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遠山正道×鈴木芳雄 連載「今日もアートの話をしよう」vol.32 会田家(会田 誠、岡田裕子、会田寅次郎)
今日もアートの話をしよう

遠山正道×鈴木芳雄 連載「今日もアートの話をしよう」vol.32 会田家(会田 誠、岡田裕子、会田寅次郎)

会田 誠のアトリエで食卓を囲んで交わすアートの話

「Soup Stock Tokyo」を立ち上げた、実業家の遠山正道と、美術ジャーナリスト・編集者であり、長年雑誌『BRUTUS』で副編集長を務め、「フクヘン。」の愛称を持つ鈴木芳雄がアートや旅、本や生活について語る「今日もアートの話をしよう」。第32回は、美術家・会田誠氏のアトリエへ。現在都内で行われている、親子3人が異なるジャンルのアートを3つの会場でそれぞれに見せる試みは、他所ではまず味わえない没入感を鑑賞者に提供するものばかり。夫・誠氏の会期は2024年5月19日まで、妻・岡田裕子氏と息子・寅次郎氏は5月12日まで。この号を読まれた方は、ぜひ急ぎ麻布台、六本木、上野へ。

Edit & Text by Hitori Publishing
Photographs by Takashi Mishima

――夫・会田 誠氏は大作に向けた習作集を。妻・岡田裕子氏は「葬送」をテーマにしたライブアートの作品を。息子・会田寅次郎氏はライブコーディングを含めたデジタルアートを、現在各所で展示中の会田家。今回は同家と旧知の鈴木、3カ所の展示会場のオーナーである遠山が、会田家へ。アトリエで誠氏と裕子氏の手料理を囲みながら制作エピソードを交わす、豊かな一夜となった。

制作の傍ら、アトリエに多くの未来あるアーティストや学生を招き、自ら食事を振るまいながらアート談義を重ねてきた会田誠氏と岡田裕子氏。鈴木、遠山の来訪に、「アートの話をするなら、まずは料理を囲みながら」と、美酒美食でもてなしてくれた。

古今東西の著名人たちが湯煙に戯れる大作に向けて、まずは習作を

鈴木:今回のテーマは、通算4回目となる会田家の展覧会。そして今日は、会田 誠さんのアトリエ(キッチン付き!)に押しかけました。

遠山:手ずからお料理の数々…本当にありがとうございます!

誠:いえいえ、たくさん作ったのでどんどん召し上がってください。

遠山:いただきます! とっても美味しい。誠さんも、裕子さんも本当にお料理上手ですね。

鈴木:お食事をいただきながら、まずは会田 誠さんの展覧会のお話からいきましょうか。

遠山:このたびはThe Chain Museumの企画にご参加いただき、誠にありがとうございます。麻布台ヒルズの「Gallery & Restaurant 舞台裏」で「《混浴図》への道」を開催中なわけですが……期待以上の会田イズムが全開で、本当に素晴らしい。

Photography: MIYAJIMA Kei

鈴木:会場には10号サイズくらいの作品が10枚掛かっていて、長辺3メートルほどのデッサン画が掛かっています。キーワードとして「練習」という言葉が会場のキュレーターの方からは聞かれましたが。

誠:そうですね。観ていただいたデッサン画のような大作、つまり《混浴図》をこの3年くらいめどに、完成させたいと思っています。だからキャンバスの絵はすべて習作。材料、技法の研究過程をお見せする、そんなつもりで公開しています。

Photography: MIYAJIMA Kei
Photography: MIYAJIMA Kei

鈴木:「練習」といっても、だいぶ緻密に描かれているから……。この作品には、どういったモチーフが存在しているんでしょうか。

誠:もともとは「会田 誠は女の子の裸ばっかり描くよなぁ」という声がしょっちゅう聞こえてきまして。それに対し、いやいや老若男女どんな方の裸を描いても構いませんよ、と。それで、混ぜ混ぜでいろんな裸を描くのなら……混浴だな、と。あと、僕自身温泉が大好きですし、地震大国日本のせめてものご褒美が温泉だし。そういった思考プロセスが前から漠然とありました。それとルーベンスというキーワードが重なって……。

