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crafted home – 美しい空間のあり方(前編)<br><small>芦沢啓治さん(芦沢啓治建築設計事務所主宰)<br>川上シュンさん(artless Inc.代表)<br>加藤駿介さん(NOTA&design代表)</small>
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crafted home – 美しい空間のあり方(前編)
芦沢啓治さん(芦沢啓治建築設計事務所主宰)
川上シュンさん(artless Inc.代表)
加藤駿介さん(NOTA&design代表)

素材と空間からひもとくこれからの美とは(前編)

家というものは元来、きめ細かい手仕事や工芸=クラフトによってつくられてきた。「craft(クラフト)」が私たちに寄与するものは、「QOL(Quiddity of Life)=本質的な価値観が表現される暮らし」であり、「timeless(普遍的)な豊かさ」だ。クラフトの精神に基づいたリノベーションを進めるR100 tokyoがこのほど刊行したコンセプトブック『crafted home』をもとに、建築家の芦沢啓治さん、クリエイティブディレクターの川上シュンさん、そして滋賀県信楽町にあるNOTA_SHOPオーナーでありデザイナーの加藤駿介さん(NOTA&design)をゲストに迎え、クラフトの必然性や稀少性、そして現在地について語り合った。(後編はこちら

Text by Hiroe Nakajima
Photographs by Satoshi Nagare
芦沢啓治氏設計によるR100 tokyoのコンセプトルーム

人とモノのコミュニケーション

「モノづくり」や「素材」へのこだわり、そして「空間の考え方」を研ぎ澄ませ、それらを落とし込んだ住まいとは、どのようなものなのか……。昨年、R100 tokyoのディレクターに就任した芦沢啓治さん、川上シュンさんとともに、事業に関わる人間が度々問い直してきたこのテーマを集約させたブック『crafted home』を完成させた。本書は、R100 tokyoが「本質的に豊かな暮らし」を具現化するため、住まいづくりに欠かせないと考える3つの要素「history(ヒストリー)」「craft(クラフト)」「timeless(タイムレス)」を視覚的に提示した内容になっている。

芦沢:今回の本は「クラフテッド・ホームとは何か?」を主に写真で構成しながら淡々と表現しました。写真は、友人のデンマークの建築家、ノームアーキテクツのヨナス・ビエール‐ポールセンと、日本の写真家、見学友宙さんが撮影したものが中心です。ヨナスは日本に来ると一緒にお寺や神社などをよく回っていて、その時に撮った写真は、特にクラフトのイメージを的確に捉えているので、今回も使わせてもらっています。

川上:このブック、約1年かかってようやくリリースに至りました。今回はこのタイミングで、我々のプロジェクトの理念や哲学について再確認するような対話になると思います。まず「What is Crafted Home」――今、芦沢さんはどうお考えですか?

芦沢:必ずしもイコールではないけれども、近代以前はどの国に行っても、住まいはすべてクラフテッド・ホームだったと僕は考えています。今でもヨーロッパの古い家やアパートメントに行くとクラフトが溢れていて、キッチンの棚やドアハンドルなどに時代ごとの技やデザインが表れていたり、愛着が湧くディテールがちりばめられています。人が手をかけてきちんとつくった感じがして、すべてに何かしらの理由があるかのような印象を受けます。それは日本の古民家に行っても同じで、そこには「ウェルビーイング」や「豊かな暮らし」を表現できる素地がある。それが僕にとっての「クラフテッド」を感じる空間だと思っています。だから「クラフテッド・ホーム」という新しい概念を立ち上げたというよりは、もう一度そこに立ち戻りませんか?というのが僕が発信していることです。

R100 tokyoのデザインディレクターを務める、建築家の芦沢啓治さん。

川上:最近の家づくりは、壁もドアも窓も、何でも品番で選べてしまうので、どこかプラモデルみたいになっている気がします。そうではなくて住まいって、「人がつくったもの」がある空間、人の手触りや温度感のある空間に豊かさがあるんじゃないか、というのが、このブックを通じて伝えたいことですよね。テーマは「取り戻す」かもしれませんね。

