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カリモク家具が実践する、ものづくりを通した森林保全
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カリモク家具が実践する、ものづくりを通した森林保全

日本の豊かな森林資源は、正しく使うことで持続する。

新たに完成したオパス有栖川のコンセプトルームで、建築家の芦沢啓治とコラボレーションしたカリモク家具。そこでは、近年の住空間であまり見られなくなったケヤキが多くの家具に用いられた。日本に生育する多様な木材を、工夫を凝らしながら活用することが、この国の自然の豊かな生態系を守っていくのだと、カリモク家具の取締役副社長・加藤 洋は話す。

Text by Takahiro Tsuchida
Edit by Masato Kawai(BUNDLESTUDIO Inc.)
Photographs by Tomooki Kengaku,Yosuke Owashi
建築家の芦沢啓治とカリモク家具のタッグで完成した、オパス有栖川の一室。ケヤキの素材感をインテリアの基調に、穏やかな空間が広がる。

林業の持続が森林を健康にする

「日本は世界有数の森林国で、約1200種もの木が生育しています。これってすごいことなんです。ヨーロッパにも森林が豊かな国はありますが、木の種類は300程度と言われています」とカリモク家具の加藤 洋さんは目を輝かせる。国内の木工家具メーカーとして最大の規模をもつカリモク家具。加藤さんは創業家の3代目にあたり、小さな頃から木製品に囲まれながら育った。その言葉は、木に対して、森林に対して、そして日本の自然環境に対しての愛情にあふれている。

「日本は南北に長く山がちで、暖流と寒流の海流に囲まれていることが、多様な生物種に恵まれている理由です。いろんな木が生えているということは、微生物、昆虫、さまざまな野生動物も多様でいられる環境があるということ。それはおいしい水や農作物、海産物とつながっています。しかし木の種類が減ると、こうした生態系のバランスが崩れてしまうかもしれない。家具づくりにおいても、あらゆる木を満遍なく使うことが大切だと考えています」

日本の森林面積は国土の約3分の2で、これは世界のトップクラス。ただしまったく人の手が入っていない原生林は4%しかない。つまり、日本では古くから人が森林とともに暮らし、その世話をして、一種の共生関係をつくってきたのだと加藤さんは話す。

カリモク家具株式会社の取締役副社長、加藤 洋さんは同社の創業家の3代目として新しい取り組みをいくつも行ってきた。
カリモク家具の工場で話す芦沢啓治さん(左)と加藤さん。取材では、愛知県知多郡にあるカリモク家具の本社と工場を訪れた。本社の一部のデザインも芦沢さんが手がけている。

「欧米では森林を資源と見なして、素材としての木を活用するためのサイエンスやエンジニアリングが発達しました。一方、日本では森林と寄り添いながら生き、それが持続可能性につながっていたのです。特定の樹種に偏ることなく国産材を使うなら、日本の森林の成長量は需要とほぼ同等なので自給自足ができるはず。しかし実際はそうなっていません。人工林が手入れされず放置されると、木々が密集して育ちすぎ、日光を遮ってしまうので下草が育たず生物種も減り、かつ、雨で地面が剥き出しになることから木が倒れやすくなる。自然に任せると言うと聞こえはいいのですが、生態系と私たちの安全な暮らしにさまざまな支障が出てきます」

国産材が利用されにくいのは、輸入材のほうが価格も供給も安定しているからだ。同等の国産材は供給が不安定で、細い木材、曲がった木材、節のある木材の比率が高い。こうした木材は、紙パルプやバイオマス燃料として使われるが、価格が安いためそれだけでは林業従事者の生活が成り立たない。カリモク家具が以前から小径木などの活用に取り組んできたのは、フェアトレードによって林業をサポートしようという考えがあるからだ。

敷地内に保管している木材。この状態で水分量を15%程度まで自然乾燥させ、さらに人工乾燥によって家具にちょうどいい8%程度にする。

オパス有栖川にケヤキを使った理由

芦沢さんがリノベーションを手がけたオパス有栖川の新しいコンセプトルームでは、これまでも彼とコラボレーションしてきたカリモク家具が、家具や一部の建具の製作を担当した。今回、そこに使われた木材はケヤキ。近年はあまり使われなくなった木だが、その資源量は国内に十分にある。そこにはやはり課題もあった。

「ケヤキという名前には諸説ありますが、ひとつには『けやけき木』、つまり格別に美しく尊い木だからだと言われています。立ち姿が美しく、木材として強靭で腐りにくい特性もあることから、清水寺の舞台を支える柱など、神社仏閣に多く用いられてきました。また磨くと見事な艶が出るのも特徴です。数十年前までは、座卓の天板はケヤキの一枚板が最高級品であり、食器棚などいろいろな家具がケヤキでつくられましたが、趣味嗜好が変化するなかで需要が減ってしまいました」

