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渋谷慶一郎が偏愛する、「プラダ」のオーダースーツ
私が偏愛する名作

渋谷慶一郎が偏愛する、「プラダ」のオーダースーツ

自由とインスピレーションが得られる「メイド・トゥ・メジャー」

著名人が愛用するモノを紹介する連載7回目は、先鋭的な多岐にわたる音楽表現で時代を牽引する音楽家、渋谷慶一郎さんが登場。現在はパリと東京に拠点を置く渋谷さんに、2024年にプラダのテーラーメイドサービスで仕立てたスーツについて、またパリと東京の暮らしについて聞いた。

Text by Shiyo Yamashita
Photographs by Takao Ohta
Hair & Makeup by Hayate

パリでのオーダーを決めたきっかけはスタッフの一言

2013年に自身初のオペラ作品「THE END」をシャトレ座で行ったことをきっかけにパリでの活動を始め、拠点を構えた渋谷慶一郎さん。コロナ禍には一時パリを離れることとなったが、2023年からは東京とパリの2拠点生活を再開している。

2022年にグッチのショートフィルム「KAGUYA BY GUCCI」の音楽を担当したり、2023年にプラダが東京で開催したカルチャーイベント「PRADA MODE TOKYO」に参加したりと、ファッション界とのつながりも深い渋谷さん。服は東京よりもパリで購入することが多いという。

「何でも海外のほうがいいと言うつもりはないけれど、スタッフの自主性とか任されている範囲が、日本よりも広い気がします。パリのサントノーレのプラダはよく行くのですが、たとえば『コンサートの衣装にこれとこれが欲しい』とWhatsAppで連絡すると、『ジャケットはデンマークから、パンツはベルギーから取り寄せた!』とか言って数日で揃えてくれたりする。あと、僕なんてたくさん買っている客ではないのに、誕生日のディナーに招待してくれたり、去年はパリでも開かれたアート・バーゼル(スイスのバーゼルで毎年開催される世界最大級のアートフェア)に一緒に行こう!とアレンジしてくれたりするんです」

そう話す渋谷さん。伝統的なテーラリングの技術とコンテンポラリーなスタイルを組み合わせ、テーラーメイドのスーツ、コート、ジャケット、シャツ、パンツを仕立てることができる、プラダの特別なサービス「メイド・トゥ・メジャー」でスーツを作ることになったのは、親しくなったスタッフの一言がきっかけだった。

ステージで着ることを念頭に置いて細部までリクエスト

「プラダはそのカルチュラルな姿勢も含め、もともと好きでよく着ていたのですが、オーダーは人生初。僕は身長的に既製品で間に合うことが多いので、今までは作る必要を感じたことがなかったんです。でも、仲のいいスタッフに『もしスーツを買うのだったら、既製品に200~300ユーロ足すだけで作れるからそっちのほうがいいよ』と言われて。200~300ユーロって日本円で3万〜5万円くらいですよね。それならそのほうがいいなと思い、作ることにしました」

デザインはプラダの既製品をベースにしつつ、細かい希望を反映していくという形で決めていったそう。

背にはプラダを象徴する三角形が。「こちらからは頼んでいないけれど、『入れたほうが好きでしょ』と言われて入っていました(笑)」
ジャケットの裏地部分には刺繍で「KS」のネームが。

「ジャケットに関しては『いいな、と言っていたジャケットを基に作ればいいのでは』と提案されたので、そうしました。Vゾーンはあまり開きすぎないでなど、細かいリクエストはしたのですが。ただ、プラダのスーツのパンツは裾まで細いスタイルが多く、僕はそれがあまり好みじゃないので、ストレートにしてもらいました。パリのプラダでスーツのパンツをストレートで作ったのは、今回が初めてだったそうです」

 ステージで着ることを念頭に注文しただけに、特にこだわったのは、ピアノを弾くときに邪魔にならず、座ったときにシルエットが美しく見えること。座ると少し裾が上がるため、通常よりも裾は長めに作られている。「だから、このパンツのシルエットは、普通のプラダのスーツにはないんですよね。スタッフたちも『初めてオーダーでこの形を作ったけれど、すごくうまくいってよかった!』と言って喜んでいました」

カジュアルにも着られるようファッションのパンツスタイルを参考にしつつ、ピアノを弾くときに座ることを考慮し、裾は長めに。パリのプラダでこのパンツのフォルムをオーダーしたのは渋谷さんが初めて。
カジュアルにも着られるようファッションのパンツスタイルを参考にしつつ、ピアノを弾くときに座ることを考慮し、裾は長めに。パリのプラダでこのパンツのフォルムをオーダーしたのは渋谷さんが初めて。

スーツをオーダーしたのが9月末で、当初はパリで受け取るはずが滞在期間中には間に合わず、日本のプラダに届いたのが12月16日くらい。「12月19日に赤坂の『紀尾井ホール』で開催されたコンサート『Keiichiro Shibuya Playing PianoーLiving Room』で着るつもりだったので、結構ギリギリでした。それでも、演奏もしやすいし仕上がりには満足しています。既製品はデザイナーが考える理想形だから、それを着る面白さがある。オーダーメイドにはそれとはまったく別の面白さがあるのは発見でした」