芦沢:元来日本人は手づくりのものが好きですよね。作家がつくった味わいのある陶器とか。けど残念なことに、それを置く場所については意識していない人が多いのではないでしょうか。家の中のどこに置いてもしっくりこなかったり。華美な空間である必要はないですが、空間からインスパイアされて、こういうものを置いてみたいとか、こんな家具やカーテンをセットしてみたいとか、本来はそう考える楽しさもあるはずなんだけど、今はそのコミュニケーションを取る余地が少なくなっているという状況はかなりもったいないものがあります。

川上:今回は「クラフト」についてのお話をお聞きしたく加藤さん(NOTA&design)にもご参加いただいていますが、そういえば、芦沢さんと加藤さんは一昨日までコペンハーゲンでご一緒だったんですよね?

芦沢:そうなんです。コペンハーゲンで行われた家具の展示会(3daysofdesign)をご一緒しました。僕自身は以前から、加藤さんの言葉や取り組みに共感していました。半年くらい前に僕がNOTA_SHOPに行ったのが最初です。

加藤:あのときはアポイントなくいらっしゃいましたけど、お会いできてよかったです。

芦沢:今回のコペンハーゲンでも加藤さんとこの「クラフト」についていろいろと話しました。僕は半分時差ボケで寝ていましたが……。いろいろと展示を見ていく中で、ライフスタイルブランドがどのような展示をするべきなのか、どのような接客をするべきなのかなどが話題になりました。

R100 tokyoのクリエイティブディレクターを務める、川上シュンさん(右)。

川上:編集するなら徹底的に、というのが今の新しい潮流でもありますよね。たとえば食の世界では、「ミシュラン」でも徐々に価値観の変化はありつつ、オーソドックスな流儀も評価軸にありますが、「世界のベストレストラン50」では体験や物語ベースなところがあります。要するに芸術点のつけ方が違う。R100 tokyoはどちらかというと「ベストレストラン50」の路線だと思います。僕はそこがR100 tokyoの面白さかなと思っているんです。

芦沢:そうですね。その続きで言うと、和食屋に行ったら和食器が出てくるし、デンマークのレストランに行けばロイヤル コペンハーゲンが出てくる。そのように土地の文化や歴史と接続している感じがあるものこそ、得られることが多くて、感性を刺激されるものだという気がしています。

加藤:文脈やストーリーはやはり大切ですよね。願わくば、何かしらの必然性や物語に基づいてコーディネートされている空間だったり、サービスであってほしいと思いますもん。そうでないと心は動かされないでしょう。

NOTA&design代表、デザイナーの加藤駿介さん。

情報がないことがラグジュアリー

川上:NOTA_SHOPはオープンしてどれくらいなんですか?

加藤:お店は6年ですね。使われなくなって物置きみたいになっていた焼き物の工房を改装したんですが、それに3年かかっているので最初からいうと約10年です。

川上:僕はまだメディアでしか拝見していないけど、扱っているプロダクトが良い意味で少しザラついているものが多いように感じます。何か選び方の基準ってあるんですか?

加藤:そうですね、生(なま)感のあるものは多いと思います。基本的に焼き物は地元や近隣のものだけですが、その他は国内外問わずさまざまです。作家ものもあれば、そうでないものもあるし、つくられた年代もいろいろですね。そういうものを特にカテゴリーで分けず、ざっくりと置いています。アートであれデザインであれファッションであれ、一つの空間においてどのように気持ちよく組み合わせられるかが大切だと思っているので。

滋賀県の信楽町にあるNOTA_SHOPの店内。焼き物の工房を改装して6年前にオープンした。

芦沢:あの空間、良い意味での素朴さがあるんだよね、何ともいえない納屋っていうか。

加藤:まさに納屋ですね。あとうちはGoogle Mapではたどり着けないんです。ナビは「着きました」って言うんですけど、全然違うところに来ちゃったとか、わりとあるみたいです。その状況も結構気に入っていて、不便なほうが人の記憶に残るかなって思っています。周りは山しかなくて看板もつけてないので、かなり難易度高いですよ(笑)。

