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21_21 DESIGN SIGHT企画展「The Original」――デザインにおけるオリジナルとは何か
デザイン思考 |Design Thinking

21_21 DESIGN SIGHT企画展「The Original」――デザインにおけるオリジナルとは何か

時代を超え、心を揺り動かすデザインの力

六本木の21_21 DESIGN SIGHTで開催されている企画展「The Original」。現代社会を揺り動かすものたちに秘められた力とは。デザインの原点に立ち返る展覧会の内容を、ディレクターを務めた土田貴宏のコメントとともに伝える。

Text by Hisashi Ikai
Photographs by Sadato Ishizuka
展示作品より、左/ヨーゼフ・ホフマンのワインデキャンタ「シリーズB(ワインデキャンタ)」、右上/ヴェルナー・パントン「パントノヴァ(コンケイヴ)」、右下/フィン・ユール「FJ ボウル(サラダボウルスモール)」。

オリジナルキャラクター、オリジナルメニューなど、いろいろな商材の枕詞に頻繁に登場する「オリジナル」という言葉。辞書をひもといてみると「原型の」「独創的な」と唯一無二の比類なき存在を示す言葉が並ぶが、一般的にはもっと緩く、幅広い意味合いで使用されているように思う。

次々に押し寄せるデジタル化の波は、専門的な知識、技術をもたないものでも容易にクリエーションできる豊かな環境をつくり出したが、同時にコピー&ペーストによる模倣が次々に生まれ、何がオリジナルであるのかが見えづらい世の中にもなってしまった。

印象的なポスターが掲げられた21_21 DESIGN SIGHTのエントランス。

六本木の東京ミッドタウンにある21_21 DESIGN SIGHTで6月25日(日)まで開催している企画展「The Original」は、暮らしのなかにある多様なデザインから、創造の原点となり、世界に影響を与えた近現代のプロダクトを厳選。オリジナルとは何であるかを、独自の視点から捉えた展覧会だ。

タイムレスで唯一無二の価値と魅力

「オリジナルの意味は、判断する人によってさまざまに意味を違えます。デザイナーやメーカーにとっては自分たちが素直につくりたいものであるし、消費者にとってはそれを生活に取り入れる価値があるかどうかが基準になる。そして僕のようなジャーナリストはそれが社会に与えるインパクトを確かめたい気持ちもあります。でも、もっとも大切なのは、それがどのような状況下で生まれたものであれ、時代を超えてもまったく古びることなく、同じように生き続けること。それこそがオリジナルじゃないかと思うんです」

今回のような規模の展覧会のディレクションは初だったという、デザインジャーナリストの土田貴宏。

本展ディレクターの土田貴宏は、オリジナルの定義についてこのように語る。展覧会の原案は、世界の舞台で活躍するデザイナーの深澤直人が提案したもの。流行りものや似たものばかりに追随する無頓着な世の中だからこそ、何ものにも代え難い本物、きちんとした人格をもったものは何かを考える必要がある。そんな話とともに展覧会ディレクションの相談を受けた土田だったが、彼の本業はあくまでもデザインジャーナリストであり、文章で書くことと、展覧会を企画することの違いに当初は戸惑いもあったと話す。

「文章を書くこと自体は僕一人の作業で終わりますが、展覧会を企画するとなると大勢の人と意見を交わし、協力を仰ぎながら一歩ずつ段階的に進めていく必要があります。何をもってオリジナルと捉え、どんなアイテムを取り上げるのか。深澤さんとともに、イタリアでモダンデザインの研究を長年続けてこられた田代かおるさんも交え、多角的な視点から過去100年のデザインの歴史を見つめ直すことから始めました」

出展するアイテムをセレクトしている会議の様子。左からディレクターの土田、発案者である深澤直人、企画協力を務めた田代かおる。

繰り返し検証を重ねつつ、選ばれたのは150点あまりのプロダクト。デザインアイコンと呼ばれる往年の名作から、デザイナーの感性があふれる特徴的な形や素材のもの。または、日常の風景に溶け込むオーセンティックなものまで、セレクションの幅は実に広い。

今年で発売からちょうど50周年を迎え、少し丸みを強調した形にリフォルムしたマリオ・ベリーニの名作「レ・バンボレ」。
(以下写真4点)PHOTO: "UNTITLED (THE FORMS THAT DESIGNERS FIND OUT #28–624)," 2022 © GOTTINGHAM
IMAGE COURTESY OF 21_21 DESIGN SIGHT AND STUDIO XXINGHAM
1960年に竣工した〈SAS Royal Hotel in Copenhagen〉(現・ラディソンコレクション・ロイヤルホテル)でも採用されたアルネ・ヤコブセンがデザインしたレバーハンドル「12-4044型(AJ97)」。
素材は、FSC認証のリサイクルペーパーをコーティングしたものを使用。外と内に対照的なカラーリングを配し、斜めに折り込むことでポップな印象に仕上げた、クララ・フォン・ツヴァイベルクのゴミ箱「ペーパー ペーパー ビン」。
「ポスト・イット® ノート」。いまでは勉学や仕事に欠かせない存在になっている。

