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遠山正道×鈴木芳雄 連載「今日もアートの話をしよう」vol.23 「Study:大阪関西国際芸術祭 2023」
今日もアートの話をしよう

遠山正道×鈴木芳雄 連載「今日もアートの話をしよう」vol.23 「Study:大阪関西国際芸術祭 2023」

「アート×ヒト×社会の関係をStudyする芸術祭」で出合った
未来像と家族像、その新しいカタチ

「Soup Stock Tokyo」を立ち上げた実業家であり、アーティストとしても活動する遠山正道氏と、美術ジャーナリスト・編集者であり、長年雑誌『BRUTUS』で副編集長を務め「フクヘン。」の愛称を持つ鈴木芳雄氏が、アートや旅、本や生活について語る「今日もアートの話をしよう」。23回目は、グランフロント大阪をはじめ大阪市の9会場で開催中の「Study:大阪関西国際芸術祭 2023」へ。“2025年の万博の年に誕生する大阪関西国際芸術祭の、プレイベントとなる集合知型アート体験”と銘打たれた大規模展で見つけたものは? グランフロント大阪の展示に参画している作家、キュレーターの丹原健翔氏、アーティストのヌケメ氏をゲストに迎えて、お話をうかがった。

Edit & Text by Hitori Publishing
Photographs by Kaori Yamane , Eikoh Tanaka
グランフロント大阪北館1階ナレッジプラザで入場客を出迎える、スカーフ600枚をつなぎ合わせた大作は《inconsistent surface》鬼頭健吾作 2011年。もともとは、東京・国立新美術館のアーティストファイル展に出品するために制作した床置きの作品を、今回は天井から吊り下げるかたちで発表。

キュレーションという立場でひとつの作品をつくる

ウェアラブルロボットと人のインタラクション(相互作用性)について研究を重ねつつ作品を発表している作家、きゅんくんの《形骸化されたロボットアーム》2023年。人類がこの世からいなくなった後に遺った「アーク」(方舟)に乗せられたままの物語に目を向けさせるという「無人のアーク」のコンセプトのひとつを象徴的に表している。左より、丹原健翔氏、遠山正道氏、鈴木芳雄氏、ヌケメ氏。

遠山正道(以下、遠山):今回は、「大阪関西国際芸術祭」へ来ています。私も出品アーティストとして参加しているんです。以前から知っていた総合プロデューサーの鈴木大輔さんから誘っていただいて、グランフロント大阪内のレストランにターポリン印刷の作品を出品しています。

丹原健翔(以下、丹原):僕もその鈴木大輔さんから、お声がけいただきました。僕の場合はまったく存じ上げなかったんですが、展覧会運営やアーティストマネジメントを手がける僕の会社(注:アマトリウム株式会社)が2022年3月に企画・実施した、NFTアートフェア「Meta Fair #01」を観ていただいたそうなんです。

鈴木芳雄(以下、鈴木):でも、この「無人のアーク」はNFTアートというわけではないし、まったく違った取り組みなんですね。そして、丹原さんとヌケメさんは、作家でなくキュレーションという立場。

丹原:当初のリクエストは「またNFTで何かを」ということだったんですが、展覧会の規模や展示会場の条件や可能性を聞いていたら、キュレーターとして、自分の好きなアーティストの皆さんとひとつの世界観をつくりたくなりました。昨年の夏くらいにヌケメさんにもコ・キュレーター(co-curator)として入っていただいて、一緒に設計を行いました。

うめきたSHIPホールで開催中の「無人のアーク」の展示風景。撮影:松村康平
会場で配布されている「無人のアーク」のフライヤーも丹原さんとヌケメさんのディレクションによる。裏面には、今回参加した6名のアーティストである菅野歩美、スクリプカリウ落合安奈、高田冬彦、Michael Rikio Ming Hee Ho、山形一生(以上、映像作品を出品)、きゅんくん(インスタレーションを出品)の作品解説も。フライヤーの写真、デザインは竹久直樹。