話は古いところに遡りますが、僕は大学院は技法材料研究室っていう、古い油絵の描き方を研究する、あえてお堅いところを選んで行ったんですけれど。そしたら僕の年はたまたま、担当教授の考えで「1年かけてルーベンスの技法を研究するぞ!」ということになりまして。どういう下地を作っていたかとか、そういう地味な話ばかりの英語の文献をみんなで読んだりしたんです。

鈴木:うん、うん。

誠:その中で、木炭粉などで汚した海綿を木の板にぐるぐると擦りつけて下地にした、というのがあって。ルーベンスが工房の弟子に与えたオイル・スケッチというのですが。それがなにかモヤモヤとした煙っぽい雰囲気を生んでいて……。

Photography: MIYAJIMA Kei

遠山:ギャラリーオーナーの特権で、私はこのレクチャーを事前に受けていて、あぁそれが《混浴図》の湯煙に繋がっていたのかと理解できたんです。

誠:もうひとつが、ミヅマアートギャラリーで一昨年、二人展をいっしょにやった曽根 裕(そね ゆたか)がベルギーのアントワープに拠点を持っていて。

鈴木:あぁ、そうか! そこでまた、繋がってくるわけだ。アントワープの芸術家といえばルーベンス。

遠山:アニメにもなった童話『フランダースの犬』の舞台となったアントワープ。少年ネロはルーベンスの《キリスト降架》と《キリスト昇架》の前で息絶えます。

誠:それで、ルーベンス作品をたくさん持っているアントワープの王立美術館が現代アートの作家のスペースを新たに設けるという話があるから、「会田どう?」と曽根が言ってきたことがあったんですよ。いまから3年くらい前かな。

鈴木:へえぇ。

誠:そのときに、大学院時代のルーベンス研究のことを曽根に明かしながら、納めるべきは《混浴図》だろうと。結局、美術館の体制が変わったりで、その話は立ち消えになったんですけどね。

遠山:でも、ルーベンスの下地研究を生かした作品の構想だけは残ったと。実際に納めていたら、アントワープはびっくりしただろうね(笑)。王立美術館の代わりにGallery & Restaurant 舞台裏がお役に立てて何よりです。

Photography: MIYAJIMA Kei

鈴木:今回展示のような「練習」作品は、もう少し描く感じ?

誠:いや、もう、描き方の方針はだいたい決まったので、本画に移っていくと思います。

遠山:展示会場に大きなキャンバスが届いてましたね。出来上がりは長辺10メートルほどになるんでした?

誠:そうですね。高さ2メートル20くらいで、長さは3メートル超を3つ合わせるのでおおよそ10メートルくらいかな。ここのアトリエでは、コの字に3つ並べて作画する予定です。

会田誠さんのアトリエ内にて。

鈴木:いつごろ、完成して、最終的にはどこに納まることになるんですか。

誠:3年くらい先になるのでしょうけれど、国内のどこかの美術館でお披露目できたらと、ミヅマの担当者と話しているところです。

遠山:その端緒に立ち会うことができて、ギャラリーとして本当に嬉しく思います。

有名無名かかわらず、全ての人が主役になれる「葬送」がテーマ

鈴木:今回が4回目の会田家三人展なわけですけど。第1回が2001年でしたか。ミヅマアートギャラリーが青山にあった頃で、僕はその展示、見てますよ。寅次郎さんはベビーカーに乗ってた(笑)。

誠:ですね。寅次郎が生まれたばかり、彼が0歳3ヶ月で「三人展」として、「会田誠・岡田裕子・会田寅次郎 親子三人展」をミヅマアートギャラリーで開催したのが2001年。1回きりの、アホらしいギャグで良かったなと思っていたんですけど、2002年に「 7th 北九州ビエンナーレ ART FOR SALE アートと経済の恋愛学」に呼ばれて。

