突出した時代の空気感を切り取る力を持つ、英国の現代美術家
第11回の今回紹介するのは、ライアン・ガンダーの作品です。ライアンは、1976年にイギリスで生まれ、コンセプチュアルアートの旗手として、特に2010年代以降には目を見張る活躍を見せています。
つい先日までオペラシティアートギャラリーで開催されていたライアンの個展『われらの時代のサイン』も、大変に見応えのあるものでした。意外にも東京では初の大規模な個展で、もともと2021年に予定されていた展覧会でしたが、コロナ禍で開催が1年ちょっと遅れ、今年ようやく日の目をみました。一見ポップな雰囲気に鋭い示唆が宿る作品群は、見ていて愉しいのと同時に考えさせられる部分も多く、僕もじっくりと時間をかけて鑑賞しました。
予定されていた展覧会ができなくなってしまった昨年には、代わりに『ライアン・ガンダーが選ぶ収蔵品展』という、ライアンがオペラシティアートギャラリーの収蔵品をキュレーションして展示する企画が実施されました。こちらもセンスに溢れる興味深い内容だったことも記憶に新しいです。選ぶ人と展示スタイルが変わると、かくも印象が変わるものかと感銘を受けたのですが、今年も『ライアン・ガンダーが選ぶ収蔵品展』と同タイトルの小展示が、個展とあわせて開催されていました。
文字だけのシンプルなデザインながら、時代に突き刺さるメッセージ
個展開催時、オペラシティのスーベニアショップで販売されていたのが、25枚エディションのこのポスター。”The strangeness gets more ordinary. Dad”というシンプルなメッセージが刷られています。日本語版もあり、『おかしなことが普通になってきたな。 父』という文面になっています。
シルクスクリーンで刷られた深みのある黒味もインパクトがあるのですが、今、この時代にふさわしいメッセージを、このようにポップに寄り添うように世の中に投げかけるのは実にライアンらしいスタンスと言え、共感とともにギュッと胸を掴まれました。
元々は金沢を拠点とした『Keijiban』という、さまざまなアーティストの作品を月替りで町中に設置された掲示板に展示するプロジェクトのために2021年に制作された作品。展示の際には、日本語版も並べて飾られていました。
町中でふとこういうメッセージに巡り合うと印象に残りますし、こういったアートが、どこか街に血を通わせる役割を担っている部分があるのかもしれません。新進気鋭のアーティストからローレンス・ウィナーのような大御所まで、毎月興味深いラインナップなので、金沢に行かれた際はみなさまこちらもぜひ。
Information
『Keijiban』
石川県金沢市高岡町18−13
https://www.keijiban.online/
※現在はライアン・ガンダーの作品は展示されていません
profile
1981年生まれ、神戸出身。広告代理店・電通、雑誌『GQ』編集者を経て、Sumallyを設立。スマホ収納サービス『サマリーポケット』も好評。音楽、食、舞台、アートなどへの興味が強く、週末には何かしらのインプットを求めて各地を飛び回る日々。「ビジネスにおいて最も重要なものは解像度であり、高解像度なインプットこそ、高解像度なアウトプットを生む」ということを信じて人生を過ごす。」
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