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インテリアデザイナー・藤井信介氏による上質な空間造形術
Focus on Designer

インテリアデザイナー・藤井信介氏による上質な空間造形術

デザインで重要なのは「それが本物かどうか見抜く力」だと藤井氏は言う。素材がもつ本質的なものを追求する創作活動の背景を探る。

デザインによって「より豊かな暮らし」の実現に寄与する人物を紹介する「Focus on Designer」。今回はホテル、レストラン、ショップなどの商業施設から住宅まで幅広く手がけるインテリアデザイナー、藤井信介氏。その上質な空間造形が高く評価されてきた。氏は大学卒業後、スーパーゼネコンのインテリア部門で8年間勤務。独立して18年目に突入するが、シンプルさの中にデザイン性を強く求める傾向、ディテールを大切にする姿勢は、そのときの経験から身についた創作の心構えだという。コロナ禍以降住宅の仕事が増えたという氏に、そのデザインに見られる独特の世界観の由縁、暮らしの中の豊かさについてお話をうかがった。

Text by Mikio Kuranishi
Photographs by Mori Koda

インテリアデザイナーとして活躍目覚ましい藤井氏だが、実は高校までハンドボールで国体に出場するほどのスポーツマンだった。高3の秋、インターハイが終わりふと気がつくと、まわりはすでに進路を決めて受験勉強真っ只中。そのまま体育系の大学に進む道もあったが、迷いを吹っ切り昔から好きだったデザインを学べる美術系大学への進学を決意。猛勉強の末、一浪で東京藝術大学に合格した。卒業後は入社した大手ゼネコンで8年間研鑽を積んだ。その後独立してインテリアデザインの会社を設立、以来商業施設、特にホテルやレストランを中心に幅広く活動している。ところで、商業施設、特に店舗デザインは数年単位で改装することが多い。コロナ禍以降は退店、閉店も増えたが、氏が独立後の18年間に手がけた商業施設は、これまでほとんどがそのまま存続している。長く愛されるデザインの秘密とは?

スーパーゼネコンで学んだこと

——経歴を拝見したところ東京藝術大学卒業後、竹中工務店に入社されています。ちょっと意外でしたが、どういった経緯で竹中に入られたのでしょうか?

卒業を控えた4年生のとき、懇意にさせていただいていた教授から、竹中工務店から募集が来ているがどうかと声をかけてもらったのがきっかけです。当時インテリアに興味があることをご存じだったからでしょう。それで試験を受けて入社したという流れです。

竹中工務店では入社以来一貫して意匠課というインテリアの部署に所属しました。同社の東京の設計部は、当時約500人規模の組織でしたが、意匠課はその中のわずか30名弱。そこで先輩の背中を見ながら学んでいったわけですが、仕事は基本的にゼネコンですから、ビルのオフィスやテナントのインテリア、マンションの共用部のインテリア、さらには居酒屋やマンションのモデルルームも担当させてもらいました。そうして8年間お世話になって独立を決心、会社の屋号「Design Eight(デザインエイト)」は、その8年間にわたる貴重な経験を大切にしたいという思いからつけた社名です。

——その8年間で得られたもの、影響を受けたこと、あるいは現在の藤井さんのデザインに生かされているものとはなんでしょうか?

今にして思うと竹中工務店には作るものに対する思い入れが非常に強い設計者が多かったですね。実際、手がける建物のことを「物件」ではなく「作品」という言い方をしていました。

インテリアでいうと、シンプルさの中にデザイン性を強く求める傾向が強く、それは今の自分にも竹中時代の影響として残っています。もうひとつ教えられたのは、ディテールの大切さです。検図とかDR(Design Review/設計審査)、いわゆる図面やデザインの社内チェックでは、本当に細かいディテールを徹底的に見るし、そのために2分の1、場合によっては1分の1の模型まで作る。そういったディテールの追求の仕方を学んで育ってきたと思います。

商業施設も住宅も、大切なのはコンセプト

——独立されてホテル、レストランなど商業施設、集合住宅、クリニックまで幅広く手がけていらっしゃいますが、HPの作品リストを見ると個人住宅は少ないようですね。

個人住宅はプライバシー保護のため、なかなか公にできないケースが多いので、すべては公開していません。件数として飲食関係など商業施設のほうが多いのは事実ですが、実はコロナ禍以降住宅の依頼が増えています。最近では割合としてホテル関係の仕事が5割くらい、住宅が3~4割くらい、残りをオフィスやその他の商業施設が占めています。

デザインエイトの作品例。ReBITAのリノベーション・プロジェクト「LUCLASS代々木公園」(2017年)。ⓒJoshua(JIL STUDIO)
東京・表参道にある寿司店「SUSHI M」(2019年)。ⓒJoshua(JIL STUDIO)
福井県永平寺町に今年6月にオープンした「黒龍酒造石田屋ESHIKOTO店」(2022年)ⓒJoshua(JIL STUDIO)

——商業施設は基本的に不特定多数の方を対象にしていますが、住宅はお施主さんという個人の思い入れを読み解かないといけません。商業施設と住宅を比べて、デザインされるときの姿勢というか、プロセス、方法の違いは何でしょう?

