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“人と水の、あらゆる制約をなくす”――「WOTA」の目指す未来の暮らしとは
Next for Future

“人と水の、あらゆる制約をなくす”――「WOTA」の目指す未来の暮らしとは

自律分散型の水循環社会の実現に挑む「WOTA」。彼らが創造する未来の暮らしとは

持続可能性の高い社会における「未来の“真に”豊かな暮らし」「人にも地球にもやさしい社会」とは、一体どのようなものなのだろうか? これからの生活に革新を起こすような、先見性に富んだ技術やサービスを開発する企業や人。彼らが創造する未来には、きっとそのヒントがあるはずだ。
「Next for Future」の第1回でフィーチャーするのは「WOTA」。水循環を用いた次世代の自律分散型水インフラの研究や製品開発を手がけるベンチャー企業だ。さまざまな分野で経験を積んだスペシャリストが集結し、創造的かつサスティナブルな暮らしの実現に向け、走り続けている。水に関する既成概念を覆すような、彼らのイノベーティブな開発内容や、その裏に秘めた想い、ビジョンなどについて紹介しよう。

Text by Kaori Kawake(lefthands)
Edit by Shigekazu Ohno(lefthands)
Photographs by Takao Ohta

サスティナブルな未来のために、水の制約をなくす

水の惑星、地球。人類にとっても水は、生きるために必要不可欠なライフラインであると同時に限りある資源の一つだ。だが地球の表面の3分の2を覆う水のほとんどは海水であり、飲み水や農業に使用できる淡水はわずか2.5%に過ぎない。さらに詳しく言えば、淡水のほとんどは氷河や氷山、あるいは土中の水分や地下水であり、人間が利用しやすい川や湖などの地表水は、わずかにその0.4%にすぎないという。

世界では長きにわたりさまざまな水問題が取り沙汰されているが、地球温暖化による干ばつと洪水の頻度は増加の一途をたどり、開発途上国では水と衛生の問題で多くの子どもたちが命を失っている。山河豊かなイメージで語られる日本でさえ、災害時には水不足であえいでいる。そのようななか、まったく新しい発想によって社会の水問題へ挑んでいるのが、「人と水の、あらゆる制約をなくす」をスローガンに掲げる「WOTA(ウォータ)」の代表取締役 前田瑶介さんだ。

「WOTA」の若き代表 前田瑶介さん。

「サスティナブルな社会と言われても、自然とのコミュニケーションがない人にとっては想像しにくいですよね。まずは、日常の生活の中で自然との接続を増やしていくということが大事ではないかと思っています」

「WOTA」が目指すものは、デザインとテクノロジーの力を生かし、誰でもどこでも清潔な水にアクセスできるサスティナブルな未来である……前田さんはそう語る。

開発拠点となっている東京・大塚にある「WOTA」の事務所の様子。1階のガレージにはモックアップなどが所狭しと並ぶ。

水循環を用いた次世代の自律分散型水インフラの研究開発や事業を手がけ、創造的かつサスティナブルな暮らしの実現に向けた取り組みを進めている。

セルフビルドできる水インフラで社会を変える

そもそも、前田さんが水インフラに着目した理由は何だったのだろうか?

彼が生まれ育ったのは、豊かな自然に囲まれた徳島県の小さな村。標高1000m近い高地にあるこの集落には上下水道は整っておらず、川からポンプでホースを伝って引いてきた水で生活していたという。台風が来てホースに木の葉が詰まれば、それを取り除くなどセルフメンテナンスは必要であったが、特段の不便さを感じることはなかった。

それが特別なことであったと気付いたのは、前田さんが大学進学のために故郷から上京した翌日、2011(平成23)年3月11日のことだった。忘れもしない、あの東日本大震災に見舞われた日である。

「断水で水が必要な状況下にあっても、誰ひとりとしてシステムを修理しようとも、川の水を利用しようともしていませんでした。都市に生きる人々にとっての水は、あくまでも水道やミネラルウォーターであり、辺りに流れている水は水と認識されていなかったのです」