ヌケメ:丹原くんとは仕事はしたことはなかったけれど、ずっと遊び仲間、飲み仲間ではあったんです。今回は、グラス片手に大阪関西国際芸術祭の話を聴いているうちに、いろいろとアイデアやイメージが湧いたので、そういう会話を繰り返していたら……。

丹原:むしろ一緒に企画するのを手伝ってほしいと思い、キュレーターとしてぜひ入ってくださいと。何より、僕がずっと好きなアーティストのひとりでしたから。

相当に攻めてる「舞台演出」と賛同する作家たち

遠山:作家がキュレーションをやっていると、自分たちもなにかつくりたくなったりしないのかな?

丹原:本来なら、作家の作品に侵食しないような構成を心がけるのがキュレーターのあり方なんでしょうけど。そもそもホワイトキューブの空間でなく、もともとはイベントスペースなので、壁の使い方ひとつにしても制約がある。だから、展示会場の世界観からして、つくり込む必要がありました。

ヌケメ:そのあたりは、丹原くんがある方々からも突っ込まれていたところですが、アーティストたちの作品を用いながら、ひとつの大きなインスタレーション作品をつくり上げてしまっている、とも言えなくもないのは確かです。

丹原:まさにそうだと思います。従来のキュレーションの定義からすると、相当に攻めてます。でも、だからこそ参加するよと言ってくれたのが、この6名のアーティストなんです。これはゲーム筐体に映し出された4つの映像作品のひとつで、スクリプカリウ落合安奈さんの作品。2021年の「TERRADA ART AWARD 2021 ファイナリスト展」に出品されていた作品《骨を、うめる – one’s final home》を再編集されたものです。

会場では、80年代のアーケードゲームの筺体(きょうたい)4台を使用し、4人の作家の映像作品をリフレインで自動再生。スクリプカリウ落合安奈《骨を、うめる - one's final home》 2023年。

遠山:うめきたSHIPホールを文字通り「アーク」(方舟)に見立てた空間の中に4台のゲーム機筺体が置かれていて、そのモニターを使って作品を流し続けているんですね。キュレーションしつつディレクションしていて、世界観がきちんと成立してて面白い。こうした作品を、キュレーションする側の視線でも、ずっと追っていたわけですか?

丹原:そうですね。好きな作家たちであり、好きな作品たちでした。

遠山:アートって、一般の人たちから見ると、ときにとっつきにくいものだから。ふたりのキュレーションという名の世界観づくりが、すごくいい媒介になっている気がする。

丹原:実際のところ、作家とキュレーターを両立させようとする者は結局中途半端、という批判も2019年くらいまではありました。でも、案外とそういう人多いんですよ。同世代だと布施琳太郎さんとかそうだし。

鈴木:確かにそうですね。2022年の「惑星ザムザ」(小高製本工業株式会社 跡地)もそうだったし、作家活動もさることながら、かなりの数のキュレーションをこなしている印象です。

丹原:他にも僕がリスペクトしている、『美術手帖』で「2020年代を切り開くニューカマー・アーティスト100」に選ばれた吉田山さんも作家活動と展示活動もしています。

鈴木:2010年代に森村泰昌さんが横浜トリエンナーレのアーティスティックディレクターを務めたり。直島を手がけて、金沢21世紀美術館館長を歴任された秋元雄史さんって、作家になる勉強をした人だけど、美術館運営の一人者になったりね。僕らの分野でいえば、編集者とライターを行き来する人とか。漫画家なんだけど編集者のセンスを持っている人みたいなことかな。

バンドマン製のBGMで未来の廃墟像が完成

遠山:筺体もそうだし、朽ちたロボットアームを表現したスクラップも、やはり真っ黒に塗り込む必要があったんだ?

