アーティストと経営コンサルタントが出会う
遠山:「REAL by ArtSticker」(東京丸の内・KITTE)で9月22日(水)〜29日(水)に個展『REAL by ArtSticker / 山脇紘資「twin animals」』を行う作家の山脇紘資さん。そのアトリエに今回はおうかがいしたのですが、もう一人ゲストとして成澤俊輔さんにも来ていただきました。今日は私と芳雄さんは聞き役として、お二人のお話をじっくりと聞かせていただきたいなと思っています。
成澤・山脇:よろしくお願いします。
遠山:まずは簡単にお二人のご紹介を。まずは画家の山脇紘資さん。2012年に武蔵野美術大学油絵学科を卒業後、2014年に東京藝術大学院美術研究科絵画専攻を修了。そして現在は画家として、そして「ookk」というバンドでミュージシャンとしても活躍中です。そういった作業はすべてこのアトリエでやってるの?
山脇: そうですね、この場所で絵を描いて、音楽をつくっています。アトリエは、もともとは廃墟だった建物を仲間と一緒にDIYして、そろそろ6年目になります。
遠山:そして経営コンサルタントの成澤俊輔さん。3歳の時に難病がわかり、ほとんど視力を失っています。しかしそのハンディキャップをまったく感じさせないほどのバイタリティとパワフルさで、数多くの業界で経営コンサルタントとして活躍されています。
成澤:完全に視力を失っているわけではなく、光や山脇さんの作品が壁に飾られているんだろうな、というぐらいはわかるんです。
山脇:何かが存在しているのはわかるんですね。
成澤:そう、白っぽいかな、黒っぽいかなぐらいで、正確な色もサイズ感もあまりわかりません。でもその見えないのが最高に楽しい人生を送らせてもらっています。見えないからこそ人や常識とは違ったことを言いやすかったり、見えないからこそいろんなことをとらえ直すことが今までの人生で多かったですね。それを生かして仕事ができていると思います。
鈴木:ちなみに今はどれくらいの会社をコンサルしているんですか?
成澤:ダンボール屋さんやブルーチーズ屋さん、美容室、保育園など、本当に多岐にわたる業界で60社くらいさせてもらっています。見えない僕がコンサルをする。今日のテーマになると思うんですが、「見える」「見えない」、これが果たしてどういうことなのか。僕は確かに見えていないけれども見えている。そういうこともお話しできればと思います。
鈴木:今回は遠山さんがぜひこのお二人をゲストに呼びたいということでしたが、どうしてお二人に声をかけたのでしょうか?
遠山:山脇くんは特に動物をメインとした作品を制作されています。その動物というのは、可愛いとかデフォルメされているとかキャラクターチックとかなのではなく、動物の顔のアップ。しかもほとんどが正面を向いた顔がモチーフです。だから山脇くんの絵と対面したときに、私はいつも絵から見られているし、絵を私も見ているという関係性があると感じていて。山脇くんもこの関係性というのをすごく意識しながら制作していると、彼からも聞いています。
成澤:その関係性めちゃくちゃ面白いですね。
遠山:だから「見る」「見られる」という関係性を考えたときに、絶対成澤くんと山脇くんが話したらめちゃくちゃ面白いんじゃないかと思って、今回ゲストに来てもらいました。
動物の顔
鈴木:山脇さんはどうして動物の、しかも顔を描くようになったのでしょうか。
山脇:人間の根源的な、一番はじめの比喩って動物だと思うんです。例えば「あいつはサルみたいだ」とか言葉は悪いですが「豚野郎」とか。人のアイデンティティを説明するときに、何かを介した方がわかりやすいですよね。そこを出発地点に人の顔を最初は描きはじめたんですが、そこからだんだんと動物の顔を描くようになりました。遠山さんも言ったように、動物ってキャラクター化しやすいし、されやすい。実は僕の作品もそう見られがちなんです。
山脇:そこで最近僕が気づいたのが、図像を描くことには興味はないということ。絵というのはどうしても鑑賞者が見るものという意識が強いですよね。展覧会で会場に並んでいる作品を規則正しく順番ごとにみんなが列をなして見ていく。それに昔からすごく違和感を感じていました。少し哲学的な話になるかもしれませんが、「一対一」にすごく興味があるんです。僕が思っている世の中で一番良質なものは李朝白磁。李朝白磁は複数展示されていても、必ず鑑賞者と李朝白磁の関係性が一対一になり、対峙してそこで会話ができると感じています。李朝白磁は図像とか絵柄というのを超越し、広隆寺の弥勒菩薩に通ずると思っていて。ただ、僕はこれまで仏像にいっさい興味がなかったんです。でも対峙した瞬間に心を持っていかれてしまって、2時間近く動けませんでした。こんなにも具象的な形をしていながらも抽象的なものはない。それが僕のやりたいこととつながっていると感じたんです。
遠山:要するに具象なんだけど、削いで抽象化しているということ?
