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“くず餅ひと筋真っ直ぐに”<br>「船橋屋」の理念と企業文化
100年の理(ことわり)

“くず餅ひと筋真っ直ぐに”
「船橋屋」の理念と企業文化

200年以上の伝統を守りながら革新的チャレンジを続ける“くず餅ひと筋真っ直ぐに”「船橋屋」の理念と企業文化とは【前編】

100年以上続く企業やブランドには、愛される理由がある。それらはどのように始まり、成長し、困難を乗り越え、継承され、発展していくのだろうか? 私たち「R100 TOKYO」は、住まいづくりを100年という視野で考え、提案している。古くからの伝統を守りつつ、100年先の発展を目指す企業に、その理念を聞いてみたい。それが本連載のきっかけとなった。

企業に見る伝統継承とイノベーションを紹介する「100年の理(ことわり)」。1回目は、東京・亀戸に本店を構える「船橋屋」だ。和菓子の「くず餅」をつくり続けて約200年という、老舗中の老舗である。しかし、ただ伝統を守るだけではない。デパートへの出店や限定品の企画、企業の強みを活かしたサプリの開発……。「挑戦を続ける姿勢」こそ、船橋屋の特徴だといえる。その企業文化を、前・後編にわたって紹介しよう。

Text by Mari Ohno
Photographs by Shinichi Miura

創業は江戸時代。文豪たちにも愛された船橋屋のくず餅

亀戸天神前本店の店内に飾られる「船橋屋」の看板は作家・吉川英治の書。
昭和35年の船橋屋。店頭に掛けられた暖簾や建物の雰囲気は今も変わらない。
今では沖縄、岐阜県で発酵作業が行われているが、かつては東京で職人が手がけていた。

東京でくず餅といえば、小麦澱粉を乳酸発酵させたものを蒸し上げた、白く弾力のある餅のことを指す。関西で主流の、葛粉を原料とした透き通ったくず餅とは別のもので、「久寿餅」という字が当てられる場合もある。ここ船橋屋は、その関東版のくず餅を専門に製造・販売する老舗企業だ。創業当時から変わらぬ製法でつくられるくず餅は、老若男女問わず愛され続けている。

船橋屋の創業は、江戸時代の1805年(文化2年)。東京の東側から千葉の下総にかけて良質な小麦粉が採れ、農家の人々がおやつとして食べていたものを商品化したことが始まりだという。初代当主はたびたび訪れた東京・亀戸天神のにぎわいを気に入り、その参道で商売を始めることになった。創業当時の写真や資料はほとんど残っておらず、くず餅のつくり方も、人から人へ継承してきたものだという。

店舗の入口に掲げた暖簾の文字は、戦前から戦後にかけての国民的作家、吉川英治によって書かれたものだ。執筆に疲れると黒蜜をパンに塗って食べていた吉川が、あちこちの黒蜜を試した結果、船橋屋の黒蜜をたいそう気に入ったことで縁ができたという。また、文豪・芥川龍之介や永井荷風の著書にも船橋屋のくず餅が登場することから、その歴史の深さと同時に、当時から広く親しまれてきたことがうかがえる。

現代になっても、手間ひまかけることを惜しまない。「元祖 くず餅」に込められた思い

「元祖 くず餅」。店頭では持ち帰り用に1〜1.5人向け小箱(790円)、2〜3人向け中箱(895円)、4〜5人向け大箱(1200円)、6〜7人向け特箱(1500円)が販売されている。すべて税込。

「くず餅ひと筋真っ直ぐに」を企業理念とし、200年の時を超えて愛されてきた船橋屋。くず餅の魅力は、なんといってもその絶妙な弾力だ。厳選した小麦澱粉を木樽で450日もの間、自然発酵させることで、独特のもっちりした食感を生みだす。かつては店の裏で一枚一枚せいろで蒸していたそうだが、約50年前に本店裏に工場が完成し、部分的に機械化されてからも、熟練の職人が指の腹でくず餅の弾力を確認する「あたり」という作業が欠かせない。発酵食品だからこそ、季節や環境で味も食感も変わる。機械に頼り切るのではなく、人の目で見て蒸し時間や濃度を微調整することで、船橋屋の変わらぬ味が今に継承されているのだ。

