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肩書は「デザインの指揮者」<br>川上シュン氏に問う“豊かな暮らし”とは
Focus on Designer

肩書は「デザインの指揮者」
川上シュン氏に問う“豊かな暮らし”とは

肩書は「デザインの指揮者」。ボーダーレスに活躍する
ブランディング・ディレクター、川上シュン氏に問う“豊かな暮らし”

デザインによって「より豊かな暮らし」の実現に寄与する人物を紹介する「Focus on Designer」。2回目はブランディング・ディレクターとして活躍する川上シュン氏。グラフィックからサイン計画、建築に至るまで、デザインの垣根を軽々と越えて躍動する様は、まさに融通無碍(むげ)。そんな川上氏の多彩な経験に基づいた価値観と視点から、「豊かな暮らし」について語ってもらった。

Text by Mikio Kuranishi
Photographs by Sadato Ishizuka

川上シュン氏は東京、京都を拠点に多彩な活動を展開する「アートレス artless Inc.」を率いるブランディング・ディレクター。国内はもとより世界に活動の場を広げる一方で、アーティストとしての顔も持つ。デザインもアートも独学だという川上氏が辿ってきた道を聞いてみた。

ーーHPのプロフィールにはブランディング・ディレクター、グラフィックデザイナー、タイポグラファーなど、たくさんの肩書が列挙されています。活動領域も幅広い。一言で表現できないからだとは思いますが、ご自身の活動について説明していただけますか。

スタートはグラフィックデザインなのですが、現在の仕事の内容からいうと、ブランディング・ディレクター、アート・ディレクターという言葉が一番しっくりきますね。「アートレス」はブランドのヴィジュアル・アイデンティティ構築を戦略的に考える会社です。遡って川上から挙げると、ブランディング、アートディレクション、グラフィック、タイポグラフィ、サイン、ウェブなど、ブランドをつくる過程で必要なもの、ほぼすべてをコントロールします。つまり、グラフィックから建築まで包括的にディレクションするという立ち位置で仕事をしていて、逆にそうしないとブランディングはできない。始まりから着地までコントロールするために、結果として肩書がやたらと多くなったというわけです。

この世界に入ったのは、建築、インテリアへの興味から

ーーお聞きしていると、仕事ぶりが映画監督のような印象を受けますね。

以前、ある先輩に一言で肩書を表せないならコンダクター、指揮者はどうか、「デザイン界の小澤征爾」と言われるようになればいいとアドバイスされたことがあって、現在の名刺は「コンダクター・オブ・デザイン」になっています。

でも、映画監督もいいですね。実はデザインに関わる前に一番影響を受けたのが映画で、僕の世代の青春期の90年代後半は、映画が劇的に変わりました。ファッションともつながったし、音楽やアートともつながったという非常に面白い時代でした。象徴的なのが『トレインスポッティング』で、まさにTomato(英国のデザイン集団)やアンダーワールド(Tomatoの創立メンバーでもあるエレクトリックデュオ)が一緒になって映画をつくっているような感じでした。その時代の映画を非常にたくさん観ていたので、総合芸術としての映画にはとても興味がありました。

現在の川上氏の名刺。肩書は「コンダクター・オブ・デザイン」。

ーーそもそも、デザインの世界に入ったきっかけは何だったのですか?

実は高校まで僕はサッカー一筋でした。しかし、全国レベルの高校サッカーを経験して、どうもJリーグは無理だな(笑)とわかったタイミングで興味があったのが建築、インテリアでした。それで勉強し始めたのですが、数学が苦手。すぐに図面を引いたり計算したりといったことが自分には無理だと気づいて、身近にあって感覚的に一番自分に合っているのがグラフィックでした。ということでグラフィックデザイナーがスタートでしたが、美大など行っていないので美術教育、いわゆるデザイン教育というものを僕は受けていません。デザインもアートも独学で、メディアから情報を得ながら、小さなデザインオフィスでトレーニングさせてもらい、そして、ある意味安藤忠雄さんのように海外に旅に出ては、実際にデザインを見て肌で感じるなど、独自に自分で学んでここまできたと感じています。

ーー建築やインテリアまで活動の領域を広げられたというのは、もともと興味があったということですね。

そのとおりです。興味というか、一種の憧れのようなものがあって、そこへ回帰している感じです。ここ数年はどうすればその世界に近づけるかにフォーカスして、ブランディングという包括的な立ち位置で入って、建築家とフラットな状態で仕事ができるようになってきました。