「選者の好みが反映されていないとは言いませんが、選定の基準はもちろん感覚的な判断だけではありません。それぞれのアイテムが存在する意義や登場した時代背景、後世に与えた影響など、きちんと説明がつき、納得できるものばかり。プロジェクトがデザイナーやメーカーの独断だけで実現したのではなく、きちんと社会と関連したプロセスから生まれ、消費者に受け入れられているという事実も追いたかったのです」

その証拠に、今回の展示品は、ほとんどが市場で現在でも販売されている現行品のみ。いくらインパクトのあるデザインであっても、一時的な流行りに乗ったものでしかなければ、あっという間に世の中から消え去り、もし残されたとしても一部のコレクターが寵愛する限定的なものにしかなれない。こうした洞察から、オリジナルは社会の変化に耐えうる普遍性が必要であることもわかってくる。

本を読み解くように会場を巡る

ここからは、会場構成について説明してみよう。21_21 DESIGN SIGHTのスペースを効果的に活かした展示は、大きく3つのセクションに分かれている。

エントランスから階段を下り、ロビーを抜けた先にある〈ギャラリー1〉では、実生活で使われているように椅子やテーブルを組み合わせたインテリアセッティングを展示。テキスタイルやオーディオ機器、照明なども併せて紹介し、デザインがいかに暮らしを豊かに彩っているかをリアルなかたちで表した。

アイテムを組み合わせ、実際の生活空間のようにスタイリングしたGallery1。ナナ・ディッツェルのテキスタイル〈Hallingdal 65〉が壁面を彩る。
階段の踊り場のような空間を設け、隣り合う空間につながるガラス窓を効果的に利用している。

次に訪れる大空間〈ギャラリー2〉では、19世紀後半から21世紀現在までのデザインの変遷を追いながら、時代ごとに登場したオリジナルなプロダクトを紹介している。それぞれのアイテムが誕生した背景を深く理解できるようにと、土田みずからも作品解説を執筆。印象的なのは、実作品の特徴をより特徴的に見せるために、吉田裕美佳(会場設計)、飯田将平(グラフィック)、ゴッティンガム(写真)が協力して製作した特徴的な壁面パネルだ。実物の背後に、独特なアングルで捉えたプロダクト写真を大きく引き伸ばして掲示。デザインに通じたものならば見慣れたはずの名作でもまったく違うもののように映り、次々と目に飛び込んでくる。その隙間に絶妙なレイアウトで解説を加えた様子は、まるで“飛び出す絵本”を読んでいるような感覚もあり、鑑賞者を自然と展示のなかへと引き込んでいく。

時代ごとにジ・オリジナルを追うGallery2の展示は、ミヒャエル・トーネットが1859年に制作した曲木の椅子〈No.14〉から始まる。
壁に大きく映し出される写真と実際のプロダクトを比較しながら、会場を巡る。
会場デザインを担当したFLOOAT, Inc.の吉田裕美佳。

細い廊下を経て最後に現れる中庭に面したガラス張りの通路では、アルネ・ヤコブセンをはじめとしたデザイナーが手がけたドアノブを、扉を模したボードに設置。傍らにはテーブルや椅子も置かれており、実物に触れながら、デザインを自身の身体で直接的に体感するコーナーとなっている。

柱から飛び出したように設置されているボードには、それぞれ種類の異なるドアノブが付いており、実際に触れて感触を確かめることができる。撮影:木奥恵三
シートが回転するレオン・ランスマイヤーの〈Revolver Bar Stool〉も、座って楽しめる。撮影:木奥恵三

時代を支えたデザインの数々を俯瞰していく過程で、ディレクターの土田自身も新たなデザインの見えがかりを発見する喜びがあったという。

「たとえば、アイリーン・グレイの照明〈Tube Light Floor Lamp〉(1921年)、ヴェルーナー・パントンの〈Pantonova〉(1971年)、ベント・ソーンフォルス&ニナ・ノーグレンのベッドリネン〈Nude Metallic〉(2016年)。これらは、まったく異なる時代にデザインされたものですが、すべて光沢のあるクロームの世界をピュアに表現していて、時代を超えて次々に現れる輝きの表現が、素材を替え、登場していることが読み解けます。一方で、ミヒャエル・トーネットの〈No. 14〉(1861年)と深澤直人の〈Tako〉(2020年)を見比べると、同じ木製椅子でも醸し出さす滑らかさや形の美しさが実に豊かな振り幅をもって表現されていることを堪能することができるんです」

