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What is your QOL(Quiddity of Life)<br>暮らしにおける「本質的価値」とは?<br>ゲスト:永山祐子さん(建築家)
本質に触れる |Touch the Essence

What is your QOL(Quiddity of Life)
暮らしにおける「本質的価値」とは?
ゲスト:永山祐子さん(建築家)

建築家・永山祐子さんが描く暮らしの設計図

R100 tokyoがブランドメッセージの中心に据えている「QOL(Quiddity of Life)=本質的な価値観が表現される暮らし」を探るため、R100 tokyoのクリエイティブディレクターである川上シュンさんがさまざまな識者の方にお会いしてお話を聞く。今回は、建築家として活躍する永山祐子さんのご自宅に伺わせていただいた。川上さんと永山さんは2年前に知り合い、家族同士などプライベートでも交流を持つ間柄。お二人の対談からは「豊かさ」をとりまくさまざまなキーワードが浮かび上がってきた。

Text by Hiroe Nakajima
Photographs by Takao Ohta

互いに顔の見える生活空間

6年前、築44年のヴィンテージマンションを大幅にリノベーションし家族で移り住んだという永山さんのご自宅。7階までエレベーターで上がりベルを鳴らす。扉を入るとすぐ左手に階段があり、上階に続くメゾネットになっている。8階はマンションの最上階で130㎡のワンフロア。南側と東側の窓から注ぐ陽光が部屋の奥まで差し込み、爽やかな風が頬に触れる。なんとも開放感あふれる大空間だ。テラスに近いテーブルに着くと永山さんがクロモジ茶を入れてくださり、お二人の対談はゆっくりとスタートした。

永山さんのご自宅。テラスに面した窓沿いのダイニングキッチンには、天井からジェルバゾーニの大きなペンダントライトが下がる。

川上:R100 tokyoでは「QOL」を「Quiddity of Life(クイディティ・オブ・ライフ)」と定義しています。「Quiddity」という言葉は「本質」を表すことから、「Quality of Life(クオリティ・オブ・ライフ)」のもうひとつ上の上質さという意味合いを込めたコンセプトです。12年前にスタートしたR100 tokyoは設立当初から、永く住み継ぐ価値のある邸宅地にある100㎡超のマンションをベースに「東京で豊かに暮らすこと」を提案してきました。ただ100㎡という量的な豊かさにこだわってきたのではなく、そこでどのように豊かな時を過ごせるかに主眼を置いてきました。

永山:物件のある場所もいいんですよね。麻布とか広尾とか。

川上:そうですね、場所もいいです。広い東京の中でも昔から変わらず価値の高い土地というのはあまり増えておらず、トレンドにも左右されていないですね。そしてそういう場所には新築物件が次々と建たない。R100 tokyoは100%がリノベーション物件です。日本の中古マンションの価格帯でいうと飛び抜けて高額だけれど、デザイナーのグエナエル・ニコラさんらが参加していたり、デザイナーのレベルがとても高く、細部にこだわった特別な物件をつくっています。

永山:最近は建築家・芦沢啓治さんが中心に手掛けていらっしゃるのですね。芦沢さんのことは20年以上前から存じ上げていて、最近も「東急歌舞伎町タワー」でご一緒しました。芦沢さんの鉄のプラモデル「FLAT PACKING CHAIR」のシリーズとか、発想やシステムが面白いなと思ってずっと見ています。素材やディテールへの真摯な姿勢はすごいですよね。

グエナエル・ニコラ氏が手掛けた、有栖川プロジェクトの一室。(2021年)
芦沢啓治氏が手掛けた、麻布にあるレジデンスの一室。(2023年)