ヌケメ:筺体はゲーム機のメーカーさんへの気遣いというのもあるにはあるんですが(笑)、やっぱりオリジナルのロゴやデザインがそのままだと視覚的なノイズが多すぎるんです。

丹原:ヌケメさんとふたりで僕の都内のスタジオや大阪の共同スタジオに籠もってずっと制作してました。黒塗装のスプレーだけでは飽き足らず、タールの黒が欲しくて木を燃やしたり。作家活動と比べものにならないくらい大変でしたよ。

菅野歩美《アトビアで盆踊り》2022年。「菅野さんはまだ大学を卒業してまもない作家さん。これは、奄美大島に移住した妹さんの話だけを聞きながら、その土地を3Dで再現してみせるという手法による映像作品」(丹原さん)。
高田冬彦《新しい性器のためのエクササイズ》2019年。「ジェンダーの流動性、セクシュアリティを二分論で語らないことの意義を考える時代。そんな折に、この作品自体が、観る人が『新しい性器』を考えるためのエクササイズ(練習)でもあるのだ、とタイトルは示唆していると思います」(丹原さん)。
山形一生《無題》2019年。「大型展では初めての出品となった作品。一見無関係にも見える事象たちに通ずる俯瞰した眼差しが、観る人に悪夢のようなCGの世界とともに目眩のような感覚を誘発させる」(丹原さん)。

ヌケメ:作家が俳優ならば、僕らはつくり込みすぎる舞台演出みたいなものですね。

鈴木:作品の音声は、ヘッドフォンなしで筺体のスピーカーから空間にそのまま流されているんですね。だけど、ちゃんと聞こえる……。

ヌケメ:同じ空間に4台もそれぞれ違う音を出す筺体があるので、音声が互いに干渉するはずなんだけど、会場に特殊なBGMを流すことで、判然としないようで、実は各作品の映像と音声にちゃんと没入できる空間を実現できました。喫茶店のBGMと同じ論理なんです。隣の音は聞こえないけど、目の前の会話には集中できるという。

遠山:ヘッドフォンなしでは、普通絶対ムリだもんね。

鈴木:未来に打ち捨てられたアーク(方舟)にある筺体だから、ヘッドフォンがぶら下がってたら、世界観が違っちゃうというわけか。

丹原:まさに、おっしゃるとおりです。ちなみに、僕らが「サウンドカーテン」と名付けたこのBGMはヌケメさんがシンセサイザーでつくってるんですよ。

ヌケメ:ドトールの換気扇みたいな音がいいかな、と。

遠山:ヌケメさんはもともと、音の人なのかな。

ヌケメ:元々はファッションの人間で、ブランドも持っているんですけど。「ヌケメバンド」というバンドもずっとやっています。

丹原:アートコレクターの宮津大輔さんも「ヌケメバンド」のファンなんですよ。

鈴木:それは一回聴きに行かなきゃ。これ、ゲーム機のコイン投入口は残してあるんだ。

丹原:それは投げ銭してもらおうかなと。半分本気で、半分冗談です。

マイケル・ホー《I don’t want to go, but maybe it’s for the better》2023年。「バーバラ・クルーガーらに師事した影響を強く感じさせる、シニカルな言葉や文字を取り込む作風が特徴的な米国出身の作家。日が暮れてから建物外の広場からこの会場を仰ぎ見ると窓越しにこの作品の光が見えて、めちゃくちゃ映えます」(ヌケメさん)。

 

――丹原氏、ヌケメ氏の手がけた展示「無人のアーク」を堪能した鈴木氏、遠山氏は、次なる展示会場、グランフロント大阪・南館8階のレストラン「ボンカリテ」へ。ここには遠山氏の作品が展示されている。丹原氏、ヌケメ氏にも同行いただいた。

 

母親が子を想う気持ちを託した作品

遠山正道《よく噛んでね たくさん食べなさい 元気?》2023年。グランフロント大阪南館内のレストラン「ボンカリテ」にて。「大阪関西国際芸術祭」では、ほかに日比野克彦さん、大宮エリーさんも、同じく食空間を舞台とし新作アートを出品。