岡田:さすがにもうやることはないかなと思っていたら、息子が中学のとき、東京都現代美術館の『おとなもこどもも考える ここはだれの場所?』展に会田家で参加しませんかと誘われて。その後はもうやることはないと、各所でも言っていたのですが……(笑)。

遠山:私から無理を言ったばかりに、どうもすみません(笑)。

――同じくThe Chain Museumが経営する飲食店兼ギャラリー「アートかビーフンか白厨」(六本木)では、5月12日(日)まで岡田裕子氏の個展「Celebrate for ME 2024」を開催。2023年12月26日に東京・神保町で開催した1日限定の展覧会「Celebrate for ME ― The first step」、これは自分の死をシミュレーションする作品だが、その模様を記録した映像が、コスチューム、プロップ、香典袋モチーフの作品、死に化粧をイメージした小作品などとともに公開されている。ちなみに遠山は昨年の同展に参加したひとりで、今回展覧会の映像作品にも、自身が自らの「おくりびと」となる姿が紹介されている。

Photography: MIYAJIMA Kei
Photography: MIYAJIMA Kei
「アートかビーフンか白厨(六本木)」で開催中の岡田裕子さん個展の展示風景。Photography: MIYAJIMA Kei

岡田:遠山さんには、私の作品にも参加、ご出演いただきまして。

遠山:岡田さんの「Celebrate for ME -The first step」では、「tsutsumu」「ikeru」「okuru」それぞれのパートで、香典を包んだり、骨に生け花をしたり、死に装束を着せて棺に納めたり、参加者が自身の葬送を行ったのだけど。改めて今回展覧会で映像を観ると、特に「okuru」のパートの精巧さが凄いんだよね。自分の顔が、納棺する人形の顔部分にきっちりシビアに三次元で嵌め込まれてる。まさに自分をあの世に送っているような凄まじい没入感を思い出しましたよ。

岡田:寅次郎も、技術のほうで初動からサポートしてくれて。はじめにこのアイデアを話しながら、できれば予算がコレくらいでなんとかなるかな、なんて言ったら「ゼロが2個違うよ」って呆れられました(笑)。

鈴木:この映像を初めて観たとき、うわー、お金かかってるなぁって思いましたもん。

岡田:実際はかなり低予算で制作できましたが、当然ながら私の作品としては一番お金がかかったと思います。VR体験としては、私自身は、段階的に要所だけ体験しながらの、中の人だったので、遠山さんほか参加者の皆さんみたいな参加者としてのフル体験はしていないんですよ。だから、結果的にイメージ以上のインパクトの作品となり嬉しかったと同時に、映像や参加者の声から、「おぉ、こうなるんだ」と驚きもありました。

遠山:技術もすごいし。そして岡田さんのナレーションもエモい。「よしよし、私」と言う岡田さんの声に導かれて、参加者が自分の分身たる人形の背中を叩くシーンがあるんだけど、あそこはぐっときますね。涙が自然と零れてきたし、きっとみんなそう、あそこで泣ける。そこから、いろんな感情とか発想を引き出せそうな、そんなきっかけになりそう。やり終えたときにはなんかスカッとした。

来場者だけが観ることのできる映像から「okuru」のパートより。(ゴーグルをかけているのが遠山。自身には後ろのモニターに映されている、人形に自身の顔が投影された映像が見えている)
Photography: MIYAJIMA Kei ©️OKADA Hiroko Courtesy of Mizuma Art Gallery