芦沢:京都から車を借りていくのが一番かな。タクシーで行ってもいいんだけど、帰るまで待ってもらわないとすぐに呼べないし。それでもあそこまで行こうと思わせるのは、加藤さんのセンスに触れたいのと、そこにしかないものを見に行きたいっていうのがあるからです。

NOTA_SHOPに並ぶ商品は、加藤さんが自らコーディネートしている。

加藤:遠くから来てくださった方には土地の良いものを、逆に地元の人たち、特に若い方々には海外のものも含めて面白いものを紹介したいと思っています。僕や妻も陶器などをつくっていますが、その紹介は二の次というか、あんまり興味がないというか。自分たちのオンリーショップではないというスタンスです。わざわざ都市部から来られる方もすごく増えていて、多分ですけど、みんな疲れているんじゃないかと思うんです。何時間もかけてキャンプ場に焚き火をしにいくという話もよく聞きますが、それは多分精神が疲れているんですよね。だから田舎でゆっくりしたいっていうのが根底にあるんだと思います。人間って振り子のように、こっちに傾けば、同じ角度で反対側に行くっていう力学があるじゃないですか。6年間店舗をやってきて、来る人の層もどんどん変わってきている感じはしますよ。

芦沢:「疲れている」というのはよくわかる。コペンハーゲンでもラグジュアリーの話になったとき、「Wi-Fiがつながらないのがラグジュアリーかもね」って友人のデザイナーが言っていました。接続されないのがラグジュアリーだと。さらに選択肢が少ないほうがラグジュアリー。たとえば料理をいっぱい選べるレストランはラグジュアリーではなく、おまかせコースが1つしかないのがラグジュアリー。「これだけ情報が飽和していると、選択することがもはやぺインフルなんだよね」という話になりました。僕らはとにかく日々選択しているでしょう?Wi-Fiがつながったと思ったら300通くらいメールが来ていて、そのうちの100通がジャンクメールだったりしたら本当につらい(笑)。つながらないということや情報を入れないことがラグジュアリーだという件と、生感や手触り、ザラザラした感じがラグジュアリーというのは、どこかでつながっていると思う。印刷物に関してもそうじゃないですか?

川上:今回のブックも手触りや質感を特に大事にしながらデザインしました。最近はデジタルでもオフセット印刷でもデータ入稿でつくれちゃう時代なので、“印刷されている”という感じのものが少ないですよね。でもその揺り戻しで、とことん手触りにこだわったコレクションブック的なものも増えています。紙としてはあまり質が良くないツルツルの紙にオンデマンドで大量に刷る時代から、一回戻って、そうではないものが素敵だよねという時代になっている。この本も印刷的にいうと「写真が沈んでいる」ような質感かもしれないけど、本当に本が好きな人って結構沈んでいるほうが好きだったり、必ずしも発色が良くない方を好んだりしますよ。インクが紙に染み込んでいるからこその色味が愛おしかったりする。ラグジュアリーの定義も変わってきているし、クラフトに戻るというのも、そういうことかなと日々感じます。

「クラフテッド」という言葉には本来、「思考をいかに具現化できるか」という意味合いがある。大きな意味で捉えれば、人間のあらゆる営為はクラフテッドによるものとも言えるかもしれない。たとえば薬を開発することも、文章を作成することも。そこにクラフトの精神があるとすれば、機械やAIによって100%取って代わられるということはありえない。だからこそ、そこに人は価値を感じ、惹かれるのではないだろうか。

この10年の価値観の変化

芦沢:おそらくこの10年くらいですよね、顕著な価値観の変化って。

加藤:そうですね。10年前は都市部から地方に若い人がわざわざ来るなんて、あまり考えられなかったですよ。面白いことは都市にしかなかったし。地方に面白い人や面白いことが同時発生的に生じてきたこの10年の変化は大きいと思います。デザインで見てもわかりやすいですよね。2000年代初頭はデザインコンシャスで、ラインが綺麗だったり、アイデア重視の傾向があったけど、ここ10年くらいはもっと素材重視で、テンションもローな感じ。アート業界もそうだし、インテリアも食も。

