建物に込められた想いを継承する室内空間
「まず、オパス有栖川の建物そのもののもつイメージや価値を内装にも継承しました。例えば、建物外壁のレンガタイルは一つひとつ職人の手でつくられています。そこで、部屋の中の壁も職人が丹精込めてつくりあげる「削り磨きタイル」を採用しました。レンガの表面を、継ぎ目と同じ高さに削って仕上げる独特な工法ですが、職人がサンダーで少しずつ削っていく過程で、力加減によって凹凸や色むらによる味わいのある風合が生まれます。さらに、照明デザイナーにはその削り磨きタイル壁のもつ豊かな表情が映えるよう細心の注意を払った照明を施してもらっています。壁の表面に美しい陰影が浮かび上がり、空間として味わい深い奥行きが生まれます。」
「オパス有栖川の建物は“外”と“内”が連続している設計で、外壁や床の素材が建物の外からエントランスホールの中まで繋がっています。今回、室内も建物に倣い、削り磨きタイルの壁が玄関からリビングダイニングまで、ガラスの引き戸を挟んでひと続きになるよう設計しました。部屋の中央には、暖炉をイメージした大きな柱がありますが、そこにも壁同様に削り磨きタイルを施しています。柱の両脇には窓があって、外の緑が見え隠れしています。タイルの風合いと緑が生む心地よい空間をご家族でゆったり寛ぐ時間が生まれればと思います。」
いい家とは、いい空気が流れ続ける家
「私はかつてオランダの大学院で学び、その後もオランダの建築事務所で4年間働いていた経験があります。冬は日照時間が6時間くらいしかない北欧では、日本のように日当たりをあまり気にしません。一日のほとんどを室内で過ごす分、日当たりに関係なく住環境を充実させます。そのために重要なのは、インテリアや動線です。今回ももちろん動線を意識し、とくに大きく円を描くような動線、回遊性が生まれるよう、もともと分かれていた部屋をつなげたりしています。私が子供の頃住んでいた家もそうですが、伝統的な日本家屋は部屋と部屋が直接つながっていますよね。動線が良ければ自ずと家中を人が歩くことになり、人が歩くと家の中の空気が滞ることなく流れ続けることになる。空気が流れ続けている家は、必ずいい家になります。」
住むほどに、愛着の生まれる空間づくり
「素材は徹底的に本物にこだわりました。床は無垢材のフローリングで足の裏に心地よく、経年変化で風合いが増していきます。ガラスの引き戸は、作家に依頼してオリジナルのサッシをスチールで製作しています。スチールはアルミのものより重くはなりますが、なにより質感の良さでアルミを上回ります。こうして本物の素材を使うと、たとえば無垢のフローリングにはワックスがけが必要になるなど、メンテナンスの手間が増えます。手間は増えますが、その分愛着も増すと思います。「自ら住まいをケアする」という意識が芽生えると住まいに対する姿勢も明らかに変わってきます。10年後、20年後、きっとここにしかないご家族だけの住まいが出来上がっていることでしょう。ぜひ、暮らしを楽しみながら、住まいを大切に育てていっていただければと思います。」
profile
1994年広島工業大学環境学部入学。1998年オランダ留学(The Berlage Institute Amsterdam)。アムステルダムの建築設計事務所「moriko kira architect」を経て、2007年アトリエ エツコ 一級建築事務所(現:(株)アトリエ エツコ一級建築士事務所)を設立。「住まいの環境デザイン・アワード2008」「ベターリビング・ブルー&グリーン賞」など受賞歴多数。