川上:芦沢さんはもともと物件の設計者として関係はありましたが、2022年にR100 tokyoがリブランディングしたタイミングで僕と同時にディレクターになっています。そうした建築家やデザイナー、クリエーターたちがリノベーションデザインを担当しているので、一般的な「Quality|クオリティ」では足りない!という実感から、「Quiddity|クイディティ」というコンセプトが生まれました。このメディアでは、さまざまな感性を持った方々や場所を訪れて、ある種の答え合わせや、新たな発見を重ねている感じです。それで今回は、永山祐子さんの考える「QOL」を伺いたいと思って、お訪ねしました。

永山:ご覧の通り、家の中は11歳と9歳の子どもがいるのでもうぐしゃぐしゃです。休日に友達を連れてきて、10人くらいでわちゃわちゃとやっているときなんかは、ここは児童館ですか?という感じですよ(笑)

川上:このお部屋は7階がエントランスになっていてステップを上がると8階のこの広いフロアに出ますが、建設当初からそうだったんですか?

永山:はい。オーナーさんのご家族が住んでいたらしく、7階はお手伝いさんのお部屋とキッチンというサービス機能が備わっていて、8階にご家族がお住まいだったようです。今も7階は2室あり、ワークルームとゲストルームのようにしています。

川上:窓に沿ってある長いデスクは永山さんやスタッフの仕事机かなと思ったら、お子さんのノートや教科書があって、勉強机でもあるんですね。

永山:約10mあるので、同時に私や夫(アーティストの藤元 明さん)も仕事や作業机として使うこともあります。いずれ本棚として利用することも考えています。シンプルなつくりです。

永山さんのご自宅。暮らしのすべてのシーンはこの130㎡の広間で行われる。

川上:この物件を選んだ決め手というのは?

永山:やはり130㎡という広さですね。テラスが90㎡あるので、体感的にはもっと広く感じるかもしれません。それとこのエリアは私の生まれ育ったホームグラウンドでもあるので。実は違う場所に土地を買っていて一軒家を建てるプランもあったのですが、敷地が狭い分、どうしても縦積みになるのが気になりました。暮らしのすべての時間をひとつの平面で過ごせるという点に魅力を感じました。夫も私も出張が多かったり、帰宅が遅かったりするので、なかなか4人そろう時間というのは少ないんですね。ですので一緒にいられるときはできるだけお互いの顔が見える平屋のような空間がよいと思ったんです。

川上:もともとワンフロアだったんですか?

永山:いえ、私たちが入る直前は都市計画の事務所が入っていて、間仕切り壁ですごく細切れになっていました。強度の高いSRC造であることとか、配管の様子などが分かったので、「よし、壁は全部抜けるぞ」と確信しました。ハザードマップで土地の地盤なども調べて、大丈夫そうなので決めました。

川上:さすが建築家ですね(笑)。窓も大きいですよね。

永山:以前は二段窓で掃き出しのサッシもずっと低かったんですが、思い切って全部替えたんです。普通はサッシは替えられないんですけど、隣の国道の防音対策で助成金が出た時期に各所有者が個別に改修していいということになっていたんです。でも8階のこの部屋まで巨大なガラスを入れるのは緊張感がありました。風が強かったらクレーンが横出しになると業者の方から言われましたが、やっちゃおう!と。

こうしたフルリノベーションを可能にしたのは、永山さんの豊富な知識と経験があってこそ。家族が安心して暮らせる空間づくりには、建築家としての視点と母親としての視点の両方が反映されていることが、お話の端々から窺える。

裸足のまま出られるテラス

川上:テラスのデザインと植栽、かなりいい感じですが、もともとこのような設計だったんですか?

