時代を背負う、気鋭の若手アーティスト
第9回の今回紹介するのは、川内理香子のペインティングです。1990年生まれの彼女の作品と初めて出会ったのは、2019年にギャラリー小柳で開催されていたグループ展で展示されていたドローイングでした。展示を観に行った少しあとに、そのときギャラリーにいた少し不思議な雰囲気の女性が、アーティスト本人だったと知りました。ちなみに僕がはじめて購入した油彩は彼女の作品で、2020年の夏に三越日本橋で開催された個展で出合ったワニの作品です。色味から何からすべて気に入っていて、リビングの一番いい場所に、古いワニのフィギュアとともに飾ってあります。
絶妙の躍動感を纏う動物のモチーフ
今回メインで紹介する作品は、昨年、コロナ禍の真っ只中に、六本木ヒルズにある森美術館のスーヴェニアショップに併設されたA/D Galleryで開催された個展『afterimage aftermyth』で購入した《Tower》です。実はスペースの都合もあって、しばらく開けずに置いていたのをようやく開梱し、小屋に飾りました。動物たちが尻尾を咥え合いながら、塔のように積み上がっているモチーフです。
動物たちは彼女の作品によく登場するモチーフで、少しだけ不気味なエッセンスも纏った美しいグラデーションとともに、絶妙の躍動感で描かれています。いつか、フランスを代表する作曲家のひとりであるカミーユ・サン=サーンスの『動物の謝肉祭』に登場する動物のシリーズを、このタッチで彼女に描いてもらいたいと思っています。そして、その絵に囲まれた空間で謝肉祭の生演奏を聴くことができたらなんて、頭の中で思い描いています。
これと似た構図の、もう一回り大きい《Night Stroll》というペインティングも持っていて、こちらもとても気に入っているのですが、どう飾ろうかまだ悩んでいます。
またこの夏にちょうど彼女の新しい作品集が発売され、この2作品が掲載されています。刊行にあわせて個展が銀座蔦屋で開催されたところでした。今回出展された作品の中にもいいものがたくさんあったのですが、悩んで選びきれないうちに初日を迎え、その時点で完売してしまっているほどの人気で驚きました。実物をマジマジと見てから選べたらいいなぁ、、、
不穏な空気感が魅力的なドローイング
あと、小さなドローイング作品もひとつ部屋に飾っています。《Lost ”H”》というタイトルが冠されたこの作品は、彼女が何度か個展を開催している鎌倉画廊から購入した、割と初期作品です。
彼女の作品は、ペインティングよりもドローイングのほうが不穏な雰囲気を持つものが多いのですが、ここで描かれているさくらんぼの色味もこれまた独特の色味で、下に敷かれた臓器のようなテイストの物体との組み合わせが最高です。また画面にはCHERRYのスペルミスでCERRYと文字が入っているのですが、表題もそこから付けられています。この失われた”H”を単体のドローイングとして、そのうち描いてもらえないかお願いしてみようかと。
まだ30を過ぎたばかりの彼女の作品が、今後どのような進化をしていくのかとてもワクワクしていて、今後も定期的に作品を購入できたらなと思っています。作品を観る、購入するだけでなく、アーティストとともに歳を重ねていけるのもまた、広義の現代アートの愉しみ方のひとつだなぁとも強く感じさせてくれる作家のひとりです。
Information
『Rikako Kawauchi: Works 2014–2022』
ドローイング集『drawings』(WAITINGROOM)に続き、2冊目の刊行。ペインティングに加えて、ドローイング・彫刻作品を含む2014年から最新作までの約150点を収録。高い印刷技術で、ペインティングの彩度が高い再現度で表現されている。
◯発行 カルチュア・コンビニエンス・クラブ株式会社
◯発売 美術出版社
◯定価 6,600円(税込)
https://oil.bijutsutecho.com/artbooks/730/1100016879
profile
1981年生まれ、神戸出身。広告代理店・電通、雑誌『GQ』編集者を経て、Sumallyを設立。スマホ収納サービス『サマリーポケット』も好評。音楽、食、舞台、アートなどへの興味が強く、週末には何かしらのインプットを求めて各地を飛び回る日々。「ビジネスにおいて最も重要なものは解像度であり、高解像度なインプットこそ、高解像度なアウトプットを生む」ということを信じて人生を過ごす。