山脇:それは形の抽象だと思います。形は別に具体的でもいい。見た人に何かを喚起させたり、見た人が独自の受け取り方をしたり、作家が思っているモチーフとは違うものに見えたり、何か過去のことを思考したりするもの、それを僕は「抽象」と呼び、反対にそれがないものを「図像」と呼んでいます。
成澤:なるほど。面白い考えですね。じゃあ山脇さんは何を描いているんだろう。
山脇:僕たちは幻影を描いているんです。僕は写真を使いながら絵を描くことが多いんですが、写真を見ている目線と、描いている絵を見る目線の2つの目線で作品と対峙してます。モチーフを見る目っていうのはどちらかというと現実的な目線。それに対して絵を見て思考している目線は僕の幻想。だけどその幻想を介することで、より鑑賞者にリアリティを与えるのが僕らの職業だと思います。それがなくてただ技術的な技法や技術、手法が全面に出ていたら、それはイリュージョンじゃないし図像でしかない。僕のやりたいことではないんです。でもまだ僕はそこに行き着いてはいない部分もある。
鈴木:どうして行き着いていないって思うんですか?
山脇:例えば少し前に描いたヒョウの絵があります。これは僕の中では図像であり、自画像になってしまっているんです。自画像になっているということは、僕と絵の関係性しか描けていないという意味です。僕が目指しているのは、他者も自分も介入する余地があって、技法的なことではなく、そのモチーフが生かされた結果、自然に存在しているということなんです。モノが持っているそのものの中に自分の技法とか技術を沿わせるとか、モノに引き出されてそこに自分がある。そこが逆転しちゃうと、エゴイスティックな作品になってしまう。そうではない作品をつくりたいと思って制作しています。
見ること 見られること
山脇:今回僕は盲目の方がいらっしゃるという情報しかなったんです。もちろんFacebookなどを拝見して、ある程度どんな方かというのは断片的に知ることができました。ただ、僕にとって「目」というのはとても大事な要素。見ることで見つめられて、見つめられることで見える。これは僕の座右の銘みたいなものなのですが、僕の追求しているテーマです。ただ、僕は目の見えない人の世界を知らない。でも目の見えない人とでも、僕が感じている空気感を感じ、共有できるのではないか、視覚的な情報じゃなくて、心の対話ができるんじゃないかと思いました。
遠山:成澤くんはどう?
成澤:ある方が僕について、“成澤くんと話すといいすれ違いが多い”って言ってくれたんです。たぶん世の中は忖度にまみれているし、会話していても、相手の表情が見えることで人に合わせて会話が進んで、自分の思った話や方向にいかないことが多いですよね。でも僕には物理的にも自分と相手ということがないから、思い込みしか僕の世界にはない。人は無理してありたい姿を他人と比べたり、想像しなければいけないと思うんですが、僕にはそれがありません。だから自分と他人の距離感が独特だし、すごく生きやすいと感じています。
鈴木:我々の「見える」ということが逆に人を苦しめているということもあるわけですよね。
成澤:そう、目から入ってくる情報や、見えるものに振り回されていますよね。僕は振り回されることがないので、それが楽だなと思ったりもします。あとは人がどうして不安や悩みを覚えるのかというと、人と比較してしまうから。でも僕には見えることでの比較がないので、ほかの人よりも自分のありたい姿や世界観がクリアだと思いますね。それは山脇さんのおっしゃっていた空気を感じるとか、共有するということにすごく近い。実際に新しい場所に行ったときに、その場の空気感はすごく感じるんです。仕事柄出張も多いので、新しい場所を体験することも多く、いろんなことを体感的に感じますね。
山脇:その空気感というのには、匂いとか温度とかですか?