まず、デザインアプローチという点ではあまり違いはないと思います。ただ、商業施設はたくさんの方が使われますから、ある意味で万人向けの要素も必要ですが、私はそれよりもその土地に特有の文化や雰囲気、人々の嗜好性とかを慎重に見るようにしています。デザインエイトは地方の仕事が結構多いのですが、同じホテルでも北海道と福岡では全然違うデザインになります。

一方、個人邸はやはりオーナー個人、あるいは家族の趣味、嗜好が反映されることになります。そこで打ち合わせでお邪魔したときは、お施主さんが乗っている車や、持ち物、身なり、ペットの有無、飼われている場合は犬種などをくまなくチェックして、その世界観、好みを読解しながらデザインに落とし込むというプロセスを踏むようにしています。

——先ほど、その土地の文化を活かすとおっしゃっていました。藤井さんはどのようなアプローチをされていますか?

実はスタート時にはそれは考えません。私はデザインで一番大事なのはコンセプトだと思っています。コンセプトをきちんとお客さんと会話しながら詰めていく、デザインの基幹というか、骨格となる部分をまずちゃんと作り上げることに集中します。そうやってお客さんとコンセプトを共有できたとき、初めてその土地ならではの特性、たとえば素材とか、空間に対する感受性、慣れ親しんだモチーフなど、いわゆるsense of placeを味付けとして反映させるようにしています。

——今回取材させていただいているここ「AOYAMA WINE BASE」を例にご説明いただけますか?

ここはコンペだったのですが、そのお題が「ワインを楽しむための空間」で、オーナーは古酒にこだわりをもっておられた。この建物の地下1階は「The Old Water Club」というワインバーなのですが、オーナーが考えるビンテージワインの定義「ブドウを媒介として30年40年前の水で遊んでみたい」にちなんだ名称です。そこから昔のものを大切に残し後世に伝える、そういったオーナーの想いを念頭にたどり着いたコンセプトが古代文明の「メソポタミア」です。

地下1階はワインバー「The Old Water Club」(現在、紹介制)。遺跡の中へ入っていくかのような重厚な空間。
解体予定だった石川県小松市の古い石蔵の石壁を譲り受け、再利用。石材は地元産の水田丸石(凝灰岩)。
石川県小松市にあった築百年以上の石蔵。石壁から柱、梁など木材をすべて東京に運び「AOYAMA WINE BASE」が作られた。
「The Old Water Club」のワインセラー。思わずため息が出るほどの貴重な古酒が並ぶ。ここでも石川県の石蔵に使われていた柱や梁、床板が再利用された。

ヒントはワインに関する最古の記録で、4000〜5000年前に編纂されたといわれる古代メソポタミアの物語(ギルガメッシュ叙事詩)の中に記述があるそうです。ちなみにワインの起源の詳細はまだわかっていませんが、少なくとも8000年前からメソポタミアの北、現在のジョージアあたりですでに造られていたそうです

いずれにせよ提案したメソポタミアというコンセプトに共感いただき、コンペに勝って具体的なデザインを進めたのですが、その後はオーナーと一緒になって詰めていきました。たとえば地下は、遺跡というか古い石造の建物に入っていくような世界観を再現し、1階、2階と上に上がっていくごとに石の量を減らし、木を多用した貴族の館のような設えにしています。

1階はワインショップ「earth to glass」。ソムリエ厳選の108のワインから、常時約20種類が試飲できる。使用される石材は上階に行くほど少量に。
2階「The Lounge」のダイニング。パーティやセミナーなど多用途のレンタルスペース。壁には藤井氏のスケッチが。
2階「The Lounge」の貴族のサロン風リビング。ここにはもはや「石」はなく、木やテキスタイルによる温かみのある上質なインテリア。正面壁に飾られた絵画は、藤井氏が竣工記念としてオーナーにプレゼントしたもの。メソポタミアをテーマに古代文明と現代をつなぐイメージで氏自身が描いたという。

素材がもつ本質的なものを追求する

——先ほどのディテールを大切にするというお話にもつながるかもしれませんが、藤井さんの作品には照明から素材、家具まで非常に繊細であると同時に高級感が感じられます。その高級感はラグジュアリーとか豪奢ではなく、質の高さ、上質感、品の良さのようなものです。そのあたりは意図してデザインされていますか?

