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Sumally・山本憲資さんに聞く、「軽井沢生活」と「アートへの情熱」
My Life with ART

Sumally・山本憲資さんに聞く、「軽井沢生活」と「アートへの情熱」

「アートは世界を知るための一片のピース」――Sumally・山本憲資さんにとって欠かせない、アーティストたちの視点

「アートが人生をより豊かにする」をテーマに、アートを取り入れたライフスタイルを紹介する連載「My Life with ART」。7回目は、スマホ収納サービス「サマリーポケット」を展開する「Sumally(サマリー)」のFounder & CEOである山本憲資(けんすけ)さん。昨年8月に軽井沢へと拠点を移した山本さんは、現代美術をこよなく愛する人物でもある。築50年の平屋をフルリノベーションした住まいには、愛着のあるアートや家具がどこか心地よさそうに共存していた。

Text by Hiroe Nakajima
Photographs by Yoichiro Kikuchi

森の中にいると人間性が回復する

「遊獅山荘(ゆうしさんそう)」と名付けた山本邸は、星野温泉「トンボの湯」にもほど近い中軽井沢エリア。車はメルカリで20万円で購入したというアウディ。
築50年、80㎡の平屋をフルリノベーション。窓を開け放てば夏でも冷房いらず。屋内にともる明かりが周辺の緑とマッチしている。
室内から北側に目をやれば、そこにはせせらぎが流れている。夏は川遊びもできる。緑の中の最高のロケーションだ。

2019年11月、まだ世の中がコロナ一色になる直前。軽井沢に土地と中古物件を入手し、粛々と改修工事を進め、1度目の緊急事態宣言が明けた2020年8月には、東京から拠点を移した人がいる。スマホ収納サービス「サマリーポケット」を展開する「Sumally(サマリー)」のFounder & CEOである山本憲資さん。取材に訪れた初夏の日、家屋を取り囲む緑は青々と生命力にあふれ、敷地内の小川のせせらぎが心地よく耳に届く。会話をさえぎる雑音のないこの場所での暮らしをスタートさせて約1年。家屋は築50年ながらフルリノベーションし、家電や設備は遠隔操作も可能な最先端のスマート仕様。その様子は「スマートリモートライフ」として、いくつかのメディアでも取り上げられている。

「これまでも軽井沢は好きなエリアで、ちょくちょく足を運んでいました。いずれ拠点を持てたらいいなと思っていたところ、この家に巡り合いました。旧軽井沢ではなく中軽井沢のほうが手つかずの自然が残っている気がして、このあたりで探していたんです。4、5軒見たのですが、この小屋の数寄屋造風の建築が気に入り、かつ予算内で購入できそうだったのですぐに決めました」

「住みはじめて1年近くになりますが、最高ですね。毎日東京のオフィスへ出勤しなくていい人には、もれなくおすすめしたいほどです。森の中にいると、本来の人間性が回復する気がします。特にコロナ禍によって行動範囲が制限され、都心がギスギス、ピリピリしている時期に、そこから離れた場所で毎日を過ごせたことは幸いでした」

コロナ感染拡大を機に一気にリモートワークが進んだという山本さんの会社では、仕事はどこにいてもできるという合意形成がなされており、山本さん自身も「距離が制約にならないような生き方」に挑戦している。現在はおおよそ軽井沢4割、東京3割、その他3割という配分とのことだが、コロナ禍以前は海外に赴くことも多く、狙いを定めたレストランや展覧会を目指して、たった3日間しかない連休の間に、ヨーロッパへ飛んでしまうこともあった。

「金曜日に上海や香港に向かい、月曜日に帰国するなんていうのはざらでした。2019年はおそらくトータルでゆうに100カ所以上の展覧会場に足を運んでいるはずです。時間や距離を理由に、見るべきもの、やりたいことを断念するという選択肢を持ち合わせていないのかもしれません。そういう点では生来的なエピキュリアン(快楽主義者)なのでしょう」

快活にそう語る山本さんは、現代美術の愛好家であり、同世代の好きな作家の作品を少しずつ購入しはじめているという。山本さんがアートに傾ける好奇心と情熱は、いったい何に由来しているのだろうか。

北側と東側は縁側の外のガラス戸を開け放つことができる。部屋を取り囲む森林が目に気持ちよい。イギリスの現代美術家ジュリアン・オピーのベッドカバーには羊の絵がプリントされている。
天井からにょきにょきと伸びるライトは、建築家ユニット「ヘルツォーク&ド・ムーロン」デザインの「Pipe Lamp」。
モダンなデザイン、高機能、燃費が良いので「薪ストーブ界のスマホ」とも言われる、ドイツのメーカー「スキャンサ ーム」の「エレメンツ」。

