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都市開発の最先端を走る麻布十番・麻布台・虎ノ門の記憶
街歩きの風景

都市開発の最先端を走る麻布十番・麻布台・虎ノ門の記憶

東京タワーと六本木ヒルズを見下ろす

地形の起伏、歴史を含めた土地の記憶、文化などをたどり、「街を読む」ように歩いていく。今回、訪れたのは麻布十番・麻布台・虎ノ門エリアだ。歴史と活気ある商店街、格調高い住宅地、ビジネスエリアが織りなすこの地域を歩いた。

Text by Aki Maekawa
Photographs by Taka Mayumi

宮家ゆかりの高級邸宅街

国際的な雰囲気と活気があり、江戸期からの老舗も多い麻布十番商店街から歩き始める。約350の店の中には、1789(寛政元)年創業の蕎麦店「永坂更科 布屋太兵衛」や、1818(文化15)年創業で日本最古の理容室「麻布I.B.KAN」、1865(慶応元)年創業の「豆源」のほか、100年以上の老舗も多い。ここから鳥居坂へと歩き始める。江戸期に有力大名や高級旗本の屋敷が立ち並び、のちに公家や宮家の邸宅や財閥系の邸宅となった界隈だ。

坂の両側には『赤毛のアン』の翻訳者・村岡花子が学んだ「東洋英和女学院」、「日本銀行 鳥居坂分館」、「鳥居坂教会」、各国の大使館もある。

その中でも知られているのは、登録有形文化財の「国際文化会館」だ。江戸期は京極壱岐守上屋敷だったが、明治期から久邇宮邸になり、その後、実業家の赤星鉄馬や岩崎小彌太が居を構えた。その格調高いたたずまいは、現在も変わらない。また、ここは香淳皇后生誕の地でもある。

建築界の巨匠、前川國男・坂倉準三・吉村順三が共同設計し、1955(昭和30)年に完成した「国際文化会館」。旧岩崎邸の庭園と調和しており桜の名所でもある。後ろに見える六本木ヒルズから、ここが高台だとわかる。
鳥居坂周辺には、最上級ブランドのマンションが立ち並ぶ。写真は弧を描いたような外観が優美な「パークマンション鳥居坂」。そのほか、「フォレストテラス鳥居坂」「ホーマットコンコード」などもある。
「東洋英和女学院」は、1884(明治17)年にカナダ人宣教師が創立した。校庭越しに東京タワーが見える。江戸期、旗本・戸田家の屋敷だったという。

現在、鳥居坂周辺は、大規模開発が行われている。古地図を見ると、大正期は公家の三條家や、李王家の邸宅があり1952(昭和27)年から1960(昭和35)年までドイツ大使館があったことがわかる。

再開発エリアの外観。港区の資料「鳥居坂」を見ると一帯の煉瓦塀の一部は、三條家時代のものではないかと推測できる。

首都高から見える都市のエアポケット

飯倉交差点を渡り、麻布永坂町、麻布狸穴(まみあな)町の邸宅街を歩く。首都高速都心環状線を越え、麻布永坂町に向かう。ここは、首都高から見るとエアポケットのように住宅が残るエリアだ。坂の上には三角形の緑地があった。1960(昭和35)年の地図と重ねてみると、かつて寺だったようだ。

麻布永坂町の街並みが大きく変貌したのは、1960年からだ。1964(昭和39)年に開催する東京オリンピックを控え、新一の橋から飯倉片町を経て、麻布谷町に至る新道(麻布通り)開削工事が進められたのだ。道路上に、かつて商店や家、寺があった。それらが全て移転したことがわかる。

麻布永坂町と麻布通りの間に緑地がある。ここが緩衝地帯となっているのか、首都高の騒音が和らぐようにも感じた。港区の公園リストにこの緑地の記述はない。
麻布永坂町には、高級レジデンスや大規模な邸宅が並び、外国人の姿も目立つ。