北海道を除く日本全国に生育するケヤキは、大気汚染にも強いので、表参道のケヤキ並木のように街路樹として、あるいは公園などにも植えられることの多い身近な樹木だ。しかし街中では森林に比べて十分に根を張るスペースがないため、成長すると倒れやすい。木材として使いにくいのだそうだ。また森林に生えているケヤキは、需要も限定的であるため積極的に伐採されるケースが少ない。ナラなど経済価値のある樹木を伐採するために周囲のケヤキを切ることがあるが、現在ではこうした木が用材として活用されることは少ない。

芦沢さんがデザインしたオパス有栖川の新しいコンセプトルーム。ケヤキを多用して、あたたかみのある素材感で空間を構成した。
このコンセプトルームの家具の多くは、チークを思わせる着色を施したケヤキでできている。

「あるとき、ケヤキの板を眺めていたら、その表情や木目がチークに近いことに気がついた。そこで、チークのように塗装したものをデンマークから来日したデザイナーのノーム・アーキテクツに見せたら、チークだと思い込んだのです。日本でチークが採れるのか? と言われて、してやったりと思いました(笑)。その後、デンマークのイベント『3デイズオブデザイン』に出展したときもたくさんのデンマーク人がチークとして見てくれたようです」

チークはミャンマーなどの東南アジアで採れる木材で、デンマークの高級家具に多用された時代があったが、現在は生産量が減り20世紀のように上質な材はほとんど流通していない。加藤さんの着眼点と、そのアイデアを実現したカリモク家具の技術が、ケヤキの新しい使い道を見出したのだ。

「芦沢さんやノーム・アーキテクツが参加しているブランド『カリモクケーススタディ』では、カリモク家具としての木の使い方を伝えたうえでデザインしてもらっています。大きい材、手に入りやすい材、使いやすい材などに偏重せず、自然の植生をふまえて満遍なくあらゆる木を使っていきたい、と。小さな部材で家具をつくるには、そのためのデザインとものづくりの技術が必要です。それを彼らと共有しているのです」

このチーク色のケヤキについて、芦沢啓治はこう語る。

「今までカリモク家具との仕事では、日本でも北欧でも人気の高いオーク、日本のお寺などで見られる木の色に近いスモークオーク、そしてマットなブラックの3色がスタンダードでした。赤みのあるチークの色合いは、自分にとっても新しいチャレンジ。とてもいい色ですが、その美しさを引き出すには品が良くなくてはいけません」

デンマーク人さえもチークだと思い込んだという、ケヤキでできたダイニングチェア。

どんな木も無駄にしないという精神

加藤さんは、カリモク家具の創業者だった祖父の意向もあり、大学で木材について学んだ。ただし当時は、素材としての木の可能性をどう引き出すかを主に研究していたという。カリモク家具に入社してからは、木が育つ森林の大切さをいっそう強く意識するようになった。

「林業は有史以来の産業ということもあり、サプライチェーン上のプレイヤー数が多いのです。山の持ち主、木を切る人、製材する人、それを売る人、市場にかかわる人といったたくさんのプレイヤーは、機能している部分もあるけれど、木材を使う私たちのような立場からするとトレーサビリティが見えにくく、川上で何が起こっているのかわかりにくいといったコミュニケーション上のリスクもあります。環境危機が身近になってきた現在、表向きの書類は合法伐採となっていても、自分の目で確かめるほうがいい場合は多い。国内はもちろん海外でも、できるだけ自分で足を運び、現場の川上で働く人たちとコミュニケーションしています」

落ち着いた光に包まれたコンセプトルームでは、存在感のあるケヤキの風合いが空間に彩りを与えている。
芦沢啓治建築設計事務所がデザインしたテキスタイルのボリューム感を意識したラウンジチェアと、デンマークのノーム・アーキテクツがデザインしたコーヒーテーブル。

安定調達だけを求めていると、その先で起きていることがわからないと、加藤さんは話す。大きな視点で見たときに、いい家具をつくっていると胸を張って言えるようでなければならないと考えているのだ。

「カリモク家具をどうやって次の世代につなげていくかも頭にあります。そのためには短期的な利益思考でなく、腰の据わった持続的な家具づくりをしなければなりません。部下からの報告を聞くだけでなく、自分の足で現場を見に行くのはそれが理由でもあります」