岡田:ここ何年か、それぞれの個人が主役になるというコンセプトの作品を作っているんですよ。というのは、自分が主役になる瞬間って、人生でごくわずかなんじゃないかと。

鈴木:物心ついてからなら、結婚式が最後かもしれない。

遠山:作家なら、個展開催のたびに「おめでとうございます」なんて皆さんに祝ってもらえる機会があったりするけど。サラリーマンなら、そうはないかな。もっといえば、結婚しない人もいれば、誕生日だって祝ってもらう機会のない人だって少なくない。

岡田: そういうふうに考えると、お葬式ばかりはあげてもらえるならですが、どんな人でも主役感があるのではないかと。亡くなったその人だけのために成り立つイベントなわけだから。ただ、主役のその人は絶対に不在なんですよね。

鈴木:なるほど。

岡田:最近お葬式に立ち会うことが多くなってきまして。一昨年に父を亡くしたこともそうだし、4年前に画家の筒井伸輔さんが亡くなったじゃないですか。学生時代からの親しい友人だったし、まだ若かったから……かなりショックで。

遠山:学生時代から。あぁ、そうでしたか。さっきから本棚に筒井さんの作品集があるな、とは思っていたんですけど。

岡田:それでもう、悲しすぎて取り乱してしまい、あぁ二度とお葬式なんか行きたくないと思ったくらいで。ただ一方で、葬送の機会ばかりは近親者や親戚など巡ってくるので、だんだん観察眼みたいなものが出てきてしまってもいました。日本の場合、火葬場に至るまでは、ご遺体と対面することから、納棺したり、葬儀をして、その後は共にごはん食べたり、個々の心情もいろいろな場面があるじゃないですか。だから、ずっとメソメソしているわけでもなく、泣いたり笑ったり、同窓会みたいなことも行われていて。お骨になる頃には、様々な段階を経て、その場ではなにか気持ちに踏ん切りもついてくる人もいたりする。

遠山:その実感が、岡田さんの中では「tsutsumu」「ikeru」「okuru」から「aruku」に至って、最後に何かを「iwau」というストーリーに至ったわけか。

岡田:そうかもしれません。だから、お骨に花を活けるし、自分を納棺して旅立たせ、みんなで歩いて外の空気を吸い、最後は参加者全員が、およそ誰も祝わないような個々の告白をして、みんなで祝福をする。送る人も、送られる人も、みんながセレブレイトされるという作品にしたかったのかなと思います。

鈴木:岡田さんは昔から、そういった身体的なものがテーマとしてありますよね。

岡田:いくつかバックグラウンドがあるかもですね。思春期のころは演劇のワークショップを通して、人間の身体のことを知ろうという体験もしたことがあります。絵画を通じて十代のころからヌード画に取り組んだりもしています。

誠:いまでも妻は、多摩美術大学の演劇舞踊デザイン学科で、役者やパフォーマーたちに美術を教えていますしね。

岡田:劇場でオーソドックスな演劇がやりたいかっていうと、今や自分の興味はそういうところにあるわけではないのですが、今回の作品のように、参加することによって個々の人間の想像力や心の内部がどういうふうに動くのだろうかって、そんなことに現在は興味がありますね。遠山さんにはこれまでのそういう私の作品も何度かご覧いただいていましたね。2020年秋のコロナ禍に開催した、元映画館での「誰も来ない展覧会」などもそうでした。観客に、音だけで会場を回遊してもらうという試みでしたが、立ち会った人々の気持ちを揺らしたなって思う瞬間があって。

鈴木:その展覧会は僕も見ました。確かに気持ちを揺さぶるね。現代アートのジャンルで、死にまつわるアートって確立していますよね。ダミアン・ハーストは、その代表的な作家としてよく語られていますよね。岡田さんの次回作もやはり死をテーマにしたものに?

岡田:今回の続編的なものを発表する機会は京都で2025年2月にすでに決まっています。それはこれからじっくり発展させてゆきたいのですが、その後は、やはりお金もかかることだし。テクノロジー的なことを寅次郎や倉本さん、それ以外の面も今回サポートいただいた方々にも相談しつつ、限られた助成金のチャンスや、会場サポートを探りながらですね……。

遠山:作品映像を観ると、なんといっても自分の顔が人形の頭部分に見事に投影されて、体験している自身も、鑑賞者もぐっと没入できることなんだけど。寅次郎さんは、お母さまのアイデアについて相談を向けられたときに、初めはどんなことを思った?