「Keiichiro Shibuya Playing PianoーLiving Room」での演奏の様子。今回のオーダースーツを着用した。Photo by Yutaro Yamaguchi
「Keiichiro Shibuya Playing PianoーLiving Room」での演奏の様子。今回のオーダースーツを着用した。Photo by Yutaro Yamaguchi

常に持ち続ける、カテゴライズされることへの忌避感

「ステージで着る服にはテンションを上げるような役割もある」と話す渋谷さんは、ステージや撮影で着る衣装を、スタイリストに任せるのではなく、すべて自身で選んでいる。

「自分で着る服くらい自分で選びたい。イメージを他人に作られているような人がやっている音楽を聴きたいかというと、そうは思わないから。僕はアートもファッションも並列に楽しんでいますが、自分で実際に買わないとわからないことはあります。ただ、アートは家の中に飾っておける数に限度があるのに対して、服は消費するからちょうどいいんです。僕はコンサートで着たり、取材で着たりした服を、普段着としても使います」

とはいえ、ステージでの衣装は「若いスタイリストと組んでみても面白いかも」とも。「僕は若い人のエネルギーを吸って生きているので(笑)。これはスタイリングだけじゃないけれど、若い人は僕が何者かということを深く理解していないからいい。“このほうがかっこいいから”ということだけで判断するから、一緒にやっていて面白いんです。巨匠っぽくしましょうとか、何か規定コースに乗っていくのはあまり好きではないです。全然違う方向のことをやっている人が僕と協働するときに、どういう化学反応が起きるかに興味があります」

「カテゴライズされること、決めつけられることに対しての忌避感は常にあります。性別なども含めて、区別みたいなものは全体的にどうでもいい。だから、クラシックなのですか?とか電子音楽なのですか?と聞かれるのも好きじゃないんです。あと、“これは成功している男の持ち物”みたいな、高いライターとか時計とか、そういうものにも昔から興味がわかなくて。一回実験的に、高いお金を出してロレックスを買ったことがあるんです。そうしたらパリでコンサートに出ているときに、楽屋からまんまと盗まれてしまって、やっぱり向いていないな、と思いましたね(笑)。そうそう、パリにいると『盗まれない』ということは結構大事です。たとえばセリーヌって、ジャケットの内ポケットにボタンが付いていなくて。だから、地下鉄とかに乗るときに財布を入れてはいけない。パッと取られる可能性がありますから。一方でバレンシアガには内ポケットのボタンが付いている。これはスーツでもジャケットでも、ストリートウェアとして解釈するというコンセプトと理に適っていますね」

服も音楽もひとつのスタイルには縛られない

「服には社会的記号性みたいな部分もある」という渋谷さんは、「いつも2つの間で揺れ動いている。そろそろ歳だからジャケットとかスーツを着るべきと思うときもあるし、他方ではリック・オウエンスのような実験的なデザイナーの服を着たくなるときもあります。それは音楽でも一緒で、オーケストラとかピアノとかのオーセンティックなものを長くやると、もう当分やりたくない! 電子音楽がやりたい!となる。どちらかだけではだめなんです」という。

「ピアノでもシンセサイザーでも作曲しますが、出てくる音楽が違いますね。どちらも即興的に弾いて始まるけれど、シンセサイザーのほうが余白を残しながら作れる感じはあります。先日放映されたNHKスペシャルの大型ドキュメンタリーシリーズ『臨界世界-ON THE EDGE-』の音楽を作曲したのですが、“何分の曲を作るかを決めて、シンセサイザーで何も考えずに即興演奏して録音し、そこにヴァイオリンやヴィオラ、チェロなど、人が弾く楽器の音だけ足していく”という、新しい作り方を発見しました。今回は1カ月で14曲分の作曲、レコーディング、ミックス、マスタリングまで全部終わらせなくちゃいけなかったのですが、それぞれの楽器から作曲していくと膨大な時間がかかってしまい、とても間に合わなかった。同時にこのやり方だと自分のストリングスの書き方の癖からも自由になれたと思います」

アナログ・シンセサイザーの「NINA」。パリと東京を行き来するときにも、手持ちのスーツケースの中にそれだけ入れて持ち歩いているという。

仕事に合わせて行き来する、パリと東京での2拠点生活

さて、渋谷さんがパリとの関係を築くようになってから十数年がたつ。そもそも、なぜパリだったのかと尋ねると、「パリに行きたいと思ったことはなかったし、パリへの憧れみたいなものは全然持っていなかった」という。

