お問合せ

03-6756-0100

営業時間 10:00〜18:00(火水祝定休)

  1. R100 TOKYO
  2. Curiosity
  3. デザイン思考
  4. 素材が紡ぐ空気感と、余白がつくる居場所――YLANG YLANGが目指す日常に寄り添う住まい
Curiosity| 人生を豊かにするモノやコトを紹介するウェブマガジン。
素材が紡ぐ空気感と、余白がつくる居場所――YLANG YLANGが目指す日常に寄り添う住まい
Focus on Designer

素材が紡ぐ空気感と、余白がつくる居場所――YLANG YLANGが目指す日常に寄り添う住まい

美意識、質、中庸から導かれる、時を超えて愛される空間

住宅や商業空間を中心に、素材の表情と空気感にこだわった設計を手掛ける建築設計事務所、YLANG YLANG(イランイラン)。代表の藤川祐二郎と金 瑛実は、長く愛される空間をつくるために、美意識を形や空気として表現する「美渋(bijuu)」という概念を大切にしていると語る。R100 tokyoと取り組んだ「藤和目黒ホームズ」のリノベーションを通して、住み継がれる住まいの豊かさについて話を聞いた。

Text by Yasuko Murata
Photographs by Takuya Furusue

「長く愛される空間づくり」という思想の原点

名古屋を拠点に活動する建築設計事務所、YLANG YLANG。代表の藤川祐二郎と金 瑛実は、2010年に会社を設立した。商業空間を中心に手掛ける設計事務所で働いていた藤川と金は、3〜4年ごとに改装が繰り返され、早すぎるサイクルで消費されていくデザインだけが正解ではなく、長く愛される空間をつくることもできるのではないかという問いと共に独立した。

「独立後に自邸として中古マンションのリノベーションを手掛けたことで、動線の考え方や仕上げの素材の選び方、バランスの配分など、居心地のよい空間をつくることを意識し、暮らしのベースを整えることの大切さを痛感しました」と振り返る藤川。
続けて金も「住宅は家族が数十年という長い年月を過ごす空間。自分たちで設計を手掛け、驚くほど居心地のよい住まいが完成したことで、飽きのこない、長く愛される空間は実現できる、という手応えを感じました」と話す。

その後、戸建住宅やマンションリノベーションの設計を手掛けていく中で、その想いはさらに熟成されて明確になり、長く愛される空間をつくるという、彼らの設計思想の根幹が形づくられていった。

普遍性を導く、YLANG YLANG が大切にする3つの要素

YLANG YLANGが「時代を超えて愛される空間」をつくるために、大切にしている要素は3つある。1つ目が「美意識を形や空気として表現すること」、2つ目が「絶対的に質が高いこと」、3つ目が「中庸であること」と藤川は語る。

1つ目の「美意識を形や空気として表現すること」について、彼らは「美渋(bijuu)」という言葉を掲げ、それを形にしていくことにトライしていると話す。
「美渋は『美しい』と『渋い』を組み合わせた造語で、私たちがつくった言葉です。設計を通してこの概念を形として表現していくことで、将来的に残っていく建物や空間がつくれるという仮説を立てて活動しています」
そう話す藤川は、この「美渋」を茶道の「侘(わび)」に例えて説明する。千利休が美意識を形にしたことで、400年以上を経た現在に「侘」が受け継がれているように、「美渋」も概念を形や空気として表現を繰り返していくことで、長く愛される空間として残っていくのではないか。YLANG YLANGは設計という活動を通して、それを明らかにするための実験を繰り返しているのだ。

2つ目の「絶対的に質が高いこと」は、流行に左右されずに本物の素材を使い、機能とデザインのバランスの両立などを意図している。本物の素材には、日本で暮らす人たちが共通して感じる安心感や心地よさがあるという。
「人間は自然の一部であるというアニミズム的な発想をベースとして、素材を扱うときは、自然との有機的な関係性や畏敬の念を意識して表現していきたいと考えています。また、機能的な住まいとは、間取り、動線、収納の場所や量などが暮らし方にフィットしていることです。デザイン性を追求しながら機能性への十分な考慮も大切にしています」と金は語る。