そこでわかったのは、マーケットやビジネス的側面、グラフィックから空間まですべてをディレクションできなければ、本当のブランド体験にはならないということです。そうやって建築の視点が加わるとグラフィックの落とし込み方も変わってきます。その逆も言えて、建築しかしない人は、ミリ単位で考える僕たちの尺度をもっていないことが多く、グラフィックの扱い方がわからない。それはサイン計画に顕著に表れます。そういう意味では僕はスタートがグラフィックでよかったかなと今は思いますね。

2019年、京都・新京極にオープンしたドーナツファクトリー「koé donuts」。アートレスがロゴをはじめ、グラフィック、サイン、パッケージング、グッズ、ウェブとトータルにブランディングを担当したプロジェクト。
「koé donuts」のインテリアデザインは新国立競技場を手がけた隈研吾氏。イラストは雑誌や広告で人気のイラストレーター、長場雄氏。建築家やイラストレーターとのコラボレーションにより、京都らしさを大切にしたブランディングを目指したという。
「koé donuts」のインテリアデザインは新国立競技場を手がけた隈研吾氏。イラストは雑誌や広告で人気のイラストレーター、長場雄氏。建築家やイラストレーターとのコラボレーションにより、京都らしさを大切にしたブランディングを目指したという。
「koé donuts」のインテリアデザインは新国立競技場を手がけた隈研吾氏。イラストは雑誌や広告で人気のイラストレーター、長場雄氏。建築家やイラストレーターとのコラボレーションにより、京都らしさを大切にしたブランディングを目指したという。

ブランディングはコラボレーション、アートは100%自分だけの世界

ーー川上さんのもう一つの肩書にアーティストがあります。以前は「アートとデザインの融合」を目指すというような発言もされていました。

今はアーティストはプライベートの活動として、デザイン、ブランディングの仕事とは、はっきりと分けて考えています。大きな違いは、アートの創作活動は作品に手を入れるのは僕だけなのに対して、デザインの活動はコラボレーションだということです。それは制作チームとしてのコラボレーションという意味と、クライアントとの関係についても言えることで、僕たちが50%、クライアントが50%、フィフティフィフティの融合が最善のアウトプットを生むということです。

一方のアートは100%僕です。自分の中ではアートに対してはできる限りピュアでありたい、クライアントワークにはしたくないというのがあります。以前はそのあたりを曖昧にしていて、デザインの仕事では自分たちで50%以上取りにいこうとしたり、アートではどうすれば売れるかとマーケットを気にしてみたり。しかし、あるときからはっきりと分けて、自己の美の探究として潔くアートは売れなくてもいいと考えるようになったのですが、そうすると不思議と作品が売れるようになった。

ーーアート作品のモチーフはどういったところから生まれてくるのですか?

作品にはあまりメッセージ性はなく、僕個人のポートレートというか日記のようなものです。自分がどこで生まれ育ち、どういうものに興味があって、これからどうしていきたいか、アイデンティティの掘り返しのようなことをしながら作品づくりをしていますね。

僕は門前仲町の生まれのいわゆる江戸っ子です。それもあって日本の伝統的文化を大切にしていこうと、花鳥風月をモチーフにしていたりします。また、日本の古典的美意識の表現を取り入れたいと考えています。特に安土桃山時代に確立された美術表現は、日本のルネッサンスというか、グローバルにみても唯一無二だと思っています。余白とか引きの美学、あるいは見立てとか、目には見えない表現です。これは世界で活動するうえで、とても大切なアイデンティティで、デザインの仕事にも内側にベースとして持っていたいと思っています。

ただ、この話の本質的な部分は外国人にはなかなか理解されにくい。日本の美学は、たとえばモダニズムの「レスイズモア(Less is more)」とはまた違う引きの美学というか、引き算だけじゃない微妙なさじ加減なんです。いずれにしても僕にとってアート活動は、デザインするうえでの美的感覚のトレーニングになっているし、デザインすることで時代性が見えてきて、それがアートにも反映されるという往還関係があると思っています。

※「Less is more」…… 近代建築の巨匠、ミース・ファン・デル・ローエがモットーとしたことで知られる言葉。「少ないほどより豊かである」という意で、ミニマルデザインの標語にもなっている。

アーティスト川上シュンと Seven Shuffles のコラボレーションによる 17.5m に及ぶビデオアート作品「in Praise of shadows – 陰翳礼讃 – 」。パリのルーヴル美術館で行われた「Salon des Beaux Arts 2017」にて発表され、金賞を受賞した。
アーティスト川上シュンと Seven Shuffles のコラボレーションによる 17.5m に及ぶビデオアート作品「in Praise of shadows – 陰翳礼讃 – 」。パリのルーヴル美術館で行われた「Salon des Beaux Arts 2017」にて発表され、金賞を受賞した。

自宅の生活空間は、家族とフィフティフィフティの関係

ーーオフィスを拝見すると川上さんやスタッフのみなさんのファッションも含め、非常に個性的というか、ミニマルでストイックな印象を受けます。川上さんの日常生活もそうですか?