寅次郎:できないことはないかなと思ったけど、けっこう大変だろうなって。映像を撮ったり、データを取ったり、その場で処理する方法とか。 機材もまあまあ必要だし。

鈴木:初めに聞いたときに「ママ、ゼロが2桁違うよ」って言ったそうだけど。

寅次郎:企業案件なら、そりゃそうかなって。

遠山:(爆笑)そのあたりの困難を乗り越えられた秘訣は?

寅次郎:コロンブスの卵的な着想を、倉本さんにいただいて。そこが大きかったかな。

岡田:倉本さんというのは、現在は東大の大学院情報学環・学際情報学府 特任研究員をしていらっしゃる倉本大資さんのことで。寅次郎は、小学3年生くらいの頃から、倉本さんが主宰していた子ども向けのプログラミングソフト「Scratch」のワークショップに参加したりしていたんです。幼い頃、倉本さんに、よかったら自分の会に来てみたらって誘っていただいて。寅次郎は、1歳の頃から携帯電話をいじりだして、3歳の頃には私のマックを初期化しちゃうような子どもだったから……。

遠山:えぇっ、そうなんだ!

岡田:初期化してしまった時は、当時映像編集のために買った高価で大事なマックで大切なデータも詰まっていたので、「なんてことしてくれんのよ!」と、私はものすごい怒ってしまったんですが。でも彼は母の怒りに怯えながらも「でもね、ママ、ちゃんとバックアップ取っといたよ…」って。ああこれはもう、できるだけ自由に使ってもらおうと。

鈴木:(爆笑)いわゆる天才児だ。そんなこんながあって、いまに至るわけですね。

岡田:倉本さんに出会う小3くらいまでは、ひとりでプログラミングをずっと続けているような環境だったから、その世界を知っている人々との関わりを増やしてあげたいと思っていました。

遠山:さっき、寅次郎さんが言った岡田さんの作品についての「コロンブスの卵的な」着想というのは、どういったものだったんですか。

寅次郎:VR体験やその映像を鑑賞者にリアルで共有すること自体は、メタ社のOCULUSのシェア機能を用いれば、なんということはなかったんだけど。キャプチャした参加者の皆さんの顔の立体映像を、映像上で人形の顔に嵌め込むことが難しくて。でも、倉本さんに相談したら、ゲームのコントローラーのセンサーを用いるアイデアを出してくれたんです。

岡田:どうなるかわからない部分も多かったけど、その着想を原点にプログラミングしながらシミュレーションして、あ、できそうだなって、探りながらテストを繰り返しました。結果的にはリアルさだけではなく印象の面白みなども加わってとても良い効果が得られたと思います。あと、人形の頭部に組み込むために、シリコンなどでコントローラーを型取り成形した仕掛けを手作りしたのですが、そこは私より細やかな手作業の得意な会田誠さんが担当してくれました(笑)。

鈴木:「okuru」のパートは、人形というか自分自身をセルフ納棺して、棺の蓋を閉めたところで一区切りなんだろうけど、最後に顔がぴゅーっと空中に浮かぶのがすごく効いてたよね。

岡田:あれこそまさに当日直前までわからない部分だったんです。人形の頭部に挿していたセンサーに、ジャイロセンサーとカメラセンサーの2種類を採用していたんですが、カメラセンサーのほうは、最後に棺の蓋を閉めると、暗さで認識が不足して迷子になっちゃうんです。それで逃げ道を求める格好で空中に顔が飛び出してきたようです。そこでとても感動してしまった。まるで天国に魂が旅立つかのようでした。この、実験的試みだからこそ生まれるバグの奇跡に魅力を感じているのですが、また違ったテクニックを用いた方向とか、もっと大勢が体験できる利便性を高めるなど更新していくなら、さらに時間もお金もかかるかもしれません。