台形にカットして供されるくず餅は珍しい。この形は船橋屋のオリジナル。

「受け継いできたものを守ること」が船橋屋の発展へとつながる

くず餅の消費期限はたった2日。450日かけて発酵させたものが2日の命というのは、江戸の菓子らしく「粋」ともいえるだろう。防腐剤を入れたり真空パックに詰めたりして日持ちを延ばせば売り上げ増にもつながるが、船橋屋で大切にしているのが「受け継いできたものを守ること」。材料は天然素材にこだわり、人の手で紙箱に詰め、自分たちの目の届く範囲でくず餅をつくり続けている。高度経済成長期に一気に増えた店舗も、現在は目が行き届く25店舗にとどめた。どんな時代でも、ただまっすぐにくず餅の磨き込みを重ねてきた船橋屋。いつも根底にあるのは「おいしいくず餅をつくり続ければ、お客さまはおのずとついてくる」という考え方だ。

時代に合わせて少しずつ。変わらないものと、少しずつ変えていくもの

亀戸天神前本店に併設される工場。機械化を進めつつ、人の手作業が重要なポイントとなる
最初に行われるのは、発酵作業を経た原料を型に流し、蒸して固める作業。
くず餅の固さは手作業を入れることで確かめられる。人の感覚を大切にしたものづくり。
箱詰めも人の手で。くず餅を透明シートに包み、黒蜜やきな粉が詰められていく。

ただ繰り返すだけでない。改良を続け、さらに「いいもの」を目指す

創業当時から変わらない、船橋屋のくず餅。しかし、時代背景にあわせて少しずつ変えてきたこともある。ひとつはくず餅のにおいだ。発酵食品独特の発酵臭や酸味を抑えるため、約5年前から洗いの回数を増やして誰もが食べやすい味にしている。もうひとつは、くず餅の味の決め手となる秘伝の黒蜜。以前はカラメル色素を使用していたが、職人たちの提案で「100%天然素材にしよう」ということになった。

沖縄産の黒糖をベースにブレンドしたオリジナル。色素を用いない100%天然素材。

沖縄産の黒糖の量を増やすことで、無添加でも黒蜜の黒色を再現。一般の人はほとんど気づかないほどの味の変化だが、古くからの常連には「味が変わった」という指摘も一部あったという。しかし、「赤ちゃんからお年寄りまで安心して食べられる完全無添加にした」と説明することで、理解も得られたそうだ。

挑戦はまだ続く。伝統を守るだけでない、船橋屋の強みとは?

船橋屋の姉妹ブランド「船橋屋こよみ」限定くず餅プリンは広尾本店で提供される(670円)。ペリエ千葉エキナカ店、エキュート東京店、エキュートエディション渋谷店ではテイクアウトのみ提供(399円)。すべて税込。

100年以上続くブランドを維持するためには、守ることも大事だが、時代に合わせて変化を恐れないことも、同じくらい必要なのかもしれない。船橋屋では今も昔も主力商品は変わらずくず餅だが、「もっとくず餅を知ってもらいたい」と、新しい試みも始めている。そのひとつが、近年の発酵食品ブームに合わせた、くず餅を使ったスイーツだ。若者向けに「くず餅プリン」をはじめとした発酵スイーツを提供するカフェ「船橋屋こよみ」を東京・広尾に出店したり、ホテルニューオータニとのコラボスイーツ「新edo SWEETSくず餅シリーズ」を開発したりと、その挑戦は続いている。

続く後編では、200年続く船橋屋を支える要素として、伝統だけにとらわれない取り組みをうかがう。人を育て、自発的な活動を促す人材活用の取り組みや、くず餅の特徴である「乳酸菌」を活用した新規事業への挑戦など、企業として前進し続ける秘訣を紹介。

企業情報

船橋屋
亀戸天神前本店
東京都江東区亀戸3−2−14
▶︎http://www.funabashiya.co.jp/

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