遠山:というわけで、本日の二会場目は「無人のアーク」とは全然違う世界観。こちらはフレンチのシェフが経営するしゃぶしゃぶのレストランです。皆さん、ようこそ。私の作品の舞台へ。

丹原:うわ。なんか凄い。思わず、口元が緩んじゃう感じ。

ヌケメ:いきなりハグされる感じですね。

鈴木:遠山さんのお母様のことがすぐに思い出されるような作品ですね。私も寄稿した、さまざまな方の思い出の本を紹介した『本―TAKEO PAPER SHOW〈2021〉』(平凡社)に寄せられた遠山さんの文を思い出しましたよ。遠山さんにとっての「母の味」であるお手製のフレンチドレッシングのことや、そのレシピの項がひときわ使い込まれ汚れていた、辰巳浜子さんが昭和35年に書かれたレシピブック『手しおにかけた私の料理』(婦人之友社)について触れられていました。お母様が遠山家のお子様方に寄せた愛情が伝わってきました。

遠山:そうそう。私たち子どもにふるまうばかりで、今考えると本人はちゃんと食べていたのかな。そういう母親でした。

鈴木:遠山さんは商社マン時代から、ニューヨークなど海外でも絵画の個展など行っていたんですよね。

遠山:そうですね。「Soup Stock Tokyo」を始めてから、自身で発意したものを自分で表現して人々に受け渡す喜びを知ってしまって。そのときに「絵なんか描いてる場合じゃないぞ」と思って、事業に没頭していったんです。

鈴木:でも近年、2021年の東京ビエンナーレの出品をはじめとしてアーティスト活動も再開されたと。

遠山:はい。「大阪関西国際芸術祭」のプロデューサー鈴木大輔さんにも、ビエンナーレの出品をご覧いただいていたようで。

鈴木:これは、どういうプロセスを経て、着想されたものなんですか?

遠山:そもそも僕の作家としてのコンテクストは、やはりビジネスです。今回はお願いされた展示会場が飲食店だったから、「Soup Stock Tokyo」を始めた頃の初心も思い出しながら、取り組もうと思いました。制作の前にロケハンも兼ねて、こちらの「ボンカリテ」さんにお邪魔したんです。驚くことに、見渡す限りお客様は女性ばかり。

鈴木:しゃぶしゃぶのお店なのに、女性ばかりなんですか?

遠山:ここはやはりフレンチシェフの経営だから、しゃぶしゃぶといっても彩り豊かで野菜たっぷりのヘルシーなイメージ。

鈴木:なるほど。

遠山:大阪のど真ん中のビル最上階に、ビジネスシーンの戦闘服たるスーツに身を包んだ女性ばかりが笑顔で集うシーンは壮観ですよ。一方で、彼女たちも、実家があって、あるいはそれは遠い土地で、そこにはご両親、特にお母さんが娘の今と未来を思いながら、時折の帰りを待っている。そんな情景が目に浮かんだんです。

鈴木:そこで出てきたものが、この「よく噛んでね たくさん食べなさい 元気?」だったわけですね。

遠山:この言葉って親子間でないと意味をなさないんですよ。こういう言葉をかけてもらえるのは、子どもの特権であって、親子でしかありえないフレーズ。

鈴木:「オフクロ、また同じこと言ってるよ」的な。

遠山:だけど、母親がいなくなって4年ほど経った今、思い返してみると、さして意味もなさそうなそれらの言葉が、つくづくありがたかったなぁと。

弛緩を促す「いきなり抱きしめる系アート」

丹原:ちなみに3行目の「元気?」だけ性格を異にしているのではないですか。つまり、日常から離れた言葉。高校生には「よく噛んでね」なんて言わないだろうし。だから、この3行のフレーズは、子どもがだんだん大人になって、親の手元から離れていく過程を表してもいるのかな。

ヌケメ:うんうん、確かにそうかも。子が親から、どんどん離れていってますよね。

遠山:鑑賞者の皆さんは、まず親と子の関係だと気がついて、そしてこの両者が今は離れたところにいると理解する。そこで、自身の環境や状況に引きつけて、親に対して何らかのアクションを起こそうと思い立ってくれたらと。

鈴木:かなり長い時間をかけて、考えられたアイデアだったのですか?

