古き良き伝統とモダンが同居する街、東京・丸の内
復原工事を経て、ふたたび創建時の佇まいを取り戻した東京駅。3階建てのレンガ色の建築物は、周囲の高層ビルと不思議な調和を見せている。伝統と最先端が混在する「新旧」のコントラストこそ、常に進化を続ける「東京」という街の美しさなのだ。
レンガ造りの東京駅丸の内駅舎は、元は辰野金吾によって創建されたものだ(1914年)。それが2003年に国の重要文化財に指定され、今に至っている。戦後の復興を経てビルが次々と建ち、瞬く間に近代都市の様相へと進化し続けた東京駅・丸の内エリア。最先端を象徴するビル群に囲まれることで、100年前に設計されたレンガ造りの駅舎は、よりいっそう美しさを感じさせる。旧さではなく、時を超えた価値、変わらない魅力がそこにある。
実用性と快適性を備えた“ネオ・クラシック”モデル
伝統と新しさの融合という意味では、このアルファロメオ「スパイダー」にも通じるところがある。1966年、ピニンファリーナの手による流麗なデザインをまとって登場したスパイダーは、その後何度かのモデルチェンジを受けながらも、基本的なスタイルを変えずに1990年代前半まで長きにわたってつくり続けられた。
走らせているこの赤いスパイダーは1991年に製造された最終型だ。クラシックな見かけとは裏腹に、中身はそれなりにモダナイズされている。パワーステアリング、パワーウインドー、エアコンディショナーなど、現代においても過不足なく使える実用性と快適性を備えた“ネオ・クラシック”モデルなのだ。
コンソールから突き出したシフトレバーを操り、2リッターのツインカム・エンジンを気持ちよく歌わせながら、欧州の街並みを思わせる丸の内仲通りの石畳を駆け抜ける。時代や場所を超越するかのような、マジカルなドライビング・プレジャー。
気温、湿度、日差し、風が運んでくるさまざまな匂い。自分を取り囲む“壁”のないオープンカーに乗っていると、五感が研ぎ澄まされていくのを感じる。
たとえ都心でのわずかな時間のドライブであっても、それは小さな“旅”になる。そう、イタリアではオープンカーは「バルケッタ(小舟)」と呼ばれる。なるほど早朝の街なかを走るスパイダーは、東京という海に浮かぶ、一艘の小舟のようでもある。
specification
アルファロメオ「スパイダー」
1991年式
乗車定員:2名
全長×全幅×全高:4260×1630×1290mm
車両重量:1180kg
エンジン:水冷直列4気筒DOHC
排気量:2000cc
最大出力:120ps88kW/5800rpm
最大トルク:17.3kg・m (169.7N・m)/4200rpm
profile
1967年生まれ。東京都出身。広告代理店勤務を経て自動車雑誌『NAVI』編集記者。2001年オートバイ雑誌『MOTO NAVI』創刊。2003年より自転車雑誌『BICYCLE NAVI』編集長兼務。2010年独立し、出版社ボイス・パブリケーション設立。2012年自動車雑誌『NAVI CARS』創刊。2019年よりフリーランスとなり、自動車ジャーナリスト、エディター、パーソナリティー、コメンテーターなど幅広く活動中。