アーティストの源流がモチーフの初期作品
第五回の今回紹介するのは、アーティスト・山口幸士のペインティングです。山口さんのInstagramのストーリーの背景にちらっと写っていたのが気になって、つい先日、特別に購入させてもらった作品です。
山口さんは元々はスケーターでもあり、街中をスケボーで巡りながら日常の光景を描いたりしていました。その後、ニューヨークで生活している中、スケートボードで靭帯を切るという大怪我をきっかけに、アーティストに専念しました(スケボーも今後また再開する予定があるとも)。ストリートアートの作家としては珍しくない経歴かもしれないですが、花や風景といった情緒の内包するモチーフを油彩で描く山口さんの作品は、ポップなモチーフが描かれることも多い、いわゆるグラフィティ的なストリートアートとは一線を画しています。
今回の作品は、山口さんが好きな作家のひとりだというジョルジョ・モランディの作品集の上にバラが置かれた光景が描かれています。以前にもそのエピソードを聞いたことがあったので、パーソナルな思い入れのモチーフが題材のひとつになっているこの作品に、瞬間的に惹かれてしまいました。
背景のキャンバスも、緑がかったグレーと茶のかかったカーキのツートンになっていて、近年の作風とは少し趣が異なるテイストにもまた引き込まれました。背景に溶け込むような作品集の表紙の色味と、バラとのコントラストが見事に際立っていて、うちの小屋の中でも独特の存在感をはなっています。
美術館の記憶とシンクロするぼやけた輪郭
これ以外にも、山口さんの作品は小屋に4つあります。個人的に一番思い入れがあるのは、今はもう取り壊されてしまった品川の原美術館の展示室の一室に佇む、アップライトピアノが描かれたものです。
このピアノは原美術館のクロージングイベントとして行われた、ピアニストの向井山朋子さんのパフォーマンスに合わせて持ち込まれたもの。向井山さんが撮影していたこの展示室のスナップのフレーミングが、山口さんの絵の雰囲気にぴったりなのではと感じて、原美術館の思い出にしたい気持ちもありお願いして描いていただいたものです。ちなみにこの絵のモノクロームバージョンは、向井山さんのお手元にあります。
この少しぼやけた輪郭は、山口さんの絵のひとつのアイデンティティで、絵の中の光を際立たせるのに実に効果的な演出になっています。スケートボードからの流れる景色や、視力が悪い山口さんが裸眼で見る世界が、このスタイルの源泉にあるとのこと。こんなふうに光を描けるアーティストにはなかなか巡り会えないもので、やさしい空気感に心が吸い込まれるような気分になります。その心地のよさに、リビングだけでなく玄関や洗面と、小屋の随所に山口作品を置いています。
Information
4月30日(土)〜5月4日(水)に川崎の工場を舞台に展覧会(タイトル未定)を開催予定。委細はまもなく公開予定とのこと。続報を待て!
profile
1981年生まれ、神戸出身。広告代理店・電通、雑誌『GQ』編集者を経て、Sumallyを設立。スマホ収納サービス『サマリーポケット』も好評。音楽、食、舞台、アートなどへの興味が強く、週末には何かしらのインプットを求めて各地を飛び回る日々。「ビジネスにおいて最も重要なものは解像度であり、高解像度なインプットこそ、高解像度なアウトプットを生む」ということを信じて人生を過ごす。
サマリーポケット
▶︎https://pocket.sumally.com/