄板焼き「MYDO」などがある。また、アーティストとしても精力的に活動しており、15年から写真展をパリで継続的に開催している。20年初の著書『未来を予知する妄想の力 1000のイノベーションを生んだ森田恭通の仕事術』を上梓。同年12月商いをデザインするオンラインサロン「森田商考会議所」をスタートした。

株式会社グラマラス
▶︎http://glamorous.co.jp
アーティスト活動を紹介するHP
▶︎https://yasumichimorita.com
オンラインサロン「森田商考会議所」
▶︎https://salondemorita.com

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