経営者にとって必要なもう一つの視座

山本さんがアートを意識しはじめたのは、高校生から大学生の頃。もともと雑誌が好きで、『BRUTUS』や『POPEYE』『h』などは日頃から愛読していた。アートシーンでは、村上隆、奈良美智などが全盛の頃。あるとき奈良美智さんの展覧会とトークイベントに行った際、作家が作品に込める思いをじかに聞き、目が開かれたという。

「正直、それまでイラストレーターと現代美術家の描く絵の違いが明確にはわからなかったのですが、奈良さんのトークをきっかけに、作品への理解の掘り下げ方に変化が生じた気がします。それ以降はより能動的に作品や作家にアプローチするようになりましたし、ことに2005年の杉本博司回顧展『時間の終わり』は僕にとって忘れがたい展覧会です。江之浦測候所へは何度も訪れており、2019年はイスラエルのテルアビブやフランスのヴェルサイユ宮殿での杉本博司展にも赴きました。その他にも2019年は多くの良い展覧会に出会うことができ、クリスチャン・ボルタンスキーとはパリのポンピドゥーセンターで、トム・サックスとは東京で対面する機会にも恵まれました」

大学卒業後、広告代理店を経て、雑誌『GQ』の編集者に。その後、いまだないサービスを提供するスタートアップ企業を興した山本さんが、それほどまでに現代アートに傾倒するのはなぜだろうか。

「元ソニーの大賀典雄、銀行家の川喜田半泥子(かわきたはんでいし)しかり、優秀な経営者が芸術を保護したり、自らもプレイヤー、パフォーマーとなる例は枚挙にいとまがありません。それは嗜みというようなことではなく、とても自然な成り行きのように思われるのです。経営者の重要な仕事は、大きな決断と小さな判断を日々高精度で行い、資金を適正に使い続けることです。そうしたとき、美術、音楽、文学などに触れていることで鍛えられるある種のセンスや勘がものを言うことがあります。ビジネスにおいては、論理的や合理的であることはもちろん非常に大事ですが、その枠組みの外側で、独自の尺度に基づいて存在している人々や彼らの営みを知ることが、翻ってビジネスの場でも、思考の解像度の高さに繋がってくると感じています。むしろフィクショナルな世界にこそ、真理はあると言うこともできます」

そうした理由からも、山本さんが着目するのはやはり同時代の作家であり作品なのである。「例えば19世紀、20世紀の芸術にも興味がないわけではないし、もちろん触れてはいますが、作品への理解を十分に深めるには、自分が知っている情報が少なすぎる」と山本さんは言う。

「同じ時代を生きているアーティストが、どのように“今”を見ているのかに興味をひかれます。それはつまり、自分が生きている世界は果たしてどんなところなのかを知ることの一助になるからです。アーティストはその人の数だけ、世界へ向ける目線が異なっているのが面白いところであり、既存の概念に依拠しない彼らの態度に信頼と尊敬の念を抱きます。目の前の作品に深く共鳴する瞬間が去来する、それがアートに触れる醍醐味なのではないでしょうか」

自分とシンクロする作品を身近に置いておきたい

今井麗のペインティングは山荘の入り口に。描かれているハンバーガーのランプは山本さんが今井さんにギフトしたもの。「今井麗さんの絵には静寂そのものが描かれている」と山本さん。
こちらも今井麗のペインティング。キッチンの上部に飾っている。
玄関の靴箱の上には3つの作品と花瓶。テリ・ワイフェンバックの写真3枚を額装したもの(左)、門田ちあきのペインティング(中央)、山口幸士のペインティング(右)。手前の一輪挿しは三嶋りつ惠作。
陶芸家・田端志音の茶碗(左)と束芋の版画「Ghost Running」シリーズの1枚。母と娘の作品を左右に配して。
川内理香子のペインティング。「KIND ANGER EASY TO BE HURT(傷ついて怒りやすいから優しくして)」という作中の文字が「やわいこの小屋にも通じる感じがしてぴったり」と山本さん。手前にワニの人形を置いて。川内さんは山本さんが最も注目するアーティストの一人。インクケースは、モンブランとトム・サックスとのコラボレーション。
辻村史朗の水指。土モノの器が好きな山本さんは、この他に唐津の中里隆、丸田宗彦などの作品も所有している。

山本さんにとってアートの愉しみ方は、「アーティストの目で見た世界」を少しでも理解することであり、それは展覧会をしっかりと観ることで、ほぼ満たされるという。「自分はいわゆるコレクターではない」と言い切る山本さんの大前提として、アートに対する投資的な目的がメインではない。