成澤:澱みですね。例えば美術館でも、この場所には人がたくさん来ている、ここはほとんど来ていないとか、人の行き来がその場に行くだけでわかるんです。
遠山:ある意味特殊能力。じゃあそんな成澤くんはどうやってアートを楽しんでいるんだろう。
成澤:今回山脇さんが飾ってくださっている犬の絵を、僕はもちろん見ることができません。皆さんに説明してもらってはじめて、どんな絵が描かれているのかを知ることができます。でも僕が求めているのは、ただの対話鑑賞じゃなく、見えない人と一緒に鑑賞すること、そしてそこで起こる対話、そこにいつもとは違う気づきや、体験を、説明する側に感じてほしいんです。だから今僕は、その対話を自分の仕事に取り入れたいと思っています。
鈴木:それはどういうこと? クライアントと一緒に絵を見るということですか?
成澤:そうです。ギャラリーやアーティストのアトリエに一緒に行って、“今日どの絵気になった?”“この絵はどんな絵?”と、クライアントに絵の説明をしてもらいながら対話する。でもそれは説明という名を借りたカウンセリングのような、ただ説明するんじゃなくて、絵とその人と僕と3人で独自の対話をしながら心を開いてもらいたい。でもこれは僕が見えないからこそつくれる心理的な安全性もあるというのかな、クライアントも本音とか言いやすいと思うんですよね。じゃあ例えば芳雄さん、山脇さんの絵について説明してくれませんか?
鈴木:畳一畳ぐらいのキャンバスに犬がアップで描かれていて、リアルなスヌーピーみたい。背景は黒っぽくて暗く、犬は目の上の毛がちょっと覆ってて、この子見えてるのかな? というようなワンコ。鼻が正面を向いてるから、こっちを向いてるなってわかります。
成澤:ありがとうございます。僕には僕の犬のイメージがあります。これくらいの大きさで背丈はこれくらいとか。あとは描かれているのが吠えているようなイメージなのか、泣いてそうなのか、楽しそうなのか。僕たちには名詞がなくて、かっこいい、楽しい、かわいいという形容詞しかないんです。僕らに説明するとなると、人は急に客観的で機能的な話になってしまう。でも客観的な話って予想がつくんです。僕はもっと主観的な話をしてほしいんです。だからこの犬が何を語りかけているのか、吹き出しをつけるとしたらどんなことを言っているのか、そういうことが知りたいんです。
鈴木:なるほど、そういうことなのか。僕にはこの犬がおじいちゃんのように達観しているようにも見えるし、あんまり感情を見せてくれないですね。
山脇:実は僕はそれが一番わかりづらい、説明しづらい絵を今回飾ったんです。
遠山:一見子犬のように見えるんだけど、確かにおじいちゃんのようにも見える。表情の動きがないように感じるから、年齢不詳だよね。決して笑っていたり、楽しかったりするようには見えない。一般的に言うとさびしいのか、こっちを気にしてほしい、かまってほしいと思ってそうな感じもある。もっと領域を広げれば、ちょっとワンちゃんに見えない。肉体と精神が分離しているとしたら、どちらかというと肉体じゃなくて精神だけここにボヤッと描かれているようにも見える。幽霊、ワンちゃんのピュアな幽霊みたいな感じがするな。でも幽霊のように気配がしないんじゃなくて、ちゃんとこの子はここにいるっていう気配は感じるわけ。あとは物理的には耳の重さが際立ってる。そこは急に肉体が見えてくる。
鈴木:色が少なくて、ほぼ黒い背景に白い犬だから余計にそう思うのかもしれない。
山脇:実は僕の絵において「黒」ってすごく重要で意味があるんです。もともとはモチーフを引き立たせたい、フォーカスしやすいという理由だけで黒を使っていました。でも最近なんで黒なのかって考えたときに、「玄」の黒に行き着いたんです。玄というのは、赤や黄を含んだ黒。実は黒という色は厳密に言うとない色なんです。じゃあ黒に非常に近くなった状態が何かというと、いろんな喜怒哀楽とかが両極のものが合わさったときに、赤黒くなったり、青黒かったり、黒に近くなるよな、物事って、と思ったんです。僕はその玄の色の世界に象徴的なものが一個浮かんでいる様を描きたいんだなって気づきました。
遠山:それにやっぱり視線というのかな、見られているという感覚が強い。見ているのにすごく見られている。でも喜怒哀楽はわかりにくいよね。
