バリアフリーで安全な住まい。予想外だった開放感
大使館やインターナショナルスクールなどが点在し、外国人居住者も多く暮らす広尾、六本木、麻布エリア。R100 TOKYOが一棟リノベーションしたマンションの最上階に住むオーナーのCさんは、購入から約1年をかけて設計と工事を行い、より自分の好みにかなう住まいに整えた。そして昨年春、田園調布の戸建てから転居。隅々まで納得のいくこの空間を心から気に入り、日々の暮らしを満喫しているという。
「数年前からマンションへ移り住むことは考えていました。以前住んでいた3階建ての家は段差が多かったので、これからのことを思い描いたとき、フラットでバリアフリーな住まいのほうがいいだろうと思っておりました。ちょうどそんなとき、こちらの物件情報を入手して内見することに。マンションというと密閉されたイメージがあったのですが、ここは最上階ということもあり、東西南北すべての面に窓がありますし、南以外の三面にバルコニーがあってとても開放的なつくりでした。そのうえ周囲の建物との距離は十分に保たれていて、目に映る公園や林の緑が美しく、たいへん気に入ってしまいました」
「ここを終の棲家とし最良の住まいとする」と心に決めたCさんは、段ボール約200箱分の生活用品を断捨離して移り住んだという。前の家のインテリアはクラシックなヨーロピアンスタイルだったが、今回はぐっとモダンな「CASUALUXE」スタイルに統一。内装、調度品、インテリアの一切はインテリアデザイナーのコマタトモコさんに任せた。
「実はまだリノベーションは継続中です。客室のクローゼットをドレッサーにしようと思っておりまして、コマタさんにご相談しているところです」というCさんの言葉からも、コマタさんに寄せる信頼の厚さがうかがわれる。
インテリアは木、麻、天然石などオーガニックな素材を多用
麻は、人間が初めて布をつくったときに用いられた素材であるとされており、古来日本人の生活を支えてきた。伊勢神宮の神礼の「神宮大麻」の由来となった植物で、藍、紅花とともに三草とされる神聖なもの。また麻布という地名は、麻を多く植えて布をつくっていたことに縁(ゆか)るという。そのことからもコマタさんは、麻が現代の人々の望む「CASUALUXE(カジュアルでリラックスできる良質なもの)」にかなう価値ある素材と考え、上質な麻をこの住宅の家具やファブリックに用いることを提案した。
家で過ごす時間が多くなった2020年、Cさんがここでの日常をストレスフリーで送ることができたのは、約300平米という十分な面積があることだけではなく、そうした素材や意匠も影響しているのではないかと思われる。一緒に移り住んできた愛犬のトイ・プードルも当初は周辺をキョロキョロと見まわしていたが、今ではリラックスした様子で部屋を走り回ったり、ソファに寝そべったり、天気の良い日はルーフバルコニーに出たりしているそう。
「近くには緑豊かな公園もありますし、この子にとっても毎日の散歩が楽しみのようですよ。田園調布の住まいのそばには大きな街道が通っていたので、かえってこちらのほうが静かな印象があります。歩いて15分程度のところにカフェやお店があるので便利ですが、今はお友達とお茶をするのもランチをするのも我が家のバルコニーでどうかしら? という感じで、お家時間を堪能しております。外出してもすぐに帰宅したくなるほどです(笑)」
誰にも気兼ねせず、自分だけの時間を楽しむ
数年前に夫を見送り、2人のお子さんも既に家庭を持つCさんにとって、ここは誰に気兼ねすることもなく、自分だけの豊かな時間を過ごすための住まいなのだ。コレクションしていたゴールドのバカラもこの家に来てからは、ディスプレイするだけではなく使用することに決めた。「昨年の誕生日のとき、実際にシャンパンをいただきました。残りの人生は、そのように楽しんでいきたいと思っております」とCさんは語る。
家の中でお気に入りの空間はいくつかあるが、朝はキッチン奥の西向きの小部屋で朝食をとるのが常とのこと。
「朝9時頃から1時間ほどかけて、この小部屋でゆっくりと朝食をいただくんです。お向かいのマンションに当たる朝の光を眺めながら過ごす時間帯は何ものにも代えられません。とても落ち着きますし、一日の始まりに心身をリセットできる心地がいたします」
このエリアには縁を沿うように古川が流れており、この川により山と谷、高台と低地が形成され起伏のある地形となっている。それゆえにCさんの住まいのある高台からの眺望は変化に富んでいて、目に映る木々も季節によって表情を変える。「今度の春にはまたどの方向に桜の木が見えるかしらと楽しみにしています」とCさんは言う。
さらに好天の日は、窓から東京タワーが望めるバスルームもCさんの好きなポイントだそうだ。
「アロマキャンドルをたいてゆっくりとお湯につかるバスタイムもリフレッシュできる時間です。東京タワーのあかりを見ながら、いろいろなことに思いを巡らせる日もあります。昨年は娘や孫たちになかなか会えなかったのですが、夏にようやく次女家族が帰国して家に泊まってもらうことができました。孫たちもこの住まいを気に入ったようです」
帰国の際に娘さん夫妻が休む寝室にはシャワールームが付いているので、外国人のお婿さんも喜んでいるそうだ。
ホスピタリティを備えた家。でも今は一人時間を満喫
エントランスは大理石とオニキスに彩られ、人を迎えるのには十分なスペース。どんす張りの仕切りも優しい雰囲気だ。もともと交友関係の多いCさんは、この場所に親しい人々が集う日を心待ちにしているという。
「お天気が良ければルーフバルコニーでバーベキューをすることもできます。家族や友人を新居に招いて楽しい時間を共有できればどんなにいいだろうと思いますが、今は“一人時間”を充実させています。今年、六本木の国立新美術館で、趣味である書道の個展をするため、バルコニーで大きな作品に取り組むこともあります。そのように私が心地よい“お家時間”を過ごしていることが、娘たちにとっては最も喜ばしいことであり、安心できることのようです」
整えられ、手入れされた家は良い空気に満ち、そこに住む人に物理的な充足感だけではなく、精神的な安らぎも与えてくれる。またCさんのように年齢にとらわれず、自ら決断し、新たな暮らしをスタートさせた人はいつまでも若々しく瑞々しい。豊かな暮らしを約束してくれる住まいは、きっと出会ったときが「その時」なのだ。