都市全体の水供給を安定させるのであれば、上下水道を整えることが一つの解である。しかし、大規模な設備投資が必要なインフラ整備に頼らず、一人ひとりが自由に水をコントロールできる社会を作れないものだろうか? そう発想を転換した瞬間、前田さんの中で技術と都市がリンクしたという。

そして、こうひらめいたのだ。今の世の中に必要なのは「セルフビルドできる水インフラ」なのではないだろうか、と……。

「都市に暮らす人々の中に、自分の使う水がどこから来て、どこに行くのかを知る者はほとんどいません。多くの人にとって、排水が行き着く先にあるのは、自然ではなくブラックボックスだと言えます。そういう状況自体が、環境問題を自分ごと化できない要因でもあるのではないでしょうか。セルフビルドできるということは、セルフメンテナンスができるということを意味します。一人ひとりが水をコントロールできる、そんな社会を作りたいと思いました」

その後、大学で建築を学ぶなかで、水インフラ全体の課題と向き合ってきた前田さん。デザインやテクノロジーをどう建築に生かし、暮らしの改善や街づくりへと落とし込んでいくかについて考えを展開させていったという。

一人ひとりが水をコントロールできる世界へ

そんな前田さんが水循環システムを開発するベンチャー企業「WOTA」への参画を決めたのは、前社長との出会いによるところが大きい。

2人は、建築と土木という別の分野に身を置きながらも、それぞれが「自然の水をうまく使って持続可能な暮らしを実現する」という同じゴールに向かっていたのだ。意気投合した彼らは、共に開発を進めていくこととなる。

しかし、それはレポートを書くようにうまくは進まなかったという。技術的な開発と同時に、社会的コンセンサスをどう得ていくのかという壁にぶち当たったのだ。それでも、経験者を仲間に引き入れながら製造業の基本の基から学び、商品企画を進めていった。

オートキャンパー用のシャワーや、キャンピングカーに取り付け可能な水循環装置など、さまざまな製品のトライアンドエラーを経て、配管工事不要で取り付けられる屋内向けのシャワーブースを製品化しようとしている最中、方向性を変える大きな転機が訪れた。

それが、2018年7月に起こった西日本豪雨だ。

知人から「被災地では猛暑のなか、多くの被災者や避難者が汗ばんだ身体を洗うこともできずに過ごしている」と聞き、水循環テクノロジーを生かした屋外シャワーを整え、岡山県倉敷市真備町に向かったという。

西日本豪雨の際、「WOTA BOX」とシャワーブースが倉敷市に設置されたときの様子。
西日本豪雨の際、「WOTA BOX」とシャワーブースが倉敷市に設置されたときの様子。

そこで提供されたものこそ、WOTAが独自開発した自律分散型水循環システム「WOTA BOX」の試作機である。限られた水をろ過しながら循環させて使うことで、水道のない場所での自在な水利用をかなえる製品であった。

その水質やフィルターの状態はAIによって常に精密に監視・制御され、安心・安全できれいな水を長期にわたって保持し続ける。

一度使った水の98%以上を再利用できる「WOTA BOX」。

通常シャワーを浴びるには、1人あたり40〜50ℓの水を使う。しかし、WOTA BOXは100ℓの水でなんと100人以上の人にシャワーを届けることができるというから驚きだ。

「被災地の方々は、言葉にできないほど喜んでくれました。水によって心身が解き放たれた瞬間を目の当たりにしたことで、水がこんなにも人の感情を揺り動かす力があるのだと身をもって感じました」

同時に、前田さんは一つの学びを得ることとなる。

「倉敷の小学校ではプールに水が溜まっていたし、周りには川も流れていました。プールの水は飲み水には使えなくても、家庭の給湯器などを利用すればシャワーブースを作ることも可能だったろうに、誰もそれができずにいました」

ここでも、やはり水と認識されるのは水道水だけであることを知る。だが都市の水インフラはあまりに規模が大きすぎて、災害下においては、再整備に多大な費用と時間が費やされるという問題を目の当たりにしたのだ。