永山:いえ、何もない殺風景な屋上でした。一番最初のオーナーは日本庭園にしていた時期もあったようです。でも眺めるだけの庭ではなく、暮らしとつながっていて、常に関わりを持てる庭にしたかったので刷新しました。キッチンが近いのでハーブもいろいろ植えてあります。土は厚く入れられなかったのですが、高木が入るところは40㎝くらい高くしました。ここに来て6年経ちますが、植物たちはそれぞれに育ってくれています。自動灌水装置なのでほとんど何もしてなくてよく、近くに住む父(生物物理学者の永山國昭氏)がときどき来て草むしりをしてくれています(笑)。

川上:東側の長い窓と、南側の全面ガラス張りが、本当に開放感があって気持ちがいいですよね。テラスは部屋の床板と同じ高さでそのまま出られるから内と外の区切りがあまりない感じ。

永山:夏はブルーベリーの木に実がなって、多いときだと1㎏くらい取れるんです。だから自家製ジャムをつくる。テラスは裸足で出てOKなので、子どもたちは朝、必ずブルーベリーを摘んで朝食のときに食べています。食べきれない分は凍らせたり。

川上:ここに都心のクイディティがありますね(笑)

永山:テラスにある浜名一憲さんの壺、とても素敵で気に入っているのですが、メダカを飼ってビオトープにさせていただいています。浜名さんにもお許しいただきました(笑)。メダカの他にタニシがいます。他にも子供たちが庭を探索していたら、ある日小さなカエルがいることに気が付いたんです。そのあと7匹くらい発見して。でもその後カラスが連れ去ってしまったのか、減ってしまいましたね。そういう生態系みたいなものが勝手に発生していたり。

川上:空中庭園でもそんなことが起こるんですね。面白い。

永山:息子は学校で「うちにはカエルがいる」って自慢していたみたいなんです。前にお友達が5人くらい泊まりにきて、「夜のお楽しみ」だとか言って、カエルをお風呂場に連れていって桶の中で泳がせて、その様子を見ながらみんなで入浴していました。

川上:都市ではなく、自然豊かな場所や昔の子どもの遊び方な感じですね。

永山:妹のほうも動物が好きで、二人でカエルに名前をつけていましたよ。ミニとかブラウンとか。二人とも生物観察は好きですね。ダンゴムシブームもあったし。ポケットに入れて持ち帰ってきてはケースに集めて、200~300匹くらいになったんじゃないかしら。枯れ葉を入れておくと、その食べ跡がちょっとレースみたいで綺麗なんですよね。

川上:そういうことができるのはテラスがあるからですね。そうしたフィジカルな体験はすごく大事だし、子どもの情操に一番いいでしょう。

永山:テラスはサラウンドでお風呂場につながっています。夏はプールから直接お風呂に行って、またプールに入ってというようなことを子どもたちはしています。コロナが蔓延して自粛期間のときもずっとプールに入っていたので、真っ黒に焼けていましたね。昼夜プールに入って、冷えるとお風呂に入り、また泳いで、水着でご飯を食べて、みたいな。

川上:楽しいですね。僕だったらサウナを置くかなあ。プールを水風呂代わりにして。

以前永山さんは理想の住まいについて「内外の一体」というキーワードを語っていた。このお宅はまさに内外が一体化したような家。テラス側の窓を開け放つと心地よい風が入ってくるので、中間期はエアコンを使うことはほとんどない。冬も大きな窓からいっぱいの日が差し込み、床暖房だけで十分だという。自然の恩恵をちゃんと受け取ることができる住まいだ。

家の中に外を取り込む

川上:永山さんやご家族のペルソナ像はR100 tokyoのこれからの顧客の像に合致しているんじゃないかな。これまでは良いワインを買って、高級ソファに座って、スクリーン型の大型テレビの前でリラックスするというようなペルソナ像もあったけど、これからはもう少し違ってくるんじゃないかと思います。もう少し「体験すること」に価値を求めているペルソナ像です。

永山:うちはわりと昭和な家族像ですけど大丈夫ですか?(笑)

川上:令和に入り、昭和が再評価されているという説もあるし、ぴったりなんじゃないですか。豊かな時間って、やはり先ほどのお話にあったように、テラスで子どもたちが遊んでいる光景とか、少し暑いけどエアコンはつけず風を通そうとか、そういう話じゃないですか。