芦沢:食は明確に変化していますよね。自分基準ですが……。

加藤:もっと本質的になっている感じがしますね。

川上:僕も感じます。いわゆるピンセットを使ったイノベーティブで美しく華やかな料理の時代があって、それが徐々に変化しているというか。実際のところ何を食べているのかわからないっていう時代から、もうちょっと本質的な地産地消とか、ファームトゥテーブルとかが、価値観が変わってきて認知され始めたのもここ10年という気がする。

芦沢:最近のレストランもすごく「家」っぽくなってきていると思う。「居心地」みたいなものを改めて問うようになっているんじゃないでしょうか。

川上:それはある。緊張ではなくリラックスする空間。昨日、あるレストランに行ったのですがすごく良かった。インテリアも食器も全てにクラフト感があってプリミティブな感じ。木や石もお皿になっていて、そこに料理が載っている。既製品が一つもないんです。料理ももちろん素晴らしかったし、食材も見たことがないようなものばかり。こういうのが新しいラグジュアリーの定義なんだろうなと、思いながら食べました。高いも安いもわからない、値段に換算できない贅沢さ。昔は高価なガラスブランドの綺麗なカッティンググラスが出てくると、わーってなったけど、それはおそらく過去のラグジュアリーであって、これからのラグジュアリーの基準は買えないもの、大量生産できないものですね。

芦沢:今の話を聞きながら、それは少しずつ正常値に戻っているということじゃないかと感じるんです。だからこれがある種のトレンドで終わらなければいいなと。

川上:そのことで言うと、僕はここ3~4年、東京と軽井沢の二拠点生活をしていたんだけど、最近、自然の中にいる心地よさを体験するだけではなく、この体感や感覚を都市にも戻し、融合させるようなことをしたくなってきたというか……。そんな風な都市での時間を欲する流れは、全体的にも来るんじゃないかと思うんです。

芦沢:川上さんはもともと都会の人だもんね。

川上:きっと、みんな原点回帰的に地方や自然へ向かったけど、やはり都市の変化や刺激や、人がつくるカルチャーに戻るのかなとは思うんです。でもただ戻るだけじゃなくて、原点回帰的な感性や感覚を持ち帰ってきて混ざり新しいものが生まれる気がする。地方の良さをわかったうえで、その良さを取り入れながら都市生活をするというところで、また何かが始まるんじゃないかと。5年くらい先の話かもしれないけど、なんとなく前兆を感じます。だからこの10年が一過性のトレンドだったという意味ではないですよ。本質的な良さを都市にも取り戻すというのかな。最近の僕の肌感としてはそういう感じなんです。

芦沢:揺り戻しは必ずあるでしょうね。5年後、「もはやクラフテッドではない住宅は住宅ではない」と言ってもらいたいな。「何このペラペラした感じ?」「この丸くてでかい照明は何?」って瞬時に感じてほしいです。

川上:天井にくっついている大きな照明ね。

芦沢:あれは、ただ明るさを得るためのものですよね。住む人にとってどこに明るさがあるといいのかではなく。そうした思考がスキップされてしまっている。どうしてそんな住宅ができ始めちゃったのかというのは、圧倒的につくり手優先のビジネスで社会が回っていたからですが、一転して人口が減少し、だんだんモノが売れなくなってきて初めて、正常なものだけが評価されるようになったのかもしれないし、今後もそうあるべきだと思います。いかなる設計者にも工務店にも責任があります。誰かがちゃんと時間をかけて、そこに住む人のことを考えて線を描く。そうじゃなかったらどこに行っても同じ箱になってしまう。そういう状況に慣れてしまうと、いろんなセンスが鈍ってきて、感性が失われた社会になってしまうのではと思いますよ。

