イノベーションの足掛かりとなった「minikura」とは?
1950年に創業した寺田倉庫は、70年の歴史を誇る倉庫会社だ。美術品や映像・音楽媒体メディア、ワインをはじめとする保管事業に従事し、トランクルームの認定第1号としても業界を牽引してきた。
倉庫会社と聞くと、お客様から預かった荷物を保管し、必要なときに引き渡す、いわば物流企業を想像するだろう。しかし寺田倉庫は、天王洲の都市開発やイベントの開催、ITを活用したサービスなど、一般的な倉庫会社とは一線を画すイノベーティブな事業も次々と展開している。
その一つが、2012年にスタートした、誰もが箱単位で荷物を預けられるクラウドストレージサービス「minikura(ミニクラ)」だ。
物流事業で培った保管技術にITを掛け合わせることで、持ちもののクラウド化を初めて実現させた。アイテム自体を最適な環境でお預かりするだけでなく、お預かりした箱を開けて中のアイテムを撮影。さらに、アイテム情報をWEBに繋げ、PCやスマートフォンなどからのアクセスを可能にし、個品管理できるサービスは、トランクルームの新たな在り方を示すこととなった。
寺田倉庫にしかできない、次世代のトランクルームを
「minikura」事業はいったいどのようにして生まれたのだろうか。
きっかけとなったのは、不動産業界をはじめとする他業種が倉庫業界に参入し、街にトランクルームが溢れ、価格競争が激しくなってきた2010年のこと。
「次世代のトランクルームを作ってくれ」そんな社長の一言だった。
白羽の矢が立ったのは、当時、物流事業部から営業部に配属になったばかりの月森正憲さん。
新卒で入社後、法人向けの物流を担当していたという月森さん。過酷を極める仕事だったが、預かった荷物について誰よりも把握している管理のプロとしてお客様に重宝され、喜んでもらうことにやりがいを感じていたという。
そんな月森さんが、「寺田倉庫らしい次世代のトランクルームとは、いったいどのようなものなのだろう」と考え、たどり着いたのは、「お客様に喜ばれる機能であるべきだ」という、とてもシンプルな答えだった。
当時は、トランクルームというと部屋単位での契約がほとんどで、貸主がそこに何を預かっているかを把握することはなかったという。それどころか、預けているユーザーでさえも、部屋の中に預けているものをあまり把握できておらず、中には契約していることすら忘れてしまう方も少なくなかった。
そんな現場を目の当たりにしてきた月森さんは、それまで培ってきた1品単位でモノを取り扱う物流ノウハウにITを掛け合わせることで、預かっている荷物を可視化。オンラインで個品管理することで、貸主と借主の双方にメリットがあるクラウドサービスに行き着いたのだ。
「お客様から預かったアイテムにとことんこだわり、その価値を最大化することこそが我々の仕事です。新卒で経験したことをminikuraに置き換え、今のminikuraが誕生しました」
とりあえずやってみる! 変化を厭わず挑戦し続ける
minikuraを皮切りに、1作品単位で美術品を預けられる美術品の個品管理サービスや、1本単位で預けられるワイン専門ストレージ、建築模型の保管サービスなど、革新的なオンラインサービスを次々と立ち上げていった寺田倉庫。
月森さんは当時を振り返り次のように語る。
「minikuraの仕組みを使って、アートをやったらどうなるのだろう? ワインをやったらどうなるのだろう? というふうに、minikuraが一種のラボ的な役割を果たし、新しい事業が次々と立ち上がっていきました。アイデアを一つひとつ形にしていったことが、今に繋がっているのだと思います」
アイデアを形にするためには、新たに専門スタッフを雇うことも厭わなかったという。
「初めは外注していたシステム部門も、エンジニアやデザイナーにチーム内に入ってもらうことで内製化していきました。まるでベンチャー企業のように、必要な組織をその都度作り上げていったという印象です」と話すのは、minikuraの立ち上げメンバーでもあり、画材ラボ「PIGMENT TOKYO」や建築模型の保管・展示をする「建築倉庫」などの文化事業を手がける柴田可那子さん。
前職の大手アパレル企業でのマーケティング経験を生かし、月森さんと二人三脚で「minikura」事業を軌道に乗せていった。
自分たちでWEBサービスを作り上げられる体制が整ったMINIKURA事業部は、いつしか寺田倉庫におけるサービスの立ち上げ部隊のような役割を担い、インターネットを使った新しいサービスを次々と立ち上げていくこととなる。
「とりあえずこれをやってみよう!」とスピード感を持って事業やプロジェクトを進めてこられたとも話す柴田さん。
その根底には、いったいどのようなフィロソフィーがあるのだろうか?
「もともと寺田倉庫には、ニッチの山をどんどん作り、ニッチの中でトップを目指そうという考え方があります。倉庫会社でありながらも、イベントや都市開発を手がけるなど、さまざまな事業を行ってきた背景には、同業他社と同じことをやるのではなく、イノベーティブなことをやっていこうという文化があったのだと思います」とは月森さんの弁。
「生き残るために会社自体が時代に合わせて柔軟に対応し、その状況を楽しめる社員が残っていった。そして、結局それが新しい文化を作っていくことに繋がっているのだと思います」と柴田さんも言葉を足した。
変革を受け入れ、時代に見合った形に姿を変えることで発展を遂げてきた寺田倉庫。イノベーションに必要な要素とはいったいなんなのだろうか? 次回は、文化創造を企業理念に掲げ躍進を続ける寺田倉庫の根底にある想いに迫る。
企業情報
寺田倉庫株式会社
▶https://www.terrada.co.jp/