遠山:いや。わりとすうっと出てきたものだったと思います。頑張る娘さんと故郷のお母様とのテレパシー。レストランにお邪魔してから、イメージはそれで一貫してましたから。いつも使っているノートに、いつも使っているペンで書いて、それをiPhoneで撮影。自分の影を避けて、少し右上がりの斜めになっているの、わかりますかね。

展示期間にレストランを訪れたお客様に会計時に渡されるカード。「お客様が作品を観て、さらにこのカードを手にして、親御さんに手紙や電話など連絡の一本でもしようという思いに繋がってくれたら」(遠山さん)。

丹原:僕の実家の環境は、遠山さんとはだいぶ違うんです。僕が幼い頃に、医師だった父親の赴任でオーストラリアのタスマニア島に一家で移住しました。でも、父の仕事も終わって、じゃあ日本に帰ろうかというときになって、すっかりタスマニア暮らしを気に入ってしまった母が「まだここにいたい」と言いまして。それならばと、父が日本で単身赴任、母と僕ら子どもたちがタスマニアに居残り、という家庭環境になったんです。

鈴木:確かに、遠山家とはかなり違う環境ですね。

丹原:僕が高校受験手前で帰国するまで、小学校中学校の間はずっと家で弟と妹の面倒を見たり家事をする担当でした。母は、現地の学校に通っていて、勉学に集中していたので。

遠山:そうすると、この作品を観たときの丹原さんの感覚は?

丹原:「よく噛んでね たくさん食べなさい 元気?」という言葉が目に入ったけれど、僕の場合はすぐに「お母さん」には結びつかない。なんというか、お母さん的ではあるけれど、緊張感をぶっ壊してくるような優しさの塊。優しさのぶっつけてくる感が凄い突然すぎて、にやっとしちゃいました。人ってあまりに驚いたときに思わず笑うでしょう。

遠山:確かにね。アート自体に武装しているものが多いけれど。これはその対極ですね。うーん、言ってみればいきなり抱きしめる系かな。

ヌケメ:そうそう。最初に受けた印象はまさにそれ。

丹原:僕が言いたかったのは、その感じです。

鈴木:張り詰めたテンションを提供するアートが多い中で、これは真逆ですよね。弛緩を促す系、緩める系。

ヌケメ:それってまさにオカンですね。

「オカンアート」をNFT作品にするのが斬新!?

丹原:こういう言葉をかけてほしいという作家像が浮かびますよね。遠山さん自身がテンション高めのビジネスシーンでずっと戦っていらして。だから、大人になってもなお、こうした言葉をかけてもらいたい、そんな作家像。

遠山:じゃあ、私も観賞者側のひとりだね。

丹原:この手書きのビジュアルにも、そういった作家像が見え隠れしながら、ちゃんと映ってる気がする。

遠山:そうですか。そこまで分析していただいて嬉しいな。私はこれ、撮影した瞬間に「めちゃめちゃいいの、できた!」と思って。総合プロデューサーの鈴木大輔さんにすぐに送ったんです。

鈴木:作家らしい衝動ですね。ちなみに、この作品にはキャプションもクレジットも付けない?しゃぶしゃぶを食べに来たお客さんたちは、芸術祭の出品作とわかるかな。

ヌケメ:僕なら、レストランに常時飾ってあるディスプレイなのかな、くらいに感じて終わるのかも。

丹原:それくらいの距離感でも充分なのかも。思わず目を留めた、ふと気になったくらいのテンションで。

鈴木:キャプションで「大阪関西国際芸術祭出品作品」とか書いてあると、遠山さんの思う本来の佇まい、ニュアンスとは違って見えちゃうでしょうね。

遠山:でも、キャプションもなんにもなくて目の当たりにしたお客さんは、どう思うんでしょうね。いや、いまさらだけどさ(笑)。

丹原:凄い尖ったお店だな!と思う人はいるでしょうね。

ヌケメ:びっくりはしますよね。このお店の本来のディスプレイや飾ってあるビジュアルとはまったくの別物だから。「ここだけコレなんだ?」って。

丹原:この大きなプリントそのものが作品なんですか?