周辺の住所は「東麻布」だが、「麻布永坂町」と「麻布狸穴町」は単独の町名として表記されている。これは、1962(昭和37)年に成立した住居表示に関する法律で、町名が変更することへの反対運動があったからだ。麻布狸穴町の住民であった世界経済調査会理事長・木内信胤氏や、脚本家・松山善三氏と俳優・高峰秀子夫妻が中心となって、「由緒ある町名を守る私たちの会」を結成。彼らは「1000年近い由緒ある町名を抹殺することに絶対反対」の信念のもと活動した。その思いが結実してから、約50年が経過した。それは街の誇りとなって今につながっているようにも感じた。

植木坂周辺には、かつて植木屋が多くあり、菊人形の展示でも有名だった。

植木坂を狸穴に向かって歩いていくと、大手タイヤメーカー・ブリヂストン創業者の石橋正二郎氏が自宅に開設した元「ブリヂストン美術館(永坂分室)」(2019〈令和元〉年閉館)ほか日本を代表する経営者や文化人の自宅も多い。また、表札に旧町名表記を残している邸宅もあった。

麻布永坂町は、1960年創業のレストラン「キャンティ」も近い。三島由紀夫(作家)、黒澤明(映画監督)、各国の大使、イヴ・モンタン(歌手・俳優)、イヴ・サンローラン(デザイナー)ら著名人に愛された。左奥の大きなビルは「麻布台ヒルズ」だ。

植木坂から鼠坂に抜け、麻布狸穴町に向かって歩いていく。ここは「ロシア連邦大使館」や会員制社交クラブの「東京アメリカンクラブ」と隣接している、静かなマンション街だ。町内には自然豊かで施設が整備された「狸穴公園」がある。そこでは子供たちが元気よく遊んでおり、彼らが動くほど街に体温が帯びているようにも感じた。

麻布狸穴町に向かう鼠坂から芝公園を見る。再び、東京タワーがはるか下にあることを感じる。
狸穴坂には、新しいマンションが多い。右手奥は総戸数140戸の「ブランズ麻布狸穴町」だ。向かい側は、1928(昭和3)年設立の会員制社交クラブ「東京アメリカンクラブ」の擁壁がある。

麻布台は大使館に囲まれた邸宅街

「ロシア連邦大使館」の角を曲がり、「東京アメリカンクラブ」の正門前を通って、「日本経緯度原点」に向かって歩く。1892(明治25)年、ここに「東京天文台」(現「国立天文台」・東京都三鷹市に移転)の子午環の中心があったことにより定められた。

横には「アフガニスタン大使館」がある。調べると一帯を囲むように「フィジー大使館」「パラオ共和国大使館」などが存在する。ここから近い六本木に、各国の大使館の元シェフが腕を振るうレストランが多い理由がわかったような気がした。

とはいえ、ここは水を打ったように静かな住宅街だ。繁華街とオフィス街の喧騒が徒歩圏内にありながら、この落ち着きがあるのも、このエリアの魅力なのかもしれない。

東京アメリカンクラブに隣接する「麻布台パークハウス」。周辺は、日本屈指のインターナショナルな地域だ。

歩いていると、麻布台界隈に日本の外交上重要な施設が多いことがわかる。外交の歴史が知りたくなり、外務省飯倉公館内の「外務省外交史料館本館」に行く。ここは、外務省の記録を中心に、戦前・戦後の外交史料の閲覧ができる。

常設展示では、現存する最古のパスポート(1866〈慶応2〉年発行)、日米修好通商条約の条約書(1858〈安政5〉年)、“サンフランシスコ平和条約”の吉田 茂総理の対日平和条約受諾演説原稿(1951〈昭和26〉年)ほか、重要な外交資料と歴代外務大臣を紹介している。この街を歩いていると、日本の近現代の歩みについて、エネルギーを感じながら知識を深めることができる。