川上氏のオフィスは中目黒、東横線高架下の倉庫のようなユニークなスペース。隣接して左側にはアートレスがプロデュース、自社運営するカフェ、「artless craft tea & coffee」がある。
カフェ店内風景。インテリアからディスプレイ、什器、グラフィックに至るまで、隅々に川上デザインのこだわりが。
オフィスに隣接して右側にあるのは、アートレスを含めた3社のシェアオフィス。
シェアオフィス内のミーティングスペース。壁を飾るのは川上氏のアート作品。

日常生活もほとんど変わらないですね。僕はデザインが趣味で、つまり仕事と思ってデザインしていないところがある。つまり、自分ではオンもオフもないというか、基本的には365日オンといってもいい。これが日常なんです。

ーーとはいえ24時間ここで過ごすわけではなく、ご自宅がありますよね。生活空間もこんな感じですか?

そうですね、妻もフード関係のディレクター、スタイリストで、趣味嗜好、デザインの好みもほぼ同じです。ただ、家のほうは今4歳になる娘がいて、もう少しオーガニックかもしれません。

オフィスはマテリアルの数を減らしてミニマルに、黒をベースに家具やアートなどを選定していて、おそらく独り身だったら家もこんな感じの「レスイズモア」的なライフスタイルですね。そこに妻と娘がいることで、先ほどのデザインとの関係のように、フィフティフィフティで良いバランスを取っていると思います。なので、モノクロだけじゃなく、その中に心地よいウッドや生成りとか、いわゆるオーガニックな色があります。

最近引っ越したのですが、家電や家具、照明といったプロダクトは僕が選んだモノトーンのものですが、それ以外の空間全体はどちらかというと家族用に選定されていて、プライベートのバランスは、大雑把にいうと50%ブラックで50%ナチュラル、オーガニックという感じですね。

川上氏の自宅のインテリア風景。

ーーその中で、大切にされているものとはなんでしょう?

暮らしの中で一番大事にしているのは、やはりデザインですね。プロダクトを見れば、なんとなく作られたものか、ちゃんとデザインして作られたものかわかります。僕自身、仕事ではデザインを相当丁寧に考えてつくっているつもりです。だからこそ、空間もプロダクトもデザインが大切にされていないものは身のまわりに置きたくない。自分が買うものはちゃんと作られたものを常に選ぶようにしていて、それは、高い安いというプライスの問題ではありません。

ーーそれでは、川上さんにとって「豊かな暮らし」とは何でしょう?

僕は何に関してもよく「QOLが高い、低い」という言い方をするのですが、基本的には体験する時間の内容だと思うんです。たとえば家族旅行でリゾート地へ行けばかなりの出費となります。でもそこで豊かな時間を過ごせたのであれば「QOL高いから、いいんじゃない」となる。つまり、どれだけクオリティの高い時間を体験できたかがイコール豊かな暮らしなのではないかと思っています。

住空間も同じで、自分が心地よいと感じる時間をどれだけ過ごせるか、その時間が長ければ長いほど豊かな暮らしなのだと思います。それは、その人次第の相対的なもので、つまり、空間が広いとか狭いとか、古いとか新しいといった尺度では測れないもの。とにかく自分が心地よい時間を過ごしたなと感じられれば、それが豊かな暮らしになっていくのだと思います。

profile

川上 シュン

1977年東京都生まれ。artless Inc.代表。2000年artlessを設立、「+81 magazine」などのグラフィックデザインを中心に活動をスタート。現在はグラフィックから建築空間まで、すべてのデザイン領域における包括的なブランディングとコンサルティング事業をグローバルに展開。カンヌ国際広告祭金賞、iFデザイン賞、NY ADC賞ほか、国内外で受賞多数。また、アーティストとして作品を発表するなど、その活動は多岐にわたる。
▶︎ http://www.artless.co.jp/

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