加藤:僕の店でいうと3年かけて自分でイチからやったから価値があると思っていますし、実は自宅もリノベーション中なんですが、2年くらいほったらかしなんです。RCの建物で一度解体したんですけど、忙しすぎてそのままで……(笑)。やはり自分なりのプランがあって、既製品は使わず、素材を選んで、どの工程にも立ち合い、分離発注をするから一向に進まなくて。時間が経ちすぎて徐々にプランも変わっていくんですけど、まあ、いいかなと思っていて。もちろん奥さんは怒ってるけど……出来上がったら絶対に気に入るだろうと思うんですよね。

川上:愛着も生まれるしね。

加藤:はい。時間が許せばそっちのほうがいい気がします。

ノイズが多すぎる日本

芦沢:今いるここの部屋は僕が設計をしたのですが、R100 tokyo の中では結構チャレンジングな条件のなかでつくったもので、やれることの限りはあったのですが、まずはとにかく「嫌な部分」を徹底的になくそうと思いました。たとえば、微妙な梁の凸凹とか、無用な扉とか、大量生産品の巾木とか、そういうのはできる限りなくそうと言ったんです。

川上:このリビング、元は二部屋だったんですか?

芦沢:そうです。リビングで窓が一つあるのと二つあるのとでは、豊かさが全く変わります。だから3LDKは諦めて、気持ちのいいリビングをつくろうっていう提案をまずリビタさんにはしたんですよね。マンションもいろいろな条件があるので、限りあるポテンシャルを生かさないといけないですから。

川上:この足元の仕上げがクリーンでいいですね。

芦沢:もうモップで掃除する時代じゃないから、昔ほど巾木は必要じゃないんですよね。さらに綺麗な木で巾木をつくろうと思うと値段が合わない。巾木ってすごい距離になるんです。これもある種チャレンジングなディテールだけど、やっただけの価値はあったと思います。

川上:いいですね、これが一番気になった。

芦沢:徹底的にミニマルにすることが目的ではないんです。嫌なものを消したいだけ。日本の住宅はノイズが多すぎる傾向があります。僕が愛読する谷崎潤一郎の『陰翳礼讃』も「光と影の美しい話」にばかりフォーカスされるけど、テキストの最初のほうはずっと現代批判です。「電燈などはなまじなことをするよりは、在来の乳白ガラスの浅いシェードを付けて、球をムキ出しに見せておく方が自然で素朴だ」とか。つまり、生活を便利にするためのものが、あまりにも美しくないというようなことを書いているんですよね。今まさに語るべき話です。僕はリビタさんとわりと早い時期からこの点に取り組んでいて、本来は家に必要で機能的なものを全部コントロールしてあげたいって思いますよね。きれいに整えると、突然部屋が自由になっていくから。「ここにあれを置いてみたい」とか「こういう暮らしを展開したい」というイメージが出てくる。僕らがすべきなのは、そういう隠れた要望に対して理解を示し、きちんと手間をかけられるかどうかだという気がしているんです。

加藤:嫌なものをなくすというのは共感するテーマですね。ないものをつくるよりそちらのほうが重要だと思います。一方でアートはそうではなく、既存しないものをつくる作業。デザイナーはどちらかというと嫌なものを消す仕事、というのはすごくわかります。

芦沢:僕はずっとそういうことを継続している気がします。空間にダメ出しをし続けている。「これいらない、あれいらない」って(笑)。

川上:住空間って引き算をすると気に入ったクラフトのプロダクトなんかが華やかに入る気がしますね。ミニマルなものが全て良いというわけではないんだけど、バランスを考えてモノづくりや場所づくりをするというのは大事ですよね。

芦沢:いろんなことに気付けるようになるのが大事。「これが嫌だったんだ」って。具体的に言えば、たとえばトイレに入った瞬間「このトイレットペーパーホルダーおかしい」とか。おかしいからちょっとずつ自分で直していこう、自分の好きなように変えていこうという意識が生活者には必要だと思いますよ。嫌なものに慣れきってしまうと、そういう感覚が掘り起こされなくなる。