メタリック素材の魅力を素直に引き出したアイリーン・グレイの照明〈Tube Light Floor Lamp〉(左)。
素材を替えて、メタリックがもつ魅力を新しいかたちで引き出したベント・ソーンフォルス&ニナ・ノーグレンのベッドリネン〈Nude Metallic〉。
時代を超え、さまざまに形を変化させながら、次々に新しいデザインの可能性を提示し続けてきた椅子の数々。

「ジ・オリジナル」は鑑賞者の能動的行為を引き出す

登場した瞬間は異端でアバンギャルドな存在でも、ときにそれが未来を予測し、次世代の道を切り開くきっかけともなる。そんな意識も展覧会を通じて感じてほしいと土田は付け加える。

こうした「ジ・オリジナル」たちの魅力を、普段はあまりデザインのことを意識しない一般の人々により端的に伝えるとするならば、土田はどういう言葉を繰り出すのだろう。

「デザインの良し悪しにこだわらず、安価で使い勝手さえよければそれで良いという考え方もあるでしょう。でも合理主義だけ突き詰めて、すべて同じ基準で埋め尽くされてしまったら、そんな世の中はおそらくつまらない。たとえば洋服なら、多様な人々の嗜好やニーズを前提として価格もデザインも実に幅広く、そこから豊かな文化が発展しています。それと同じで、暮らしの道具も独創性がさまざまに発揮されるほうが、何かしら感情を揺り動かす力をもちえると思うんです。何をオリジナルとするかは人それぞれだとしても」

展示作品より、左/ミケーレ・デ・ルッキ「セクレテッロ」、中央上/インゲヤード・ローマン「ウォーターカラフェセット」、右上/エンツォ・マーリ「フォルモサ」、右下/ジャスパー・モリソン「ムーン ティーポット」。
1枚の板を切り分けつつ、すべてのパーツが動物の形を成すパズルに仕上げたエンツォ・マーリの「16アニマリ」。
(以下写真2点)PHOTO: "UNTITLED (THE FORMS THAT DESIGNERS FIND OUT #28–624)," 2022 © GOTTINGHAM
IMAGE COURTESY OF 21_21 DESIGN SIGHT AND STUDIO XXINGHAM
床置きはもちろん、フックハンドルで吊り下げも可能にしたコンスタンチン・グルチッチの照明「メイデイ」。

純粋に人々の心を震わせるオリジナルなものにフォーカスを当てた実のある展覧会を、昨年他界した三宅一生が創立した施設で行っていることにも大きな意味があると土田は続ける。

「ファッションの世界にインパクトを与えただけでなく、領域をまたぎ、時代を前へと突き進めた三宅さん。もし現場にいらっしゃったなら、本展のテーマをどのように捉え、何を選んだだろうか。そんな思いも、展覧会のコンセプトをより強いものにしてくれたように感じます」

冒頭に土田が語ったように、オリジナリティの定義は人それぞれであり、本展は正当なデザインは何かを強く教示するものではない。異なる時代背景のなかに生まれ、現代で受け入れられる製品の数々と会場で対峙しながら見出すべきは、鑑賞者自らが何かしら反応し、思考すること。ジ・オリジナルは、そんな能動的行為を引き出す不思議なエネルギーに満ちあふれているように感じられた。

profile

土田貴宏 Takahiro Tsuchida

1970年北海道生まれ。会社員を経て、2001年フリーランスに。コンテンポラリーデザインを主なテーマに、国内外で行う取材、リサーチをもとに各誌に寄稿。一方で、東京藝術大学や桑沢デザイン研究所で非常勤講師を務める。近著に『デザインの現在 コンテンポラリーデザイン・インタビューズ』(PRINT & BUILD)など。

Information

The Original
会期:2023年6月25日(日)まで
休館日:火曜
会場時間:10時〜19時(入場は18時30分まで)
会場:21_21 DESIGN SIGHT ギャラリー1&2
東京都港区赤坂9-7-6 東京ミッドタウン ミッドタウン・ガーデン
TEL. 03-3475-2121
▶︎https://www.2121designsight.jp

入場料
一般1400円、大学生800円、高校生500円、中学生以下無料
* オンラインチケット
▶︎https://artsticker.page.link/The-Original_2121?_imcp=1

主催:
21_21 DESIGN SIGHT、公益財団法人 三宅一生デザイン文化財団
特別協賛:三井不動産株式会社

展覧会ディレクター:土田貴宏
企画原案:深澤直人
アートディレクター:佐藤 卓
グラフィックデザイン:飯田将平/ido
会場構成:吉田裕美佳/FLOOAT, Inc.
企画協力:田代かおる
写真:ゴッティンガム

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