山脇:喜怒哀楽を超越して、ただそこに実存している個の強さを感じ取ってほしいし、それが僕が表したいことです。今僕ができることを注ぎ込んだのが動物の顔のシリーズです。対峙して何が見えるのかは、対象者それぞれ。僕がやってきたことは見ることで見つめられて、見つめられることで見える。その見えるっていうのは結局のところ、絵を描いて自分を見るということです。それで僕は犬の絵を《twin animals》というタイトルにしました。ただ描かれている動物だけじゃなくて、そこには対になるように描いた僕がいたり、鑑賞者がいる。でも見えるというのは人それぞれだから、何が見えているのかは他人にはわからない。ただ、「気配」というのは、自分が意図してできることじゃないんですよね。絶対に狙ってできないから、そういうものに人は惹かれるし、僕もそれを追いかけてまた失敗と成功を繰り返すんだと思います。
空気や表情を共有する
遠山:視線や表情というと、成澤くんと話していたら、とても目が見えない人と話している感じがしないんだよね。
成澤:そう、僕って見える人のように見えるんです。これがけっこう僕はミソだと思ってて。皆さん目線が合うって言います。でも僕は目が見えないって知っている人からしたら、見えない人に見られているとなったときに、見られているってなんだろうって考えると思うんです。そこでまた「見る」「見られる」というのが深くて面白いテーマになる。
遠山:それに表情もすごく豊か。
成澤:それもよく言われますね。人間は言葉での共有がメインですが、そこには表情や空気やいろいろと共有することができるんです。僕は仕事をしながらそれをつくづく感じています。
山脇:どういうお仕事をされているんですか? 企業のアップデート?
成澤:経営コンサルティングなんですが、整えることと、とらえ直すことをやっています。社長とかがこれまで向き合えなかったテーマに向き合って過去を許しに行くのか、見えない未来に連れて行くのかということをやっているだけなんです。
山脇:喉が渇いたから、その人にとって最適な水場には連れていくけど、どれくらい飲むのかどうやって飲むのか、あるいは飲まないのか、そういう選択肢を提示している感じですね。
成澤:そうなんです。ある人に僕は“空気を納品してる”って言われたんです。それに僕は仕事で結果にコミットしないんです。問題解決をしないというか、話を聞いて何か具体的な案を提示したりはしません。それはコンサルとして無責任なのかもしれませんが、ある意味根拠のない、まとめられる、成功するって気持ちがあるんですよね。それに初体験の仕事しかしない。何者でもない自分というのかな、まっさらなままで本質的なところで興味を持った仕事や人と仕事をしています。
鈴木:お寺のお坊さんみたいですよね。駆け込み寺みたいな。話や悩みを聞いてほしい、何か一言言葉がほしいというクライアントに寄り添っている。
成澤:僕は言葉を信じているし、言葉を愛しています。それが相手にもちゃんと伝わっているのかもしれません。それに面白いことに、例えば広告・デザインの会社とか、目を使う会社も数多く仕事を依頼してくれるんですよね。僕は3歳でこの病気がわかりました。でも20歳くらいまで人の表情は見えていたし、そのころのアイドルなんかの顔も覚えているんです。その経験があるから、僕の中では表情が具体的に思い浮かぶし、人と表情を共有することができるんだと思います。
成澤:僕は今まで自分が変化しないと生きていけませんでした。見えると思い込んでいる世界で生きているから、見えている人にすがりたくなることもあります。でも反対に、みんな僕の世界は誰も見えない。だから僕の持論を語りやすいというのはありますよね。だから山脇さんも絵を描くことで自分を整えたり、とらえ直していると感じたんです。そして制作を通じて絵と対話して、問い直したり新しい問いが生まれたりしているとも。そういうところが僕と山脇さんとはすごく似ているところがあるな、と思いながら今回のお話を聞いていました。
山脇:僕も実は絵を描いているというよりも、絵と鑑賞者の間を取り持つコンサルティングをやっていると思ってるんです。
成澤:絶対そうだと思います。
山脇:ただ絵を描く職人になりたいかというと、そうではないんです。絵だけが表現の場じゃない。僕は作品をつくりたいんじゃなくて、場をつくりたいんです。