遠山:どうしようかなあと考えていたら(笑)、プロデューサーの鈴木さんが「売りますか?」と尋ねてきたので、このプリント一枚を前提に「じゃあ28万円」と答えておきました。

丹原:プリントのシングルエディションとして設定するんですか?たとえばNFTとかは?たとえば購入者がこれを誰か大切な人にプレゼントしながら、その意味を説明する行為ともどもNFTとして設定したら面白いかなあと。

遠山:確かに!そのアイデア、いただこうかな。

丹原:この遠山さんのお母さんの優しさ的NFT作品を、お母さんから娘さんに、あるいはその逆でもいいけど、プレゼントするという世界は面白いかもですね。

ヌケメ:オカンをNFTにするのはいいですね。オカンアートでNFTは新しいかも。遠山さんがつくってるから、厳密にはオカンアートではないけど(笑)。

丹原:いずれにしても、NFTのモチーフとしてオカンアートはありですね。

遠山:今回のために、お店側が特別メニューを組んでるんですよ。豪華なすき焼きで。私はおにぎりくらいかなーと思ったんだけど。だけどプロデューサーの鈴木さんと周辺の方々が「お母さんが、気張って、お肉買ってきたわよ」みたいなこともあるでしょうと言ってきて。じゃあ、「ありますね」と。

ヌケメ:たまに実家に帰ったときの定番で、すき焼きはありますね。気張った肉は「よく噛んでね」と言いたくなるかも(笑)。

遠山:こうなってくると、リレーショナルアートとしての楽しさも表れますよね。

鈴木:ずっと考えていたんだけど……署名はやっぱりないほうがいいかな。

丹原:これを観て、飲食ビジネスをされている遠山さんの顔が浮かんでくると、お母さん感的なものが薄れてしまうのでは。観賞者が想像する顔が、遠山さんだと。飲食ビジネス的に「たくさん食べろ」と言われてしまっているような。

ヌケメ:それはそれで、違う意味では面白いかもしれないけれど。「スープだと噛まないじゃん」とか、どんどん違うこと考えちゃいそう(笑)。それに、作者名が記されていたら、急に有名書家とか詩人の作品の感じが出てきませんか。

鈴木:確かに「にんげんだもの」ぽいね。

遠山:ぱっと目に入ってきて、インパクトがある、というだけでも充分かな。看板会社にこの壁面の寸法にぴったり合わせたターポリン印刷でつくってもらったんだけど、実はこの裏には、まったくスタイルの違う、もともとこの店に掛けられている絵が隠れてるんですよ。で、これを貼ってもらって以来、「常設になるといいなあ」と思っていたんだけど。

鈴木:「28万円で」とお返事された販売は、どこでされるんですか?

遠山:この芸術祭の期間後に、3日間アートフェアが開催されるじゃないですか。そこで販売になるようです。でも、どうしよう。ほんとにNFTにしようかな。

丹原:それと、メモの手書きの写真シリーズ、もっとやったら面白いかも。

鈴木:キュレーターの虫がまた、うずいているみたいですね。

展覧会Information

「Study:大阪関西国際芸術祭 2023」
会場:グランフロント大阪(3か所)/大阪府立中之島図書館/
THE BOLY OSAKA/船場エクセルビル/kioku手芸館たんす/
ゲストハウスとカフェと庭ココルーム・釜ヶ崎芸術大学/飛田会館
会期:2023年1月28日(土)~2月13日(月)