永山:風を感じるとか、この花はいい匂いとか、そういうことに敏感な人間になってほしいとは思いますね。

川上:僕は東京と軽井沢の二拠点で生活していますが、軽井沢ではできるけど、こんな都心でもできるんだっていうのが結構衝撃でした。

永山:たしかに私もここまでできると思っていなかったですね。子どもたちのほうが、私が小さい頃よりも外と緊密に接しているなと思うくらいです。この花瓶の花も、今朝、娘がテラスで摘んできてくれたんです。一時期はテラスでご飯を食べたいからって、ゴザを敷いて朝夜外で食べたりもしましたよ。そうするといつもより食欲が湧くそうで。

川上:テラスでいい時間を過ごすことができる物件、わりと探している方っているかもしれないね。通常はなかなかできないけど、R100 tokyoにはそれが実現可能なポテンシャルがあるので。

ここ数年のコロナ禍により自由に行動ができなくなった私たちは、これまでさほどありがたみを感じていなかった「外」を強烈に欲しているのかもしれない。事実、永山さんが最近手掛けた個人住宅「膜屋根のいえ」でも、部屋の中に庭をつくってしまったという施主の方がいる。

永山:依頼者のAさんは独身の友人男性で、1階の真ん中に坪庭があります。吹き抜けになっていて、一番高い木は2階まで突き抜けています。出張が多く家を空けることも多いのですが、自動灌水なのでその点も安心です。天井が膜になっているので、どこかテントのような雰囲気があります。

坪庭は自動灌水になっている「膜屋根のいえ」(2022年)。膜と膜の間に断熱材を通しており、室内の温度を調整してくれる。©︎Satoshi Takae

川上:部屋に居ながらにしてグランピングをしている雰囲気ですね。でも雨漏りはしないんですか?

永山:しないです。膜のスペシャリストのTSP太陽さんとはTAKANAWA GATEWAYFESTなどで何度も協働していて、篤い信頼を寄せています。

「高輪ゲートウェイフェスト」(2020年)の会場。「白波」をイメージしている。©︎Nobutada Omote

永山:あともう1軒はお子さんが三人いる友人宅で、金沢文庫にある真四角のお家。中央に三角形の中庭があります。10m×10mを4分割して、ひとつが中庭、半分にしたところが1階というとてもシンプルな構成。ここに住むようになってお子さんが初めて植物に興味を持ち、鉢植えでジャガイモを育てているとか。普段は中庭に面した長い机で庭を見ながらお勉強をしているそうです。そういう話を聞くと嬉しくなりますね。

川上:永山さんがオーナーさんから一番最初にヒアリングすることってどういうことですか?

永山:「何を大切に生活しているか」ということでしょうか。たとえばこの金沢文庫の方は、外から見られたくないということと、お子さんのたちの気配を常に感じられることなどを優先順位の上にしていました。一番上のお子さんはもう高校生だから、遠くない将来独立する。だから今は同じ空気を吸っているという感覚が必要だと。でも数年後に家族構成が変われば、仕切を変えてまた新たな空間をつくることもできる。家族の変化に合わせたフォーメーションの組み替えはいつも考えます。

川上:ここ数年で何かニーズが変化しているなということはありますか?

永山:オープンな家がいいみたいな感じはありますよね。うちの家を雑誌やウェブで見て、あんな感じがいい、あの机がいいなどという具体的なリクエストもありますし(笑)。

有用性や合理性がないものほど豊か

今や最も活躍する女性建築家のひとりである永山さん。過去にはURBAN PREM MINAMI AOYAMA、ルイヴィトン京都大丸店、豊島横尾館、2020年ドバイ国際博覧会 日本館、そして東急歌舞伎町タワーなど、個人宅、商業施設、超高層まで幅広く手掛け、常にチャレンジングな試みを忘れず取り組んできた。商業施設や大きな建物に関しての、近年のニーズの変化についてはどのように感じているのだろうか。