鈴木:では、そういったお金のかかりそうな部分も含めて……次回作も楽しみにしましょう。

来場者だけが観ることのできる映像から「okuru」のパートより。

――「上野下スタジオ」(ABAB UENO店内)で5月12日まで開催の会田寅次郎氏の「yume tensei」。同展では、言語、ブロックチェーン技術、AI技術、法律、プログラミング言語、オペレーティングシステムといった様々な分野の知識、技術を組み合わせながら、各ジャンルでいままで想定されていなかった世界観、ソフトウェア制作や展覧会での展示を通して模索する寅次郎氏の最新の興味やメンタリティを、ライブコーディングというコンセプトで覗き見ることができる。

ゲームのような夢の世界の再現を、プログラミングで構築する過程を展示

鈴木:さて、寅次郎さんが上野で5月12日まで開催中の「yume tensei」ですが、これはどういった展示なんでしょう。

寅次郎:ひと言でいうと、ライブコーディング。レジデンスで制作する模様を公開するような感じで、以前から興味のあったHaskellハスケル)というプログラミング言語を用いて日々コーディングしていく風景を、更新されていくプログラムのビジュアルとともに、いつか皆さんに公開したいな、と思ってたんですよ。今回それが初めて実現しました。

遠山:コーディングとは、今回はどういったものをプログラミングしているの?

寅次郎:ここ最近見た印象的な夢を、Minecraft的な世界観で、毎日構築していく。そんなコーディングです。言ってみれば、オチのないゲーム的なことかな。

「上野下スタジオ」(ABAB UENO店内)で5月12日まで開催の会田寅次郎氏の「yume tensei」の展示風景。

鈴木:タイトルにもあるけど、そのyume=夢とは?

寅次郎:自分が、和室のような空間で、ものすごく小さな存在になってしまう夢を見たんです。何かに喩えるなら、ウォルター・ウィックの絵本『ミッケ!』のような、それがとても印象的で。

岡田:「ミッケ」とは、言ってみれば、おもちゃ箱をひっくり返したみたいなモノがギュウギュウに詰まった写真のなかで『ウォーリーを探せ!』みたいに何かを探すような本です。そういった世界に通ずるような、どうやらいろんなものが散らばった和室のような空間で、寅次郎が小さなホコリくらいの大きさになった夢を見て、それをヒントに制作しているようでした。

誠:家の中の小さなゴミとかを写真撮影して、3Dソフトに入れて、何か生成しようとしたり。

岡田:私たちには深くは理解できないけど、本人的にはとても大事なこと、というか、プログラミングでの創作が日常という本来の彼のキャラクターがあると思います。今年はじめはいろいろと生活の中で忙しかったりストレスがあったり体調崩したり大変な中でも、せっせとスキャンしたり開発したりしていたようで、そういうところは子どもの頃から変わらないなと思いました。

寅次郎:まずは夢の世界の再現をしたい。あと、ゲームで遊ぶということと、ゲームを作るということの間の境界線がぼやけるようなシステムをずっと作りたいと思っていて。今回のプロジェクトも、Blenderという3Dのフォトショップのようなソフトを改造して作っているんですよね。3D制作ツールという枠から外れて、その中に入り込み生活できるゲームのようなものに変化する。そういうシステム構築的な興味と、この前見た夢とをぶつけてみた感じですね。

鈴木:不思議なダンジョン世界を構築しているようだけど、やはりゲーム的な要素もあるの?