快適な空間をつくり出す原点に、自然環境を思いやる精神がある。その気持ちが、木を使ったものづくりに結晶している。
芦沢さんのスタイルに、ソフト・ミニマリズムを標榜するノーム・アーキテクツによる家具が溶け込んでいる。
リビングルームと同じ感覚を生かして設えられたキッチンとダイニングカウンター。

加藤さんの発案により2009年にスタートしたKarimoku New Standard(KNS)も、当初から国産材の活用を重要なテーマにしていた。このブランドで培われたものが、カリモクケーススタディはじめ国内外の多くのプロジェクトにつながっているようだ。

「KNSを立ち上げた頃は、曲がった木や細い木でつくった家具は本物の木の家具だと認められない空気が、社外だけでなく社内にもありました。それを変えるため、従来のカリモク家具のやり方から離れて、デザインとものづくりの力で新しい価値をつくろうと考えたのです。起用したデザイナーはそんな固定観念のない世界各国の新世代のデザイナーたち。今ではみんな大物になっていますけれど(笑)」

ただし、どんな木でも無駄にしない姿勢は、カリモク家具の創業時から継承されてきたと加藤さんは言う。日本の木工家具の産地は、旭川、天童、飛騨高山、大川など古くから何らかの木工産業があり、森林資源にも恵まれた地域で発達している。しかしカリモク家具は例外的に、そのような伝統や資源のない愛知県刈谷市で創業した。

木材のエキスパートである加藤さんは、どんな疑問にも即座に答えるほどの知識と経験をもっている。

「カリモク家具は最初から、東北や北海道から木材を仕入れてものづくりをしてきました。裏山に木があるような環境ではないので、木材を無駄なく生かす工夫が企業のDNAに刻まれてきたのです。だから端材を使う小物の工場を建てたりと、いろんな取り組みをしてきました」

こうしたものづくりには当然ながら手間がかかり、それは製品の価格に直結する。だからといって諦めるのではなく、工夫を重ねてコストも低減していく。製品が流通して初めて、森林から続く自給自足のサイクルが完成するからだ。たとえばケヤキは木によって成長のスピードの差が大きく、見た目の印象が異なる。その違いが目立たないように、職人の手によって木目や色を合わせていくのもテクニックのひとつだ。

国産のケヤキを有効活用するための試みとして、このコンセプトルームの家具の一部には神戸市で切り倒された街路樹も用いられている。
やはりケヤキの素材感を生かしたベッドルーム。用いられた素材の優しさに、自然と心が寛いでいく。

「国産材は品質が不揃いなことが多く、それをどうクリアするかはマニュアル化できません。このことを前提に、良い木の家具づくりを進化させるためには、個々の社員のモチベーションやスキル、また、組織としてのチームワークが欠かせない。輸入材で家具をつくってきたメーカーが、そんな体制を構築するのは簡単でないはずです」

素材、森林、環境についても加藤さんの考え方は、素直に納得できることばかりだ。しかし、たとえば2009年、KNSが始まった時点ではこうしたテーマに危機感をもつ人々はまだ少なかった。家具メーカーが時流を先んじて、デザイナーを巻き込みながらムーブメントを起こしているのだ。カリモク家具の活動は、デザインにできることの枠組みを着実に発展させている。

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profile

加藤 洋

カリモク家具の取締役副社長。京都大学農学部卒業後、三菱商事株式会社を経て1994年刈谷木材工業株式会社入社。2010年より現職。購買・調達管理だけでなく、製造やデザイン開発まで管掌し、「Karimoku New Standard」、「Karimoku Case Study」、「MAS」、「石巻工房 by Karimoku」の各ブランドを統括。特に購買・資材調達の分野においては、サスティナビリティに配慮した木材調達や、多様性に富む日本の自然条件が育んだ個性豊かな国内未利用材の積極的な活用に取り組み続けている。また、他業種との協業も企画し、カリモク家具全体のリブランディングに取り組んでいる。

▶︎https://www.karimoku.co.jp/

profile

芦沢啓治

横浜国立大学建築学科卒。1996年に設計事務所にてキャリアをスタート。2002年に特注スチール家具工房「super robot」に正式参画し、オリジナル家具や照明器具を手がける。2005年より「芦沢啓治建築設計事務所」主宰。「正直なデザイン/Honest Design」をモットーに、クラフトを重視しながら建築、インテリア、家具などトータルにデザイン。国内外の多様なプロジェクトや家具メーカーの仕事を手がけるほか、東日本大震災から生まれた「石巻工房」の代表も務める。

▶︎http://www.keijidesign.com/
▶︎http://ishinomaki-lab.org/

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