「例えばペインティングなどは、ある意味アーティスト自身の血肉の一部を身近に置く感覚があるので、どこか肉迫してくるような重さを感じることがあります。よほど自分のアイデンティティとのシンクロニシティがないと、プライベートな空間に置くには腰が引けます。人生で初めてペインティングを購入した川内理香子さんの作品には、強い衝撃を受けて、購入せざるを得なかったということはありました。けれどもやはり僕は所有するよりも観る派。もし100万円あったとして、アートを買うか、観るかと問われたら、やはり後者ですね。所有よりも経験のほうに価値を見出しています」

このところ巷で話題になっているNFT(Non-Fungible Token)についても、「所有権を持っている人で、実際に作品を愛でている人はどのくらいいるのだろうか?」とクールな反応。

「リアルなものをデジタル化するというのは、平成の時代に一気に進んだ流れで、今後ますます加速していくでしょう。もちろん興味深い発展の仕方をしていると思いますし、例えばルーブル美術館のようなところが、所蔵品をそうした形で公開するとすれば、あれだけの量と質を備えた有形資産ですから、新たな価値を生み出す可能性は十分にあります。デジタル化がそれを拡大するわけです。僕がサマリーでやろうとしていることも『所有を進化させること』であり、ビジネスの上で、その流れをしっかり追いかけていきたいと思っています」

そう語る山本さんだが、ご自身は、アーティストたちのインスピレーションが詰まったプロダクトや作品と直に交信することに幸せを感じるという。作家が命を賭して作品に取り組む前のめりの姿勢、そのバックグラウンドや思考に向ける山本さんの熱量は並大抵ではない。

奈良美智のフィギア「ドラミングガール1」
奈良美智作「ドラミングガールの2と3」
ジェニー・ホルツァーの作品がさりげなく梁のところに掲げられている。
ロエベの一輪挿しをモチーフにしたバングルを、実際に一輪挿しとして使っている。「ロエベのデザイナー、ジョナサン・アンダーソンが好き」と山本さん。

呼吸のように情報をインプットする

20代後半は雑誌『GQ』編集部で経験を積み、自ら立案した企画も多く実現させた山本さん。まだ車が発売になる前の米・テスラ社へ、高城剛氏とシリコンバレーに取材に訪れたこともある。その情報フリーク、インプットジャンキーぶりは主に編集者時代に培われたものかと思いきや、幼い頃から活字を読むのが大好きで、小学生のときは毎朝父親と新聞の取り合いになっていたとか。大学生になると、4~5紙の新聞に目を通していた。

「例えば人の10倍働いて成果を出しますという人も少なくはないでしょうが、僕の場合は人の100倍情報をインプットしていることが強みになっているのかもしれません。僕はクリエーターではなく、特別な技術や創作能力を備えているわけではありません。ですが情報を取ることは、ある種呼吸のようなもので、ごく自然にできます。インプットのためのインプットではないので苦痛を伴うものではありません。物心ついた頃から情報を大量に収集・管理・処理する習慣が身についています。言うなればブルドーザーのように、情報を総ざらいしていく感覚です。そこから信頼性の高い情報、有用性の高い情報をえり分ける。精度を上げるためには、なんにせよ量は必要です。そうやって自然と鍛錬を積んできたことが今、資本主義のもと、ビジネスというスポーツを行ううえで、役立っているのかもしれません」

経営者としての山本さんが、精度の高いアウトプットをするために不可欠な大量の蓄積データは、今後もさらに拡充され、更新されていくだろう。しかしその山本さんに、「スポーツの試合が終わっても、人生は終わらない」というもう一つの視座を与えているのが、アートでありアーティストの存在なのである。

私たちが生きる世界の見取図を、より高解像度で目に焼き付けたいという渇望が、山本さんをアートへと向かわせる。そして全呼吸、全感覚を総動員して世界と対峙する山本さんを前へと推し進め、力を与えているのがアートなのだ。

静寂な軽井沢の森の中で、愛着あるアート作品と過ごす山本さんから、今後どのようなアウトプットがなされるのか、興味は尽きない。

profile

山本憲資

1981年生まれ、神戸出身。広告代理店・電通、雑誌『GQ』編集者を経て、Sumallyを設立。スマホ収納サービス『サマリーポケット』も好評。音楽、食、舞台、アートなどへの興味が強く、週末には何かしらのインプットを求めて各地を飛び回る日々。「ビジネスにおいて最も重要なものは解像度であり、高解像度なインプットこそ、高解像度なアウトプットを生む」ということを信じて人生を過ごす。

サマリーポケット
▶︎ https://pocket.sumally.com/

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