寅次郎:夢の中では、パズルをクリアすると新しい襖が開いたり、光るオーブとかアイテムを集めると何か良いことがあったりしました。まだまだ開発途中なので、どうなるかはわかりません。

遠山:なるほど! と言いながら、すべてを理解しているわけではないけれど(笑)、ぜひ上野にも足を運んでいただければと思います。会場のABAB UENO「上野下スタジオ」は築78年、今年7月に取り壊し予定なんですが、The Chain Museumが期間限定でシェアアトリエ/作品倉庫/ギャラリーとして使用している建物です。それも含めて、読者の皆さんにぜひ見ていただければ。

鈴木: いずれも見逃せませんね。

遠山:本日は、数々のおもてなしの料理とともに、制作にまつわる貴重なお話、本当にありがとうございました。

鈴木: 美酒美味とともに、アートのお話、存分に楽しませていただきました。では、最後に、改めて会田家三人展の成功を祈念して……。

一同 カンパーイ!

profile

会田誠

1965年新潟県生まれ。1991年東京藝術大学大学院美術研究科修了。美少女、戦争画、サラリーマンなど、社会や歴史、現代と近代以前、西洋と東洋の境界を自由に往来し、常識にとらわれない対比や痛烈な批評性を提示する作風で、幅広い世代から圧倒的な支持を得ている。絵画、写真、映像、立体、パフォーマンス、など表現領域は国内外、多岐にわたる。近著に小説「げいさい」(文藝春秋、2020)、エッセイ集「性と芸術」(幻冬舎、2022)。近年の主な個展に「天才でごめんなさい」(森美術館/東京 2012-13)、「考えない人」(ブルターニュ公爵城/フランス 2014)、「GROUND NO PLAN」(青山クリスタルビル/東京 2018)、「愛国が止まらない」(ミヅマアートギャラリー/東京 2021)など。

Information

《混浴図》への道
▶︎https://artsticker.page.link/aidamakoto_butaiura

開催期間
2024年4月20日 (土) 〜5月19日 (日)

営業時間
・ギャラリー|火-日:11:00-20:00
・レストラン|
  水-金:17:00-23:00(L.O.22:00)
  土-日・祝:12:00-15:00(L.O.14:00)/ 17:00-23:00(L.O.22:00)
 
定休日
・ギャラリー|月曜日 ※月が祝日の場合は翌日休業
・レストラン|月曜日/火曜日 ※月火が祝日の場合は翌日休業

会場
Gallery & Restaurant 舞台裏

住所
〒105-0001 東京都港区虎ノ門5-8-1 麻布台ヒルズ ガーデンプラザA B1F

参加アーティスト
会田誠

※ご来場のお客様へお願い
本展覧会は写真撮影をご遠慮いただいております。
この展覧会には、特定の人物を引用した図像、人によっては不快に思う表現、ヌードなど性的表現を含む作品も含まれています。いずれも現代社会の多様な側面を反映したものであり、作者がこのような内容を賛美しているわけではありませんが、これらの作品を不快に感じる方は、入場に際して事前にご了承いただきますようお願い致します。入場に際し不安のある方は、スタッフにお声がけください。

主催
ArtSticker (運営元:The Chain Museum)

協力
ミヅマアートギャラリー

profile

岡田裕子

現代美術家。多岐に渡る表現を用い現代の社会へのメッセージを投げかける作品を制作。 国内外の美術館、ギャラリー、オルタナティブスペースでの展覧会多数。
主な作品に、再生医療をテーマとした「エンゲージド・ボディ」、男性の妊娠を描いた「俺の産んだ子」、観客参加型メディアアートで葬送を体験する「Celebrate for ME - The first step」など、未来予想的独特な世界観をチャレンジングな手法で展開する。
個人活動に加えアートプロジェクトも多く手がける。 <オルタナティブ人形劇団「劇団☆死期」>を、顧問を会田誠として立ち上げ、主宰(2010-)。 家族(会田誠、岡田裕子、会田寅次郎)のアートユニット(2001-)、コロナ禍の中始まったArt×Fashion×Medicalの試み<W HIROKO PROJECT>(2020-)など。著書に、作品集「DOUBLE FUTURE─ エンゲージド・ボディ/俺の産んだ子」(2019/求龍堂)。

