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デザイン思考 |My Life with ART

大切なのは「この作品が好き」という思いや共感。“住まいのプロフェッショナル”の住居に見る、アートとの向き合い方

アートと人生、それぞれのストーリーを重ね合わせれば暮らしはもっと豊かになる。「アートが人生をより豊かにする」をテーマに、アートを取り入れたライフスタイルを紹介する連載「My Life with ART」。1回目は、2017年に建てた事務所兼自宅で多くのアートとともに暮らす、建築家の横堀健一さんとインテリアデザイナーのコマタトモコさん夫妻。お二人は「R100 TOKYO」のコンセプトルームのデザインを数多く手がけている。そんな夫妻にとってアートが人生に与えるエッセンスとは?

  • Text by Miki Yagi
  • Photographs by Yuko Sudo

アートは、空間づくりに欠かせないピース

リビングは“春”をテーマとし、壁の色を日本の伝統色である桜鼠(さくらねず)色にした。壁にかけた菅原健彦さんの作品を引き立てている。

建築家とインテリアデザイナーとして長年空間づくりに関わってきたふたりにとって、アートは常に身近にあるものだ。

「空間は、建築設計だけでは完成しません。光の取り入れ方や風の通り方、窓からの景色の見え方などを設計するのは建築家の役目ですが、家具や調度品、ファブリックなどのインテリア要素があって初めて空間として成立すると考えています。アートもその一部。家具やファブリックなどと同列に捉えています」(横堀さん)

2017年に建てた事務所兼自宅の1階は、同じ大きさの4部屋が東西南北の四方に配置されている。それぞれに春夏秋冬のテーマが設けられており、空間ごとにコンセプトに合わせたアートを選んだという。“春”がコンセプトのリビングにかけられているのは、菅原健彦さんの手による桜をモチーフにした作品だ。

菅原健彦作「Haruranman」。春をテーマにしたリビングにふさわしい作品を探していたときに、「ギャルリーためなが」で出会った作品。
扉を開ければ応接室とリビングはひと続きの空間となる。写真左手の窓の外に、移植した桜の木を望むことができる。

「この作品と対向する窓の外には、もともと敷地内の別の場所にあったものを移植した、樹齢60年を超える桜の木があります。そこで桜をモチーフにした作品を探していて。菅原健彦さんは以前から好きなアーティストでしたが、比較的大きな作品が多い印象でした。部屋にかけられるサイズの作品に出会い、桜というテーマもぴったり。ぜひリビングに迎えたいと思いました」(コマタさん)

アートを選ぶポイントは「作品の背景や作家の人生哲学に共感できること」

多くのアート作品を所有する夫妻だが、選ぶ基準は明確だ。

「単純に“好きな作品である”という軸が一番重要だと思います。そのうえで、さらに作品の制作背景や作家自身のストーリー、哲学に共感できるかどうかが重要なポイント」と声をそろえる。

たとえば、家の中央を貫く吹き抜けの階段スペースに置かれている、篠田桃紅さんの105歳のときの直筆作品もそう。

開放的な吹き抜けスペースに置かれた篠田桃紅さんの作品は「ギャラリー桜の木」で。オリジナル家具ブランド、CASA BUKUのコンソールの上に配置した。
篠田桃紅さん105歳のときの直筆作品。100歳を超えてなお、現役のアーティストであり続ける姿勢にも刺激を受けたという。

「篠田先生の『一〇三歳になってわかったこと』や『人生は一本の線』という著作をとても興味深く読みました。歩んでこられた人生の深さに感激し、考え方に共感する部分が多くありました」(コマタさん)

「一本の線を引くにいたるまでの思いの巡らせ方を想像できるのが篠田先生の作品。作品との対峙の仕方に共感し、自分も少しでも近づきたいという思いで眺めていることもあります」(横堀さん)

アートを迎え入れるにあたっては“タイミング”も大事だという。

「欲しいと思う作品と出会ったらすぐに手に入れなければ、次の機会が訪れるとは限りません。篠田先生の作品も、“いつか買おう”と思っていたとしても、そのときに先生が作品を制作されるかどうかはわかりません。美術作品とは、一期一会の出会いなのです」(コマタさん)

アートとは、住まう人のパーソナリティを表現するもの

横堀夫妻はアートを、「特定の作家の作品だけではなく、もっと身近なものでも、好きなもののひとつひとつがアートになりうる」と捉えている。たとえば寝室の壁紙や、応接スペースとリビングを仕切る引き扉に貼った和紙も、暮らしの中での身近なアートになり得る、と語る。

モクレン柄の壁紙は、トミタ製。寝室はリビングの真上に位置し、窓から桜の木を眺めることもできるため、この部屋にも春らしさを求めた。
寝室は愛犬・ブクがくつろぐスペースでもある。ベッドの上にいると、まるで作品の一部かのような雰囲気。
応接室とリビングを仕切る両開きの引き戸。仕上げ材に、トミタのKOZOシリーズの和紙を使用している。

「この和紙からは職人さんの技術とそれを習得するまでの歩みや、手間をかけて一枚一枚丁寧につくられたことが感じられて、その“時間”に私たちは共感するんです」(コマタさん)

設計の仕事においても同様だ。じっくりヒアリングを行いながら、その人、家族のライフスタイルに合った提案を行う。たとえば子どもの描いた絵や家族の写真を飾ったり、代々受け継いだ屏風の一部を切り取って額装したり。「アートを飾ること」は特別なことではなく、住まう人のパーソナリティを表現することであり、生活を自然に楽しむことなのだ。

自分なりの“ストーリー”を描く空間でアートは生きる

リビングから見える樹齢60年を超える桜の木の力強さや、春の生き生きとした息吹……。夫妻の話を聞いていると、菅原健彦さんの作品にまた違った魅力を感じ、新たな話題へと会話も弾む。

横堀邸では、リビングにおいて空間とアートを「桜」でつないだように、「空間に対してストーリーをつくる」ことを大切にし、そのストーリーと重なる部分をもつアートを取り入れている。

「ダイニングキッチンにはビュッフェのフライパンの絵を飾り、仕事場には師、アルド・ロッシの建築のドローイングを飾っています。空間のコンセプトに合わせたアートがあると、そこに物語が生まれ、リラックスしたり気を引き締めてくれたりと、気持ちにも作用します。空間のコンセプトと、作品や作家のストーリーを少しでもいいからオーバーラップさせていくと、暮らしがより生き生きとしてくるように思います。アートを眺めながら話が広がっていくこともあれば、日々の自分の考えの拠り所になることもあるでしょう」(横堀さん)

その部屋、空間でどのように過ごしたいのかとイメージを膨らませ、ストーリーをつくっていく。仕事場や個室なら、大切にしていることを思い起こさせてくれたり、リビングやキッチンなら家族のエピソードに関係していたり。その家で暮らす人のストーリーと、作品の制作背景や作家自身の考えが交わる……。そうして出会ったアートがある暮らしは、なんと豊かなのだろう。


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