この経験を機に、限られた水を大切に使うことができる、小さな水インフラづくりを本格的に進めていくこととなる。

まもなくして製品化した、自律分散型水循環システム「WOTA BOX」は、2020年に世界初の「持ち運べる水再生処理プラント」として、グッドデザイン大賞を受賞。

以降、誰でもどこでも、水循環によって豊富な水利用を可能とする、人にも環境にもやさしい未来の水インフラとして、被災地を中心に活用の場を広げていった。

自律分散型の水インフラで暮らしを変える

そんなWOTAが昨年発表したのが、「WOTA BOX」に搭載した自律分散型の水循環テクノロジーを応用し、水道のない場所への設置を可能にした手洗いスタンド「WOSH」である。

「WOSH」の筐体(きょうたい)にはアップサイクルのドラム缶を採用し、環境や資源にも配慮したデザインとなっている。

排水は、2つの活性炭と1つのRO膜(ウイルスの100分の1の大きさのフィルター)を搭載した3段階のろ過装置を通ることで、不純物やウイルスが除去され、深紫外線照射と塩素系消毒剤により除菌される。また水質やシステムは、9つのセンサーとAIにより常時監視・制御されており、メンテナンスが必要な際やトラブルが起きた際はすぐに通知されるという。

水質はWHO飲料水の水質ガイドラインを準拠し、第三者機関の試験も通過している。

さらに、スマートフォン専用の深紫外線照射機能を搭載し、手を洗っている間にスマートフォンの表面についた菌の99.9%以上を除去することができるのだ。

コロナ禍において手洗いの重要性が取り沙汰されるなか、すでに多くの人が行き交う歩行者天国や公園、駅などに設置が進み、「公衆トイレ」ならぬ「公衆手洗い」としてニューノーマルな環境づくりに一役買っている。

制約を取り払った先にある、水と自由に付き合える未来

水は人類にとっての課題であり続けてきたが、前田さんは可能性でもあると話す。

「僕らはいつも、水と自由に付き合おうと言っています。水というのはこれまで制約であり続けてきましたが、それを自由と捉えられるようにしたい。水処理は、水質の改善を目的としてきました。しかしWOTAが考える水処理の未来は、もっと豊かな暮らしのために、水質をもっとポジティブにコントロールするところにあるのです」

そして、自由に対する責任を果たす必要があると前置きをした上で、前田さんは次のように言葉を足した。

「WOTAの技術を使えば、今後、水の質を自分たちの好きなように自由にコントロールできるようになります。それは、例えば料理に適した水やお茶に適した水など、私たちの暮らしの文化的な側面を広げ、楽しみを増やしていくことにも繋がるでしょう」

また、水を水道から解放することは、住宅における空間の自由度を高め、新しい生活様式の提案にも繋がる。場所の制約がなくなれば、水回りをまるで家具のように、インテリアに合わせて自由に動かせるようになるのだ。

さらに言うと、水を自産自消できれば、既存の水インフラに頼らない“オフグリッド”な生活の実現に一歩近づくことにもなる。それは、既存の水インフラが整備されておらず、これまでなかなか住まうことの難しかった土地への移住や、移動可能な住宅さえも身近なものにしてくれるかもしれない。つまり、「暮らす場所を自由に選ぶ」選択肢が、格段に広がるのだ。

「僕らがやるべきことは、ものすごくシンプルだと言えます。それは、経済的にも環境的にも、そして暮らしにおいても、水道よりもやさしいものを作るということ。それは、産業の転換にも繋がると思います」

WOTAの提案する自律分散型の水インフラは、今後、自然と人とをやわらかに繋ぐインターフェースとなるだろう。資源利用に対する自由と責任を、暮らしの中でダイレクトに感じられるきっかけとなれば、世界におけるサスティナブルな生き方が一気に加速するかもしれない。

既成概念に捉われない前田さんの発想、そしてWOTAの取り組みは、私たちの暮らしをより豊かに変える起爆剤となるのではないだろうか。

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