永山:大きな施設のニーズでいうと、外部空間の見直しはあるかなと思います。あとは「一見有用ではないスペースをつくってもいい」という声が少し出ているかなと。JINS PARK前橋などは空間の真ん中に、ここって何する場所?みたいなのがあったりする。ですが有用ではない空間というのは、豊かや優雅さに通じると思うんですね。つまり機能だけに寄与していない優雅さです。もし平面でそれが取れない場合は、空を抜くようにするとか、できるだけ壁を使わずガラスにするとかで、断面で豊かさを演出することもあります。

「JINS PARK前橋」(2021年)は「iFデザインアワード2023」を受賞。内部には多目的なステップが中央に配置されている。©︎阿野太一 + 楠瀬友将

川上:アイデアが本当に豊富ですよね。素材やデザインも含めて。

永山:条件が決まっているなかで何ができるんだろうってことから発想することが多いですね。条件は必ず守ります、守ったうえで予定調和をどう超えていけるかが挑戦なので。

川上:R100 tokyoでいうと、面積に関しては多少の余白を取れるゆとりはあるのですが、では面積がなければ豊かさは得られないということになってしまうと、都心に住む多くの人はそれを享受できなくなってしまう。そうではなく、この時代に合った新しいライフスタイルも探りたいですよね。新しい世代の人たちに向けて。

永山:そうですね。それにはデザインや素材が供与してくれるかもしれないですね。今手掛けている49戸の集合住宅も、一部屋の平米数は少ないですが、植栽も頑張りましたし、デザイン面でも面白い試みをしています。そういうことに目を向けて豊かさを感じてくれるといいなと思います。

TOPAZ新御徒町 ©️永山祐子建築設計

川上:それはアートを生活に取り込むことも同じかもしれませんね。

永山:そう思います。植物やアートというのは、言ってみれば生活のために有用なものではないですよね。逆にそれ以外のものはすべて生活用品であり、ある合理的な役割を持っている。ですが自然は自然のリズムで育ち、勝手に葉を落としたり花を咲かせたりする。アートだって私たちの生活と直接利害関係はない。でもそうした有用性や合理性を超えた存在があることが、実は私たちの暮らしを豊かにしてくれている。

川上:アートに触れていると、空間や時間が増幅されるというか、拡張される感覚があるからかもしれませんね。

永山:そう思います。一種のパラレルワールドというか、それらに触れることで二つの世界を往還できる楽しさというのでしょうか。

川上:そういう余白みたいなものがあるってすごくいいなと思いますよね。僕の軽井沢の家にも藤元さんの大きな絵があって、娘が毎日見ているんですけど、最近は上手く絵を描けたりすると、この絵は売れるかなーとか言ったりもしていますよ。僕も絵を描くから、どうやらそれがお金になるらしいということが分かったみたいで。

永山:だいぶ前に夫の作品に息子がシールを貼ったことがあって、すごく怒ったんですね。「自分が描いた絵の上に誰かが落書きしたらどう思う?」って聞いたら分かったみたいで、それからはやらないですね。アート作品や建築物もそうですが、それは誰かが何かしらの想いや創意工夫を込めてつくっているということが、最近は分かるようになったみたいです。やはり子どもの頃からアートに触れることは大切ですね。

川上:今日のお話はすべて、今回のR100 tokyoのスタイルブックの冒頭にある「cultivating and experiencing-a new luxury and QOL」の周辺を語られているのではないかと感じます。お子さんたちのお話はそのまま「cultivating=耕す、experiencing=経験」だし、新しいラグジュアリーについても少し見えてきた気がします。

コロナ禍が加速させた価値観の変化は、決してネガティブな方向ばかりへ進んだわけではなく、自分を取り囲むあらゆる物や現象、人間や生きものに対してつぶさに目が向くようになったというポジティブな面もあるといえる。

永山:ずっと家にいなくてはいけないことになり、今まではただ寝に帰っていた家が、多くの時間を過ごす場所になりましたよね。そうしたときにテラスみたいなところがあって、ほっと息が抜けたらいいとか、アート作品が随分活発に売買されたこともその裏付けで、ちょっとした変化をもたらせてくれるものが必要になったのではないかと思います。もちろん空間を設計するときは利便性や合理性は必須ですが、プラスアルファの豊かさをどのように表現するかは、常に心に留めていますね。

異質なものを許容する空間

川上:ここへは大人のお友達もよく来るんですか?