Information

Celebrate for ME 2024
▶︎https://artsticker.page.link/okadahiroko_paichu

会期
2024年4月20日(土)〜5月12日(日)

会場
アートかビーフンか白厨

住所
〒106-0032 東京都港区六本木5丁目2−4 朝日生命六本木ビル 2階
(エレベーターの左手奥にある階段を2階までお進みください)
Google map

開催時間
17:00〜23:00

休館日
月・火

観覧料
無料

参加アーティスト
岡田裕子 / OKADA Hiroko

主催
ArtSticker (運営元:The Chain Museum)

協力
ミヅマアートギャラリー

profile

会田寅次郎

言語、ブロックチェーン技術、AI技術、法律、プログラミング言語、オペレーティングシステム、といった様々な技術とふれあいつつ、それら技術のいままでに想定されていなかったような使い方を、ソフトウェア制作や展覧会での展示を通して模索している。2015年東京都現代美術館「おとなもこどもも考える ここはだれの場所?」展出品。2017年第21回文化庁メディア芸術祭新人賞受賞。2018年度未踏IT人材発掘・育成事業採択。 近年の展示活動にMEDIA AMBITION TOKYO 2020、MEDIA AMBITION TOKYO 2021、ソノ アイダ#新有楽町「ART×NFT Meta Fair #01」、CCBT「Future Ideations Camp Vol.2|setup():ブロックチェーンで新しいルールをつくる」

Information

yume tensei
▶︎https://artsticker.page.link/aidatorajiro_uenoshita

会期
2024年4月20日(土)~ 5月12日(日)
12:00-18:00(17:30最終入場)

定休日
月曜日/火曜日 ※5/5(日)は、休廊となります。

観覧料
無料

住所
上野下スタジオ
〒110-8541 東京都台東区上野4-8-4 ABAB UENO 6階

参加アーティスト
会田 寅次郎 / Torajiro Aoda

主催
ArtSticker (運営元:The Chain Museum)

協力
ABAB上野

profile

遠山正道

1962年東京生まれ。慶應義塾大学商学部卒業後、85年三菱商事株式会社入社。2000年三菱商事株式会社初の社内ベンチャーとして株式会社スマイルズを設立。08年2月MBOにて同社の100%株式を取得。現在、Soup Stock Tokyoのほか、ネクタイブランドgiraffe、セレクトリサイクルショップPASS THE BATON等を展開。NYや東京・青山などで絵の個展を開催するなど、アーティストとしても活動するほか、スマイルズも作家として芸術祭に参加、瀬戸内国際芸術祭2016では「檸檬ホテル」を出品した。18年クリエイティブ集団「PARTY」とともにアートの新事業The Chain Museumを設立。19年には新たなコミュニティ「新種のimmigrations」を立ち上げ、ヒルサイドテラスに「代官山のスタジオ」を設けた。

▶︎http://www.smiles.co.jp/
▶︎https://t-c-m.art/

profile

鈴木芳雄

1958年生まれ。慶應義塾大学法学部政治学科卒業。82年、マガジンハウス入社。ポパイ、アンアン、リラックス編集部などを経て、ブルータス副編集長を約10年間務めた。担当した特集に「奈良美智、村上隆は世界言語だ!」「杉本博司を知っていますか?」「若冲を見たか?」「国宝って何?」「緊急特集 井上雄彦」など。現在は雑誌、書籍、ウェブへの美術関連記事の執筆や編集、展覧会の企画や広報を手がけている。美術を軸にした企業戦略のコンサルティングなども。共編著に『村上隆のスーパーフラット・コレクション』『光琳ART 光琳と現代美術』『チームラボって、何者?』など。明治学院大学、愛知県立芸術大学非常勤講師。

▶︎https://twitter.com/fukuhen

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