作家の作品の中では珍しい“花”のモチーフ
第2回の今回紹介するのは、佐藤允(あたる)の『花』。先日、アーツ千代田 3331で開催されていたアートフェア『3331 ART FAIR 2021』に出品されていた作品を購入したものです。
寺田倉庫が運営する天王洲のWhat Museumで現在開催中(〜2022年2月14日)の『大林コレクション展「Self-History」』のキービジュアルにも、允画伯が描いた大林さんのポートレートが使われていて、会場でも序文の横の初っ端に作品が展示されていますが、大林さんを筆頭に日本を代表するアートコレクターたちにもコレクションされている人気のある若手作家です。
允さんは僕より5歳ほど若く30代中盤、活動歴も長く作品はこれまでもいろいろなところで目にしていたのですが、すでにそれなりの値段がついていて、もう手が届かないかなと思っていました。そんななか背伸びすれば届きそうな価格の小ぶりのサイズで、かつ彼の作品の中では珍しく花が描かれており、家に飾りやすいモチーフにこれは千載一遇の機会と思い、思い切って購入を決めました。
この絵、アートフェアの会場では僕も持っている川内理香子さんの作品と並べて飾られていて、その組み合わせに妙にシンクロニシティがありました。同じ空間にこの2人の作品があると、そういう化学反応が起こるものなのだろうかと感じたところもまた、購入を後押ししてくれたきっかけでした。うちの小屋でも”反応”してほしいところです。
允作品に感じる”三島性”
佐藤允の作品は複雑にこんがらがった世界が描かれたものから、美少年がモチーフになっているものまで幅広いのですが、根底に流れる哀しい美しさというものが、どの作品も共通して持っているアイデンティティのように感じられます。色味もポップめに振られているものからダークなテイストのものまで、ある程度幅があるものの、独特のカラーパレットが彼独自の世界観の構築に寄与している気がします。そしてその妙に張り詰めた陰影のある美しさには、三島由紀夫の小説に通ずるところがあり、心の中の狂気を隠しきれなくなったり、ひっそりと抑えたりを允画伯も繰り返しているのかもしれないな、とも思います。
グロテスクな世界や同性愛が描写された作品も少なくなく、その分、自宅の空間に飾れそうな作品は限定的になる部分はありながらも、キャンバスに描かれる世界のプロトコルには実に心惹かれて、ぐぐぐと引き込まれます。
心に沸き起こる感情を消化できる能力が、允さんの場合は絵に描くことで、三島の文章のそれよりも随分と発達しているところが、三島由紀夫とは違う部分なのかもしれません。三島の小説はあくまでも三島の中の一部というイメージがありますが、允さんの場合は絵が彼を導いているように見えるところもあります。今後彼の描く絵がどのように変容していくのか、それもまた愉しみのひとつで、このタイミングでひとつ手元に置けたことはやはり嬉しい、の一言に尽きます。
Information
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2022年1月に天王洲のKOSAKU KANECHIKA Galleryで個展が開催されます。「過去に描いた恋愛の題材を新しい話にすり替えてしまおう。過去の記憶を一つ一つ拾って、話を壊して描き変えるこの儀式をトリプルワンと名付けた」というステイトメントの下に描かれた20点の新作ペインティングが出展される予定。
佐藤允展「111 / トリプルワン」2022年1月22日(土)〜2月26日(土)
KOSAKU KANECHIKA
https://kosakukanechika.com
東京都品川区東品川1-33-10 TERRADA Art Complex 5F
Tel. 03-6712-3346
開廊時間:11:00〜18:00
休廊:日曜日・月曜日・祝日
profile
1981年生まれ、神戸出身。広告代理店・電通、雑誌『GQ』編集者を経て、Sumallyを設立。スマホ収納サービス『サマリーポケット』も好評。音楽、食、舞台、アートなどへの興味が強く、週末には何かしらのインプットを求めて各地を飛び回る日々。「ビジネスにおいて最も重要なものは解像度であり、高解像度なインプットこそ、高解像度なアウトプットを生む」ということを信じて人生を過ごす。
サマリーポケット
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