川上:そうだね。ノイズで聞こえなくなることってあるから。

芦沢:地方に行って癒やされたいっていうのは、情報を遮断してそういう感覚を取り戻したいっていうのもある気がします。

川上:僕も軽井沢から東京に帰ってくるとうるさく感じる。東京で生まれ育っているから、最初はノイズがないのは怖いくらいだったんです。街の雑音や車の音が心地いいくらいだった。自然の中では全く無音になることがある。それが心地よくなると、都市は本当にノイズだらけ。もっともノイズが心地よい時もあるし、不快に感じることもあるけど。デザインなんかも気になることばっかりですよ。たとえばペットボトルのラベルもすぐ外しちゃう(笑)。車も「販売メーカーのシール剥がしていいですか?」ってすぐ聞きましたもん。

芦沢:日本はどんどん足していく文化ですね。いつからだろう、それをサービスだと思っているんですよね。

加藤:僕も、電化製品の注意書きとかすぐ剥がします。コペンハーゲンから空港に帰ってきてショックだったのは、検疫のところに大量に張り紙があるんですよ。しかも同じやつ。足していくな~と思った。海外はほぼないじゃないですか。この習慣は日本独特ですよね。

芦沢:海外では余計なこと書いていないよね。日本はあれを払拭していかないと美しくないよね。僕も今日、地下鉄の新しいエスカレーターに乗ったら、「下りエスカレーター」「下りエスカレーター」「下りエスカレーター」って3つ同じ看板があって、最後に人が立って案内しているの。ありえない!(笑)

川上:利便性の追求って何かをなくしますよね。利便性を追求することで便利になるとその先には果たして何があるんだろうか。

加藤:人間の身体的感覚は鈍るんじゃないかという気はしますね。

芦沢:張り紙は誰のためかっていうと、必ずしも僕らのためじゃないんだよね。第一にはクレームを回避するためだったりして、あの親切な感じが実はまやかしの親切で、何か言われたときに「私たちはアナウンスしました」って言うだけのためのものならば、あのカルチャーは本当にいろんなものを抹消していきますよね。

(以下、後編に続く)

profile

芦沢啓治

横浜国立大学建築学科卒業。1996年に設計事務所にてキャリアをスタート。2002年に特注スチール家具工房「super robot」に正式参画し、オリジナル家具や照明器具を手掛ける。2005年より「芦沢啓治建築設計事務所」主宰。「正直なデザイン/Honest Design」をモットーに、クラフトを重視しながら建築、インテリア、家具などトータルにデザイン。国内外の多様なプロジェクトや家具メーカーの仕事を手掛けるほか、東日本大震災から生まれた「石巻工房」の代表も務める。

▶︎http://www.keijidesign.com/
▶︎http://ishinomaki-lab.org/

profile

川上シュン

1977年東京都生まれ。独学でデザインとアートを学び、2001年artlessを設立。グローバルとローカルの融合的視点を軸にヴィジョンやアイデンティティ構築からデザイン、そして、建築やランドスケープまで包括的なブランディングとアートディレクションを行っている。NY ADC、ONE SHOW、D&AD、RED DOT、IF Design Award、DFA: Design for Asia Awards など、多数の国際アワードを受賞。また、グラフィックアーティストとしても作品を発表するなど、その活動は多岐にわたる。

▶︎http://www.artless.co.jp/

profile

加藤駿介

1984年滋賀県信楽町生まれ。大学在学中にデザインを学ぶためロンドンに留学。東京の広告制作会社に勤務後、地元である信楽に戻り陶器のデザイン、制作に従事。2017年に「NOTA&design」「NOTA_SHOP」を設立。「NOTA&design」は自社スタジオにて陶器のデザインと制作を中心にグラフィック、プロダクト、美術展示設計、インテリア設計、スタイリング、ブランディングなどを行う。「NOTA_SHOP」ではギャラリー&ショップとして、工芸、アート、デザインを分け隔てずに各種作家やモノを紹介している。

▶︎https://nota-and.com

Infomation

R100 tokyo の2冊のコンセプトブックはこちらからダウンロードでご覧いただけます。

vision
▶︎https://r100tokyo.com/brand/asset/pdf/r100_vb-digital_230330.pdf
crafted home
▶︎https://r100tokyo.com/brand/asset/pdf/r100_craft-digital-book-design_230602.pdf

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