「ただ、2012年に初音ミクのボーカロイド・オペラ『THE END』を作っているときに、なぜか直感的に『これはパリで成功させるんだ』と思い込み、毎日スタジオに泊まり込んで作っていたんです。そうしたら、翌年のシャトレ座でのパリ公演が本当に実現して大成功しました。そこからいろいろな縁ができて仕事がつながっていったから、今もパリにいます。パリと日本ではしている仕事がそもそも別で、日本ではどんなプロジェクトでも長くて1年単位だから、大きなプロジェクトはなかなか難しくて。パリでは2,3年かけて新しい作品を作るようなプロジェクトを、日本ではもう少し短いタームの仕事をやる、という感じです。でも、それも本当に自然とそうなっていった感じですね」

今はパリと東京で過ごす時間はだいたい半々くらい。「東京と違ってパリではアーティストと会うときも間に人を挟まないことが多いから気楽」というが、パリを選んだのは仕事だけが理由ではなさそうだ。

「僕は渋谷生まれだから、海外でどんな街に行っても“うわ、すごい都会だな”と思うことはほとんどないけれど、パリに初めて行ったときは、東京以上の都会だなと思いました。街はゴミだらけで汚いし、おしゃれな人なんてファッション業界の人くらいで、みんな他人のことなんか気にしていないんです。世の中には誰にどう見られるかばかり気にする人っているじゃないですか? 東京にもすごく多い。僕はそんな価値観とか人が大嫌いだし、そういう人は出身地とかおしゃれかどうかに関係なく田舎者だなと思うんです(笑)。パリで会う人たちは基本的に自分にしか興味がないし、自分のことについてすごく考えている。そうして自由に生きている人たちがたくさんいる街は過ごしやすいし、そういう人たちとは友達になりやすい。だから、東京では地元の、同じような中学や高校に通っていた人がやっている飲食店によく行きますよ。全然おしゃれじゃないけれど美味いから(笑)」

渋谷さんが多くの時間を過ごす、パリのスタジオ。

美しさと猥雑さのバランスが取れた都会に暮らしたい

常に仕事に関わることを考えているから、東京でもパリでもスタジオ空間へのこだわりは強いが、プライベート空間には関心があまりないと語る渋谷さん。しかし、自宅を建てることについての興味はあるという。「妹島和世さんや石上純也くんなどプライベートでも仲が良くて、仕事でもコラボレーションしている建築家もいるけれど、自分の家を建てたことはない。でも、もし僕が家を建てるとしたら、自分で全部決めたくなってしまいそう(笑)」と話す。一方で、「家を見るのは好きだから、『R100 tokyo』はよくチェックしています。音楽も制作できるような広い家だと、築年数の古い物件のほうがいいものが多いですよね」とも。

「パリだと100年を超えた物件の家賃のほうが、新しい物件よりも高いんです。最初から100年持たせるつもりで造っている。東京にもそういう物件が増えるといいなと思います。日本って歳をとった人のことをすぐジジイとかババアとか揶揄するでしょ。若い子は若いというだけでちやほやされる。それと似ていますよね。都市開発も同じで、開発して以前より良くなっていることってほとんどない。都市にはきれいな部分と蓄積から生まれたワイルドな部分が両方あるべきで、猥雑さのなくなった街に成熟はないと思います」

「この先、仕事次第でどこに暮らすかはわからない」という渋谷さんだが、「リゾートに行っても2日で飽きてしまう(笑)」と話す。やはり彼の居場所は都会なのだ。

「都会には興味があることがいろいろあるから、リゾートみたいに何にもないところでは長い時間は過ごせません。あとは部屋に鍵盤がついているものがないと落ち着かない。音楽を作っているときが、僕は一番リラックスしています」

Information

『ATAK027 ANDROID OPERA MIRROR』渋谷慶一郎
2025年2月21日(金)にリリースされた、アンドロイド・オペラ初のアルバム。AIを搭載したヒューマノイドロボットが最も人間中心主義的な芸術様式ともいえるオペラと融合し、オーケストラと共に演奏する舞台作品、アンドロイド・オペラはこれまでにオーストラリア、日本、ドイツ、中東、パリなど世界中で上演。本作はオーディオワークとしてオーケストラアレンジ、ピアノ、電子音、ヴォーカルに至るまで新たに再構成されたものとなる。
▶︎https://linkco.re/67huCCrD

profile

渋谷慶一郎

1973年東京都渋谷区生まれ。東京藝術大学作曲科卒業。2002年に音楽レーベル「ATAK」を設立。代表作に初音ミク主演によるボーカロイド・オペラ『THE END』(2012年)、アンドロイド・オペラ®︎『Scary Beauty』(2018年)など。映画音楽も多数手掛けており、2020年には『ミッドナイトスワン』(内田英治監督)で複数の賞を受賞している。2021年には新国立劇場の委嘱新制作にてオペラ作品『Super Angels』を作曲。2022年にドバイ万博でアンドロイド・オペラ『MIRROR』のプロトタイプを発表。2023年にパリ・シャトレ座で同作の完全版を初演、2024年に恵比寿ガーデンホールにて凱旋公演。2025年にはNHKスペシャル『臨界世界-ON THE EDGE-』のメインテーマを含む音楽を担当。作品を通して人間とテクノロジー、生と死の境界領域を問いかけている。
▶︎http://atak.jp/

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