左が1971(昭和46)年開館の外務省飯倉公館・外務省外交史料館。吉田五十八研究室が設計した。右は「麻布台ヒルズ森JPタワー」。「麻布台ヒルズ」のプロジェクトが始まったのは1989(平成元)年。300名を超える権利者とともに議論を重ねて再開発事業を推進し、2023(令和5)年に完成した。

このエリアのランドマークは、2023(令和5)年11月にオープンした「麻布台ヒルズ」だ。オフィス、ホテル、約150店舗が展開する商業施設、アートギャラリー、医療施設、インターナショナルスクール、住居もある。もはや、“施設”ではなく“新しい街”といえる。

麻布台ヒルズは、メインタワー(約330m・64階建)を含む3棟のビルからなる。低層棟の設計とランドスケープデザインを担ったのはイギリスのヘザウィック・スタジオ。波打つような外観で、ビル同士を結びつけるストーリーを表現している。

かつて一帯は「我善坊谷(がぜんぼうだに)」といわれる、谷のような地形だった。高低差がある土地に、小規模な商店やビル、木造住宅が密集。古い建物も多く道も細い。それゆえに、防災上の多くの問題も抱えていたという。

麻布台ヒルズのコンセプトは「緑に包まれて、人と人をつなぐ広場のような街」だ。敷地の3分の1にあたる約2万4000㎡を緑化し、約320種類の多様な植栽と、さらに果樹園もある。緑地ではイベントやマルシェなども開催される。

麻布台ヒルズには、土地の高低差を生かし、小川も流れている。

また、「麻布台ヒルズ森JPタワー」のエントランスホールの内壁は明るいベージュ色が採用されていた。これは、かつてのランドマークだった、「日本郵政グループ飯倉ビル」(1930〈昭和5〉年完成)の外壁の色を思わせる。土地の記憶がつながったようにも感じた。

もう一つのランドマーク「NOAビル」(1974〈昭和49〉年完成)。設計は哲学的な作風で知られる建築士・白井晟一。

再開発が進む虎ノ門、邸宅街の表情

「麻布台ヒルズ」から虎ノ門方面に向かう。ここもまた、ほかの街と同じように、江戸期に大名屋敷が並ぶ高台であり、近代に入ると財閥関係者の邸宅や大使館が増えていく。そして再開発により「泉ガーデンタワー」「アークヒルズ 仙石山森タワー」など先進的なオフィスビルへと変わっていった。

虎ノ門エリアの独自性は、私設美術館が多いことだろう。住友財閥の美術コレクションを公開する「泉屋博古館東京」、実業家・大倉喜八郎が設立した日本初の私立美術館「大倉集古館」、現代陶芸のコレクションで知られる「菊池寛実記念 智美術館」などいずれも多様で質の高い収蔵品を誇っている。

また、一帯には、瀟洒なマンションがあり、江戸期から続く寺院も多い。くまなく歩くと虎ノ門の邸宅街としての意外な一面を見るだろう。

手前が「大倉集古館」、奥が2019(令和元)年にリニューアルした「ホテルオークラ」。設計を担当したのは建築家・谷口吉生。周辺は今も再開発が進む。
この付近も「ホーマットロイヤル」ほか、ブランドマンションが多い。周囲には「アメリカ合衆国大使館」と「アメリカ大使公邸」、「霊南坂教会」などがある。
「神谷町トラストタワー」から「虎ノ門ヒルズ」方面を見る。東京が重ねてきた時間のグラデーションを感じる風景だ。

麻布十番・麻布台・虎ノ門エリアは、江戸期の有力大名屋敷街がルーツの街が多く、史跡や坂の名前にいにしえの記憶が刻み込まれている。当時の雰囲気をより強く感じたくなり、1603(慶長8)年創建の「愛宕神社」に向かう。