意図しているわけではありませんが、常にそれが本物であるかどうかを厳しく峻別しているからかもしれません。素材選びもそうですが、新しいものや流行を追うのではなく、昔からある素材を大切に使う。素材がもつ本質的なものを追求すると言ってもいいかもしれません。また、気を衒(てら)ったようなものはあえて選択肢から外すようにしています。

——それが上質感、上品さにつながっているのでしょうか。

そうかもしれません。もうひとつあるとすると、これも竹中時代に学んだことですが、たとえば木を使うとき、木目の向きが縦なら縦方向に使うとか、重い石は下に使うとか、構造力学的に単純なことですが、それを逆にすると違和感が生じる。構造的におかしなこと、自然に反するようなデザインはできるだけしないようにしています。そういった私のデザインを「重厚」だと言われることがしばしばあるのですが、上質感というのはそれに近い印象かもしれません。

——新素材やデザインの最新トレンドには関心がないと…。

いいえ、新しいもの、流行を否定しているわけではありませんし、プロジェクトによって必要なときは当然採用します。実際、コロナの影響で2年行けませんでしたが、私は毎年ミラノサローネに行っています。そこで新しい家具デザイン、新しい素材など、知識として蓄積するようにしています。ただし、それは流行を追うためではなく、新しい情報を仕入れることによって、自分の表現の引き出しを増やすためです。

——家具などのプロダクトも手がけていらっしゃいますが、デザインされるときは空間デザインを意識されますか?                           

これも竹中時代に先輩方と議論したのですが、空間を中から見る場合と外から見る場合と見方に二通りあって、ひとつは決まった家具があってそれに合わせて空間を作る、もうひとつは空間があって、その空間に合わせた家具をデザインする。「鶏が先か卵が先か」のような話ですが、どちらが正しいかという問題ではなく、空間もプロダクトもいろいろな視点から見てデザインしなければならないということです。今、私たちがいるこの空間も、入り口から見た風景と反対から見た景色は違う。私もそうしたいろいろな視線で検討したうえで、これで間違いないと結論づけられるようなデザインを心がけています。

「Aoyama Wine Base」のプレゼンに使われた藤井氏のスケッチ。基本的にどのプロジェクトでもこうしたスケッチを描くそうだ。

——数年前、大学の先輩にあたる彫刻家の尾崎悟さんと対談された際、アートとデザインの違いについてお話しされていました。アーティストとデザイナーの違いをどのようにお考えですか?

デザイナーは他人にお金を出してもらって自分のデザインを表現する。アーティストは値段が決まる前に作品を作る。高く売れるかもしれないし、売れなければ値段さえつかないこともある。そこが圧倒的に違うところだと思います。ただ、独立して18年目に入りますが、自分のデザインに自信をもって「作品」として紹介したいという意識は持ち続けていて、デザインに値札をつけて売るような作り方はしていません。創作という意味では同じだと、尾崎さんと意気投合したのを覚えています。

自分ならこうしたいという場所、時間、空気感を大切に

——コロナ発生から3年が経ちます。先ほどコロナ禍以降、住宅物件が増えたとおっしゃいましたが、それ以外で生活、仕事で顕著な変化はありましたか?

実はほとんどないです。あるとすると海外に行けなかったことくらい。それまでは毎年3~4カ国、5~6回は海外に出かけていましたから、それが一番大きな変化ですね。今年はやっと2年ぶりにミラノサローネに出かけることができました。それ以外は以前と変わらない生活でした。

——藤井さんの普段の生活スタイルを教えてください。

自宅とスタジオを毎日自転車で往復するという普通の生活です。以前は電車を使っていたのですが、東日本大震災のときに帰宅難民の惨状を見て以来、自転車通勤にしました。家とスタジオが自転車で約15分と、いわゆる生活圏内にあるので、結構快適です。

——そうした生活の中で藤井さんが豊かだなと感じる時間とは?

仕事で住宅を設計するときも、自分だったらどういう使い方をしたいか、自分だったらこういう時間を過ごしたいなという、時間と場所と空気感を想像しながらデザインしています。それを自分の家でできること、できる時間を幸せだなと感じているのではないでしょうか。たとえば些細なことですが、週末の夕方ビールとかワインをベランダでのんびり飲んでいる時間は豊かだなと思います。

——その中で大切にされているものはありますか?

私は料理が好きで朝食は自分が作りますし、週末は3食作っています。料理が一種のストレス発散になっているのだと思いますが、それもあって台所はいつもきれいにしておくように気をつけています。昔から台所が汚い家は貧乏になると言いますよね。同じように身の回りはきちんとしておく、それが家の中で大事にしていることですね。

——藤井さんにとって最上の豊かさとは?

 日々不自由なく暮らせること、笑顔でいられることでしょうか。特に生活の中ではストレスなく過ごせること、ストレスフリーな生活が送れることが最上ではないけれど、実は一番の豊かさなのではないかと思っています。

profile

藤井信介

1973 年横浜⽣まれ。1997年東京藝術⼤学美術学部デザイン科卒業。卒業後⽵中⼯務店に⼊社し、レストランを中⼼としたインテリアデザインを数多く⼿がける。2006 年7 ⽉に独⽴、Design Eightを設⽴。ホテル・レストラン・物販・レジデンス・病院などさまざまなインテリアデザインを⼿がける。JCD デザインアワード2009 年⾦賞、2012 年⾦賞受賞。DFAAアジアデザインアワード2010 年⼊賞2012 年銅賞受賞。2013 年IIDAアジアパシフィックアワード⼊賞、と国内外で受賞多数。

▶︎http://design8.jp

取材協力

AOYAMA WINE BASE
▶︎https://www.aoyamawinebase.co.jp/

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