アートフェアInformation

「Study:大阪関西国際芸術祭/アートフェア 2023」
会場:グランフロント大阪 北館地下2階ナレッジキャピタル コングレコンベンションセンター
会期:2023年2月10日(金)〜2月12日(日)
プレビュー:2023年2月10日(金)13:00〜19:00
一般公開:2023年2月11日(土)11:00〜19:00、2月12日(日)11:00〜16:00
▶︎https://www.osaka-kansai.art/program/art-fair/

profile

丹原健翔

1992年東京生まれ。中学、高校は大阪に在住。ハーバード大学美術史学科卒業。現代におけるコミュニティの通過儀礼や儀式についてのパフォーマンスを中心にボストンで作家活動をしたのち、2017年に帰国、国内で作家・キュレーターとして活動。サイトスペシフィックな作品や展示をつくることを中心に、鑑賞者のまなざしの変化を誘発することを目的に制作する。

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ヌケメ

1986年岡山県に生まれ、2008年に服飾の専門学校であるエスモード大阪校を卒業後、上京。ファッションや広告業と平行して、テクノロジーを活用した作品制作にも意欲的に取り組んでいる。2012年には文化庁メディア芸術祭にて審査委員会推薦作品に、2014年にはYouFab Global Creative Awards 2014ファイナリストに選ばれた。

▶︎https://www.instagram.com/nukemenukeme/

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遠山正道

1962年東京生まれ。慶應義塾大学商学部卒業後、85年三菱商事株式会社入社。2000年三菱商事株式会社初の社内ベンチャーとして株式会社スマイルズを設立。08年2月MBOにて同社の100%株式を取得。現在、Soup Stock Tokyoのほか、ネクタイブランドgiraffe、セレクトリサイクルショップPASS THE BATON等を展開。NYや東京・青山などで絵の個展を開催するなど、アーティストとしても活動するほか、スマイルズも作家として芸術祭に参加、瀬戸内国際芸術祭2016では「檸檬ホテル」を出品した。18年クリエイティブ集団「PARTY」とともにアートの新事業The Chain Museumを設立。19年には新たなコミュニティ「新種のimmigrations」を立ち上げ、ヒルサイドテラスに「代官山のスタジオ」を設けた。

▶︎http://www.smiles.co.jp/
▶︎https://t-c-m.art/

profile

鈴木芳雄

1958年生まれ。慶應義塾大学法学部政治学科卒業。82年、マガジンハウス入社。ポパイ、アンアン、リラックス編集部などを経て、ブルータス副編集長を約10年間務めた。担当した特集に「奈良美智、村上隆は世界言語だ!」「杉本博司を知っていますか?」「若冲を見たか?」「国宝って何?」「緊急特集 井上雄彦」など。現在は雑誌、書籍、ウェブへの美術関連記事の執筆や編集、展覧会の企画や広報を手がけている。美術を軸にした企業戦略のコンサルティングなども。共編著に『村上隆のスーパーフラット・コレクション』『光琳ART 光琳と現代美術』『チームラボって、何者?』など。明治学院大学、愛知県立芸術大学非常勤講師。

▶︎https://twitter.com/fukuhen

Information

TOYAMA & TOHYAMA

遠山正道 Tiles : The Color
遠山由美 ふりかえり Looking back and forth

遠山正道・由美、両名による個展の同時開催。
正道は、昨今のコンセプチュアルなものではなく、1996年の初個展以来Soup Stock Tokyoの壁面などに展示してきたタイルの作品を。由美は、自身で創作した日本語と英語の両方に読める「両面文字」を用いた作品を中心とし、この10年は二拠点生活を通じてより内省的な作品も制作してきた。夫婦でもある両名が作品倉庫の移転を機に、30年近くになる制作活動の歩みをそれぞれに振り返る。

両名による個展は2001年のSaatchi&Saatchi Tokyoでの「Tohyama&Tohyama」以来となる。

会場:代官山ヒルサイドテラスD棟 地下1階&E棟ロビー
アクセス:「代官山」駅より徒歩5分
会期:2023年3月9日(木)ー3月12日(日)
時間:12:00-20:00 *最終日は18:00まで
▶︎https://artsticker.app/events/3599

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