成澤:最高だね。僕はすごく“民族”に興味があって。チームほどかっちりしてないし、コミュニティーほどふわっともしていない。これはとある人と話していたのですが、僕らは極めて原始的なはずなんです。社会の中で生きていくために窮屈に生きているんだけど、もっと民族や先住民に戻るべき、それには祈りと踊りと歌が必要だと僕は思うんです。いい会社やいいチームにはそれがあるんです。祈りはミッション・ビジョン・バリューのようなもの、踊りは身体の共有感覚的な飲み会や合宿、歌は会議とかマニュアルなど言葉を整えていくもの。これはおそらく作家や作品が祈りと踊りと歌みたいなものをその場につくってくれている感覚と非常に近いと思っています。
山脇:僕の中で究極の表現というのは詩と絵本なんです。それってまさに祈りと踊りと歌だと思う。心よりも身体にフォーカスしたものというか。僕は常に自分の身体に正直であるべきだと思っているんです。僕は確かに絵描きという技術を持っているけど、それを使ってただお金儲けしたいとかじゃなくて、常に徹底的に向き合っています。それに僕は一応視覚があって見えてはいるけれども、成澤さんと同じところを見ているなって感じました。絵を描く上で目があることは必要だけど、心が見えてないのならばそれは結局見えてないんだなって思わされましたね。
鈴木:詩というと文学と思いがちだけど、実は詩人が朗詠するパフォーマンス、つまり身体的な表現というほうが先ですからね。
山脇:成澤さんは完全に見えないわけじゃなく、過去に見えていた景色や人の顔を覚えていらっしゃるし、実際に光は見えているんですよね。
成澤:そう、その光に一番僕は興味があるんです。僕の病気は、最後のフェーズで光を失う。最後に見えているものは光で、あとは光を失うしかないんです。でも病院の先生も、完全に見えなくなっても、成澤くんのその底抜けの明るさがなくなることはないって言われていて。確かにこれまで暗黒の時代もありましたが、常に暗くて悩み続けていたわけじゃないし、僕は本来、生まれたときから僕は底抜けに明るい性格だったんです(笑)。だから「世界一明るい視覚障がい者という」キャッチフレーズがすごくしっくりきています。それに目が見えると、今の自分の仕事はなくなるって思っています。だから今の自分でとても楽しんで仕事も生活も趣味も充実しています。
山脇:僕ももちろん試行錯誤しながらですが、今の生活、特に絵を描いているときが何よりも幸せなんです。何も考えていないからかもしれません。もちろん売れるようにしないととか、そういう計算っていらないのかって言われたら、いりますよね。生きていくためにはビジネスも必要。でも僕はあくまでもアーティスト。ある種の猛獣だと思っています。常に自分の身体に正直に制作と向き合い、自分の幻影である絵と自分との対話をしています。それが最高に幸せですね。
成澤:確かにいい仕事をしているときは目を使わず、何者かに動かされている感覚があります。それを山脇さんは体感して、そして制作が進んでいるということがよくわかりました。
遠山:ぜひ成澤くんには山脇くんの個展に来てもらって、絵を使ったカウンセリングも実際にやってほしいな。
成澤:アーティストと向き合って対話したのは今日がはじめてなんです。最高の初体験をさせてもらいました。僕の中のアート性みたいなのをより許してあげられるというか、僕の楽しみ方でいいと思わせてくれるというか、これから楽しむための一歩を踏み出せたような気がしました。それに僕は10年近く経営者でありコンサルタントだったんですが、これからはコンサルタントでありアーティストになりたいと思っているんです。それを遠山さんに相談させてもらって、そして今日こうやって山脇さんの生の声を聞かせてもらって。僕のアーティスト人生幕開けのキックオフ感があります(笑)。
山脇:徹底的に自分の仕事や制作と向き合ってきた中で、最後に何が必要かというと、アウトプットのツールでしかないんですよね。僕はそれが絵だから絵をやっているだけ。成澤さんのアウトプットが最終的に何になるか、それがギャラリーなのか、制作なのか、音楽なのか、言葉なのか、たぶん言葉だと思うんですが(笑)、その行く末が本当に楽しみでしかないですね。
成澤:はい、楽しんでいきます。
遠山:そしてなんと山脇くんの個展初日9月22日(水)に成澤さんをゲストにお招きして、私と3人で「目・頭・心 アートはどこで見る?」をテーマに、18時30分よりトークをします。その模様は私のインスタグラムでも生配信しますので、詳細はインフォメーションをご覧ください。個展はもちろんですが、このトークもたくさんの方に見ていただければと思います。
Information
Real by ArtSticker
