混じりゆく動物と人物のイメージ
第3回の今回紹介するのは、黒坂麻衣のペインティング作品です。昨年末に、表参道のスパイラルガーデンで開催されていた『SPIRAL XMAS MARKET』に出品されていたときに購入した作品です。
昨夏に同じくスパイラルで開催されていた彼女の回顧展『夢の中の風景 -Sceneries in her dreams-』では、美しい色味に少し恐ろしさが混じったテイストの鳥をモチーフにした作品を一点購入させていただいていました。
今回の展示ではアトリエからファイルが新たに見つかったということで、そこに綴られていた作品が出展されていました。そう、彼女は2019年に30歳すぎの若さでこの世を去ってしまっており、残念ながらここから新たに作品が生まれることはもうないのです。
彼女の作品のモチーフには動物が取り上げられていることが多いのですが、人もまたモチーフになっていて、角の生えた子供など時に人と動物が融合していたりもしています。僕の購入した作品も服を着ているオオカミが描かれたもので(軽井沢にオオカミがいるわけではないのですが)、森の中の小屋に迎え入れるのにぴったりだなと感じました。狼男に命が吹き込まれるような森の満月の夜に、この絵を肴に飲む時間というのは実に幸せな時間で、自然の力を受けて作品のそもそも持っている力が増幅されていくような不思議な気分にもなります。
彼女は生きて夢を見ていた
黒坂麻衣の作品には、先程も書いたように少し不思議な空気感を纏ったものが少なくないです。多くが淡い色味で描かれたその世界は、寝ぼけて半分起きているようなときに見る淡い夢の中のような居心地にさせてくれます。もしかしたら、彼女が旅立っていってしまった世界が描かれていたのかもしれません。
同じく早世してしまった画家の中園孔二の展示『すべての面がこっちを向いている』を昨年、六本木のANB Tokyoで観たときにも、作風は違えど作品の持つやさしい空気感に似たような感覚を抱いたのが印象に残っています。
空気感で違う時空の世界を描けるという稀有な才能は、実に脆く美しいものなのだと改めて思い知らされます。彼女の絵の中で流れる時間が我々の心にもたらしてくれる穏やかでやさしい感覚こそ彼女の作品の本質のひとつで、それはこちらの世界においていつまでも残り続けるものなのだと思います。でも、まだまだ見たかったですね。
Information
New!
長らく絶版になっていた2013年に刊行された作品集「Silent Landscape」が昨年末に復刊。
黒坂麻衣「Silent Landscape」
価格:3,300円(税込)
特設サイト
https://maibou8.wixsite.com/mai-kurosaka/silent-landscape
profile
1981年生まれ、神戸出身。広告代理店・電通、雑誌『GQ』編集者を経て、Sumallyを設立。スマホ収納サービス『サマリーポケット』も好評。音楽、食、舞台、アートなどへの興味が強く、週末には何かしらのインプットを求めて各地を飛び回る日々。「ビジネスにおいて最も重要なものは解像度であり、高解像度なインプットこそ、高解像度なアウトプットを生む」ということを信じて人生を過ごす。
サマリーポケット
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