永山:来ますよ。テラスでBBQなんかすると、昼間来て深夜までいることもあります(笑)。なにせ子どもはしょっちゅう「俺の家に泊まれよ」って誘うからよく来ます。まるで道場みたいに子どもたちがくんずほぐれつしているなかで、私も仕事をしなくてはいけないこともあり、そういうときは「これも修行だ……」と思うようにしています。広いとか狭いとかに関係なく、人を呼べない家ってちょっと寂しいなと思います。ただでさえ都心では子どもの遊び場が減っていますから。

川上:公園も少なくなっているし、「うるさい」って追い出されたらどこに行けばいいんだと。

永山:だからうちはいいよって言っているんです。ある程度ルールを決めてやってくれれば、まあ数人呼んでもいいよと。ここなら洗濯物を畳みながら子どもたちの様子を見て、時々「喧嘩はだめ!」と入っていけるし。とにかくすべてのことが一カ所でできるよさがありますね。木の引き戸で仕切ると向こう側が寝室になり、家族で布団を敷いて川の字で寝ています。

川上:永山さんの考え方はすごく鷹揚でいいですよね。フレキシビリティがすごい。

永山:子どもがいると、そうじゃないといられないです。たぶん、川上さんの座っていらっしゃる椅子の下にドラゴンボールの落書きがありますよ(笑)。カッシーナのスーパーレジェ―ラのほうじゃなくてよかったとほっとしたり……。ソファも置いた瞬間、トランポリンになっていました。たまに4、5人で飛び跳ねていることもあります……(苦笑)。

川上:ソファはオリジナルですか?

永山:スペインのサンカル社のものです。テキスタイルはパトリシア・ウルキオラなんですけど、汚れが目立たなそうな柄というのがポイントです。本当はジェルバゾーニのゴーストを置きたいんですけど、ちょっとまだ無理かなと。

川上:我が家も藤元さんの作品と「すみっコぐらし」のキャラクターが共存しています(笑)。

永山:そうなんです。家っていろいろなものが持ち込まれるので。キティちゃんもあればドラゴンボールもある。プリントも散らばっているし、お友達からいただくプレゼントもある。でも我が家はそれでOK。美しさを保つために律する暮らしももちろん素敵ですが、夫もうるさくないので、うちは許容していこうと。ただ大枠の空間の構成はよくしておこうという気概はありますよ。

川上:だからここにはとてもおおらかな時間が流れているのでしょうね。でもやはり中心に太いコードが流れているように思います。

施主やクライアントの要望を最大限叶えながら、さまざまなクリエーションを行っている永山さんは、R100 tokyoが大事にしている「クラフテッド=職人の手技」というものをどのように捉えているのだろうか。

永山:細部まで研ぎ澄まされた世界というのは人間が辿り着くひとつの極みだと思います。私も好きですが、生活空間の場合は、何か少し変なものが入ってきても大丈夫な状態が好ましいのかなとも思います。

川上:永山さんは建築家だから、構造を触ること自体がクラフテッドなんじゃないかな。空間のつくり方がクラフテッド。やはりインテリアデザイナーとは視点が違う。

永山:たまにこれなんだ!と思うこともありますけどね。子どもは好きみたいですが、この色は私は選ばないと思うものとか。すごく繊細なプロダクトなんかだと、ああ、お願いだからそれは触らないで!と思うけど、いつの間にか、まあいいかって(笑)。