https://artsticker.app/share/events/detail/590
REAL by ArtSticker / 山脇紘資「twin animals」
https://artsticker.app/share/events/622
REAL by ArtSticker Instagram Live
9月22日(水)18:30〜
トークテーマ「目・頭・心 アートはどこで見る?」
アーティスト:山脇紘資
ゲスト:成澤俊輔
モデレーター:遠山正道
https://www.instagram.com/masatoyama/
profile
1985年、佐賀県生まれ。株式会社YOUTURN取締役。視覚を徐々に失う網膜色素変性症により、視野は小学校でサッカーボール、中学生でソフトボール、大学生で500円玉ほど、20代前半でほぼ見えなくなる。2003年、埼玉県立大学保健医療福祉学部入学。2010年、2年間の引きこもり生活を経て、7年かけて同大学を卒業。在学中よりインターンとして働いていた株式会社ジェイブレインに新卒社員として入社。しかし過労でうつとなり、4か月で退職。その後、経営コンサルタントとして起業、独立する。2011年、NPO法人FDAの事務局長に就任。2016年、理事長に就任。2020年3月に理事長を退任し、同年4月より株式会社YOUTURN取締役に就任。自らにつけたキャッチコピーは“世界一明るい視覚障がい者"。障がい者雇用や、多様な働き方改革を専門に、全国で講演やコンサルティングをおこなっている。2016年、月刊DIAMONDハーバード・ ビジネス・レビューの「未来をつくるU-40経営者」に選出される。2017年、第31回人間力大賞経済産業大臣奨励賞・全国知事会会長奨励賞受賞。
▶︎https://www.youtube.com/watch?v=SJF6SKczBq8&t=1s
profile
東京藝術大学大学院美術研究科修了。アーティストとして絵画を制作し、国内外で展覧会を多数開催。BEYOND THE BORDER ,Tangram Art Center ( 上海・SHANGHAI) の展覧会では世界的に活躍する Zhou Tiehai やオノデラユキ、辰野登恵子、石内都らと展示を行う。2018 年には香取慎吾らと共にグループ展 “NAKAMA de ART” を開催。
同年 6 月に公開された犬童一心監督作品『猫は抱くもの』では美術の監修や指導などを行い、翌年には霞ヶ関ビル ,31 Builedge 霞が関プラザホールにて個展を開催した。また作家活動の他に音楽活動(ookk)も行い、企業のアートディレクションや CM も手がけている。
▶︎http://www.yamawakikosuke.com/
profile
1962年東京生まれ。慶應義塾大学商学部卒業後、85年三菱商事株式会社入社。2000年三菱商事株式会社初の社内ベンチャーとして株式会社スマイルズを設立。08年2月MBOにて同社の100%株式を取得。現在、Soup Stock Tokyoのほか、ネクタイブランドgiraffe、セレクトリサイクルショップPASS THE BATON等を展開。NYや東京・青山などで絵の個展を開催するなど、アーティストとしても活動するほか、スマイルズも作家として芸術祭に参加、瀬戸内国際芸術祭2016では「檸檬ホテル」を出品した。18年クリエイティブ集団「PARTY」とともにアートの新事業The Chain Museumを設立。19年には新たなコミュニティ「新種のimmigrations」を立ち上げ、ヒルサイドテラスに「代官山のスタジオ」を設けた。
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profile
1958年生まれ。慶應義塾大学法学部政治学科卒業。82年、マガジンハウス入社。ポパイ、アンアン、リラックス編集部などを経て、ブルータス副編集長を約10年間務めた。担当した特集に「奈良美智、村上隆は世界言語だ!」「杉本博司を知っていますか?」「若冲を見たか?」「国宝って何?」「緊急特集 井上雄彦」など。現在は雑誌、書籍、ウェブへの美術関連記事の執筆や編集、展覧会の企画や広報を手がけている。美術を軸にした企業戦略のコンサルティングなども。共編著に『村上隆のスーパーフラット・コレクション』『光琳ART 光琳と現代美術』『チームラボって、何者?』など。明治学院大学、愛知県立芸術大学非常勤講師。