3つ目の「中庸であること」とは、多義的でいろいろな捉え方ができ、◯◯風といったように印象が固定されることなく、住む人のライフステージや気持ちの変化を許容できる住まいであることと言い換えられる。
「住宅は時間の経過によって、住む人の年齢はもちろん、家族構成、ライフスタイル、感性なども変化します。また、感情は日々目まぐるしく変わり、嬉しい日も悲しい日もある。建築に強いメッセージ性があるとさまざまな感情と共存するのは難しくなります。デザインをやり過ぎず、主張し過ぎることなく、どんな感情も受け入れられる中庸さを大切にしたい。これら3つの要素を体現することが、私たちが目指す長く愛される普遍的な空間をつくることにつながると考えています」と藤川。

これら3つの要素は、YLANG YLANGが手掛けるすべてのプロジェクトにおいて、設計思想の軸になっている。あえて具体的な例を挙げるとすれば「中川政七商店」の店舗デザインには、その要素が色濃く反映されている。「中川政七商店」は奈良を拠点として「日本の工芸を元気にする!」というビジョンのもと、日本全国の産地から人の手によって生み出される工芸を扱うブランド。各地の店舗の設計では、吉野のヒノキや神社仏閣をイメージする銅、漆喰などを使い、白銀比という奈良の伝統的な比率を取り入れた空間づくりを行っている。旗艦店では、関東なら益子焼や江戸切子、九州なら波佐見焼など、地域ごとの風土を内装に反映し、その土地ならではの世界観をつくり出している。

「中川政七商店」ニュウマン高輪店。栃木県の大谷石の壁面、益子焼の陶片を削り出した腰壁などを取り入れ、関東の工芸の魅力を伝える空間に。

素材の製法や技術を知り、新たなアイデアが生まれる

YLANG YLANGにとって、素材はデザインの重要なパーツであり、設計思想の軸の一つ「絶対的に質が高いこと」の実現に不可欠なものだ。しかし、彼らにとって素材は目的ではなく手段である。
「素材よりも空気感そのものを重視しています。その空気感を整えるために素材は欠かせません。レイアウトをメロディに例えると、素材は歌詞、高さはコード。どれか一つでも噛み合っていないとよい音楽にならない。空間も同じように、素材が空気感に溶け込むことが大切なんです」と藤川は話す。

素材への理解を深めるため、産地に足を運び、つくり手を訪ねることも多い。自分たちの目で素材の製法や技術を確かめることで、常に新しい表現の可能性を探っている。
「つくり手にとっては当たり前のことでも、私たちが見ると、すごい技術だと気づくことが多く、工程を知ることで素材への向き合い方が深くなるように思います。技術的なことがわかると、素材の使い方にも新たな工夫やアイデアが生まれる。ときには職人さんと協業して、素材を一からつくってもらうこともあります」という金。

実際に、瀬戸のタイルメーカーの工場を見学して、製法や工程を学ぶことで、焼成温度によって微妙に色が変化することを知り、手掛けていた個人邸のイメージに合わせて、オリジナルのタイルをつくったこともある。そのタイルは、後に商品化されてタイルメーカーのカタログに掲載されている。ほかにも、提灯メーカーと協業して照明をつくったり、外壁用の耐火レンガを内装に使ったりと、素材の可能性を広げる試みを続けている。

柔らかなピンクと土のぬくもりがつくる空気感を求めて、個人邸に使うためにオリジナルでつくったタイル。後に平田タイルによって製品化された。(写真:W house)

飽きることなく、多彩な居場所を発見できる住まい

YLANG YLANGが今回の「藤和目黒ホームズ」のリノベーションにおいて、R100 tokyoとともに検討したコンセプトは、西側の豊かな緑を空間に取り込むことが起点となっている。西側に開けたLDKを広く取り、アールが印象的なタイルで仕上げた壁で、奥行き感を演出し、中央にある個室へとつなげている。

LDKから個室へ向かう動線と奥行きをアールのデザインで柔らかく演出。
LDKに面した西側の窓からは、近隣の寺院などの豊かな緑を望む。

「回遊性のある間取りにすることを重視しました。どの方向からも回遊できることで、飽きのこない空間にしています。また住む人によっていろいろな捉え方ができる余白をたくさん設けています。具体的には、動線となる通路のライブラリーや、LDKの壁に沿って造作したベンチなどです。フレキシブルにさまざまな過ごし方や楽しみ方が発見できる、豊かな居場所をちりばめています」と語る藤川。
間取りや回遊性の工夫、さまざまな余白により生まれる居場所と共に、周辺環境を効果的に取り入れ、季節や時間の変化で多様な表情を見せる空間は、先に記した上質で中庸であること、そして「美渋」が表現されている。