木々が生い茂る境内は、標高26メートルの愛宕山の山頂にある。これは23区内で一番高い、自然地形の山だ。

愛宕神社の「出世の階段」。講談『寛永三馬術』で武士・曲垣平九郎(まがきへいくろう)が、将軍の望みに応え、階段を馬で上り下りしたエピソードにちなむ。
浮世絵に描かれた「愛宕神社」。江戸の町や芝浦が見渡せる、人気スポットだったという。 昇亭北寿『東都芝愛宕山遠望品川海図』国立国会図書館デジタルコレクション
愛宕神社の境内。池やカフェもありくつろぐ人が多い。1925(大正14)年愛宕山で日本のラジオ放送が始まったことに由来し、敷地内には「NHK放送博物館」がある。

この街には、近代日本の黎明期に、私心を滅し、力を尽くした人々の体温が残っている。現在ではオフィスや商業エリアのイメージ強いが、一角には歴史を作った彼らが住んだ邸宅街が今もひっそりと残っている。その気配を感じた時に、タイムトンネルが繋がっていくような実感もあった。価値観や“空気”が目まぐるしく変わるこの時代、この街を歩けば、きっとヒントが見つかるだろう。

(参考)

港区「六本木・虎ノ門地区 まちづくりガイドライン」
▶︎https://www.city.minato.tokyo.jp/kouchou/kuse/kocho/kuseiken/documents/220601-toshikei-zenbun01.pdf
▶︎https://www.city.minato.tokyo.jp/kouchou/kuse/kocho/kuseiken/documents/220601-toshikei-zenbun02.pdf

更科堀井
▶︎https://www.sarashina-horii.com/

麻布十番商店街
▶︎https://www.azabujuban.or.jp/

国際文化会館
▶︎https://ihj.global/architecture/

東洋英和女学院
▶︎https://www.toyoeiwa.ac.jp/

港区「鳥居坂」
▶︎https://www.city.minato.tokyo.jp/documents/32192/01_roppongi02.pdf

ドイツ連邦共和国大使館建物と庭園
▶︎https://japan.diplo.de/resource/blob/2065114/072b332a72f416bc0e7dc62c05cc5fc0/residenzgarten-data.pdf

港区のあゆみ「住居表示未実施に至る経緯」
▶︎https://adeac.jp/minato-city/text-list/d110060/ht002230

キャンティ
▶︎https://www.chianti-1960.com/

国土地理院
▶︎https://www.gsi.go.jp/sokuchikijun/sankaku-genten.html

外務省 外交資料館
▶︎https://www.mofa.go.jp/Mofaj/annai/honsho/shiryo/index.html

「外交史料館五十年」について
▶︎https://www.mofa.go.jp/mofaj/files/100357058.pdf

東京都公式ポータルサイト「My TOKYO」
▶︎https://www.my.metro.tokyo.lg.jp/w/000-20240528-40711291

港区「ザ・AZABU」16号
▶︎https://www.city.minato.tokyo.jp/documents/5652/vol16-1to8.pdf

麻布台ヒルズ
▶︎https://www.azabudai-hills.com/about/index.html

「HILLS LIFE Daily」麻布台ヒルズの超高層タワー3棟、そのデザインの秘密とは? ——フレッド・クラーク(ペリ・クラーク&パートナーズ)
▶︎https://hillslife.jp/innovation/2023/08/08/azabudai-skyscraper-design/

「HILLS LIFE Daily」Heatherwick Studio〈麻布台ヒルズ〉の波打つ独特なデザインはいかに実現したのか?
▶︎https://hillslife.jp/innovation/2023/11/24/heatherwick-studio-comes-to-azabudai-hills/

ノアビル
▶︎http://www.noa-building.co.jp/azabudai.html

ホテルオークラ
▶︎https://theokuratokyo.jp/ja/

愛宕神社
▶︎https://www.atago-jinja.com/

NHK放送博物館
▶︎https://www.nhk.or.jp/museum/

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