川上:でもそのうちに、親が大事にしているものには何かしらの意味があるんだということは分かるようになると思うんです。絵を大切にしていると子どももアーティストをリスペクトするし、ものづくりに対する価値観を幼少期に覚えると、ものを大切にする感覚も芽生えてくる。

永山:それは思います。ものへの愛着を持って長く付き合うことを学んでくれると思います。

サステナブルを継承していく

2020年ドバイ国際博覧会(ドバイ万博)で日本館のデザインアーキテクトを務めた永山さんは、2025年の大阪・関西万博で二つのパビリオンをデザインすることになった。ひとつはパナソニックグループが出展する民間パビリオン、もうひとつはウーマンズ・パビリオンだ。後者では、ドバイ万博のファサードをリユースするという画期的な試みが行われることになった。

永山さんが担当したパビリオン「2020年ドバイ国際博覧会 日本館」。日本の折り紙をモチーフにしている。©︎2020年ドバイ国際博覧会日本館

永山:前回の万博のパビリオンの一部が転用されるというのは、初めてのケースではないかと思われます。カルティエを日本で展開するリシュモン・ジャパン、日本国際博覧会協会、内閣府、経済産業省の共催ですが、出資はすべてカルティエです。今回の万博の重要なテーマであるSDGsの中で女性活躍とサスティナブルな視点を反映させるパビリオンになると思います。この2点は日本のウィークポイントでもありますよね。

川上:たしか以前、漁網をリユースしたクリエーションもなさっていましたよね?

永山:海に大量に廃棄された漁網をアップサイクルした糸で、東京ミッドタウンの芝生広場に置くハンモックをつくりました。上に乗ったりタープの日陰で休んだりと、自由に体験してもらう目的で。建築家としてサステナブルにどう向き合えるかは見過ごせない課題です。

うみのハンモック ©︎Nobutada Omote

川上:R100 tokyoは中古物件なので、そもそもがサステナブルな価値観から出発していますし、ブランドの根幹をなす重要なテーマのひとつです。そうしたことに感度の高い方々にリーチするメディアであり、ブランドになってほしいと思っています。

永山さんとの対談では、多様化する社会やトレンドのなかにあってもタイムレスな本質的価値や、本当の豊かさについて考えるためのヒントやアイデアを多分に伺うことができた。これからの社会を担う若年層の価値観やコミュニケーションの変化を読み解き、需要に応えていくことが、R100 tokyoにも求められている。

社会に大きなインパクトを与える永山さんのダイナミックな建築作品の創造は、家庭というミニマムでパーソナルな場所において、豊かな時間を育むことから出発していた。

profile

永山祐子

1975年東京生まれ。1998-2002年青木淳建築計画事務所勤務。2002年永山祐子建築設計設立。主な仕事はURBAN PREM MINAMI AOYAMA、LOUIS VUITTON 京都大丸店、丘のある家、カヤバ珈琲、豊島横尾館、ドバイ万博日本館、東急歌舞伎町タワーなど。ロレアル賞奨励賞、JCDデザイン賞奨励賞、AR Awards(UK)優秀賞、Architectural Record Design Vanguard、JIA新人賞、WAF優秀賞、IFデザイン賞ほか多数受賞。

▶︎https://www.yukonagayama.co.jp/

profile

川上シュン

1977年東京都生まれ。2001年artlessを設立。グローバルとローカルの融合的視点を軸にヴィジョンやアイデンティティ構築からデザイン、そして、建築やランドスケープまで包括的なブランディングとアートディレクションを行っている。NY ADC、ONE SHOW、D&AD、RED DOT、IF Design Award、DFA: Design for Asia Awards など、多数の国際アワードを受賞。また、グラフィックアーティストとしても作品を発表するなど、その活動は多岐に渡る。

▶︎http://www.artless.co.jp/

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