個室へ向かう通路にはライブラリーを設け、居場所の一つに。
LDKの長辺の壁に沿ってベンチを造作。座る場所としてはもちろん、棚としてディスプレーも楽しめる。

南西向きで3方が角部屋のため、全体的に自然光に満たされ、とても明るい印象だが、玄関や中央の個室など、一部の空間には自然光が入らないため、木とガラスの建具で採光を確保し、閉塞感をもたせない空間に仕上げていることも特徴だ。

木とガラスで造作した室内窓で、玄関に光と気配を伝える。
窓がない中央の個室には、ガラスの建具で柔らかく自然光を取り込んでいる。

また、広さのあるLDKではテクスチャーが異なる素材を組み合わせ、メリハリのある空間をつくり上げている。
「床や造作の棚などに使ったオークは、窓から見える緑や光との相性を考慮して、薄い白で塗装したものを使っています。取っ手にはオークにさりげなく溶け込む真鍮を。壁のタイルはザラザラとしたラフなテイストのものを選んでいますが、シンプルな貼り方で整然とした印象になるようにバランスを意識しました」と金が説明する。

LDKの壁には素材感のあるタイルを採用。縦に配置し、目地を真っ直ぐに通したシンプルな貼り方で、整然とした印象に。
LDKのタイルと対面する壁にはオークを取り入れ、空間に温かみを加えている。
オークで造作した収納扉には、上品な真鍮の取っ手を組み合わせた。

「アールのデザインも作為的な見せ方ではなく、奥行き感や連続性を生むなど、必然性がある箇所に取り入れています」。そう話す藤川と金の言葉どおり、素材の一つひとつやディテールまで、美意識が形や空気として宿っている。また、質の高さと中庸さを徹底的に追求するその思想が、この住まいを普遍的で飽きのこない、長く愛される空間へと導いている。

キッチンの作業台。角を出したくない場所にアールのデザインを効果的に取り入れている。
キッチン収納もオークと真鍮の組み合わせで統一感をもたせている。
居場所の空気感を際立たせるため、さまざまなデザインの照明をセレクト。LDKのベンチには吹きガラスと真鍮のコントラストが利いた壁付照明で、味わいのある陰影を描く。
トイレの照明にもこだわり、真鍮を使ったデザインを選んでいる。

今回のリノベーションでも、YLANG YLANGは「時代を超えて愛される空間」を目指し、周辺環境や間取り、素材、空間の関係性を深く掘り下げる設計を実践した。彼らの設計思想から生まれた空間は、住む人のどんな日常にも寄り添い続ける。晴れの日も雨の日もこの住まいで育まれる豊かさが、長い年月をかけてそれを証明していくことだろう。

※白銀比:1対1.414となる比率。日本では古くから親しまれ、法隆寺金堂や五重塔といった建築物にも見られる。

profile

YLANG YLANG

藤川 祐二郎
1979年兵庫県生まれ。2級建築士。
金 瑛実
1981年愛知県生まれ。2級建築士。2019年愛知工業大学工学部建築学科非常勤講師。

2010年YLANG YLANG設立。受賞歴/2017年スペースアワード入賞(はじまるカフェほほえみ)、2018年JCD Design Award 2018銀賞(青藍 丸万)。2021年日本空間デザイン賞 ロングリスト(弁才天 四日市店)。2022年日本空間デザイン賞 ロングリスト(弁才天 堂島店)。2025年日本空間デザイン賞 ショートリスト(中川政七商店 福岡天神店)。

▶︎https://ylang-ylang.org/

R100 TOKYO THE CLUBに会員登録
THE CLUB

R100 TOKYO THE CLUB

厳選された情報を会員様のみに配信

THE CLUB(入会費・年会費無料)

自社分譲物件をはじめ厳選された100㎡超の物件情報や、先行案内会、イベントご招待など、会員様限定でお届けします。

人生を豊かにするモノやコトを紹介するウェブマガジン。